「燃えないと輝くことはできない」~ケヴィン・エアーズが残したもの

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既に各種音楽ニュースで報道されていることではあるが、2013年2月18日、ケヴィン・エアーズ(Kevin Ayers)が死去した。枕元には「燃えないと輝くことはできない」というメモが残されていたという。彼が在籍した英国カンタベリー・ロック、知的で柔軟性に富んだプログレッシヴ・ロックを象徴するバンド、ソフト・マシーンは、ピンク・フロイドなど英国プログレッシヴ・ロックからニューウェイヴ音楽、日本でも小山田圭吾などのミュージシャンに多大な影響を与えた。一言で彼を語るとするならば、僕は彼は所謂、“アンダーグランドロック”を象徴する人物であったと思う。

だってケヴィンは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに在籍したジョン・ケイルとニコ、ロキシー・ミュージックから離れてソロ活動を展開し始めたばかりのブライアン・イーノ、ソフト・マシーンの同僚ロバート・ワイアット、ケヴィンのバンドのメンバーであったマイク・オールドフィールドなどの突出した個性を一堂に集めることのできるカリスマだったのだから。1974年に発表したライブ・アルバム『悪魔の申し子達(Jun 1. 1974)』は1960~1970年代、ロックが一番面白かった時代の燃えるような輝きを見事に記録しているドキュメント。ケヴィンの音楽はいつも、肩肘張らない、気軽な感じで輝いている。

そのケヴィンの輝きは、初めて来日ライブを行った1988年東京九段会館でも健在であった。東京下北沢にアンダーグラウンド・ロックバー「ストーリーズ」があり、店内にはケヴィンのアルバム『Rainbow Takeaway』の美しい裏ジャケットを模した虹が描かれている。落合マスター自身がケヴィンの猛烈なファンであるためケヴィン・エアーズのファンが集い、九段会館でのケヴィンのステージは、今もなお語り草になっていて美味しいお酒が飲める。ストーリーズのターンテーブルでは頻繁に、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ルー・リード、イギー・ポップ、ケヴィン・エアーズ、ソフト・マシーンなどなどロックが根源的に内包している輝きを僕らに再確認させてくれるレコードが回っている。そして、最新アルバムを最近リリースしたデヴィッド・ボウイの『ロウ』でのブライアン・イーノとの共作曲「ワルシャワ」やルー・リードの『ベルリン』が店内に大音量で流れると、東京の下北沢のロックバーの壁に穴が開いて、その穴からドイツ・ベルリンに通じているエアポケットがあるかのような錯覚を僕はいつも感じた。実際、ベルリンにデヴィッド・ボウイとルー・リードとイギー・ポップはベルリンに暮らしていたことがあるらしいし。スティーブン・キングが「ショーシャンクの空に」で描いた脱出口みたいなエアポケット。

ベルリン。3月1日(金)、ベルリン郊外のポツダムにてマーシャ・クレラのコンサートが行われた。東ベルリンで1990年代半ばに音楽活動を開始したマーシャ・クレラはとても鋭い耳を持ったアーティストで、筆者がケヴィン・エアーズのファースト・アルバム『おもちゃの喜び(Joy of a Toy)』をプレゼントした際、「ロバート・ワイアットがドラムを叩いている」と一発でロバート・ワイアットのドラムの音色と彼特有のタイム感を聴きわけた。そんな耳を持った女性にかつて出会ったことがなく、僕は心底驚いた。マーシャは彼女のファースト・アルバムでロバート・ワイアットに捧げる曲を書いており、またブライアン・フェリーの「ドント・ストップ・ザ・ダンス」の素晴らしいカバーも発表しており、ポツダムのコンサートもこの曲が1回目のアンコールのラストを飾っていた。

東京、ベルリンをつなぐ仮想文化圏があると仮定したならば、その文化圏はヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ソフト・マシーン、デヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージックが描く“アンダーグラウンドロック”の四角形で囲まれており、原稿に登場したすべての人物がその磁場に存在しているような妄想に僕はとらわれる。そして、その磁場の中心にはケヴィン・エアーズが肩肘はらず、どこまでもお気軽な感じで笑って歌っている気がする。

そんな天国でバナナを食べてるケヴィンの姿しか想像できないけれど、ケヴィンのご冥福をお祈りします。

文&写真:Masataka Koduka

◆マーシャ・クレラ・オフィシャルサイト
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