【ライブレポート】Masayoshi Fujita、Cuusheたちflauレーベルのアーティストが描く春の風景

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「Flauがリリースしたレコードの音楽性はアコースティック・フォークからドリーム・ポップ、打楽器による実験音楽までと、非常に多彩だ。折衷的ではあるが、“桜の花”のようなサウンドを、ここまでしっかり表現した作品群は未だかつてない」

◆flauレーベル・アーティスト画像

“最新の音楽とそれを取り巻くライフスタイル”に焦点を当てたニューヨーク発の音楽雑誌として知られるフェーダー・マガジン(The FADER)は日本のインディペンデント・レーベル、flauをこのように評価している。同時にフェーダー・マガジンは2013年最も注目すべき新進レーベル(the NEW SOUNDS OF BEST LABELS for 2013)のひとつとしてflauレーベルをピックアップしている。

2013年4月24日(水)、ベルリン、Rigaer通りのイベント・スポット、Antje Öklesundにて、flauに集うアーティストのライブが行われた。flauの主宰者でありアーティストでもあるausは今年3月からヨーロッパツアーを実施しており、その総括となるイベントであった。彼のほか、Masayoshi Fujita、Cuushe、Christoph Berg、The Mistysらflauとゆかりのあるアーティストたちが出演した。

▲Cuushe
京都出身の女性アーティスト、Cuusheのステージから幕開け。稀有な才能に恵まれたCuuscheはギターを弾きながら、ささやくようなヴォイスを効果的に使って、繊細で美しいエレクトロニカ・ポップを演奏する。前述のようにフェーダー・マガジンはflauレーベルの音楽を“桜の花”に形容していたが、ささやくような彼女の個性的なヴォイスには、春の薄紫の宵の空に浮かぶ、夜桜の花びらだけが持っている透明感、儚げな美しさがある。彼女の可愛らしさに観客は酔った。

▲aus
Yasuhiko Fukuzonoのソロ・プロジェクト、aus。この日はヴァイオリン奏者Christoph Bergとの共演ステージ。先日レポートしたとおり(参照:https://www.barks.jp/news/?id=1000088661)、ausのサウンド・コラージュは、豊富な色彩感、緩急のメリハリ、“侘び寂び”に溢れたものであり、決して観客を退屈させない。約2ヶ月におよぶ彼のツアーに対する、ヨーロッパの各種メディアの高い評価を見ても、これは客観性の高い評価と言えるだろう。

彼の魅力は、彼の“細やかな違いを聴き分ける聴覚”から、多分来ていると思う。例えばこの日のステージでは、このツアー中、一貫した音素材として使っている6機のFMラジオから流れるノイズと、ターンテーブル上でレコード針が擦れるノイズを効果的な音素材として使っていた。また、会場備え付けのオルガンの、半ば壊れているかのような音色がいい効果を出していた。ライブの後半では、ausとChristophのそれぞれが提供し合ったという旋律が、ヴァイオリンとオルガンで奏でられながら、最終的にFMラジオとレコード針のノイズと溶け合って収束していく。彼のステージは、あたかも一つのドラマを見ているかのような気分になるのである。

▲Masayoshi Fujit
さて、本日のイベントで、“お目当て”とした観客が最も多かったであろう、個性的な打楽器奏者、Masayoshi Fujitaが登場。Masayoshi Fujitaはベルリンに在住する日本人アーティストで、2012年の秋から2013年の年頭にかけては日本でのツアーも実施した。もともと彼は、主にジャズとエレクトロニックに影響を受けたドラム奏者であったが、ヴィブラフォンの魅力に惹かれるようになる。

ヴィブラフォンの基礎的なトレーニングやレッスンも受けたという。そのなかで、その楽器が持つ多様な可能性を引き出そうとしたのか、彼の描きたい音楽風景を描くために必須であったのかは不明であるが、“プリペアド・ピアノ”としてジョン・ケージがかつてピアノに仕掛けたのと同じような、“プリペアド・ヴィブラフォン”という実験的な表現手法にたどり着く。鉄琴の上に金属/チェーンなどを配置して演奏したり、鉄琴をチェロの弓で擦る、といった演奏手法であり、これらは彼のトレードマークにもなった。

とくに2012年発表されたアルバム『Stories』にも収録されている楽曲「river」の演奏が素晴らしい。この楽曲において彼はヴィブラフォンの上にアルミホイルを配置して演奏を行うのであるが、「どこの国でもない、おとぎ話に出てくるような、高い山のなかを流れる小川をイメージした」というこの曲のイメージを見事に表現することに成功している。確かに実験的な手法が採られているのではあるが、彼の実験的な姿勢は「実験のための実験」や「自己目的化した実験」で終わっていない点が特筆に値する。あくまでも、彼が描きたい音楽風景の一音要素として、弓による擦盤音や、アルミホイルの残響音が効果的な音要素であるから、その音はその音楽のなかに存在しているのである。

加えて、彼の音楽の魅力は、確かな基礎訓練と、謙虚で探求熱心な姿勢から裏打ちされているものであるからこそ、素晴らしい音楽になっている。これらの背景から、ベルリンにせよ、日本にせよ、ウワベの特異性は目立つが、音楽的/芸術的なフトコロはあまり深くない“実験的”アーティストはゴマンといるのだろうが、それらとは確実にMasayoshi Fujitaの音楽は一線を画している。そして、背景の努力を悟らせないような、肩の力が抜けたのびのびとした演奏が、彼の『Stories』を色彩豊かに描いていた。

1980年代末、DUBという手法で日本のみならず世界のポップ音楽シーンに多大な影響を与えることとなった日本のバンド、ミュートビートは、アメリカの音楽雑誌Beatのベスト・アルバムに選出されるなど、ある意味で、日本での評価よりも海外での評価が先行していた。flauのアーティストたちについても、今、同じことが起きているのかもしれない。海外で先行評価されているflauレーベルのアーティストたちに注目しよう!

写真:Nozomi Matsumoto, Berlin
文:Masataka Koduka, Berlin

◆Masayoshi Fujita オフィシャルサイト
◆Cuushe オフィシャルサイト
◆aus オフィシャルサイト
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