ロックの迷宮からの脱出口、ジェームス・ブラックショウ

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廃刊になったが、かつて日本に『ロック・ダイヴィングマガジン』という雑誌があった。僕も一度だけ14年ほど前に漫画家として漫画を寄稿させていただいたことがある。その雑誌では英国ロックのトラッド、フェアポート・コンヴェンション(レッド・ツェッペリンの4thアルバム、「天国への階段」の一曲前の曲「限りなき戦い」でロバート・プラントとデュエットしている女性ヴォーカリスト、サンディ・デニーが在籍した英国民謡をロック解釈して演奏するバンド)やペンタングル、スティーライ・スパンなどのコレクターズ・アイテムを解説していた。

◆ジェームス・ブラックショウ画像

白夜書房から出版された『ラビリンス~英国フォーク・ロックの迷宮』という増刊号(?)では、当時オリジナル版が数万円~数十万円でしか手に入らなかった伝説の女性シンガー、アン・ブリックスとか、英国トラッド音楽への貢献度が高いシャーリー・コリンズのアルバムを一枚一枚、懇切丁寧に解説しており、1990年代に一時期、一部のレコード・コレクターのバイブルともなった。まあ、バブル経済で動いた大金に比較するすべも無いが、中古レコード市場ではそこそこのお金を動かす要因のひとつともなったメディアだったと思う。その後、その雑誌は編集長の嗜好もあり(というかこういった雑誌は全てそうなのだろうが)、バーズやらスワンプロックやらジョン・フェイヒーやらの、アメリカン・フォーク&ルーツロック音楽へとやや傾倒し始め、廃刊となった。

まあ、正しい傾倒だったと僕は思う。だって、ヨーロッパのフォーク音楽を愛するってことは、ケルト音楽、ユダヤ音楽、東欧の民謡が、ヨーロッパを遠く離れたアメリカという土地で、クルト・ワイル、ガーシュウィン、エルヴィス・プレスリーなどによってジャズなりロックなりに昇華されていくアメリカ音楽を愛することに行き着くのは自然の成り行きだと思うから。そして、結局ロックやジャズって、ケルトとユダヤとアフリカに大きく依存している文化だと思うから。

しかし、1960年代が最盛期である、もはや“幻”といってよい英国ミュージシャン、アン・ブリックスとかシャーリー・コリンズの名前に今日、リアルタイムで再会できると思わなかった。現在来日中のジェームス・ブラックショウがBo' Weavilレーベルからリリースした2005年のアルバム『O True Belivers』というアルバムを購入したのであるが、そのレーベルが扱っているアーティストが、ジェームス・ブラックショウ、ロスコー・ホルコム、アン・ブリックス、シャーリー・コリンズ…などなど。おいおい、1980年代生まれのジェームス・ブラックショウって、何者?って心底思う。

10月21日(日)、原宿Vacantでのライヴ。Vacantは床、壁、天井が全て木造建築からなる素敵なスペース。アコースティック音楽のライヴを聴くには打ってつけのスペースに、ジェームス・ブラックショウ登場。繊細にチューニングされた12弦ギターから織りなされる美しい音空間。ずーっとギター・ソロなのだが決して飽きることがない。飽きさせない理由は、長い曲に確かなストーリ性があり、さまざまな表情とリズムを表現しているからだ。アイルランドでの舞踏の風景や、アメリカ・アパラチア山脈でのダンスの風景などが次から次へと聴き手の頭のなかを巡っていくような気持ちよさ。1960年代以降の英米フォーク&ルーツ音楽を現代に生きる人間として止揚しようとする本当に美しい音楽である。

彼の音楽的ルーツなどは下記に掲載する「来日インタビュー」に任せるとして、他のミュージシャンの音に例えるのは彼に対して失礼かもしれないが、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』『ハージェスト・リッジ』など初期作品にちかい肌触りがある音楽だ。そういう意味で、トラッド音楽の数万円の過去のコレクターズ・アイテムを購入するよりも、明らかに“前向き”な価値がある音楽だと僕は思って幸せな気持ちになった。

10月29日までFlauレーベル主催により岡山、富山、金沢、東京、大阪でのツアーが予定されているので、トラッド好き、フォーク音楽好き、アメリカン&ヨーロピアン・ルーツ音楽好きのかたはこぞって出かけよう!


文:小塚昌隆

◆Flauレーベルサイト
◆来日インタビュー
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