【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】第33回「PAUL SIMON / コロンビアのオリジナル盤」

ツイート

さて、それではこの『PAUL SIMON』という作品について、少し書いてみたいと思います。

1970年にガーファンクルとのコンビを解消、ソロアルバムの制作に取りかかったサイモンは、S&Gで築き上げてきたスタイルを惜しげもなく捨てます。S&Gの音楽の根幹を成していた、甘く美しいメロディとハーモニー、時代を象徴するフォークロックサウンドに別れを告げ、彼が大々的に取り入れたのは、レゲエやスカのリズム、そして南米の民族音楽でした。

彼の中南米の音楽への興味は、S&G時代の曲にもしばしば現れていますが、S&G最後の作品となった1970年のアルバム『明日に架ける橋(Bridge Over Troubled Water)』ではアンデスのフォルクローレである「コンドルは飛んで行く(El Cóndor Pasa)」に歌詞をつけてカヴァーしています。これは世界的なヒットとなり、日本では音楽の教科書に取り上げられもしました。実際僕も音楽の授業でリコーダーで演奏した記憶がありますし、サイモン&ガーファンクルにはこの印象を持っている人も多いと思います。

そしてサイモンは、このソロデビュー作『PAUL SIMON』で、そのアンデスのフォルクローレの音楽的アプローチを「ダンカンの歌(Duncan)」で見事に自作曲に昇華させています。

しかしこの作品で最も特筆すべきは、やはりレゲエやスカのリズムを取り入れたことでしょう。1曲目「母と子の絆(Mother and Child Reunion)」は“有名白人ミュージシャンが初めてレゲエを取り入れた曲”なんて言われたりもしています。ただしこれに関しては、“有名白人ミュージシャンが初めて”というような表現自体が曖昧な上、ビートルズの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」もカリプソ・ソング(カリプソはレゲエの元になったとも言われています)と言われていることを考えれば、ビートルズの方がずっと早いことになりますし、「どうなの?」と思ってしまいます。ですが、「母と子の絆」でのレゲエ/スカの取り入れ方はとても大胆かつわかり易いことは確かであり、初めて云々はどうであれ、当時のアメリカのポップミュージックシーンにとってはそれだけ斬新かつ衝撃的だったのでしょう。

そしてこの作品の凄いところは、レゲエ / スカ、それに中南米の民族音楽等を大々的に取り入れた「ワールドミュージック」色の強い作品であるにもかかわらず、それでも結局のところはアメリカン・ポップスに着地し、大衆に受け入れられてヒットした、ということです。

それには、S&G時代からサイモンの深いところに脈々と流れ続けている、ゴスペルやブルース、カントリー等のまさにアメリカン・ルーツの音楽的要素によるところも大きいと思います。ワールドミュージック然とした部分が取り上げられがちなこの作品でも、よく聴いてみればそのアメリカン・ルーツの要素がより色濃く出ています。そしてサイモンならではの、洗練された類い稀なるポップセンスによって、一級品のポップミュージックに仕立て上げられているのです。

彼のポップセンスはS&Gでのデビュー当時から卓越していましたが、特に『明日に架ける橋』頃からは洗練されたスタイリッシュな雰囲気を纏っていきます。それ以降のソロ作では次々に様々なワールドミュージックを取り入れていきますが、それでも常にスタイリッシュなニューヨークの匂いが漂っているのです。

その洗練された音楽センスは何処からくるのでしょうか。彼が幼少期に聴いていた音楽によるものなのか、それとも音楽キャリアをスタートさせてから、色々なところから色々なものを吸収していくことで出来上がったものなのか。もしかしたら、彼がユダヤ系アメリカ人であることも何か影響しているのかもしれません。

また、この作品が発表された1972年頃は、シンガーソングライター達がこぞって米南部の音楽へ傾倒していった時代なのですが、彼はまったくと言っていいほど別なところにいたのです。築き上げたスタイルに固執することなく、大衆にも迎合せず、強い探究心を持って新たな音楽を創造していく。この挑戦とも言える音楽制作はこれ以後も続きます。彼こそ真のアーティストと呼べるのではないのでしょうか。

ポール・サイモン、そしてサイモン&ガーファンクル。

僕にとってそれは、偉大なる故郷の音楽でもあります。ビートルズ、ボブ・ディラン、PP&M等とともに、気付けば家で流れていた音楽のひとつです。その中でも最も良く聴いたというか、子供心ながらに好きだったのがポール・サイモンと、サイモン&ガーファンクルです。これらの音楽が刷り込みのように染み付いていることは、僕の音楽活動に多大なる影響を良い意味で与えてくれているなあと、この頃特に実感しています。両親に感謝しなければいけませんね。

今回はサイモンのソロデビュー作を取り上げましたが、書いていたらもっともっとポール・サイモンについて書いてみたくなりました。これ以降のソロ活動を取り上げていくか、それともさかのぼってS&Gの作品を取り上げるか……。迷いどころですが、とにかく次回もポール・サイモン関連でいこうと思います。『Graceland』25周年ということもありますので。

オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。


text by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)

◆連載『だからオリ盤が好き!』まとめページ
◆鈴木健太 Twitter(D.W.ニコルズ)

--------------------------------

「イイ曲しか作らない」をモットーに、きちんと届く歌を奏で様々な「愛」が溢れる名曲を日々作成中のD.W.ニコルズ。
2005年9月に、わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。
その後、鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、2007年3月より現在の4人編成に。
一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W. =だいすけわたなべが命名。(※C.W.ニコル氏公認)

◆D.W.ニコルズ オフィシャルサイト
この記事をツイート

この記事の関連情報