多幸感たっぷりのHEROツアーファイナル、オーディエンスに爆笑の失神強要も

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約1年半ぶりのアルバム『to you...』を引っ提げて行われた<夏のワンマンツアー「ターニングポイント」>のファイナルが、8月25日SHIBUYA-AXにて開催された。『to you...』は、メロディの良さを追求した結果、サウンドアレンジもとことんまでシンプルに削ぎ落とした楽曲たちを収録したアルバムだ。加えて、“ターニングポイント”と題されたこのツアーは、バンドの節目を匂わせる。それだけに今回のツアーの大きな見どころは、ある種、現在の集大成的なサウンドをライヴでいかに再現するかということにあったはずだ。一方、HEROのライヴに一度でも参戦したことのある方々には周知の事実だが、彼らのステージはとにかく愉快痛快で、ファン(=ヒロインと呼ぶ)同士、またはHEROとヒロインの親密感がハンパない。バンド史上最大キャパとなる会場でのワンマンライヴに、開演前の客席からは興奮の上昇気流がのぼるさまが見えるような賑わいを見せていた。

◆HERO画像

ステージ後方に高々と掲げられた大きなスクリーンに映し出されたのはHEROのバンドロゴだった。開演時間の18:00に場内が暗転すると大声援がSEをかき消す。まずはドラムのYusukeがステージ中央のお立ち台に登って客席へ挨拶。続いて、ベースのyu-ta、ギターのSARSHI、ヴォーカルのJINの順に登場したメンバーたちの表情は、みな笑顔だ。

「やっとこの日が来たな。返事はデスボイスだ!」というJINの第一声に沸くヒロインの声援は、もちろん歓喜のデスボイス。「埋めたぜ!埋めたぜ!」とSHIBUYA-AXソールドアウトの喜びを叫ぶJINがオープニングナンバーをコールした。1曲目は最新シングルのタイトル曲にしてアニメ『FAIRY TAIL』主題歌の「テノヒラ」だった。幕開けからの全力疾走に1階フロアは寄せては返す波のように、文字通り右へ左へ1小節ごとに人の波が移動する。続けて披露された「to you...」では、JINの「肩組め!」という言葉を合図に、両隣のヒロインと肩を組んだ数珠つなぎの列が何層にも出来上がる。この曲に限らず、振り付けが楽曲とシンクロするのは彼らのライヴではもうお馴染み。さながらマスゲームのような同調性の高いフロアの動きがあまりにも見事で、ヒロインたちもこの大きな会場を楽しんでいるようだ。

ライヴ前半は最新アルバム『to you...』に加えて、リリースされたばかりのシングル「テノヒラ」からのナンバーが中心。前述したように、CDで聴くとメロディを主体に丁寧にまとめられたという印象のあった楽曲は、ライヴのダイナミズムに後押しされて、また新たな表情をのぞかせた。どの曲もいわゆるロックの激しさを前面に押し出しつつも、じっくり聴かせる部分を潜在的に併せ持っていて実に興味深い。シンプルなアレンジが許される旋律本来の良さを、ライヴの躍動感に任せながらキャッチーにコントロールするあたり、メロディーメイカーとしてのJINの才能を実感させられた。

また、流麗な旋律と華やかなステージングに目や耳を奪われがちだが、演奏陣のアレンジ力にも注目すべき点が多々見受けられる。例えば「to you...」で、ドラムのYusukeは一切タムタムを使用しないリズムパターンを構築、インターやBメロではチャイナを刻むことで音の余韻を活かした重厚なビートを展開している。「アルコ&ピッツィカート」や「ロン」のベースソロや、タテノリの2ビートをスウィングさせる「かっこ悪ぃ歌」のランニングベースなど、yu-taのフレーズセンスは特筆もの。そしてSARSHIのギターアレンジは多彩だ。「笑わなかった少年」のソリッドなリフにはV-ROCKの系譜が色濃く浮かび上がり、「CRACKER」のオクターブ奏法にはメロコアを経由したプレイを、「to you...」のタッピングソロにはテクニカル指向の側面をうかがい知ることもできた。これら演奏陣の豊かな表現力はHEROのバラエティに富んだ楽曲イメージを最大限に引き出している。そして曲が求める音や世界観を追求するために、バンド演奏の枠を超えてシーケンスが登場する場面もあった。時にバンドサウンドに絡みつき、時に対極を成す鍵盤類の音色は、メインソングライターJINの作曲方法がピアノであるというところも大きく、バンドのサウンド的なオリジナリティに一役買っているのかもしれない。

中盤、「次は「翼が折れて迷宮に迷い込んだ漆黒の天使」です。めちゃめちゃ泣けるバラードに仕上がっているんですけど…」というJINのMCに場内から爆笑が沸き起こる。それもそのはず、この曲はタイトルのようなヴィジュアル系定番な言葉選びをパロッて、それに毒づいた歌詞を持つ問題作だ。「オレもちゃんとヴィジュアル系っぽくするから、みんなも暴れるように!」との前置きで披露され、各パートごとに「拍手!」とか「叫べ!」とか「頭振れ!」などの指示が送られて、フロアとステージが完全に一体化していく。「ロン」では、昭和歌謡テイストな旋律でHEROならではの懐深さを垣間見せ、「Ring a Ding a Song」では激しいタテのりの中にフックを効かせたバンドアンサンブルを展開、「もしもボタン」では客席に混沌の“ぐちゃぐちゃモッシュ”が広がった。ライヴ定番のアッパーチューンが次々と繰り出されたこのセクションでは曲中に、「大丈夫か? 疲れてないか? このブロックが今日のライヴで一番大変だから。コケたら助け合うんだぞ」と、自虐ネタの笑いや客席をいじり倒すMCとは裏腹に、ヒロインを気遣うJINの優しさも見受けられた。

「プレゼント」「Oh My God!!」といった過去からのナンバーは、“HEROはこの先も絶対変わらない”という約束のしるし。続いて、演奏されたナンバーは「ソプラノ」だった。ステージ後方の大きなスクリーンには歌詞が大きく映し出され、JINとヒロインたちの掛け合いヴォーカルがホールいっぱいに響き渡る。会場全体が強烈なエネルギーの塊と化して、ひとつに集約されたかのような清らかさすら漂っていた。言い換えるなら、超満員の1500人をたった4人でひとつにすることのできるほど、彼らのサウンドやキャラクターに並外れた求心力があることを改めて見せつけられたような気がした本編ラストだった。

アンコールは、「BEST FRIEND」、「人間定義 あおりVer.」、「超過激愛歌」と怒濤の暴れ曲が圧巻。全19曲、約2時間15分の凝縮された濃密なステージの最後は、「カゾエウタ。」だった。「楽しかったな。今回のツアーは全部の会場で「カゾエウタ。」を歌ってきたけど、その集大成であるSHIBUYA-AXで、最後はみんなで一緒に。オレらの曲を共有してもらえるのが、オレらにとって一番嬉しいことだから。デッカイ声で一緒に歌おうな」。ここに集まった1人1人に語りかけるように歌うJINの姿に、涙を浮かべるヒロインの姿も見受けられた感動のエンディングだ。全ての演奏が終了すると、「ありがとな! 最高だったぜ! ずっと一緒に居よう! オレたち絶対居なくならないから、どうか居なくならないでくれよ、いいか! 愛してる!」と声をからして絶叫したJINに、汗だくのヒロインからは拍手とデスボイスの輪が広がった。

終わってみれば、ステージセットはメンバーと必要最小限の機材、そしてスクリーンだけのシンプルなものだった。メンバーがそこにいて、音があるだけ。しかし彼らのライヴには、どんな特効にも勝る楽曲と客席との楽しくも華やかな掛け合いがある。2ちゃんねるで「ヘリウムガスを吸ったような声」との書き込みを見つければ、「オレがホントにヘリウムガスを吸ったときの声を聴かせたろか!」と実演するし、ヴィジュアル系のカリスマを演じたいがために失神パフォーマンスをヒロインたちに強要する爆笑シーンもあった。それらメンバーとヒロインとの至近距離のやり取りの1つ1つが彼らのライヴのハイライトであり、JINは時おり「今日のライヴで友達作れそうか?」と客席に声を投げかけていた。この関係性こそ彼ら流のエンタテイメント。自分の想いを受け止めてくれる歌詞も、憂鬱な日々のストレスを晴らしてくれる痛快なビートも、心温まる笑いも、そのかけがえのない瞬間が、ここにあることをヒロインたちは知っているのだ。

この日のライヴはいずれDVD化されるそうだ。また、9月からは新たなツアー<ONEMAN TOUR 2012「フェスティバル」>が開催される。グランドファイナルは2013年4月27日、Zepp Tokyo。また一回り大きくなった彼らのライヴは、アナタの目と耳で確かめてもらいたい。

文:梶原靖夫

<ターニングポイント・ファイナル2012年8月25日>
@SHIBUYA-AX
1.「テノヒラ」
2.「to you...」
3.アルコ&ピッツィカート
4.罪と罰
5.「笑わなかった少年」
6.CRACKER
7.かっこ悪ぃ歌
8.翼が折れて迷宮に迷い込んだ漆黒の天使
9.ロン
10.Ring a Ding a Song
11.もしもボタン。
12.プレゼント
13.「Life」
14.Oh My God!!
15.ソプラノ
Encore
16.BESTFRIEND
17.人間定義 あおりVer. 
18.超過激愛歌
19.カゾエウタ。
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