【インタビュー】フランク・ターナー、「決してシンデレラ・ストーリーではなかった」

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トップ10シングルが1枚もないのに、ウェンブリー・アリーナ(1万2,000人収容)を満杯にし、エミリー・サンデーと共にロンドン・オリンピック開会式のパフォーマーに抜擢されたフランク・ターナー。いまのUKミュージック・シーンにおいて特異な存在の彼は、そのバックグラウンドもユニークだ。

◆フランク・ターナー画像

大手デパートメント・チェーンの会長を祖父に持ち、名門イートン校でウィリアム皇子と一緒に学び、英国でトップ5に入る大学へ進学する中、パンク・バンドを結成。10年に渡り地道な音楽活動を続け、着実にファン層を広げてきた彼は2012年、ウェンブリー・アリーナとオリンピックという大舞台に立つまでになった。そしてリリースされた5枚目のソロ・アルバム『Tape Deck Heart』でいよいよメジャー・ブレイク。決してシンデレラ・ストーリーではなかったといういままでの道のり、新作について語ってもらった。

――日本の取材は初めてということで、まずはバックグラウンドから教えてください。ティーンエイジャーのときに音楽をプレイし始めたんだと思いますが…。

フランク・ターナー:その前からだね。11歳くらいでギターを弾き始めた。バンド結成したわけじゃないけど、学校のショウでプレイしたり、家で友達とワイワイやってた。バンドを結成したのは16のときだ。

――当時、どんな音楽やバンドが好きだのでしょう?

フランク:初めて好きになったバンドはアイアン・メイデンだったよ。

――パンク・バンドじゃなかったんですか?

フランク:違う(笑)。ヘヴィ・メタルが好きだった。いまでも、そうだけど。それからニルヴァーナなんかが好きになって…。そうだな、ニルヴァーナに1番影響受けたかな。ニルヴァーナはパンク・バンドだ。少なくとも僕にとってはね。で、ジョー・ストラマーがヒーローだった。あのころ、学校も学校にいる連中もあんまり好きじゃなくて、彼らも僕のこと好きじゃなかったけど(笑)。ジョー・ストラマーも僕と同じように気取った学校へ通ってたって知って、“ワオ、でも彼はいいじゃないか。こういうの切り抜けて、クールになったんだ”って思ったよ。心の拠りどころになってた。

――有名大学に進み、いろんな選択があったと思いますが、なぜミュージシャンという最もリスクが高い道を選んだのでしょう?

フランク:そうだね(笑)。両親はハッピーじゃなかったよ(笑)。僕の一家は弁護士とか医者が多くて、こんな仕事選ぶ人いなかった。だから長い間、両親は僕のやっていることを認めなかった。今は違うけどね。母親はウェンブリーのコンサートに来てくれて、ステージでハーモニカ吹いたんだよ。突然、観客席から呼び出したんだ。僕にとって音楽をプレイすること以上にハッピーになれるものはなかった。音楽は僕の情熱だ。ミュージシャンになるって宣言したとき、誰も信じなかったけどね(笑)。今の姿、見てみろよって感じだ(笑)。

――2012年春にウェンブリー・アリーナで公演を開きました。トップ10シングルがあったわけでもないのにソールド・アウト。これって、あまり類のないことだと思いますが。

フランク:そうだね、僕のキャリアは普通じゃないね。バンドのバイオグラフィを見てると、カムデンかなんかのボロアパートに住んでたのが、突然ブレイクして…なんてのが多い。でも、僕の場合は急激に変わったわけじゃなく、一歩一歩進んできたって感じだ。いまはラジオでかかるようになったし、オリンピックでのパフォーマンスがあったりしてうまく行ってるけど、突然そうなったわけじゃない。

――シンデレラ・ストーリーではない?

フランク:そう、シンデレラじゃない。そんな華やかなものじゃないよ。時間がかかったし大変なことだった。ようやくここまで来たって感じだ。今週、5枚目のアルバムが出たんだけど、1960年代ならともかく今の時代、5枚目にして上向きなんてバンドやアーティストはあんまりいない。これっていいよ。長いキャリアが築けるってことだと思っている。いま、ちょっとクレイジーな状況だけど、僕はこれに対処できる。若いとき1stアルバムでいきなりブレイクした友人を知ってるけど、あれは大変そうだった。

――ウェンブリー公演の数ヶ月後、オリンピック開会式でプレイしました。どういう経緯で声がかかったんでしょう?

フランク:あれはクレイジーだった。すべてがシュールだったよ。いまでも現実のこととは思えない。(開会式を監督した)ダニー・ボイルに会うよう、電話があったんだ。ダニー・ボイルがオリンピックやってるのは知ってたけど、そのミーティングだとは言われなかった。なんだろうって思いながら出かけて行ったんだ。そしたら、(ボイルから)大ファンだって言われて、演出のスケッチ画見せられて歌ってみないかって言われたんだよ。“すぐに返事しなくていいからね、考えておいて”って言われたんだけど、その場で“やります”って答えたよ(笑)。ほんとにヘンな感じだった。僕らはビッグなショウのほんの一部に関わっただけだけどね。

――曲を選んだのは、あなたですか?

フランク:ダニーだよ。何をプレイしてもいいよって言われたんだけど、この3曲が1番かなって提案されたんだ。で、考えてみたんだけど、彼はきっとものすごく長いこと考えてこれを選んだに違いない、それならそれが1番なんだろうって思ったんだ。

――いま振り返ってみると、成功する足がかりとなるような出来事はありましたか?

フランク:なにかひとつ大きなきっかけがあったってわけじゃない。小さなことの積み重ねだったと思う。ウェンブリーはその集大成だった。

――あなたの歌詞はリアルでありながら詩的だと高く評価されています。その歌詞がどうやって誕生するのか教えてください。

フランク:説明するのは難しいんだけど、いつも、いろんなことを書き留めている。歌詞のアイディアはいつも考えてて、ノートに書き込んだものを入れ替えたり、組み立てたりしている。自伝を書いてて、それを参考にすることもあるし、僕のヒーローのひとり、カウンティング・クロウズのアダム・デュリッツにインスパイアされることもある。最近ではザ・ナショナルだね。いま1番気に入ってるバンドだ。それにブルース・スプリングスティーンからもいっぱい影響を受けている。

――新作『Tape Deck Heart』を作る際、最大のインスピレーションとなったものは?

フランク:前作の『England Keeps My Bones』のテーマは死や英国についてだった。大きなテーマで、個人的なものではなかった。同じことはやりたくなかったし、売れ始めると個人的なことは歌わなくなったり、あれは言っちゃいけないとか考えるようになる人が多い。僕はそういうの嫌だったんだ。ソウルがなくなってしまうから。その反対、つまり個人的なものを作りたかった。だから、このアルバム聴くと、落ち着かない気分になることもあるんだ。アルバムを作り始めるときいつも明確なビジョンがあるわけじゃなく、テーマは後付けなんだけど、今回はそうだな、傷心について歌いたかった。僕の人生で起きた出来事をもとに。

――レコーディングはLAでしたんですよね? 天気も良くて女の子も可愛いから傷心と反対の世界だったのでは?

フランク:そうだね(笑)。でも、ずっとスタジオにこもってたから、太陽もカリフォルニア・ガールズもあんまり目にしてない(笑)。実を言うと、LAでレコーディングするのは心配だったんだ。LAでレコーディングしてアメリカっぽいサウンドになるのが嫌だった。Parking lotとかTrash canとか英国では使わない言葉、使い出しちゃったりするバンドがいるよね(笑)?そんな風になりたくない。でも、プロデューサーのリッチ・コスティと一緒にやりたかったから、LAに行ったんだ。

――そのコスティとの作業はどうでしたか?

フランク:彼みたいなレベルのプロデューサーと一緒にやるのは初めてだったから、すごく楽しみだった。それにレコーディングに30日間もかけるなんてこれまでになかったから。リッチはいいテイクを録ろうっていうだけじゃなく、ソウルを取り込もうとするんだ。だから何度も何度もやり直しさせることがある。たいていは5回くらいやって、いいもの選ぶんだけど、ある曲では42回もやらされて、“殺してやる~”って思ったよ(笑)。でも、出来上がったものを聴いたとき彼は正しかったって思った。

――1stシングル「Recovery」について教えてください。

フランク:自伝を書いてるんだけど…、この曲はある意味、楽しい曲だよ。誰かを失って、そこから回復しようとしている。傷心がテーマのアルバムだけど、これはポジティヴなヴァイヴを持っている。アルバムを代表する曲だと思う。

――不況のいま、夢を追い続けるのはなかなか難しいかと思います。

フランク:そうだね、いまは若い子達にとってはタフな時代だと思う。ミュージシャンになりたいっていうのであれば…、そうだな、いまならインターネットとギターがあればいろんなことが出来ると思うんだ。みんな、ネットのネガティブな部分ばかり取り上げるけど、いいこともいっぱいある。例えば僕が若かったとき、誰かに薦められたレコードを見つけるのに何ヶ月もかかったけど、いまならYouTubeで5秒だ。それに、日本はわからないけど、UKだったらレコードは売れなくてもライブ・シーンは盛んだ。なんでもいいから、なにか1つ始めて欲しい。

フランク・ターナーの新作『Tape Deck Heart』は今週UKチャートの2位に初登場。5枚目のアルバムにして初のトップ10入りを果たした。


Ako Suzuki, London
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