the pillowsのギタリスト・真鍋吉明が、23年のキャリアの中で“初のソロアルバム”となる『Rutile(ルチル)』をリリースする。これまでにNINE MILES名義で3枚のレゲエ・アルバムを発表しているが、自身の名前を冠した純然たるギターサウンドのアルバムとしては正真正銘これが初。きっかけとなったのは昨年リリースされたギター・コンピレーション『TIME MACHINE』への参加で、そこで好評を得た「Beautiful Struggle」の新たなバージョンは本作にも収録されている。作曲、演奏、エンジニアリングのすべてを手がけた意欲作への思いと、ギタリストとしてのセンス、プライド、理想像などについて熱く語る、永遠のギター少年の言葉に耳を傾けてみてほしい。

──まずどんな作品を作ろうと思って始めたんですか?

真鍋吉明(以下、真鍋):この作業が始まる前にいろんなギター・インストやギタリストの名盤と言われている作品をチェックしてみたんですよ。たとえばジェフ・ベック、マイケル・ヘッジス、マニュエル・ゲッチングとか、好きなギタリストのアルバムを聴いてみると、みんなそれぞれの得意分野で闘っているんですよね。だから僕が色気を出して、急にテクニカルなアプローチで攻めたアルバムを…一瞬だけでも作ろうかなと思ったんですよ。“オレだって速く弾けるんだぞ”って(笑)。でもそれは自分のスタイルじゃないし、自分の本当の武器って何だろうな?って見つめ直すと、まずいい楽曲を作ること、音をレイヤーしてギターサウンドを構築していくこと、歌うようにギターを弾くこと、そして楽曲がコンパクトであること。5分もギターソロがあるようなものではなく、コンパクトでありながらユニークなギターというのは、the pillowsで20年以上やってきたことなので、その方法論から離れずにギターをメインにしたアルバムを作ってみようというところから始まったんです。

──ほんと失礼ですが、真鍋さんの中にこんなに豊かなメロディが溢れていたなんて、正直驚きでした。

真鍋:曲作りに苦労した記憶はないです。ただ時間が限られていたので、たとえばthe pillowsの『TRIAL』のジャケットを富士山麓に撮りに行く時に、クルマの中で浮かんだ曲もあるんですよ。2曲目の「Rutile」がそうです。そういうふうにthe pillowsの活動の合間に曲をためていって、もうちょっとバリエーションを広げたいなと思った時には地元の楽器屋さんに行って、今まで持ってなかったんですけどカポタストを買ってきまして。

──え? カポ持ってなかったんですか?

真鍋:持ってなかったんです(笑)。自分のスタイルにカポはいらないと思っていたので。それをとりあえず5フレットぐらいにはめて、ジャンジャカやってその日のうちにできたのが「News for You」。すべて授かりもののような、何かきっかけがあってできた曲が多いというのが、このアルバムに共通した流れだったんだなと思うんです。スタッフの方に“レゲエの曲が無いのは勿体ないですね”、と言われて作ったのが「All creation(Let’s Go Leone!)」ですし、自分の中では二の足を踏んでいたロック・バラードも“あったほうがいいんじゃないですか?”と言われて、それで書いたのが「Where Do You Go」。延々と泣きのギターを弾くのは、自分のスタイルから遠いような気がしていたんですが、やってみると…気持ち良かったんですよね(笑)。

──ほんと、気持ちよさそうに泣きまくってますよ。

真鍋:やっぱりギタリストのカタルシスがそこにあるんですよね。そうやって、曲作りの面ではみんなの力を借りてバリエーションを広げていただいて、楽しくできました。ただ制作が楽しいか楽しくないかはまた別の話で(笑)。

──つらいこともあったんですか?

真鍋:ギターを弾くことは楽しいので何の問題もないんですが、しんどかったのはエンジニアリングですね。エンジニアリングを始めて10年以上はたってますけど、ギターほどの自信はないので。今回はほかの人に任せるよりは、遠回りでも自分でやったほうがいいだろうという判断でやったんですが、ミックスした時点で未だにスキルアップしていて、“もっとうまくできるはずだ”と思って、また1曲目からやり直して、終わる頃にはまた“もっとできるはずだ”と思って、結局キリがない(笑)。エンジニアリングって、やればやるほどスキルアップするんですよ。ギターの音はすごく干渉しあうので、EQやコンプ処理のテクニックが必要になってくるんですが、10曲やればそれがどんどんわかってくる。しかも自宅スタジオでやっているので際限がなくて、“いつまでたっても終わらないよね”“そうだよね”って、自分の中で会話しながら作業してましたけどね(笑)。そこは苦労しましたが、でも“楽曲にこだわりました、音にこだわりました”というのは当たり前の話で、その日まで生きてきた自分のギターとミックスのスキルのベストは、どちらも出せたんじゃないかなと思います。

──プレイヤーとして、特にこだわったポイントというのは?

真鍋:ギタリストのエゴとしては、うまく弾いたテイクを選びがちなんですが、メロディをたどりながら弾いているような、ファースト・テイクを選んだものが今回は多かったと思います。たどたどしいけど何か引っ掛かるというか、うまいヘタじゃなく、刺さるか刺さらないかをジャッジの基準として選びました。歌うようにギターを弾くべきアルバムだと思っていたので、ニュアンスがちゃんと残ってるかどうかは重要でした。それと、空間を感じさせる音作りにはこだわりました。ギターの音って、切れぎわが一番重要なんですよ。

──切れぎわ、ですか。

真鍋:音が切れる間際が一番重要で、そこをないがしろにするとすごく平坦な音になっちゃうんです。そこまで意識して聴く人がいるかどうかわからないですが、そこを意識するかしないかでギターの音作りは全然変わってくる。ギターという楽器が持っている自然な音の切れぎわ、きれいな散りぎわをとても大事に処理していた気がします。まあ、相撲を見る時に“仕切りが一番面白いんだ”っていうマニアみたいな見方ですけどね(笑)。でもそこが一番重要で、ギターの面白みではあるんです。

──ボーナストラック的に最後に入っている「Beautiful Struggle」の“カラオケ”は、真鍋さんらしいアイディアだと思いましたね。リードギターを抜いた、ギタリストのためのカラオケということで。

真鍋:バックトラックだけを聴かれるのはけっこう恥ずかしいことなんですよ(笑)。どんな作り方をしているのかが如実にわかっちゃうから。ただね、自分の中ではギターキッズ向けのカラオケというのは表向きの理由で、このバックトラックに何か音を入れて返してくれればいいなと思ってるんです。ギターでも、歌でも、サックスでも、詩の朗読でも、何でもいいんです。ニューヨークのヒップホッパーがこれにラップを入れてくれてもいいし。いつか誰かと面白い出会いがあったらいいなということと、この盤が世界中を旅をしてほしいなという意味合いをこめて、このトラックを入れました。

──最後にベタな質問ですが。真鍋さんが影響を受けたギタリストを5人挙げるとすると、誰になりますか?

真鍋:その質問を聞かれるといつも困るんです(笑)。というのはあまりにギターが好きすぎて、どんなギタリストでも好きなんですよ。ファンクのギタリストも大好き、ヘヴィメタルも大好き、ジャズも大好き、クラシック・ギターも大好きで、いろんなギターに興味があって聴いてきたものを僕というフィルターを通して出しているので、ベスト5とか言われると一晩中悩むんじゃないかな(笑)。(しばらく考えて)ただ本当に自分で目指す一人は誰だ?と思うと…たとえばボブ・マーリィの「ノー・ウーマン・ノー・クライ」のギターソロを弾いたアル・アンダーソン。あの1曲を弾くだけで、ギタリストとしての価値がこの世界にあったわけじゃないですか? そんな意味を持てたギタリストはすごいな、尊敬するなと思いますね。あの歌にあのギターソロを引き寄せただけで、あの人がこの世でギターを弾いた価値があったと思うし。そんなスタンスで、自分も“あの曲のあのギターを弾いたから価値があったよな”って、思われるようなギタリストになれればいいなと思います。

取材・文●宮本英夫

『Rutile』
2012.11.14 ON SALE
LNCM-1010 ¥3,000(tax in)
1.Grace to You
2.Rutile
3.Daybreaker
4.News for You
5.The Child of Wheat
6.All Creation (Let's Go Leone!)
7.Gemini
8.Sweet Little Deal
9.Beautiful Struggle(Originally Version)
10.Where Do You Go
11.Beautiful Struggle (Originally Version Karaoke)

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