【インタビュー後篇】リチャード・マークス「僕の理想は、94歳までに生涯最高の1曲を書いて、次の日に死ぬことさ」

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1997年以来15年振りの来日を果たし、10月19日(金)&20日(土)にビルボードライブ東京にて4回公演を、10月22日(月)にはビルボードライブ大阪にて2回公演を行うために、来日しているリチャード・マークスに直撃したスペシャル・インタビュー、その後篇をどうぞ。

◆リチャード・マークス画像

──『インサイド・マイ・ヘッド』のクレジットを見ると、気になるミュージシャンの名前がたくさん載っています。まずは、ヴァーティカル・ホライゾンのマット・スキャンネルとは2曲共作していますね。

リチャード・マークス:もう10年以上前だったかな。ヴァーティカル・ホライゾンの「エヴリシング・ユー・ウォント」(2000年7月全米No.1)が凄く好きで、アルバムを買ったんだけど、何年ぶりかにアルバム収録曲が全部好きになる体験をしたんだ。僕がフロリダでライヴをやっている時に、たまたま同じくフロリダ公演中だった彼らが僕のステージを観に来てくれた。それがマットとの初対面。そこで意気投合はしたけれど、その後すぐに何かを始めたわけではなかったんだ。しばらく連絡だけ取り合って、ある日、僕のシカゴの家に招待したんだ。その時に数曲一緒に演奏したんだけど、そこで僕らが音楽趣向を含めて“同類”であることを肌で感じたんだ。人間としても彼は素晴らしい男。マットを“弟”のように感じたし、彼も初めて“兄”が出来たと言ってくれた(笑)。今も“弟”であり、親友でありながら、ソングライター、シンガー、ギタープレイヤーとしてマットを尊敬しているよ。

──おふたりはアコギによるアルバム『DUO』(2008年)も発表していますが、共通しているのはメロディを大切にするところではないですか。

リチャード・マークス:うん。僕は彼のメロディが大好きだ。それともうひとつ大切なのは、マットの書く歌詞が素晴らしいこと。僕と同じく恋愛ストーリーが多いんだけど、単純な好き嫌いではなくて、とてもダークだったり、ひどく哀しい描写に通じるものがあるんだ。知っていると思うけど僕は曲調が明るくても、歌詞が暗かったりするものが少なくない。僕自身は昔から明るい性格だと思うんだけど、なぜか不思議なことに歌詞が暗くなるんだよね(笑)。でも、僕もマットも、本当に意味のある恋愛の歌詞はハッピーではなくて、失恋や傷心のほうが人の心により届くということをソングライターとして知っているんだよね。それは実体験の有る無しは関係ないことさ。

──ライフハウスのジェイソン・ウェイドとも2曲共作してますね。

リチャード・マークス:アルバムを全部持っているぐらい僕はライフハウスのファンだったんだ。クリス・ドートリーの紹介でジェイソンとは知り合うことが出来たんだ。やっぱり連絡を取り合いながら、シカゴにわざわざ来てもらい、そこで一緒に作ったのが「ライク・ヘヴン」。ジェイソンとは3~4曲は共作して、正直うまくいかなかった曲もあったんだけど、このアルバムに収められている2曲は最高さ(もう1曲はオープニングの「ハド・イナフ」でクリス・ドートリーも参加)。誰かと共作するのって、じつは初デートと同じなんだよね。一緒に同じ時間を共有しながら、“一緒にいるだけで楽しい!”ってどんどんアイデアまで出てくる時もあれば、“あ~この人とは今後はダメだな”と思うこともある。そういう感じだよ(笑)。ニッケルバックのチャド(クルーガー)との共作も楽しくてとても有意義な時間だった。

──彼らは、あなたが1980年代にヒットチャートを席巻していた時代に、音楽的にも多感な時期を過ごしたひとまわり下の世代のアーティスト達です。はじめはみんな恐縮していたのではないですか。

リチャード・マークス:僕は若いミュージシャン達と共作する時は、絶対に平等の関係であろうと心がけているんだ。実際にそうしてきたつもりさ…。そう、以前こんなことがあったんだ。名前は出さないけれど、ある若いミュージシャンと一緒に共作する機会があったんだ。創作を進めながら、気がついたら、あれ?これ、僕の作品になってないかい?ってことになっててね。これはいけないぞと思って、その日にディナーに誘ったら、テーブルでその若いミュージシャンが、“じつは僕は昔からあなたの大ファンで、良いアイデアをださなくちゃいけないと思って顔を上げると、そこにあなたの顔があって…緊張して何も言えなかったんです”って告白されてね。僕のほうが申し訳なかったね。“よく正直に言ってくれた!”って握手をして、次の日からのレコーディングはうまくいったんだ。僕だって、初めてケニー・ロギンスに曲を書いた時は緊張して仕方がなかったんだから。

──「レット・ミー・ラヴ・ユー」のバッキングヴォーカルに参加している息子のブランドン・マークスさん(1990年生まれ)は、違った意味で緊張したんじゃないですかね(笑)?

リチャード・マークス:あ~そうかもね(笑)。3人いる僕の子供はみんな素晴らしいミュージシャンに成長しているんだけど、ブランドンはなかでも素晴らしいヴォーカリストさ。センスが良くて、マイクの前に立つと自身に何が求められているかを分かっている。エモーショナルな発声も大好きで、僕が今もっとも好きなヴォーカリストのひとりであって、たまたま僕の長男さ(笑)。僕の曲? それは、ほとんど知っているんじゃないのかな…たまたまね(笑)。

──ボーナスディスクの既発ヒット曲の新録作業は楽しかったのではないですか。

リチャード・マークス:セルフカヴァーをやって欲しい!という周囲の声はけっこう前からあったんだけど。何もないところからモノを創ることは大好きだけど、出来上がったモノを創り直すことは正直あまり好きではなかったから、はじめは乗り気ではなかったんだよ。で、実際に試しに数曲やってみたら、やっぱり予想どおりに全然面白くなかった(笑)。オリジナルと同じくマイケル・ランドゥにギター再演を頼むのも失礼だし、これは最悪、もう止めようって思っていた時にマット(スキャンネル)が色々アドバイスをくれたんだ。“マイケル・ランドゥは僕の最も敬愛するギタリストだし、彼以外のミュージシャンに依頼するなら、殺してやる!”って言うんだよ。“それに僕が全部弾けるに決まってるじゃないか!全曲完璧にコピーできるのは知ってるだろう!”って(笑)。マットとレコーディングするようになってセルフカヴァー作業がだんぜん楽しくなった。歌い直すことは、僕にとっても新たなチャレンジだったしね。

──デビュー曲から7曲連続トップ5ヒット、全米No.1アルバム、トータルセールス3000万枚、グラミー賞のSong of the year。あまりある成功を収めてきたデビュー25周年を迎えたリチャード・マークスが、音楽活動を続けていくなかで、いま、最も大切にしていることは何でしょうか。

リチャード・マークス:嬉しいことに多くのリスナーが僕の曲を愛してくれた。良い曲はもしかしたら何曲か書いてきたのかも知れない。でも僕は自分のなかで納得のいく最高の1曲を実はまだ書いていない。後世に残る偉大な名曲をまだ書けていないんだ。今でもその作曲の瞬間を目指している。到達したら、その向こう側に何が見えるのかも知りたい…。僕の理想は、94歳までに生涯最高の1曲を書いて、次の日に死ぬことさ。それまではソングライターを続けるし、こんな建設的な仕事は他にはないと思うし、心から誇りに思うよ。

PHOTO:MASANORI NARUSE
TEXT:安川達也

『インサイド・マイ・ヘッド Inside My Head』
10月10日発売
Disc1
1.ハド・イナフ (2010年『Stories To Tell』ヨーロッパ盤ボーナストラックより)*ジェイソン・ウェイド、クリス・ドートリー共作
2.レット・ミー・ラヴ・ユー (2011年新曲)
3.ライク・へヴン (2011年新曲)*ジェイソン・ウェイド共作
4.オン・ジ・インサイド(2010年『Stories To Tell』ヨーロッパ盤ボーナストラックより)*クリス・ドートリー、チャド・クルーガー共作
5.スルー・マイ・ヴェインズ (2008年『Emotional Remains』より)
6.オールウェイズ・オン・ユア・マインド (2008年『Sundown』より)*マット・スキャンネル共作
7.ラヴド(2008年『Sundown』より)
8.カム・ランニング (2008年『Emotional Remains』より)
9.オール・オーヴァー・ミー (2011年新曲)
10.スカーズ(feat.フィリップ・セイス)(2011年新曲)*フィリップ・セイス共作
11.ダン・トゥ・ミー (2008年『Emotional Remains』より)
12.オーヴァー・マイ・ヘッド (2008年『Emotional Remains』より)
13.パート・オブ・ミー(2008年『Emotional Remains』より)*マット・スキャンネル共作
14.テイク・ディス・ハート(LIVE) 【日本盤ボーナストラック】
Disc2:全曲2011年新録ヴァージョン
1.ドント・ミーン・ナッシング(『リチャード・マークス』より/'87年8月全米3位)
2.シュドヴ・ノウン・ベター(『リチャード・マークス』より/'87年12月全米3位)
3.エンドレス・サマー・ナイツ(『リチャード・マークス』より/'88年3月全米2位)
4.キープ・カミング・バック(『ラッシュ・ストリート』より/'91年12月全米12位)
5.テイク・ディス・ハート(『ラッシュ・ストリート』より/'92年8月全米20位)
6.ホールド・オン・トゥ・ザ・ナイツ(『リチャード・マークス』より/'88年7月全米1位)
7.アンジェリア(『リピート・オフェンダー』より/'89年12月全米4位)
8.ハザード(『ラッシュ・ストリート』より/'92年4月全米9位)
9.トゥー・レイト・トゥ・セイ・グッバイ(『リピート・オフェンダー』より/'90年3月全米12位)
10.サティスファイド(『リピート・オフェンダー』より/'89年6月全米1位)
11.ライト・ヒア・ウェイティング(『リピート・オフェンダー』より/'89年8月全米1位)
12.ホエン・ユー・ラヴド・ミー(新曲)

◆リチャード・マークス・オフィシャルサイト
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