12月25日(月)、小雨降るクリスマスのベルリン、シェーンハウザー・アレーのロシア・レストランVolandにて、クレズマー・バンドのギンツブルク・デュナスティ(Gynzburg Dynastie)の演奏を聴いた。

◆ギンツブルク・デュナスティ画像

クレズマーとは東欧とドイツを発祥地とするジプシー音楽で、アメリカに移民した東欧系ユダヤ人たちによりアメリカン・ジャズの形成にも多大に寄与した。1990年代にはニューヨークを中心とするニューウェイヴ、前衛音楽やジャズに影響を及ぼし、ジョン・ゾーンもクレズマー音楽を演奏。日本においてもRCサクセションのサックス奏者、梅津和時や、ヒカシューの巻上公一、JAGATARAサックス奏者、故・篠田昌已などがクレズマーの楽曲をレパートリーに加えている。このように、日本においてクレズマーというのは、いわゆる“音楽ツウ”なら知っている、ジャズとフォークダンスをごちゃまぜにしたような、ゴキゲンでセンチメンタルなダンス・ミュージックで、加えて上記アーティストの音楽性にも通ずる根源的にパンクな性質を持っている。筆者もクレズマーの大ファンで、20年以上前からクレズマー音楽のCDやレコード、テープを手に入るものならばほとんど買い漁ってきていたりする。

さて、ロシア・レストランVolandは、クリスマスを祝う家族たち、恋人たちでいっぱい。観客は「さあ、いまから音楽を聴こう!」とまったく構えていない普通の“飲み屋”(Kneipe)の光景のなかに、クレズマー・バンド、ギンツブルク・デュナスティが登場!クラリネット、ギター、キーボード、ドラムスの編成。メンバーはほとんどがロシア系ドイツ人の家族のようである。メンバーも「さあ、これから最高の演奏をしてやるぞ!」的な気負いが全くない。演奏が始まっても、おしゃべりしたい観客は、ずっとおしゃべりしている。しかし、クレズマー音楽自体、結婚式のBGMなどとして継承されてきたことを考えると、それはそういうものなのだろう。あくまでも、人間が人間としてフツーに暮らしている背景に音楽がある。人間の集いの現場に根ざした音楽がそこにあるだけ。この音楽との距離感って、(僕個人は)日本ではあまり体験出来なかったなぁと感じる。

ギンツブルク・デュナスティの演奏はものすごく軽快でダンサブルで素晴らしい。クレズマー音楽にせよ、ケルト音楽にせよ、基本的には2ビートに依存しながら、その2ビートをフラッシュバックのように高速な走馬灯のように、瑠璃色に変色させるところが素晴らしい。タイトなドラムスが素晴らしい。クラリネットのアドリブも素晴らしい。演奏が進むにつれ、冒頭でおしゃべりしていた観客も示し合わせたかのようにコーラスを合わせ、終盤に向けライブはどんどん盛り上がっていく!なんなんだろう、こういう空間って?なんなんだろう、この共同性って?筆者、生まれて初めてのベルリン、クレズマー音楽の生ライブは、言葉どおり興奮の渦のなか終了した。

ロックにせよ、ジャズにせよ、ポピュラー音楽のルーツを辿っていくと、すべては黒人、ケルト、ユダヤの3民族の音楽から生まれている、と僕は考えていたりする。まあ、ありがちな系譜図なのかもしれないが。プレスリー、エリントン、ガーシュイン、ロバート・ジョンソンたちもその3民族の織りなす交差点に立って音楽を生み出してきたと思う。そして、その背景には、今日ロシア・レストランVolandで見たようなフツーの人々のフツーの生活があって初めて、彼らはその音楽を生み出せたのだと感じた。あたりまえのことなもかもしれないが、しみじみと感じた。

こういった空間・時間を、チャージ+ビール2本+体の芯から温まるロシア料理+チップ含めて、たった1,500円くらいの出費で体験できるからベルリンの文化環境は驚くべきものだ。



文:Masataka Koduka

◆Ginzburg Dynastieオフィシャルサイト