音楽を愛する人たちへ、結束と冒険心によって生まれた“愛”に満ちたビッフィ・クライロ『オポジッツ』

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1月23日に発売を迎えたビッフィ・クライロのニュー・アルバム『オポジッツ』が実に強力だ。2011年の夏にはライヴCDとDVDをセットにした『レヴォリューションズ/ライヴ・アット・ウェンブリー』を発表している彼らだが、今作はオリジナル作品としては『パズル』(2007年)、『オンリー・レヴォリューションズ』(2009年)以来のものとなる。その前二作と同様にガース・リチャードソンとの共同プロデュースにより完成されたこの作品は、彼らにとってキャリア初のダブル・アルバムであり、全20曲もの真新しい楽曲群により成り立っている。しかもそれらのすべてが、僕なりの言い方をさせてもらうならば“単純にいい曲でありながら、どこかひねくれていて、他の誰にも似ていない”のだ。

◆ビッフィ・クライロ画像

今回は、このアルバムの完成に伴って行なわれた、メンバーのベン・ジョンストン(Dr、Vo)とのインタビューから発言を抜粋しながら、改めてこのバンドの魅力に迫ってみたい。まずは、どちらかといえば時代と逆行する発想と言えなくもない“2枚組アルバム”という作品形態と、それを完成させた今現在なりの達成感について語ってもらおう。

「確かに今みたいなご時世に2枚組のアルバムを出すっていうのは、挑戦的なことではあるよね。ちょっと怖いことでもある。でも、いわばこれは僕らなりの反抗ってことになるんじゃないかな。僕らの世代は、実際に店に足を運んでアルバムを買って、大事に抱えて家に帰って、じっくり聴きながらアートワークも一緒に楽しんで……そうやってアルバムをひとつの芸術作品として鑑賞することの楽しさをよく知っている。その意味において、ダブル・アルバムというのは最高の作品形態のひとつだと思うんだ。確かに業界的な流れとしてはアルバムよりもシングル・ヒットを重んじるほうに傾きがちなところもあるし、そうした流れに逆行するような行為ではあるかもしれない。でも、だからこそ、“こういう音楽の聴き方を楽しんでる連中もまだまだたくさんいるんだ!”ってことを証明してみせたいという気持ちがあった。今、世間でもてはやされてるのが“万人受けする音楽”だとしたら、僕らのは“音楽を愛する人たちのための音楽”だと思っている。だから、本当に音楽が好きだっていう人たちのために、僕らの側から“ちょっと古風な体裁だけども、新しい何か”を提供しようとしたという感じかな。結果的にはずいぶん時間もかかってしまったけど、長いツアーが終わった時点ではほぼネタ切れの状態にあったというのに、サイモン(・ニール/Vo、G)がまるで何かに取り憑かれたかのように新曲を量産してきてね。気付いてみれば45曲もの候補曲ができていたんだ。それを全部、まずは自分たちで録ってみて、そこから厳選された曲たちをアメリカでレコーディングした。いい曲だけでアルバムを構成したかったからね」

全20曲収録のダブル・アルバム。そんな事実だけで重苦しさを感じてしまう読者もいるのかもしれないが、この『オポジッツ』は、理屈っぽいコンセプトとは無縁の作品だし、いわゆる大作主義に則ったものでもない。2枚のディスクにはそれぞれ個別にタイトルが付けられ、ベンによれば『ザ・サンド・アット・ザ・コア・オブ・アワー・ボーンズ』には“これまで”が凝縮され、『ザ・ランド・アット・ジ・エンド・オブ・アワー・トーズ』には“これから”が詰まっているのだという。

「そのタイトルを考えたのはサイモンだよ。あいつはそういうのが得意なんだ(笑)。ただ、最初からそうやって分けようとしたわけじゃなくて、全曲を一通り録ってみたところで、内省的なテーマの曲もあれば、それとは真逆のものもあるなと気付かされたというのが真相でね。音楽スタイルとか作り方の違いでは決してない。むしろ全体的な雰囲気や歌詞の内容の違いだね。『ザ・サンド~』のほうでは今回のアルバムを作るまでの道程が題材になっているのに対して、『ザ・ランド~』にはもっと、ここから前に進もうとしているバンドの姿が反映されてる気がする。前者にはややネガティヴで回顧的なところがあるのに対して、後者にはもっと前向きな、これから何を成し遂げていこうかという展望、人生そのものへの希望が表れていると思うんだ」

自由自在の楽曲展開。不協和音スレスレのハーモニー。一筋縄ではいかないメロディに、ラヴソングのようでありながらそうとも言い切れない捻りの効いた歌詞。バグパイプや教会のオルガンを用いたり、スパニッシュの空気を演出したくてマリアッチの演奏家たちを迎えてみたり。とにかく型破りな彼らの音楽には必要以上の掟というものがない。アルバムの最後に収められた「ピクチャー・ア・ナイフ・ファイト」では、メンバー3人プラス2人で5台のドラム・キットを叩きながら、意気揚々とした空気を演出している。この楽曲について尋ねると、ベンは次のように語っていた。

「ドラムの音が全編にわたって鳴り響いてるだろ? まさにアルバムの幕切れに相応しい曲だと思う。しかもあの曲は“いろいろあったけど、これからも力を合わせて進んでいくぞ!”みたいな宣言にもなったんじゃないかな。つまり、このアルバムを通じて僕らが伝えたかったことが、理想的な形で表現できたように思うんだ。“一緒に前に進んでいこう”という気持ちを、闘いに臨むかのようなドラム・ビートの音色で表すことができたというか。あの曲を聴き終えたところで、できることならリスナーたちにも同じ気持ちを味わって欲しいところだね。一緒にひとつの旅を終えて、また次を楽しみに待とうという気分になってもらえれば嬉しい。なんかこう、意気揚々とした感覚を味わって欲しいな」

この楽曲の終盤では、「しっかり結束しなきゃいけない」という歌詞が繰り返されている。そして実際、スコットランドはグラスゴー近郊の小さな街でバンドが結成された1995年当時からの3人の結束は、今現在も少しも緩んでいない。ベンはバンド活動を“最高の仕事”だという。そして日本のファンに向けて、次のような言葉を投げかけてくれた。

「僕らはね、バンドとしての目標みたいなものを特に決めてないんだ。1日1日を大切にしていくだけ。レコードを出せるだけでも幸せだと思ってるからね。結成当初なんかは、一度だけでもいいからグラスゴーでライヴがやれたらいいのにと思ってた。それが実現して、レコード契約を獲得する夢も叶って……それからどんどん状況は良くなるばかり。そうして現在に至ってるんだ(笑)。それを考えると、こうして音楽で生活できていること自体が僕らには驚愕の事実でさ(笑)。ホント、世界最高の仕事に就けたと思っているんだ。だから、敢えて目標を挙げるとすれば、もっと世界のいろんな場所をツアーして、いろんな場所にビッフィ・クライロの愛を広めたい。もちろん日本についても同じことさ。これまでも日本を訪れるたび、熱心なファンからの声援に励まされてきたけど、彼らに対して僕らは謝らなきゃいけない気がするな。というのも、まだまだ彼らと一緒に日本で充分な時間を過ごせていないと思うからね。みんなの長年にわたる応援には心から感謝しているし、この新しいアルバムを気に入ってくれることを願っているよ。現時点で時期を明言できないのは申し訳ないんだけど、2013年にはかならず日本に行くつもりだし、日本をじっくりとツアーしてみたいというのは、僕らが常々思っていることなんだ。だからとにかく、かならず行く。それだけは約束しておくよ!」

ベンの言葉を信じながら、来日公演決定の報を待ちたいところである。そしてもちろん、その日までに『オポジッツ』に詰め込まれた楽曲たちを存分に堪能して欲しい。

取材/文:増田勇一
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