中村舞子【インタビュー】、『7→9』はまるでオートクチュールのような特製アルバム

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まるで恋をするようにアルバム制作に身を焦がし、思いを注ぎ込んだ中村舞子。ひと夏の恋を紡ぎあげた『7→9』(セブンナイン)というコンセプトアルバムには、まるで初監督を務めた処女作のような達成感と愛着を感じているという。

◆中村舞子画像

草食男子へ向けた肉食女子の願いになぞられたストーリーだが、胸の奥底に秘められたフェミニンな心模様が、ストーリーの波間に見え隠れする。まるで手縫いで作り上げたオートクチュールのように丹精を込めたというコンセプトアルバム『7→9』は、どのように生まれ、どのように育ち、そして皆の心にどのように浸透していくのか。

──2012年1月にフルアルバム『HEART』をリリースしてから、わずか7ヵ月で『7→9』が発表されるわけですが、そもそも新作が“コンセプト・アルバム”というカタチに至った経緯は?

中村:『HEART』リリース後の2月に行なったワンマンライブの翌日、7年ぶりくらいに、もうひとつの故郷のフィリピンへ帰ったんです。久しぶりに会う親戚や従兄弟、母国の雰囲気は明るくてポジティヴで。すごくお気楽なんだけど、いろんな人のことを考えていて。フィリピンには3歳くらいまでしか居なかったし、7年前に帰ったときは中学1年生ぐらいだったので、当時の鮮明な記憶というものはあまりないんです。ただ、古いアルバムから昔の自分や、あの頃より少しオトナになった自分を見つけることができて。そこで得たものをキチンとひとつの作品にしたいと思ったんですね。それが、夏をテーマにしたコンセプト・アルバムというカタチになったんです。

──“夏”というテーマが、“ひと夏の恋”という、より具体的な内容になったのは?

中村:日本に帰ってきてから、年の近い友達と会う機会を増やすことができたんですよ。みんなは今、すごく一生懸命に恋をしていて。そういう姿に触れて、私もそこに、自分のあるべき姿をみたというか。17歳くらいから大人の中でこのお仕事をさせていただいているので、同年代の友達より考え方が自然と大人びていたんですね。そういう意味で等身大の恋愛、ひたむきに恋する姿を落とし込んだ作品にしたいと思ったんです。

──20歳くらいの同世代の友達との会話が大きなヒントになったわけですね?

中村:そうですね。男の子が今、草の味を覚えて、女の子が肉食系になっているという現実があって(笑)。でも女の子って、フェミニンな部分を心の奥底に残しているんです。そこで溜まったフラストレーションや本音を聞く機会でしたね。それが結構楽しくて(笑)。

──アルバムは、恋の始まりから終わりまでが、計5曲のストーリーと2曲のインタールード(間奏曲)で紡がれています。物語をどのように展開しようと思いました?

中村:“7月から9月までのひと夏の恋”、その3ヶ月の恋を5曲で描こうと思ったんですね。その1曲1曲にテーマを置きながら、制作にあたっていったんです。

──各曲のタイトルがシナリオのト書きのように、場面を想像できるものとなっています。

中村:はい。チャプターにタイトルを付けるような感覚で、わかりやすさを追求しました。

──連続的なドラマ性のある楽曲を作っていくような制作だったわけですよね?

中村:今までそういう経験がなかったんです。ただ私、映画が好きで。ひとつの映画を撮っていくようにアルバムを作っていこうって決めたんですね。ですから、初監督作品じゃないけど、処女作という感じで……恥ずかしいですね(笑)。制作にあたっては、コンセプトからすべて提案して。ヒロインは私自身が演じることも含めて、ジャケットのアートワークや、ミュージックビデオだったりを決めていきましたね。

──楽曲のみならず、きめ細やかなトータル・プロデュースが自身の手で施されているという。

中村:1月にリリースしたアルバムをミシンで縫ったものだとすれば、今回は手縫いでした(笑)。オートクチュールじゃないけどひと針ひと針に丹精をこめた、すごく愛着のあるアルバムです。

──2曲目と4曲目の間、5曲目と7曲目の間に挿入されたインタールードにも、ヒロインの心模様が描かれているような印象を受けました。

中村:はい。それに今回すごく考えたのが、アルバム1枚を通して聴いてもらうっていうことで。これは今、リスキーなことでもあると思うんです。

──配信によって、1曲単位で音楽を聴くことが増えているでしょうから。

中村:時代的にはそうですよね。でも、その中でどうしたらアルバムとして、1枚を通して聴いてもらえるかなって考えたときに、コンセプト・アルバムとして、全体に意味を持たせようと思ったんです。だから、インタールードにも役割を持たせています。ストーリー展開の部分もそうですし、違和感なく一枚を通して聴いてもらうためのBPMも考えているんです。音楽的な部分でも、流れをすごく大事にしたかったので。

──なるほど、やはり緻密ですね。では、各曲についてうかがいますが、アルバムリリースに先行して配信されたナンバーは「End
Roll」でした。アルバムのラストナンバーであり、物語の結末が先に明かされるという、出し惜しみのないところも興味深かったのですが?

中村:そうなんです、映画の予告編的な感じですよね。で、ストーリーもバッドエンドにしちゃおうって(笑)。でも、恋物語としてはバッドエンドなんですけど、ヒロインにとっては未来のハッピーにつながるエンディングだよっていう終わり方にしたくて、まず、そういう結末ありきで書き進めていきました。曲を書くときにいつも思っていることなんですけど、切なくても悲しくても儚くても、最後には曲を聴いてくれた人が少しでも前に進めるような、ポジティブなテーマを忍ばせてるようにしています。

──アルバムの1曲目となる「Naked Touch」は出会いのシーンが描かれていますが、「End
Roll」を先に聴いた人が、なるほど!と思うようなつながりを持つキーワードが散りばめられているんですよね。“フィルム”とか“雨”とか。

中村:アルバムを手にとって1枚の物語を最初から聴いてくれるリスナーさんも、先に配信で聴いてくれたリスナーさんも、どちらも大切にしたかったんです。配信で1曲しか聴かない人の音楽の聴き方も大事にしたかったので、1曲を切り取っても完結するように心掛けました。

──そして、「Naked Touch」は夏の海辺を連想させる波の音で幕を開けます。

中村:私が描く、夏の恋のファーストシーンですね。ふたりがどうやって出会ったかというイメージに対して忠実に書こうと思ったので、情景描写は他の曲よりもちょっと多めになっています。“波間”とか“夕立”とか、リスナーにも「夏の恋」だということをわかってもらうための言葉選びをしていますね。

──続けてストーリーについてうかがいますが、2曲目の「Under Lover」は“恋人未満”という意味を持つタイトルですね。

中村:音楽の奥には、常に時代背景があると思うんです。その時代のファッションだったり、その時代の考え方だったり。この曲は先ほど話したような、積極的に来なくなった現代の男性陣に対して、女の子はホントはこう思っているよっていうことを表現した曲なんですよ。「草食べてないでこっちへ来てよ」って。

──この曲にはドキドキ感と……

中村:ワクワク感がありますよね。だって、一番いいときじゃないですか。なんとなく私に好意を持ってくれているなっていう。でも、私からは言わないからねって。待ってる感じが一番楽しいですよね(笑)。

──今、すっごいうれしそうですよ(笑)。

中村:ははは。

──3ヵ月後にはこの恋もなくなっちゃうんですけどね(笑)。

中村:ホントに! でもそんなもんだなと思って(笑)。もうそのウキウキ感、舞い上がっちゃってるさまを、そのまま書こうと。

──その感覚は実体験に近いものが込められていると思ってよいのでしょうか?

中村:込められてますね、メチャメチャ込められてます(笑)。基本的に自分の恋愛は、相手の出方を見ちゃうタイプなので、歌詞にはすごく反映されてますよ。

──リードしていながらも、相手の言葉を待っているわけですからね。

中村:そう。だから2人のステップに進むきっかけは、“あなたの言葉で始めよう♪”なんです。2人なら大丈夫だからって。たぶん肉食女子の代表格ですね。今回のアルバムは、今の20歳女子の代表になりたいって思いながら書いたんです。

──3曲目の「身も焦がれるほど」は、英語詞と日本語詞が巧みにミックスされてますね。

中村:私は英語の表現がそこまで得意ではないので、こういう曲調が得意なバイリンガルの方に歌詞をお願いして、私は歌うことに徹しようと制作にあたった曲なんです。

──プロデュース的な立ち位置で作詞に関わったということですが、作詞家のKathy Tennisさんとはどのようなディスカッションをしました?

中村:日本語では言えないような大胆な表現も英語でなら、と思ったので、もうクレイジーにって(笑)。ヤケドするような恋をテーマに、ある意味、すごくキケンな歌詞にしたいという話をしたんです。セクシーな歌詞に仕上がりましたよね。making hotな感じで、チリチリと身も焦がれるほど。本当にタイトル通りです。

──「まだ、そばにいたい」は、「End Roll」に続いて先行配信されたナンバーであり、ひと夏の恋の切ないクライマックスでもあります。

中村:願いと現実の間に揺れる心じゃないですけど、すごくウキウキだった2人にかげりが出てくるシーンですね。歌詞はSHIKATAさんとの共作で、どういう内容が今のみんなには届くのかなって、リサーチしてくれたんです。会いたくても会えない、言いたくても言えない、みたいな歌詞はもういいんだということがわかって。その部分を超えて“言葉にはしているけど、本当の自分を伝えきれないもどかしさ”をテーマに書いた曲なんですね。わかりやすい歌詞だと思うんですけど、深みもある。すごく大事な曲になりました。

──歌詞も、サウンド面でも、中村さんらしさが凝縮されたナンバーといっていいでしょうか?

中村:私の十八番ですね。フィーチャリングを通して得たものをソロに反映したいなって考えたときに、今まで歌ってきた十八番のミディアムチューンの中でも、一番いい歌詞で、一番いいメロディで、一番いいトラックで歌おうと気合いを入れて作った曲です。私が思うクリエイティビティの美学って、ちょっと前までは小難しい曲だったんです。でも、そうじゃないなって。私の根本にあるものは、ポップスっていう大衆に向けて緻密に作られたものだって気づいたんです。そう思ったときに、単純なことを複雑にするのではなく、複雑なことを単純にするっていう、すごく難しいことに挑戦して極めた曲です。

──それに、「まだ、そばにいたい」を核として、各曲のサウンドが実にバラエティに富んで、ジャンルの壁を飛び越えています。プロデューサーの視点で、楽曲のストーリーに合わせた音の質感やテンポ感など、それぞれのトラックメイカーをセレクトしていくような作業があったわけですよね?

中村:そうです。すごい厳選したんですけど、だから…不安でしたよね、自分の直感が正しいのか。でもそこは信じて、自分が定めたジャンルに一番適している人、得意な人にお願いすることができたかなって、今改めて思いますね。

──例えば、「Naked Touch」は1990'sのR&Bフレイバーです。

中村:今、すごく1990'sの音楽に注目していて。私は1991年生まれだから、1990'sって10歳くらいまでの体験なので、今聴くとすごく新鮮なんです。私の解釈はこうですよという意味で、1990'sのR&Bをリスペクトした気持ちも含めています。「Under Lover」はメロディの感じを大事にしつつ、オケ感は今っぽいほうがいいなと思ったので、1990'sフレイバーをアップデイトしました。ドライヴしてて、シーサイドで掛かっていたら最高に気持ちいい!みたいな、すごく突き抜けた明るさがありますね。

──「身も焦がれるほど」の歌詞には<My heartbeat like a drum♪>という一節がありますが、鼓動を思わせる低音の効いたリズムに心拍数を上げられるような感覚を抱きました。

中村:ダブステップが好きなんで、最高に気持ちいい!と思って選んだ曲です。トラックとしては現代っぽいですよね。エレクトロだし、クレイジーなメロディだったりで。雰囲気的な部分でモチーフにしたのは、リアーナの「ウィー・ファウンド・ラヴ」みたいな、ちょっとドロっとしてるんだけど、エレクトロで爽やかっていう。日本ではまだ早いかなと思ったんですけど、やってみました。

──アコースティックギターの弾き語り的に始まる「End Roll」も、これまでの中村さんにはなかったテイストですね。ギターと声の相性も抜群で、生々しく響いてます。

中村:ちょっとロックテイストでギターが気持ちいいトラック、それにJ-POPな哀愁漂うものが作れないかなって思った曲ですね。生々しいという意味では、完成されていないさまというか、荒削りな部分をジャンル的にも出したいなと思って挑戦した曲ですね。

──新しい試みがたくさん詰まったアルバムですが、こうしてインタビュー等で話していくうちに、改めて客観視できた部分もありますか?

中村:すごく愛着のある作品なんですよね。だからこそ、いろんな人に届いてほしいなっていう気持ちが、今までのアルバムの中でも一番強いかもしれません。夏が来る度に聴いてほしいし、聴きたくなるようなアルバムにしたかったんです。

──ヒロインは、夏が来る度に子供から大人へ成長したこのひと夏の経験を思い出すのでしょうし、中村舞子というアーティストにとってもこの作品は忘れられぬものをなったということでしょうか?

中村:それはすごく思います。出会いがあるからこそ別れもあるし、でも、別れがあるからこそ出会えるっていう。さよならをしなければ出会えなかった自分が、そこにはあるんです。このアルバム一枚を通して、本当に伝えたかったことは、ひたむきに何かに飛び込んでいくことを怖がらないでっていうこと。それはリスナーに対しても、自分にとってもです。誰かを愛した記憶もいずれは自分の糧になるから。今しか感じられない気持ちを素直に受け止めていこうよっていうことが、このアルバムの真のテーマなんです。

──『7→9』は恋のストーリーですけど、長い時間をかけて制作した『7→9』に中村さん自身が恋をして、今制作が終わったことで、中村さんも前へ進んでいるという感じが、すごくします。

中村:そうですね、『7→9』は元カレですね(笑)。でも、すっごく思い入れのある元カレです。だからこそ、いろんな人にも知ってほしい。素敵だったでしょ、こんな男、まだいるからって。

取材・文:梶原靖夫

<配信シングル>
■配信第2弾シングル「まだ、そばにいたい」
※日本テレビ系「フットンダ」8月エンディングテーマ
着うた(R)/着うたフル(R)好評配信中

■配信第1弾シングル「End Roll」
着うた(R)/着うたフル(R)好評配信中

<配信シングルダウンロード特典プレミアムライブ>
2012年9月8日(土)開催予定 都内某所
好評配信中の「End Roll」着うたフル(R)、そして8/8配信の「まだ、そばにいたい」の着うたフル(R)2曲をDLしていただいた方の中から、抽選で50組100名様を中村舞子プレミアムライブにご招待!
※特典期間 7/11・8/14
※スマートフォンは特典対象外となります。

ALBUM『7→9』
2012年8月22日(水)リリース
PCCA.03654 ¥1,600(税込)
1.Naked Touch
2.Under Lover
3.Interlude♯1
4.身も焦がれるほど
5.まだ、そばにいたい
6.Interlude♯2
7.End Roll

<「『7→9』リリースイベント>
WonderGOO対象店舗にて『7→9』をご購入のお客様、先着100組200名様をインストアイベントにご招待致します。ライブ終了後にはサイン会も実施
2012年9月15日(土)
@WonderGOO守谷店 GOOst
START:15:00

◆中村舞子 オフィシャルサイト
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