【インタビュー】Ultimate Ears「我々はオーディオ業界の会社ではありません。音楽業界の会社なのです」

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Ultimate Ears(アルティメット・イヤーズ 以下UE)といえば、長年にわたってハイエンド・イヤホン市場を牽引してきたTripleFi 10(トリプルファイ・テン)の存在がある。早期より3つものドライバーを搭載した代表的な高級イヤホンとして登場し、多くのUEファンを誕生させることとなった歴史に名を残すモデルだが、そんなTripleFi 10の誕生の背景には、UEの独壇場であるカスタムIEM(Custom In Ear Monitor、イヤモニ/イヤーモニター、インモニ/インイヤーモニター)で培われたノウハウと実績があった。

◆Ultimate Ears画像

プロフェッショナル・ミュージシャンやエンジニアに対し、高いサウンドクオリティを保ちながら、過酷な現場での酷使に耐える堅牢性を持ち合わせたカスタムIEMを提供する一方で、コンシューマに向けては、2013年春ついにTripleFi 10を上回る品質を掲げUE900という素晴らしい新製品を打ち出してきた。

モニタリングを目的に開発されたカスタムIEMであり、そこから脈々と流れいずるノウハウと技術力がUEの源流なのだが、UEのイヤホン/ヘッドホンには、音楽をモニタリングすることを飛び超え、純粋に音楽そのものを楽しませてくれるノリの良さと心地好さがある。これまでのレビュー記事でも、UEのサウンドには音楽そのものを訴求する力があると、逐一お伝えしてきた通りだ。

モニタリングは音楽そのものを正確に伝えることを是とする設計思想だが、それが実現されると、音楽そのものの伝達力がマキシマイズされるわけで、結果音楽そのものの魅力を際立たせることに直結する。「UEのサウンドはエンターテイメントである」というのが私の持論だが、先日、UEのジェネラルマネージャーRory Dooley(ローリー・ドゥーリー)に話を聞く機会が得られたことで、今でも第一線を走るUEの真の魅力を確認することができた。

彼が口にしたのは、こんなセリフだった。「我々はオーディオ業界の会社ではありません。音楽業界の会社なのです」。

「BARKSは音楽サイトとして、オーディオファンではなく音楽ファンに素晴らしいサウンドの魅力を伝えたい」と伝えると、UEも全く同じであると明言しての発言だった。彼らはオーディオメーカーではなく楽器メーカーであるという。至極納得である。

──世界中でカスタムIEMブランドが続々と誕生していますが、今もなお市場は7割をUEが牽引しています。その一番の要因は何でしょうか。他のブランドと比べ何が優れているのでしょうか。

ローリー・ドゥーリー:BARKSと同様、UEもオーディオファンではなく音楽ファンのために製品を作っているからです。つまり、ミュージシャンのニーズを理解するのが非常に重要になります。もちろん、高品質な製品というだけではなく、素晴らしいサービスを提供するというのも重要ですね。カスタムIEMは毎日ツアーで使ってもらうものになりますから。そのあたりがトップでいられる理由ではないかと思っています。

──一方で、カスタムIEMは一般リスナーにも訴求されています。ただ、試聴もなかなかできないため、どのモデルを購入すればいいか判断・決断が難しいものです。購入したい人のためにアドバイスをいただけますか?

ローリー・ドゥーリー:そうですね…プロフェッショナルの方でしたら、一緒にツアーをしているサウンド・エンジニアがいますし、その人たちが要件や必要なものが分かっているので、そういった人たちと話ができます。が、コンシューマに関しては、残念ながら実際に対面で話をしながらモデル選択を進めるような販売形態が確立されていません。今後、対応していきたいと思っています。いろんなカスタムがありますから、コンシューマーの人たちに「こういったものです」と見せて使ってみてもらうとか、デモストレーションをするとか、何らかのアプローチが必要と思っています。

──日本でもカスタムIEM人気は急速に広がっていますが、ドライバーの数が多いものに人気が集まる傾向にあります。ドライバーの数とサウンドに関して、UEはどのようなポリシーを持っていますか?

▲左からUE 18 Pro、UE 5 Pro、そしてRoothによるUE TF10のリモールド。UE 18 Proはまったりとした濃厚で重厚なサウンド、UE 5 Proははつらつとしたソリッドなサウンドだ。リモールドしたTF10も非常にバランスの良いサウンドだが、UE 5 Proの方が明らかに明瞭ではっきりくっきりとした抜けの良さがあり、サウンド・クオリティという意味ではUE 5 Proには及ばない。いずれも好みの問題で使い分けられるものだが、スパゲティーで言えば、さしずめUE 18 Proが「カルボナーラ」、UE 5 Proが素材命の「ペペロンチーノ」、リモールドされたUE TF10は「ナポリタン」という感じであろうか。
▲左がUE 18 Pro、右がUE 5 Pro。18 Proは6ドライバーを搭載するため、シェルの厚さ(高さ)が5 Proよりも大きく作られていることが分かる。5 Proはドライバーは2つなのでコンパクトに作られている。とはいえ、5 Proの低域用ドライバーは小型ドライバーの数倍はあろうかという非常に大きなサイズだ。
ローリー・ドゥーリー:まずドライバーの数ですが、ドライバーの役割は音を届けることで、耳が聴きたいとしている価値を生み出すものですから、数が多いほどいろんな帯域に対応できるので多ければいい。…ですが、一方で耳に入っていきやすい、心地よく聴きやすいということが非常に重要になりますから、そのあたりはこれからも常に改善していかなければいけないところです。BA(バランスド・アーマチュア・ドライバー)の数が3なのか4なのか、5なのか6なのか、何が正しいのかということもこれから研究を続けていきたいと思っています。何よりもカスタムIEMの場合、一番大切なのは装着感です。24時間つけていても負荷にならないような装着感が何よりも大切になりますから、そのあたりはまだ改善の余地があるかと思っています。今の時点で一番いい方法は、LAのUEにアポを取っていただいて、そこで一緒に作っていただくのが一番いいやり方です。日本からは遠くなってしまいますが…。

──最近は、ダイナミックドライバーのカスタムIEMやハイブリッド(ダイナミック+バランスド・アーマチュア)も多く登場してきています。Super.fi 5 EBのリイシューやハイブリッドのカスタムIEMを開発する予定はありますか?

ローリー・ドゥーリー:常に新しいものを作っていきたいと思いますが…、将来の予定はきちんとした発表ができるまで差し控えさせてください。

──プロ・ユースではなく一般オーディオファンに向けたカスタムIEMの設計・開発はありますか?

ローリー・ドゥーリー:コンシューマーに対してもウェブからカスタムIEMを発注できるようになっていますが、その際には正しい理解をしていただかなければなりませんし、カスタムを買う際にはどういった知識を持っていなければいけないかをきちんと説明し、正しいアドバイスをしなければいけません。コンシューマー向けのカスタムはやらないというのではなくて、その部分をきちんと説明したうえで、これからもやっていきたいと思っています。

▲発表会時に展示されていた、イヤホンの最新モデルUE900。
▲同時に発表となったBluetoothスピーカー。取っ手のついた大型モデルWS800。市場価格24,800円前後。
▲こちらはカラフルな手のひらサイズ、WS500。市場価格9,800円前後。ブルー、ブラック、レッド、イエロー、ホワイトの5色が用意されている。
──一方で、素晴らしいサウンドのUE900が誕生しましたが、その開発には、名機TF10を超える大変さがあったことと思います。どのような壁や困難さがありましたか?

ローリー・ドゥーリー:TF10の発売からUE900が登場するまでの間に、市場もかなり変わってきました。特にモバイルのデバイスが発達したものですから、音楽を聴くにしても、外で聴く機会が増えました。電車だったり飛行機だったり、外を歩く時もそうですね。ですから、デザイン性も非常に重要になると考えましたので、そこがTF10との大きな違いです。

──具体的にはどういうことですか?

ローリー・ドゥーリー:スリムであること、コンパクトであることですね。そのためにコネクタのシステムを小型化しました。もちろん着脱式です。音も忠実に音源を再現するような方法です。そのためには音源に忠実に、周波数の反応を正しく返さなければいけません。それにコネクタの部分をうまく収めるなければいけません。一貫性を持って品質が担保される形で製造されていかなければいけませんから、それらが完成するまでに非常に時間がかかったのです、開発にはおおよそ2年かかりました。

──なるほど。

ローリー・ドゥーリー:デザインに関することで言えば、箱を開けた時の高揚感も重要ですよね。本体の品質は、カスタムモニタを使っているプロミュージシャンでも、いざとなればUE900があるから大丈夫と思えるような、カスタムIEMの代わりに使える品質を求めました。

──初のヘッドホンシリーズUE 9000、UE 6000、UE 4000も素晴らしいサウンドでしたが、初のヘッドホンをリリースするうえで、最も注力したのはどういうポイントでしたか?オーディオは数字ではなくセンスであると言いますが、UEは開発においてどんなディスカッションがあるのでしょうか。

ローリー・ドゥーリー:音楽というのは測定できるものだけではなくて、測定できないものもありますよね。周波数の反応カーブやサウンドレベルや歪み特性などは数値で測れます。でも感情的な部分…温かみなどは測定できませんよね。歌だって詞を読めば全部分かるわけじゃなくて、どう感じるかということが重要なわけです。そういう意味では我々には既に大きなメリットがあります。というのも既にTF10がありましたから、もうある程度の皆さんの信頼、評判があります。開発者が共通の目標としたのは、それを超えるものを作ろうということです。

──そもそもヘッドホンを開発しようとしたきっかけは何ですか?

ローリー・ドゥーリー:日本ではイヤホンを試聴する環境がありますが、実はアメリカはそれがありません。試聴することができないので、UEのイヤホンの素晴らしさを伝えていくことが非常に難しいんです。でもヘッドホンでは試聴はできるので、実際に音を聴いて説明することができます。UEの製品が素晴らしいという体験を皆さんにしていただきたかった。「我々はUEという音楽のブランドなんです」と、ヘッドホンの場合は説明しやすいですね。

──当初から3モデルをリリースする予定だったのですか?

▲左からUE 9000、UE 6000、UE 4000。
▲左からUE 9000、UE 6000、UE 4000。UE 9000とUE 6000は耳をすっぽりと包み込むアラウンドイヤータイプで、UE 4000は耳の上に乗せるオンイヤータイプ。
ローリー・ドゥーリー:はい、これは当初から予定していました。オンイヤーがUE 4000になり、オーバーイヤーがUE 6000になります。市場を見るとワイヤレスはこれからいろんなレベルのコンシューマが使うことになると思っていますので、UE 6000のワイヤレス版ということでUE 9000を開発しました。ヘッドホンにも、今までカスタムIEMで培ってきた伝統があります。何より快適な付け心地が重要ですね。それは3機種共通に言えます。そしてカスタムの伝統から強く引き継いでいる点では、遮音性ですね。非常に素晴らしい遮音性を持っています。そして、カスタムIEMでもTF10でもUE900でもケーブルを付け替えることができる点は共通です。やはりイヤホンもヘッドホンも最もトラブルが起きやすいのはケーブルですから。そして同時に全ての製品に共通していることなんですが、デジタルのテクノロジーが重要となっています。UEのヘッドホンはバッテリーがなくなってもつかえます。常に音楽と一緒でいられるということです。

──コンサート会場のPAスタッフやDJ、エンジニアがUEのヘッドホンをするような時代がくるといいですね。

ローリー・ドゥーリー:まさに、そういう人々にも使用していただけるのではないかとイメージしています。レコーディング・エンジニアやサウンド・エンジニアはUEのカスタムIEMを使っていますから、そういう人たちがUEサウンドをプロフェッショナルなサウンドとして使い、自然に広がっていくと考えています。

──日本では3機種のうちどれが一番人気になりそうでしょうか。個人的にはエントリーモデルのUE 4000もとてもいいと思うんですが。

ローリー・ドゥーリー:個人の好みが大きいですよね。小さくて軽いのがいいという人もいますし、必ずしも一番高価なモデルが一番いいとは限りません。オンイヤーとオーバーイヤーというのも好みです。UE 4000も素晴らしい製品です。

──今後、形状や折り畳み方法など、コンパクト化のバリエーションはもっと豊富になりますか?

ローリー・ドゥーリー:どうやって収納してバッグに入れるか、難しいですよね。ポータビリティ、持ち運びのしやすさに関しては、革新的な考えを導入していきたいと思っています。同時に付け心地も絶対失ってはいけないので、ポータブル性と心地よさをうまく組み合わせ、さらに進化させていきたいと思います。

──UEのサウンドは音楽を楽しく聞かせてくれることに一貫性があるので、PAシステムなどを作ったら、楽しい気もします。

ローリー・ドゥーリー:そう、Bluetoothスピーカー(WS800、WS500)も発表しました。音楽を愛する人のための製品を作っているというのがUEなのです。そういう意味では、日本からのフィードバックはとてもうれしいものです。日本はコンシューマの要求が高く非常に難しい市場でもありますので、日本で我々が受け入れられるということは非常に喜ばしく、重要に思っているのです。

text by BARKS編集長 烏丸

◆Ultimate Earsオフィシャルサイト
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