【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】第34回「PAUL SIMON その2 / Graceland ~'80年代のアナログ盤~」

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それではレコードを見てみましょう。

このシンプルなジャケットは、当時の僕にとっては珍しく感じたのを覚えています。そして真ん中にある少し不気味とも思える壁画のようなイラストも含めて印象的でした。

仕様はシングル・ジャケット。'70年代の半ば以降のレコードには、見開きタイプのダブル・ジャケットは少ないように思います。

ちなみに僕が手に入れたこのレコードはいわゆる「シュリンク付き」と言われるもので、出荷時のピタッとしたビニール包装が残っているもの。レコードを出し入れする部分だけ切ってあります。シュリンク付きは、ジャケットの紙が傷んでいないため喜ぶ人も多いようです。

裏ジャケットには、'80sファッションのPaul Simon(笑)。ここでもTシャツにジャケットのスタイル。彼はS&G時代からこのスタイルが大好きのようで、このスタイルでの写真がほとんどのような気がします。先日発売になったライブCD&DVDでもこのTシャツ&ジャケットスタイルでした。

また、裏ジャケットにはバーコード付いていますが、これもこの時代ならではのもの。もっと古い時代のレコードのオリジナル盤を探す際には、バーコードが付いていたらすぐ再発盤とわかるものですが、この時代になると、オリジナルに既にバーコードが付いています。

バーコードの下には「Also Available On Cassette and Compact Disc」とあります。そうです、この時代には既にCDもカセットテープもあったのです。レコードとカセットとCDとで同時にリリースされていたということですね。



レコードのインナースリーブには歌詞とクレジットが印刷されています。



レコード・レーベルを見てみましょう。盾のようなWarner Bros.のマークがゴージャスになっていて、このデザインにも時代が感じられます。レーベル自体は白地に透かしのような雰囲気でロゴマークがいくつか入ったデザインとなっています。このデザインは1986年頃からレコード時代が終わるまで使用された、ワーナーブラザーズの最後のレコード・レーベルです。デザインには特に魅力を感じませんが、そういう意味では深みのあるレーベルだなあと感じてしまいます。



では、肝心な音について触れていきましょう。

『Graceland』が発表されたのは80年代真っ只中の1986年。御多分に洩れず、'80sサウンド。
僕は、60年代~70年代前半の米英の音楽ばかり聴くようになってからというもの、'80年代のサウンドがどんどん苦手になってしまいました。派手で迫力や広がり重視、不自然な透明感に溢れた作り物のような音という印象で、全く魅力が無くなってしまったのです。

それどころか、そのサウンドだけでもう聴く気がそがれてしまい(もちろん流れているだけで不快という訳ではないのですが)、自ら進んで聴こうという気が起きなくなってしまったのです。

ところが、これまた刷り込みの影響なのか、この『Graceland』に関してはその苦手意識が及ばないから不思議です。
何となく、他の同年代の作品達とも音が違うような気もするのですが、それもやはり刷り込みの影響は計り知れないと思うところですので、ここでその比較について言及するのは避けたいと思います。

まあそんな訳で、『Graceland』に関しては'80sサウンドが気になることなく、音を楽しむことができるのですが、このオリジナル盤を聴いて、まずその音の迫力にはやはりぶったまげました。この時代には録音技術や電子機器の性能が('60~'70年代に比べて)かなり進んでいるので、やはり単純に「めちゃくちゃ音が良い」のです。今まで取り上げて来たような'60~'70年代とは別のベクトルでの「良さ」です。レンジも比べ物にならないほど広く、それでいてやはりアナログですから音の密度が高く、滑らかであたたかく、深みがある。

正直言って、これは凄いです。音楽的な好みもあって'70年代後半~'80年代の音楽は今となっては滅多に聴きませんが、なるほどこの時代のレコードにハマる人が多いのもうなずけるな、と思いました。

おそらく、これ以降になると今度は録音技術のデジタル化が進むと同時に、メディアもCDというデジタルのメディアになってしまうために、この「音の良さ」はまた失われていくのでしょう。そう考えると、あくまで一つの意味でですが、この時代のレコードが最も音が良い、と言えるのかもしれません。

'80年代のレコードには今まで見向きもしなかったので、今回の一件は本当に驚きました。
基本的には'60~'70年代の音楽が好きであることには違いありませんが、'80年代にも好きな作品はあります。こうなってくるとその辺りの作品のオリジナル盤も聴いてみたくなるわけで……。探すレコードがまた増えそうです。

オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。
2013年はもっと更新しますので、引き続きどうぞお願いします。


text by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)

◆連載『だからオリ盤が好き!』まとめページ
◆鈴木健太 Twitter(D.W.ニコルズ)

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「イイ曲しか作らない」をモットーに、きちんと届く歌を奏で様々な「愛」が溢れる名曲を日々作成中のD.W.ニコルズ。
2005年9月に、わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。
その後、鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、2007年3月より現在の4人編成に。
一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W. =だいすけわたなべが命名。(※C.W.ニコル氏公認)

◆D.W.ニコルズ オフィシャルサイト
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