【ライブレポート】阿部真央<弾き語りらいぶ>、一切の装飾を許さないリアルなメッセージと揺るがぬ原点

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12月24日、赤坂BLITZにて<阿部真央 弾き語りらいぶ2012・冬~クリスマスだよ!来るでしょ?来るよね!?の巻~>東京公演が開催された。この<弾き語りらいぶ>は大阪と東京の2公演によるプレミアムなもの。会場にはトナカイやサンタ帽子姿のファンもそこかしこに見受けられ、聖夜ムードを一層盛り上げている。また開演前のステージ上にはメインの赤いエレアコ、ステージ・ドリンクの置かれたテーブルと譜面台、そしてマイク・スタンドがあるだけ。実にシンプルなセットがこのライブの主旨を伝えているようだ。

◆阿部真央画像

定刻の18:00、場内が暗転するとピアノの調べによるSE「きよしこの夜」が鳴り響く。沸き立つ歓声は凄まじいものだが、それを沈めたのは阿部真央が優しく奏でるB♭のコード・ストロークだった。オープニング・ナンバーは「貴方の恋人になりたいのです」。頭上から降り注ぐようなスポットライトは彼女の姿を浮かび上げ、丁寧に歌い奏でられる1音1音に客席が一斉に惹きつけられる。続けて演奏された「モンロー」はアッパーなポップ・チューンだ。音源ではエレクトロ色の強いこの曲も、ハネるようなコード・カッティングやエレアコのボディをパーカッシヴに叩きながらの演奏が楽曲をよりフィジカルでリズミカルなものにしていく。そのビートに合わせるようにフロアからはオイ!コールが巻き起こり、大コーラス大会となったAメロはまさに圧巻。いわゆる弾き語りという言葉から連想するものとは異なり、ステージとフロアの放射する強いエネルギーが赤坂BLITZを灼熱化させていくようだ。

「クリスマスイブという大事な日に、たくさん集まっていただいてありがとうございます! ちょっとチューニングしてもいいかな?……ひとりだと、こういうチューニングの時間も続いていくけど(笑)、最後までお付き合いください」というMCに、「いいよ!」「かわいい!」といった声援が飛んだ。こうした至近距離のやりとりに弾き語りならではの1対1の関係性が浮かび上がるようで、場内がとてもピースフルな雰囲気に包まれる。そして、「デッドライン」「じゃあ、何故」といったナンバーを挟み、次のコーナーではそのやりとりがより密度を増して濃いものとなった。この夜のためのスペシャルなクリスマス企画が用意されていたのだ。

入場時に配布された整理券には番号が記されていた。阿部真央が抽選ボックスから引き当てた番号を持つファンのリクエストに応えるという歌のプレゼント企画の発表に、客席からの悲鳴にも似た喚声が熱い。

「なにをリクエストしてもらえるかわからないから、アルバム収録曲やシングルのカップリングとか全曲練習したんですけど……結構、私にとっては過酷な企画なの(笑)」

ファンが固唾を飲んで抽選を見守るなか、まず最初に選ばれたのは926番の女性だった。「お名前は?」「どちらからいらっしゃったんですか?」「隣に居るのは彼氏ですか?」といったアットホームな会話が交わされた後、「いつの日も」がリクエストされる。時おり2人へ視線を注ぎながら歌う阿部真央の姿は温かく、恋人への強い愛を奏でるこの楽曲は、すべてのカップルにとって最高のプレゼントとなったことだろう。続いては、当選の喜びに感涙する女性のリクエストに応えて「ポーカーフェイス」を披露。姉妹で来場したという当選者のリクエストによる「走れ」はライブで久々のナンバーだっただけに、慌ててコード進行を確認するという微笑ましい一幕もあった。しかし、いざ演奏に入るとそのパワフルなギター・プレイと歌声は堂々として光り輝かしい。全3曲が演奏されたリクエスト・コーナーは、アンコールが沸き起こるほどの大盛況ぶりをみせた。

「決してギターだけが弾き語りじゃないということで、ピアノの弾き語りで何曲か歌わせていただこうと思います」というMCによって、ステージにキーボーディストの重実徹が招かれた。曲は1年以上ぶりの演奏になるという「Don't leave me」。ハンドマイクに持ち替えた阿部真央の全身で歌うシルエットが美しく浮かび上がり、伸びやかなファルセットは宙に舞うように滑らかなサウンドスケープを描く。さらに最新アルバム『戦いは終わらない』収録の「側にいて -piano ver.-」を披露。ピアノならではの柔らかなトーンに、表現力豊かなボーカルがしっかりと映し出されたこの2曲は、やはり繊細なものだった。

再びエレアコを手にした後半は、ライブ初となる「都合の良い女の唄」、2013年3月6日のリリースが発表されたニュー・シングル「最後の私」を演奏。本人曰く「新曲はバンド・バージョンではお聴かせできませんけど」という注釈があったものの、エレアコと歌のみによるサウンドは、一切の装飾を省くことが許される本質的な楽曲クオリティの高さを裏付けていたようだ。「大事な誰かを思う浮かべて聴いていただければ。ただ暗い歌だからね、気をつけて(笑)」という曲紹介にも大きく頷けるしっとりとしたラブバラードだった。本編最後はこれまたコアな「morning」。あまりの鬼気迫るパフォーマンスに静まりかえった会場には「手を繋いでよう」という切ないリフレインが鳴り響き、感動的なその幕を閉じた。

アンコールの「ロンリー」では、フロアとステージが渾然一体となった大合唱が再び巻き起こる。そしてこの日のラスト・ナンバーはライブの定番曲にして音源未発表曲の「母の唄」だった。会場に集まった1人1人を見つめながら歌うかのようなその歌声とギターの音色は、たとえ雑踏のなかでも決して埋もれることのない力強さに溢れていた。アンコール含め全14曲、約2時間弱のライヴはこれにて終了。しかし鳴り止まないアンコールに応えて、阿部真央はミニスカートのサンタ衣装というアッと驚く出で立ちでステージに再々登場。白い大きな袋に詰め込まれたキャンディらしきプレゼントをフロアへ投げ入れるという、うれしいサプライズでライブを締めくくった。

この日演奏されたナンバーは、本人曰く「今日はコアなファンの方々が来てくれるだろうということで、セットリストもコアというか、メジャー感のない暗い曲が中心」という、アーティスト:阿部真央の核の部分が垣間見られるものだった。また、ギターで弾き語るということは、ボーカルと同じテンションでギターに感情を向けるということ。ある時は歌で語り、ある時はギターで語ることによって届けられるリアルなメッセージと彼女の原点が、そこにはあったのだ。

取材・文:梶原靖夫

阿部真央<弾き語りらいぶ2012・冬~クリスマスだよ!来るでしょ?来るよね!?の巻~>
2012.12.24@赤坂BLITZ
1.貴方の恋人になりたいのです
2.モンロー
3.デッドライン
4.じゃあ、何故
5.いつの日も
6.ポーカーフェイス
7.走れ
8.Don't leave
9.側にいて
10.都合の良い女の唄
11.最後の私 (新曲)
12.morning
encore
en1.ロンリー
en2.母の唄

◆阿部真央オフィシャルサイト
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