ワルシャワ~デビッド・ボウイ、マーシャ・クレラと『さびしんぼう』

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2月20日〜21日にかけて初めてポーランド、ワルシャワに滞在した。ワルシャワと言えば、(古くからの?)ロック・ファンなら1977年デビッド・ボウイのアルバム『ロウ』を真っ先に思い出す人も多いのではないだろうか?ドイツ・ベルリンに在住した時代にボウイの曲で、ブライアン・イーノとの共作。初めてこの曲を聴いたとき僕は、ものすごく重々しい灰色の空と、そのなかをふわりふわりと天上へと上昇していく、軽やかな微かな光のカケラを想像した。寂しいが力強い曲だ。

◆マーシャ・クレラ画像

人生初のワルシャワ駅につくと街全体を包む大雪。油断していたらすぐに路上で転倒しかねないほどの、ベルリンや東京に降る雪の10倍のボリュームがありそうな雪。その雪に、共産圏であったころ東ヨーロッパ最大の繁華街と呼ばれたらしいワルシャワの高層ビルのネオンサインが反射していてとても美しい。ボウイの「ワルシャワ」は本当に、ワルシャワの雪景色の重々しさと美しさにマッチすると思った。

2月20日は午後8時から、ライブハウスKlub Powiększenieにて演奏するため、会場へ急ぐ。雪が積もる目抜き通りではクレズマーバンドがクレズマーを演奏している。2013年のヨーロッパツアーをドイツ、オーストリア、ハンガリーと続行してきたマーシャ・クレラ・バンドの演奏は非常にこなれてパワーアップしてきていて、その場のフィーリングをとても大切にしたサウンドの煌めきが絶妙。「あなたと一緒になれる歌を書きたいけれど、I love you 以外の歌詞が出てこない」と歌う珠玉のような切ないラブ・ソング「Fishing Buddies」(2012年発表『Analogies』収録)に象徴されるように、マーシャの白い雪に溶けていくような儚げでどことなく寂しい美しい声と彼女の音楽は、ポーランドの雪景色の白さと、どことなく漂う寂しさにとてもマッチしていた。

次の日、マーシャのライブ会場に居合わせた男性に、ワルシャワのレコード店の情報を聴いたので、ワルシャワのバンドのCDとレコードを収集する。秀逸な女性ケルティック・バンドを彷彿とさせるHEY、ポーランドの知的なオルタナ・バンドMyslovitz、キュートな実力派女性シンガーANIA、パンキッシュなRepublika、ブルース・エクスプロージョンやキャプテン・ビーフハートの如く壊れ気味の現代ブルースを演奏するMaciek Malenczuk、ベテラン・ファンキー・ロッカーNiemanなどなど。ポーランドのロック音楽については今、猛烈に勉強中な状態なので、今後徐々に紹介していきたい。ただひとつ確実に言えることは、ポーランドのロックもベルリンのロックと同様、非常にミュージシャンの演奏のレベルが高く、1960年代末からずっと、僕らにはあまり知られていない興味深い歴史と実験と試行錯誤を経た非常に素晴らしい音楽だ。

ショパン記念館に行く。ポーランドはショパンの生まれた国だ。突然「別れの曲」として有名なピアノ練習曲作品10第3番ホ長調が不意に記念館のなかで流れる。富田靖子主演、1985年公開の大林宣彦監督作品『さびしんぼう』を思い出す。広島・尾道を舞台に描かれた初恋物語。「好きになれ、思いっきり好きになれ。そのひとのよろこびも、悲しみもみんなひっくるめて、好きになれ」という主人公の父(演:小林稔侍)の感動的なセリフ。筆者は2012年日本を離れ海外生活を選んだのであるが、日本に置き忘れてきた寂しさが、突如ポーランド・ワルシャワの街で生々しくリアルに蘇って心に刺さるような深い感動を覚えた。日本を離れる瞬間やその前後では気づけなかったほどに。ショパンの「別れの曲」は、白い雪に覆われたワルシャワのショパン記念館で、寂しく流れ続けていた。

ワルシャワに滞在した僕の頭のなかを駆け巡ったデビッド・ボウイ、マーシャ・クレラと『さびしんぼう』。音楽は、時空を超えて、自分の身体とすべての体験に染み付いて離れない業のようだと思った。

文:Masataka Koduka

◆Masha Qrellaオフィシャルサイト
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