【異次元連載】トム・ハミルトンが語るエアロスミスの真実 Vol.12「スティーヴンの天性により完成に至った名曲「アナザー・ラスト・グッドバイ」」

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トム・ハミルトンによるアルバム収録曲解説も最終章に近付いてきた。世界各国のロック・ファンを揺さぶり続けている『ミュージック・フロム・アナザー・ディメンション!』の本編ラストに収録されているのは、「アナザー・ラスト・グッドバイ」と題された、エアロスミスならではの深い味わいを伴ったバラードだ。作詞はもちろんスティーヴン・タイラー。作曲クレジットにはスティーヴンとジョー・ペリー、そして“ソング・ドクター”との異名を持つデズモンド・チャイルドが名を連ねている。

◆トム・ハミルトン画像

「これまた綺麗なバラードだね。とても美しい楽曲として完成された。実はこの曲のベーシックな部分というのは、かなり前に書かれていてね。その段階でデモが作られ、レコーディングもされていたんだけど、そのまま棚上げになっていたんだ」

トム自身は、その際にこの曲が温存されることになった理由までは語っていない。が、結果的には、そこで少しばかり曲を寝かせたことが功を奏する形となった。アルバム制作が進んでいく過程のなかでメンバーたちの創作意欲にも拍車がかかり、そうした勢いがこの楽曲を完成に至らしめるうえで重要だったのだ。

「みんなでL.A.に行って、今回のアルバム作りの最終段階に入ったときのことだった。とにかく僕ら自身に、ものすごく勢いがあったんだ。加速度がついていたというか、曲作りも、演奏も、レコーディングにおけるさまざまなことについても、さらに自分たちになりにスキルアップできている状態にあるのを自覚できていた。そこで、それまで棚上げにされていたいくつかの楽曲について、改めて向き合ってみようということになったんだ。つまり、“今の自分たちなら、この曲たちをあるべき姿に完成させられるんじゃないか?”と思えたわけだよ」

40年選手のエアロスミスのメンバーから“スキルアップ”などという言葉が飛び出してくるのは驚きでもあるが、こうしてごく自然に向上を重ねてきたからこそ、このバンドは今もこうして現在進行形であり続けていられるのだろう。そしてトムは、この曲が“あるべき姿”に辿り着いたことについては、やはりスティーヴンの功績が大きいと認めている。

「元々この曲については、メンバー全員でレコーディングした音源があったんだけど、スティーヴンが“俺がピアノの弾き語りでやって、そこにストリングスを加えてみるというのはどうかな?”と言ってきたんだ。もちろんみんな承知したよ。それでやってみようってね。そして結果、こうして素晴らしい仕上がりになった。本当にこの曲は、スティーヴン自身と密接に繋がっているんだよ。このアルバムのなかでも、彼自身がいちばん誇りに感じているのがこの曲じゃないかと思う。実際にこの曲を聴きさえすれば、彼がそう感じていることは誰の耳にも明白だろうと思うよ。あの印象的なストリングスの響きとかね。ストリングスのアレンジの大半は、スティーヴンが自分で手掛けているんだ」

ファンの多くはご存知だろうが、スティーヴンの父親はジュリアード音楽院で学んだクラシック音楽家で、スティーヴン自身、過去には「俺は親父の弾くピアノの下で育ったようなもんだ」と語っていたりもする。ストリングス・アレンジについても、知識というよりは素養が最初からあるようなものなのだ。

「今後、スティーヴンはもっとああいった活動もしていくべきじゃないかと僕は思っている。彼だったら、(主題歌を歌うだけじゃなく)映画音楽だって作れるはずだ。テクニカルな面を担当してくれる誰かさえそばにいれば、そこで彼は素晴らしいアイデアを出すことができるはずだ。彼がいちばん得意としているのは、ひとつのパートを作ってそれを完璧な状態まで磨きあげ、そこからインスピレーションを得ながら、他にどんなパートと組み合わせていくことが可能かを見きわめていくことなんだ。彼はそのプロセスが大好きでね、夢中になると一晩中でもそういうことをやっているよ。まあそれは彼にかぎらず、メンバー全員にとって同じことだけど(笑)。お気に入りのリフなりパートなりを延々とプレイしていると、そこでいろんなアイデアが湧き出てくるんだよ。まさに、川に流れているものを手で掴み取るようなものなんだ。それが楽しいんだよ。とにかくこの「アナザー・ラスト・グッドバイ」は、そういったプロセスを経て完成に至ったんだ。彼の思いついたストリングス・パート無しには、この形にはなり得なかった。すごく綺麗だよね。だけどライヴではフル・バンドでプレイしたいところだな。だって当然ながら、僕自身もこの曲の演奏に加わりたいからね(笑)」

さて、これをもってアルバム本編の全収録曲に関する解説が終了となった。しかしこの連載は、まだまだ続く。次回は、今作の日本盤にボーナス・トラックとして収録されている、ふたつのカヴァー曲について語ってもらうことにしよう。お楽しみに!

取材/文:増田勇一

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