【インタビュー】ドレスコーズ、閃きとテクニックに裏打ちされた多彩な曲の数々、待望の1stアルバム『the dresscodes』完成! フロントマン志磨遼平を直撃

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今年(2012年)7月、1stシングル「Trash」でデビューしたドレスコーズが1stアルバム『the dresscodes』を完成させた。昨年12月、毛皮のマリーズを劇的に解散させた志磨遼平が新たに始めた4人組である。
シンプルにバンド名を冠した1stアルバムには、ドレスコーズの所信表明とも言えるオープニングの「Lolita」他全12曲を収録。マリーズからの流れも感じられるグラマラスなロックンロールもレパートリーにしている一方で、ロカビリーとジプシー・ジャズの折衷とも言える「Puritan Dub」、ポストパンクなファンクの「Automatic Punk」、疾走パンク・ロックの「リリー・アン」、そして産み落とされたときすでにスタンダードになることを約束されたクラシックなポップ・ソングの「レモンツリー」といった閃きとテクニックに裏打ちされた多彩な曲の数々が、彼らが目指す「スタイルにこだわらないバンド」の姿をアピールしている。
2012年のロック・シーンを代表する傑作と断言してしまいたい。結成からわずか1年足らずで濃密なアルバムを作り上げたバンドを代表して、志磨にインタビュー。彼の話からは、ロックのロマンを求める想いや新バンドにかける意気込みに加え、4人のメンバーが激しい鍔迫り合いを通して、デビュー・アルバムを作り上げていった様子が窺える。

 ◆  ◆  ◆

――胸が躍る上に、どこかソワソワするようなところもある1stアルバムが完成しました。

志磨遼平(以下志磨):やった(喜)。ソワソワするようなところがあるのはいい証拠ですね。

――バンド結成から1年足らずで、そういうアルバムを完成させた現在の心境は?

志磨:大変だったなぁ、ですかね(笑)。やっぱり音楽を真剣に追求する――それを複数の人間でやるわけですからね。音楽がすごく奥が深いものだということはみなさんご存知だと思うんですけど、それを人よりもそれに多くの時間を割いてきた何人かが「素晴らしい!」と判断を下すまで、アレンジなりアプローチなり、あらゆる可能性を片っ端から試してですね、衝突しあいながら「いや、まだだ。まだだ」と言いながらようやく1つの光明を見出して、「これはすごいかもしれない」と、やっと前に進むという本当に針の穴を通すような精度の高い音楽の作り方を、出会ったばかりの4人が「はじめまして。じゃあ、曲を作りましょう」って感じで始めて、それから連日連夜、いい音楽であることはもちろん、なおかつ早くないと意味がないと思いながらそれだけに取り組んで出来たのがこのアルバムなんです。作っている最中は、きっとすごい集中力だったんでしょうね、そんなことを感じてたわけではないですけど、改めて振り返ってみると、「うわっ、たいへーん」って(笑)。

――それを成し遂げられるなんて、すごい4人が揃ったと改めて思うところもあったのでは?

志磨:それはもちろん。毎日、思ってました。みんな一見、おとなしそうな人達ですけどね。いや、実際、年齢的にもみんな大人だし、すごくやさしいし。でも、楽器を持つと怖い(笑)。頑固ですし、ストイックですし、しかもちょっとずれてる。そういうところが音楽に出ているところもおもしろいですけど、ギターの奴(丸山康太)とは4つ歳が離れてるので、ドレスコーズを始める以前は「マル~」「志磨さーん」っていう先輩後輩みたいな感じだったんですけど、でも、メンバーになったとたん、「それはダメ」とか「良くない」とか「勉強したほうがいいよ」とかって。

――後輩に言われてしまうわけですね?

志磨:そうです。調子に乗りやがってって思うじゃないですか。いや、それはウソ。ホントに僕は3人にメロメロなので、何を言われてもいいって感じなんです。でも、そうやって僕が何も言わないで、いつも「うんうん」と言ってると、それはそれでダメなわけですね。「君がちゃんとしてよ」って。だから、尊敬してる3人に対して、「この曲はこうしよう」とか「それはゴメン、ちょっとわからない」とかってがんばって言うようにしてます。だから、スタジオでは今でもすごく緊張しますね。尊敬してる人達と演奏しながら、そういう人達をまとめる役割が僕ってことになってしまうので。たぶん、その緊張はこれからもずっと続くとは思いますけどね。

――レコーディングを始めた時は、アルバムのリリース予定は具体的には決まっていなかったんですか?

志磨:大体、冬に間に合えばいいぐらいには思ってたんですけど、でも、なるべく早くっていうことかな。うん、ホントに賭けみたいな計画なんですよね。だって、1stアルバムって普通、バンド結成から苦節何年ってあってから出すわけじゃないですか。ドレスコーズにはそういう期間がない。代わりに(音楽を)メッチャやってきた人達ではあるんですけど、たとえば途中でダメってなったらアルバムも何もあったもんじゃないし、全然、進まなければ、曲も増えないだろうし、何かと何かが化学反応を起こしてスラッシュ・メタルみたいなバンドになるかもしれないし。いや、スラッシュ・メタルはないなぁ。でも、ものすごいカオスな音楽を作る可能性も全然あって。どんな音楽をやろうって組んだバンドじゃないからすごくアバンギャルドな音楽をやることも考えられたわけで、そうなったら「そんなアルバム、出さないよ」って言われてたかもしれない。だから、本当にうまく行ったんですよ。そういう意味でも、「うわっ、すごいことをやったんだな」って思います。

――ベーシストが決まらない状態でのライブ・デビューをはじめ、6月の3大都市ツアーをツアーが始まる1週間前に発表したりとか、イベント・ライブに突然出演したりとか、サプライズ的な現れ方が多かったですよね。それはひょっとすると、ドレスコーズを待っているファンのワクワク感を煽る演出とか戦略とかだったのかなと思う一方で、その慌ただしさはバンドが急速に進化していっていることの表れだったのかなとも思いました。

志磨:まぁ、ロックンロールにおいては、そういうワッとした衝動的なやつってかっこよく見えるじゃないですか。それが巧妙に見えたとしても全然かまわないんですよね。「いや、そういうつもりはなくて」って言うのも野暮なので、演出とか戦略とかって言われても、全然否定するつもりはないですけど、やっぱりステージに立たなきゃわからないことってあるんですよ。だから、ある程度、曲が揃ったら1回、それをライブで試してみたかった。ライブを経験したことでできた曲もいくつかありますしね。そういう実利の部分もありつつ、やっぱりステージに立ちもしないでバンドを名乗るのは憚られると言うか、それは僕の何かが許さない。やっぱりライブを経験しなきゃバンドになった気がしないと言うか、それは僕の中にある信仰心みたいなもので(笑)。だから1stアルバムをリリースするまでには、バンドにおける一通りの通過儀礼はこなしたかったんです。まだライブしてないんですけど、一応バンドなんですよぉみたいなのはイヤだなと思って。

――なるほど。確かに1stアルバムはロックバンドならではの醍醐味を伝える作品ですよね。毛皮のマリーズが解散した後、ソロになる選択肢もなくはなかったんじゃないかと思うんですけど、それでもバンドを組んだ理由がこのアルバムにあるような…。

志磨:おぉっ。ありがとうございます。

――なぜ、志磨さんがまたバンドを組んだのか、このアルバムを聴いてわかったような気がしました。こんなかっこいい音を出せるんだからバンドしかないだろうって。

志磨:逆から言うと、僕はひとりでやっても絶対かっこよくないってわかってるんですよ。僕は自分のソロ・アルバムなんか絶対聴きたくない。絶対いいわけがないし、みんなにそれがバレるからそれは出さない。それだけですね。僕は絶対バンドしかやらない。でも、バンドができるのは、一緒にやってくれるメンバーがいるからで、そういう人達がいて本当によかったと思います。往々にしてあるのは、スタジオに貼ってあるバンドのメンバー募集で、「当方ヴォーカル。全パート募集」ってやつ(笑)。あれ絶対、電話したらダメなんです。そういう奴は大体クズ(笑)。楽器の練習はしたくない。でも、俺には何かあるんだって思ってる。つまりそれは僕なんですよ(笑)。でも、何かあると信じて、もう30(歳)までやってしまってるわけで。それで何がよかったって、いっつもメンバーがいたんですよ。バンドを組みたいよって言ったら組めたんです。そして、うれしいことにまた素晴らしいメンバーに巡り合えた。もうラッキーとしか言いようがないので、とっとと動かないとバチが当たると思って、超急ぎましたね。

――ラッキーですか。でも、志磨さんの才能に惹かれて、みんな集まってきたんじゃないでしょうか。

志磨:そうだとしたらすごいうれしいですね。

――ただ、バンドってめんどくさいことがいっぱいあるじゃないですか。

志磨:そうですね。でも、かっこいいですからね。こればかりは完全にIQ低い答えしか出ない(笑)。「かっこいいもん」っていう。なんとかライダーとか、なんとかレンジャーとか特撮ヒーローもかっこいいですけど、ああいう格好したいかって言ったら、ファッショナブルじゃない。あのヒーロー感を持って、めっちゃファッショナブルで、なおかつユーモアもバイオレンスもあるし、ロマンもあるし、その上、芸術的な豊かさまで…そこからが才能なんでしょうけど、いや、どこからが才能かはそれぞれのバンド観かもしれないですけど、そこからいい作品が生まれれば芸術的な感動まで得られるし、世の中のいいことが全部あるんですよね、ロックバンドには。

――今回、曲作りやレコーディングは、どんなふうに進めていったんですか?

志磨:大体は僕がメロディーを提供するんですけど、でも、アカペラは恥ずかしいので、ギターでコードぐらいはつけていくんですけど、それもなきものにしていただいて。「こういうメロディーがあります」って一応発表して、そのメロディーだけを残して、あとはみんなで解体してそこから再構築と言うか、それに対するアプローチを片っ端から試すという作業ですね。

――メロディーを提供するとき、「この曲はこういう方向性で」っていう指示はしないんですか?

志磨:方向性が決定的にある場合だけ言いますね。でも、決定的じゃない場合もあるんです。そういうとき、「わ、そっちのほうが確かにいい」ってアイディアを、他のメンバーが出してきたら渋々ひき下がります(笑)。

――たとえば、アルバムの中で最初から決定的な方向性が見えていた曲と言うと?

志磨:「(This Is Not A)Sad Song」は一つのイメージがあって、でも、それはすごく難しいことだったんです。それがさらっとできたんで、改めてびっくりしました。ものすごくシンプルな演奏と歌の3コードの曲を、演奏のグルーヴ感だけで、ロックの焦燥感と言うか、急き立てられるような感じを表現したくて。テンポは決して速くなくて、本当にスペシャルな人にだけ許されてるグルーヴ――たとえばジョニー・サンダースとかジョナサン・リッチマンとかリバティーンズとか、ああいう決してしっかりしていない演奏で、必死にリズムを取りながら…ブルースもそうかもしれないですけど、ツッタツッタツッタみたいな。わーっと性急な感じではなくて、堪えながら、でも、気持ちだけは前に行ってるような…すごく言葉にしづらい感じですけど、とにかくそういうのがやりたいなと思ってたんです。でも、そんなの日本人でやってる人ってひとりもいなくて、絶対できひんのやとも思ったんですよ、構造的に。筋肉なのか、食生活なのかわからないですけど(笑)、絶対に日本では生まれないって。それでも今みたいに必死に、夕方の放送で流れるチャイムとか、帰りたくないと思いつつも帰らなあかん、あの感じとか、いろいろ例えを挙げて、「ぐっと堪えながら、それでも前に行きたい感じで演奏しましょう」って言って、せーのってやったら、「はぁ(と息を呑んで)、これだ!」ってなったんですよ。みんな、わかるわかるってなって。すげえ、こんなの初めてだ。また、バカな発言になりますけど、「めっちゃ外人みたいやん」って(笑)。お気に入りですね、その曲は。でも、ホントにそれぐらいかもしれないですね。イメージをがんばって伝えたのは、それ以外は流れるままに形を変えながら作っていきました。

――逆に、方向性はなんとなくあったんだけど、メンバーに別のアイディアを提案され、渋々ひき下がった曲はどれですか?

志磨:いや、渋々ってことはないですけど(笑)、いっぱいありましたよ。たとえば「レモンツリー」って曲は、ギターのマルがジャズを勉強してたってこともあって、ちょっとエキゾチックな感じにしたくて、ラテン・ジャズじゃないですけど、そういうフレーズをどんどん足していってほしいんや、オープニングもボサノバっぽいリズムにしたいって言ったら、「イヤだ」って言うから、「なんで? 君、得意やないの」って言い返したら、「弾けるけど、それを弾くには丸ごと1曲かけて、本気でそれを弾かないと、あの感じは絶対表現できないから1曲の中のどこかにちょろって出てくるだけでは弾けない。だって弾く理由がないから」って言われて。「うわ。じゃあ、どうしよう」っていっぱい考えて、「えー、でもそういうふうになったら絶対いいよ」って言ってたら、「じゃあ、もう自分で弾けば!」って言われて、ガーン!!って(笑)。それで「イヤです、ごめんなさい。君が好きなように弾いてください」って言って、ああいう形になりました。

――そんなやりとりがあったとは。ちなみに「レモンツリー」は個人的にアルバムの中で1番目か2番目かぐらいに好きな曲なんですよ。

志磨:やった。がんばった甲斐があります。

――今回、インプロって言うんですか、曲の中でバンドの演奏もかなり聴かせていて、そういうところもアルバムの聴きどころですね。

志磨:あれはすべて僕が無理やりやってもらってるんです(笑)。

――え、無理やりなんですか?!

志磨:あの人達はやりたがらないんですよ。でも、僕はそういうのを自慢したいからやってくださいって頭を下げてるんです(笑)。全部そういう曲にしたいぐらいなんですけど、それも同じ理由ですね。「そういうのが入る意味がわからない」って言われると、「ですよね」ってなるんですけど、「それでもなんとか」って頼んで、「しょうがねえな」ってやってもらってる。

――でも、「Automatic Punk」とか「誰も知らない」とか「1954」とかで聴かせる激しい演奏はすごいですよ。

志磨:でも、あの人達はそういうのをひけらかさない。偉いですねぇ。僕だったらメッチャやりますけどね。前に出てやりますよ(笑)。

――演奏という意味では、ドレスコーズは個性派プレイヤーの集まりですけど、中でも丸山さんのギターはかっこいいですよね。すごい人がいたんだなってびっくりしました。

志磨:そう、いたんです。僕の隠し玉です(笑)。

――丸山さんの存在を世に知らしめたというだけでもドレスコーズの功績ってものすごく大きいんじゃないかと思いますよ。

志磨:うわー、ありがとうございます。そんなふうに言ってもらえるなんてうれしいですね。彼はホント、すごいんですよ。本人の前で言うと怒るからあまり言わないですけど、彼、上手なんですね。すごく練習もするし勉強もしてるから。理論的な知識もあるし、立派なギタリストなんです。でも、彼が一番すごいところは、初めてギターを触るような人みたいに毎回、弾くんですよ。そこがすごい。それが彼の一番の才能。もちろん、考えてやってると思うんですけど、確信的にね。日本では聴いたことがないギターを弾きますね。

――志磨さんも今回、いろいろな歌い方を試していますね?

志磨:暗中模索です、僕は。探している感じですね、いいところで歌えるように。マリーズって、うわーってすごいトゥーマッチに演奏するので、その中で歌うとトゥーマッチにならざるを得なかった。でも、このバンドではいろいろな曲をやってるし、いろいろな演奏もしてるので、うわーって歌っちゃうと素っ頓狂になるだけなので、曲ごとに、「あ、ここだ。あ、ここだ」というところを探してます。

――アルバムを完成させたことで、ドレスコーズというバンドのポテンシャルも見えてきたんじゃないかと思うんですけど、これからどんなふうにバンドを成長させていきたいと考えていますか?

志磨:スタイルにはとらわれず、いい曲を作りつづけたいですね。それで、たくさんの信頼と言うか、支持を得られる孤高のバンドになりたい。売れない孤高のバンドはイヤだ(笑)。いい音楽はみんなに伝わるはずというのが僕の信念なので、いい音楽をたくさん作って、誰も追いつけないようなバンドになりたいです。やっぱり、作品を出しつづけながら、ライブもずっとやり続けている人がかっこいいと思うので、たぶん僕らもずっとこのテンポのまま行くと思います。

取材・文●山口智男



1st Album
『the dresscodes』
2012年12月5日発売
【初回限定盤】
COZP-735~6 ¥3,360(税込)
【通常盤】
COCP-37693 ¥2,940(税込)
M-1. Lolita
M-2. Trash
M-3. ベルエポックマン
M-4. ストレンジピクチャー
M-5. SUPER ENFANT TERRIBLE
M-6. Puritan Dub
M-7. Automatic Punk
M-8. リリー・アン
M-9. レモンツリー
M-10. 誰も知らない 
M-11. (This Is Not A)Sad Song
M-12. 1954

<the dresscodes TOUR“1954”>
2013年
1月23日(水) 京都磔磔
1月24日(木) 渋谷O-WEST
1月27日(日) 札幌cube garden
2月2日(土) 広島ナミキジャンクション
2月3日(日) 福岡DRUM Be-1
2月9日(土) 仙台darwin
2月10日(日) 新潟RIVERST
2月16日(土) 梅田QUATTRO
2月17日(日) 高松DIME
2月22日(金) 名古屋QUATTRO
3月8日(金) 日本青年館

◆TOWER RECORDS購入者対象イベント
タワーレコード渋谷店リニューアル記念!スペシャルイベント
「the dresscodes LIVE at TOWER RECORDS」
2012 年12月22日(土)TOWER RECORDS渋谷店B1F<CUTUP STUDIO>
18:00 START

◆HMV 購入者対象イベント
「the dresscodes LIVE for HMV」
2013年1月6日(日)LIVE HOUSE FEVER
14:00 START

◆ドレスコーズ オフィシャルサイト
◆コロムビア内ドレスコーズ サイト
◆タワーレコードUstreamチャンネル
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