【異次元連載】トム・ハミルトンが語るエアロスミスの真実 Vol.14「トムが生まれて初めてヴォーカルを担当した「アップ・オン・ザ・マウンテン」と、その背景にあるもの」

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『ミュージック・フロム・アナザー・ディメンション!』のデラックス・エディション(3枚組仕様)を手に入れた人たちは、DISC 2の1曲目に収録されている「アップ・オン・ザ・マウンテン」という楽曲の成り立ちに驚かされたことだろう。アルバム本編に収録されている「テル・ミー」と同様に、この楽曲はトム・ハミルトンの作詞/作曲によるもの。しかもこの曲については、トム自身がリード・ヴォーカルを担当しているのだ。もちろんエアロスミスの40年に及ぶ歴史のなかで、これは初めてのことである。さっそく彼自身に、この曲の誕生背景について話してもらうことにしよう。

◆トム・ハミルトン画像

「「アップ・オン・ザ・マウンテン」は、かなり前から温めていた曲なんだ。ずいぶん前に書いたまま、心のなかにずっとしまってあったんだよ。でも、スティーヴンに聴かせてみたら“この曲は好きだけど俺のキーに合わないし、このキー設定のままで行きたいんであれば、おまえのヴォーカル・アイデアは使えないと思う”と言われてね。正直、だったらもうこの曲に未来はないなと思っていたんだ。ところがそれからしばらく経ったある日、彼から電話があってね。“おまえのあの曲をまた聴いてみたいんで、そっちに行くから”と言うんだ。そして実際、彼はやってきた。僕はすでに自分のヴォーカルでデモを録っていたんだけど、そのとき彼に“バッキング・ヴォーカルを入れてみたら?”と提案されてね。単純に嬉しかったから“じゃあやってみよう”ということになった。とはいえ僕はそもそも歌になんか自信があるわけじゃないから、そのプロセスに対してものすごくナーヴァスになってしまってた。結果的にはそこでとりあえず歌ってみたものが、なかなか興味深いバック・ヴォーカル・パートになったんだけどね。そのときに改めて感じたよ。ベーシックなアイデアを出すのが自分でも、それを素敵なクオリティにまで引き上げてくれるのはスティーヴンの発想なんだってことをね」

しかし結果、この曲は、スティーヴンの美味しい声域に合うようにメロディを作り替えるのではなく、トム自身のヴォーカルで録音されることになった。そして、実は“歌う”という行為自体が当時の彼にとっては大きなチャレンジでもあったのだ。

「そのデモ自体わりと良かったんだけど、結果的には今回のアルバム用に最初の段階から録り直したんだ。僕が数年前に喉頭癌を患ったことは知ってるかな? 2ヵ月間ほど放射線治療を受けなければならなかった。そのために僕の喉はかなり焼かれることになってね。だから自分としては、“どうしたらいいんだ?”“僕に歌なんか歌えるのか?”という気分だったよ。でも、そこで背中を押してくれたのがプロデューサーのジャック・ダグラスだった。彼が、“少しずつやればいいんだ。僕がやり通せるようにしてあげるから、こっちに来てやってみてくれ”と言ってくれてね。で、まずはバンドがレコーディングして、素晴らしいトラックができあがったんで、それから僕が改めてスタジオに向かって、リード・ヴォーカルを録ったんだよ。もちろん過去すべてのエアロスミスのアルバムを通じて、僕がリード・ヴォーカルを担当したのは今回が初。まさに生まれて初めての経験だった。これ以前は、自分のスタジオでのデモ作りのために歌ってきただけに過ぎないからね。実際のところ、スタジオに出向いても僕自身は“今の自分にできるのはここまでで精一杯。これで大丈夫なのかな?”という感覚だった。でもジャックは“心配するな。きっといい出来になるから”と言ってくれてね」

こうした謙遜ぶりからもトムの人柄がうかがえる気がする。確かにこの楽曲で聴くことができる彼のヴォーカルは、スティーヴンのそれとは比べようもない次元のものではある。そこで“独特の味がある”なんていうのはファンの贔屓目かもしれない。が、トムはさらに、謙遜気味にリアルな発言を続けている。

「結果的には、まあ、言ってしまえば僕の録ったヴォーカル・テイクのなかからジャックがいいパートを抜き出して、うまく繋げていい感じにしてくれたわけだよ(笑)。そしてもちろん、スティーヴンがやって来て、彼のパートを歌い、とても面白いバッキング・コーラスとかを加えてくれたんだ。あの男からはいつだって、音楽のアイデアが溢れ出てくるんだよ。歌い始めた途端に、次々とね。スティーヴンがまず言ってたのは“このリード・ヴォーカルはかなりいい。あとは低音を加えることだな”ってことだった。そこを彼自身の声が補ってくれてるんだよ。ミキシング・エンジニアもいい仕事をしてくれた。なにしろ、僕の歌声をマトモなものとして聴かせられるようにしてくれたんだからね(笑)」

さて、いよいよこの連載も最終コーナーに差し掛かりつつある。しかし実はここから先こそが衝撃発言の連続だったりもする。次回の更新をお楽しみに!

取材/文:増田勇一

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