【インタビュー】Crack6、PENICILLIN千聖がソロプロジェクトとしてリリースした問題作「Loveless」

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■シャウト的な起爆剤もいいんですが
■キレイなハーモニーもこのプロジェクトらしい

──「記憶の匣」は、「Loveless」とはまた違ったアプローチです。一聴するとシンプルに聞こえるんですけど、リズムは打ち込みだし、シンセのシーケンスフレーズ的な裏メロがずっと歌と並行して流れるエレクトロサウンドが特徴的で。

MSTR:これはCrack6を立ち上げた当初からやりたいと思っていたアイデア。完全に打ち込みメインで、わざとピコピコさせてるというかね。生バンドのアプローチではないですよね。Crack6だからできた曲だし、ハードなロックバンドスタイルのアプローチをするオレのイメージというか既成概念を破壊するスタイルで曲を構成してみたかった。ライヴでは全員が横並びでキーボードを弾いても面白くないですか?(笑)ただ、ピコピコし過ぎちゃってもバランスが悪いから、いい意味でギターの主張を加えてますね。結果、一層歌ものとして成立したというか。メロディを絶対的なものにアレンジできた。曲構成がシンプルで、足し算やかけ算でない引きの美学ですね。

──そのぶん、音のひとつひとつがクリアに聞こえます。

MSTR:ピアノのフレーズや音色は1980年代のクリアなピアノの音を目指したんで。とにかく突き抜けるようなくっきり感がほしかったんですよ。参考にした音がワム!とかホール&オーツですから(笑)。AORとかの80年代の音楽がすごく好きだったので。その辺の音楽に触れて育ってきたオレが、その音楽を今なりに咀嚼したら、こんな雰囲気になったという。

──ボーカルやシンセのハーモニーも豊かですね。

MSTR:ハーモニーはすごく好きですね。極端な話をすると、Crack6にオレ以外の歌が何人いてもいいと思っているくらいだから、アコースティックライヴのときは、コーラスをオリジナルバージョンより加えることもあるんですよ。クイーンやキッス、ヴァン・ヘイレンも実は、みんなコーラスがかっこいいでしょ。シャウト的な起爆剤もいいんですけど、キレイなハーモニーを出せるところが、このプロジェクトらしさでもあります。

──「桜花の花」は、ピアノとバンドサンド、そのふたつが描くポリリズムのアレンジに、狂気的なものが漂っているような。

MSTR:まさに狙い通り(笑)。TENZIXXが原曲を作っているんですが、最初はもっとエモとかスクリーモ寄りのノリだったんです。そこにピアノを混ぜたらどうだろうっていうアイデアをオレとSHIGE-ROCKSが話し合って。オレがポロって弾いてみたイントロのピアノフレーズに対して、SHIGE-ROCKSがアレンジを進めたという合作的な曲ですね。歌入ってからのピアノとのポリリズムはSHIGE-ROCKSの狂気の部分が出ちゃったのかもしれないですが(笑)。

──「桜花の空」ほか、「Loveless」や「記憶の匣」など、今回は鍵盤アレンジが際立っているように感じたのですが?

MSTR:PENICILLINが“no synthesizer”に近いときもあるので、Crack6はもっと鍵盤の刷り込みがあっていいかなと思っているんですよ。ギターの激しさをいい意味で中和させるエッセンスになるし。たとえば、ギターフレーズをキーボードに置き換えることによって、サウンドに広がりを持たせるとか、そういう実験も多いですね。

──なるほど。ピアノの旋律や歌詞など「桜花の空」には和テイストが漂ってますね。

MSTR:風の強い日に、夜桜の花びらが舞っている、というイメージがこの曲にはあったので、完全に和ですよね。“桜の樹の下には屍体が埋まっている”という冒頭で始まる昭和初期の短編小説(梶井基次郎『櫻の樹の下には』)があるじゃないですか。桜って一見キレイだけど、ネガティブな部分とポジティブな部分が重なっていて。そういう部分も含めて歌詞とサウンドのバランスをキレイに出すことができたかな。

──そういう歌詞には、これまでのCrack6とはまた違った側面を感じました。

MSTR:ストーリー性のある歌詞ですからね。ここまで具体的な戦争の悲劇をアプローチをするのは初めてで、新しい挑戦でしたね。今回の歌詞はアコースティックライヴのときにタンバリンで参加してくれる大久保英紀と一緒に作ったんです。この曲は英紀が主導権を取って制作したんですけど、ほかの3曲はオレが書いて、英紀から助言をもらうというカタチでした。

──今回、歌詞作りはスムーズでしたか?

MSTR:ふたつ悩んだところがありますね。さっき言ったように「Loveless」はサビを作ったときに歌詞も一緒に出てきたので、これはもう危ない恋愛の歌、悲恋の歌にしようという着地点が最初から見えていたし、「桜花の空」も桜が見えた時点でブレることなくできましたね。問題は「記憶の匣」と「Blade in the Soul」で。この2曲が似たような歌詞になっちゃいそうだったんです。

──結果、タイプの異なる2曲に仕上がってますが、まず「記憶の匣」のイメージは?

MSTR:人間は寝る前に、その日の出来事だったり、過去のことを急に思い出したりするじゃないですか。それは、脳が記憶の整理をしているらしいんです。「記憶の匣」は、自分の記憶を匣とすれば、その匣のなかにある記憶をただ見るのではなく、取り出して、未来へつなげていく考えを持ちたいよねっていう前向きな歌詞なんですよ。ツイッターとか本とかで、偉人の言葉とか格言を目にすることも多いけど、そういう言葉を知識として記憶するよりも、自分なりに消化して、自分の経験を基にした能動的なストーリーを未来へ描こうよっていう。

──もう一方の「Blade in the Soul」は?

MSTR:「記憶の筺」が仲間とか友達、恋人へ向けた曲だとしたら、「Blade in the Soul」は、仲間に対してだけじゃなく、これから生まれてくる子供たちへ向けているというか。この世の中は、いいことばかりじゃないし犯罪も戦争も絶えないけど、希望は持っていたいとか人間性を捨てるなよとか、次世代に向けて伝えたいメッセージをオレなりのアプローチで綴った曲ですね。フィジカルな強さよりメンタルな強さで戦えっていうか、「魂」の中に潜む己の「刃」を使って争いから人を守ろうっていう。

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