【ライブレポート】12年間、苦しかったよね。だから、どうか、もう笑ってほしい。<Raphael 再演『天使の檜舞台 第一夜 白中夢』>

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ここからは、YUKI、YUKITO、HIRO、サポートメンバーのもっちゃん(key)、そして、華月でのステージ。フラメンコタッチの「窓際の夢」。

「オンギター! 華月!」

曲間のギターソロで、YUKIは上手に両手を精一杯伸ばして叫んだ。

「あんにゃろ~が弾いたギターが出て来たんだよ。それをデータに起こしたの。まぎれもない華月の音。まぎれもない華月の音を連れてきたよ。映像もあるの。音を感じたい、そんなときは、そっと目を閉じて聴いてみて。きっと、あの頃の景色が浮かんでくるはずだから── 」(YUKI)

届けられたのは「Dear」。
“曲のタイトルはちゃんと覚えているのに、日に日に歌詞も曲もおぼろげになっていってしまう自分が悲しい”と嘆いてた華月の母親の言葉を忘れられなかったというYUKIは、YUKITOとHIROにすべてを話し、今回の再演に合わせて未発表曲の音源化に踏み切り、この日の再演に合わせ、「eternal wish~届かぬ君へ~」を表題としたシングルをリリースしたのだ。

彼らの演奏する後ろのスクリーンには、当時のままの華月が居た。一生懸命にギターを弾く華月の姿はとても初々しく、とても愛しく写った。

曲は、同じくそのシングルに収録されていた「拝啓ナーバス」とへと続いた。ライブの音から引っぱってきたという華月のギターの音と、HIROのドラム、そしてYUKITOのベース。そしてYUKIの声は、YUKIの言うとおり、まぎれもないRaphaelだった。

「精一杯泣いていいよ。精一杯歌うからさ。余計なモノは全部置いて帰んなよ。全部受けとめるから。んふふ。コスプレいっぱいいるね。嬉しいな。男の子もたくさん居てくれるんだね! 女の子も黄色いね~(声が)。嬉しいよ。諦めなくて本当に良かったと思う。賛否両論あると思うけど、ライブを始めてしまった以上、最高のライブにするよ。人生って、どんなにあがいても、それはみっともないことではないと思うんだ。だからね、精一杯泣いていいよ。本当に精一杯で受けとめるから。今回ね、本当にいっぱい見つけられたんだよ。アイツがギター弾いてる映像。だから、みんなに見せるからね──」(YUKI)

華月が弦を弾き、透き通るギター音を放ち、透明なアルペジオが空気に馴染むと、その曲はゆっくりと客席へと広がった。

「eternal wish ~届かぬ君へ~」──。Raphael初のオリジナル曲。

ステージには雲のような真っ白なスモークが漂い、天からは、真っ白な羽根が舞い降りた。
ゆっくりと流れた時間に、オーディエンスは身を預けた。そして、この曲が幕を閉じたとき、オーディエンスは大きな拍手を彼らに贈った。

ライブは「展覧会の絵」(HIROのドラムソロ)へ。riceとして音を届けるようになってから、とてもシンプルなドラムセットになっていたHIROも、この日は華月好みのツーバスのフルセットでプレイに挑んだ。当時でも、ドラムソロがあるバンドは減っていたが、絶対的なバンドスタイルに強い憧れを抱いていた華月は、ライブでのドラムソロも必須と考えていたのだ。そんな華月の想いを受け継いで、HIROは当時と同じドラムソロを届けたのだった。鳴りが力強くなったHIROのパワフルなドラムソロは会場に堂々と響きわたった。多くのアーティストの後ろで、サポートドラマーとしてドラムを叩き、音楽家の道を貫いて来たHIRO。華月はこのHIROのドラムソロを、きっと喜んだことだろう。12年ぶりに合わせたYUKITOとのリズムセッションも、素晴しく成長したものだった。

「シナゴーグ前奏曲イ短調 ~第一楽章~」をSEに、ライヴは第2章の幕を開けた。「飛ばして行こうぜ!」と、YUKIが叫ぶと、「さくら」が始まった。上手にLida、下手に咲人という構成でRaphaelを支えた。

「Sacrifice」を届けた後、YUKIが咲人とLidaを紹介し、「follow you」へと繋げたのだが、このギターソロ部分でYUKIは、華月を後ろから抱え歌う仕種を、あの当時と同じように咲人にやって見せたのだった。

この日、もっとも大きな歓声を集めていた「症状3 ×××症」へ。ダウン症の叔父を見る世間の目を書いた衝撃作に、オーディエンスは当時と同じく激しく頭を振って答えた。まだ10代だった華月から発せられた、生まれもっての不平等に対する問題定義。色褪せない不変のテーマに、改めて心を打たれた。

本編ラストは、今回再録された「eternal wish ~届かぬ君へ~」のカップリングでもあった「エルフの憂鬱」。この曲は、1998年4月7日に恵比寿ギルティで行われたRaphael初のワンマン公演にして『LILAC』のリリース記念でもあったライヴでお披露目されたという。彼らは、7分を越える大作であるこの曲で、再演の本編を締めくくったのだった。

Raphaelを渇望するオーディエンスの声に再びステージに戻ってきた彼ら。
「目に焼き付けて行ってね。今日まで、賛否両論だったし、攻撃力の強い言葉をたくさん受けとめてきた。歌えなくなった歌もあった。でも、12年という歳月を超えて、今なら歌えるんじゃないかって思える曲が日に日に増えて行った。待たせてごめん。空白って辛くてね……。でも、それだけの歳月が必要だった。でも、今、華月というアーティストが伝えたかった、本当の意味を伝えるよ。ライブでは4人そろって一度も演奏出来なかった曲、やらせてよ。本当のRaphaelを楽しんでよ。本当のRaphaelを遠慮なく愛してやってよ。本当のRaphaelを青春の誇りにしてやってよ」(YUKI)
YUKIは12年間の沈黙の中にあった想いのすべてを、ここに吐き出した。

一度も4人でライブで演奏出来なかった曲。それは「秋風の狂詩曲」。一方通行の切ない恋心が会場に響いた。バグパイプの音が彩る、華月が描きたかったクラッシックな世界観に、会場からは大きな拍手が沸き上がった。

そして、Raphael第1章の卒業曲でもあった「lost graduation」が届けられた。映像の中には、アコースティックギターを一生懸命抱きかかえ、丁寧に弦をつま弾く華月の姿があった。華月、18歳 ──。

「みんなには笑っていてほしい。みんなには笑って生きていってほしい。12年間、苦しかったよね。だから、どうか、もう笑ってほしい。三十路3人が歌います『Teenage~卒業~』」(YUKI)

YUKIは両手を思いっきり広げてクラップし、オーディエンスを盛り上げた。音楽の道ではない場所で生きて来たYUKITOはこの日、終始緊張気味であったが、このときは心からの笑顔を見せていた。HIROも同じく、オーディエンスの笑顔を受け、心からの笑顔を贈り返していたのだった。

三十路 ──。12年という歳月は、3人を大人に変えていた。

そうそう。そういえば、華月は大人になることを本気で嫌がっていたっけ。
“僕ね、渡辺和樹でしょ。渡辺って名字の人って、絶対オジさんになると、“ナベちゃん”って言われてる気がするのね。ってことは、僕も30歳くらいになったら“ナベちゃん”って言われてんのかな? すっごい嫌なんですけど(笑)。それは僕の趣味じゃない。できればそこだけは全力で阻止したい!”

真剣な顔で力説していた華月。絶対に“ナベちゃん”と呼ばせない対策を、必死で考えていた華月を思い出した。そんな可愛いエピソードを思い出し、少しだけひとりで笑った。

そして、当時のメイクをし、当時の衣装を着て撮影された、この日のために作られた映像を見ながらトークを届け、ラストは、Raphael第2章の始まりの曲「Evergreen」と「夢より素敵な」を贈ったのだった。

この日のすべてを届け終えた後、YUKIは、会場にうっすらと流れて始めたインスト曲について触れた。

「今かかってるこの曲ね、いつもriceのライブの最後で流してる曲なんだけど、この曲、実は、Raphaelの最後のツアーだった<Raphael Tour 2000-2001 新世紀を駆けぬけろ!>のオープニングSEだった曲なんだよ」(YUKI)

YUKIは、華月が愛してくれた自分の歌を、音楽家として歌い続けていくことを、歌う喜びを教えてくれた最愛なる友人華月への想いを、Raphaelへの想いを、彼はRに全て注ぎ込み、歌い続けてきた、“頭文字をどうしてもRにしたかった”意味をオーディエンスに打ち明けたのだった。

取材・文●武市尚子
写真●逸見隆明

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