<Ozzfest Japan 2013>開催から半月。その総括と“次”の可能性

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<Ozzfest Japan 2013>が盛況のうちに幕を閉じてから半月ほどが経過。1996年にアメリカで初めて開催されて以来、時流に敏感に反応しながら回を重ね、“その時代におけるヘヴィ・ロックを解く鍵”のような役割を果たしてきたこのフェスの成り立ちについては、改めてこの場で説明するまでもないだろう。それが満を持してここ日本に初上陸を果たすことになったのだから、注目を集めないはずもない。同時に、そこでの待感の大きさゆえに、開催前から音楽ファンの間で論争めいたものが繰り広げられてきた事実もある。しかし結果的にみれば、これは成功だったということになるのではないだろうか。


公演は5月11日と12日の両日、幕張メッセ国際展示場にて行なわれ、海外のメディアなどでは「両日とも2万人を動員」と報じられている。僕自身は両日とも開演時から会場にいた。実際のところ、バックステージでの出演者取材がいくつかあったため観られなかったバンドもあるし、それ以外についても全曲の演奏を見続けていたわけではない。だから定点観測めいた記事を書くことはできないが、僕なりに全体を振り返ってみたいと思う。


▲DEFTONES

▲GALNERYUS

▲THE TREATMENT

▲MAN WITH A MISSION

▲ももいろクローバーZ

▲SLASH

▲SLIPKNOT
まずはオープニング・アクトについて。両日とも開演は午前11時で、11日はKNOCK OUT MONKEYとARTEMAが、12日はHEAD PHONES PRESIDENTとfadeが、それぞれ短い持ち時間ながらも熱演を披露した。誤解を恐れずに言えば、フェスにおけるオープニング・アクトというのはサウンド調整のための存在といえる部分もあるわけで、満足な演奏環境を得られなくても仕方のないところがある。が、両日を通じての一番手にあたるKNOCK OUT MONKEYの演奏が始まった時点で、その音響面での良好さにまず驚かされた。加えて、午前中であるにもかかわらずフロアがかなりの密度で埋まり、バンドがポジティヴな反応を得ていた事実にも。もちろんそれは、オーディエンスの側があらかじめ“楽しむ気満々”だったからでもあるはずだが、これら4組のオープニング・アクトは記念すべき日本初の“祭典”の幕開けで、充分に重責を果たしていたように思う。なかでも、場の空気を盛り上げることにばかり囚われることなく、限られた曲数のなかで自分たちの世界観を色濃く表現しきってみせたHEAD PHONES PRESIDENTの健闘ぶりはとても印象に残った。

以降すべての出演者について細かく順を追って述べていくことはせずにおくが、2日間をざっくりと振り返ってみたときに見えてくるのは、一体感とアゲアゲ感の初日と、各々の世界観/余韻の色濃さの2日目、といった構図だ。ことに日本からの出演者選出に関してはそうした観点からの色分けがなされていたのではないか、という印象が残る。そう考えると、ももいろクローバーZの出演は初日で正解だったのだろう。

逆にそうした空気の流れのなかにあって、初日の場合、DEFTONESあたりは「異色ではないはずなのに異色」に見えてしまう結果となったかもしれない。が、僕自身のなかで印象的だったのはやはりそのDEFTONESの醸し出す妖艶ともいえる独特の空気の濃厚さであり、GALNERYUSの堂々たるたたずまいだった。THE TREATMENTのステージには「80年代にはこういうバンド、たくさんいたよなあ」という懐かしさをおぼえながら普遍的な魅力を感じたし、ギターを弾き倒すスラッシュの横で見事な歌唱を聴かせるマイルズ・ケネディにも目と耳をひかれた。MAN WITH A MISSIONを初めて観て「普通にカッコいいじゃん」と思った人たちも少なくないはずだし、マキシマムザホルモンの観衆を巻き込む力の強烈さにも例によってすさまじいものがあった。

そして初日のステージは、ヘッドライナーのSLIPKNOT登場で最高潮へと達した。今になって初めて感じたことではないが、現在の彼らが証明しているのは「異端のままクラシックな存在になることが可能だということ」ではないかと僕は思う。ヘヴィ・ロックを好きになったときに“あらかじめSLIPKNOTがそこにいた世代”にとって、このバンドは特異な存在ではなく、ある意味スタンダードなのである。遠い昔、さまざまな先駆者たちとそのファンの関係性がそうだったのと同じように。同時に、このステージこそがSLIPKNOTの歴史における新たな始まりへの導入となるのではないか、という気もした。バンドの今後の動向が気にかかるところだが、近く、この日に行なわれたインタビュー記事をお届けできる予定なので楽しみにしていて欲しい。


▲coldrain

▲ANTHEM

▲STEEL PANTHER

▲人間椅子

▲STONE SOUR

▲DIR EN GREY

▲BLACK SABBATH

▲BLACK SABBATH
公演2日目、5月12日も印象的なステージが続いた。この日もまた取材の関係で全出演者の演奏を目撃することは叶わなかったが、最新作『THE REVELATION』で大きな飛躍を遂げたcoldrainの気合の入ったパフォーマンスには頼もしさを感じたし、癌の手術を経て復帰を果たした柴田直人率いるANTHEMの雄姿には、熱いものが少しばかりこみあげてきた。AA=の鋭利さも、人間椅子の放つ強烈な地下臭も、STEEL PANTHERのネタの宝庫ぶりにも当然のように惹かれるものがあった。同バンドのマイケル・スターが放った「俺は太ったデイヴ・リー・ロスじゃない。痩せたヴィンス・ニールだ」が、もしかしたらこの日の“MC大賞”だったかもしれない。

そしてSTONE SOUR以降の時間の流れは圧巻だった。彼らにしてもDIR EN GREYにしても、「もうちょっと観たい」というところでステージは終わってしまった。が、フェスでの持ち時間が限られたライヴ・パフォーマンスというのは、そうあるべきものなのだと思う。前者については当然ながら『HOUSE OF GOLD&BONES Part 1/Part 2』で描きあげられていた物語の再現により重きを置いたステージに触れてみたいところだが、それは次回の来日時までのおあずけということになるのだろう。こちらに関しても、やはりこの日の楽屋裏で行なわれたジョッシュ・ランド(g)のインタビューをお届けする予定なので楽しみにしていて欲しい。

DIR EN GREYの放つ禍々しい空気感の色濃さというのは、両日の全出演者を通じても群を抜いていたと思う。ただ、彼らの直後に登場したTOOLにもまた、それまでの時間経過すべてを忘れさせ、印象を塗り替えてしまうほどの強烈さがあった。なにしろメンバーたちの姿がろくに見えず、フェスらしい煽りも一切ないのに引き込まれてしまうのだ。まるで闇に闇を塗り重ねていくかのような時間経過。これは初日のステージでは味わえないものだったといえる。

そして祭典の最後を飾ったのは当然ながらBLACK SABBATHである。正直に白状すると、僕は彼らがステージに登場してから数分後、少しばかり拍子抜けに近い感覚を味わっていた。というのも、DIR EN GREYとTOOLを経てきたうえで接した御大のステージが、なんだか妙に明るく感じられたからだ。的確な喩えではないかもしれないが、夜間に名所旧跡を訪れたとき過剰なライトアップにげんなりさせられる、あの感覚にも少し似ていた。同日、勢い余ってツイッター上に「世界遺産は5分で飽きる」などと書いてしまったのはそのためだ。

しかし、曲が重ねられていくなかで感じさせられたのは、これが現在のBLACK SABBATHのあり方なのだということであり、誤解を恐れずに言えば「楽しいBLACK SABBATHだっていいじゃないか」ということだった。おそらく僕は当初、そこに必要以上に暗い闇を求めてしまっていたのだろう。しかしSLIPKNOTが“異端でありながらスタンダード”であるのだとすれば、彼らはスタンダードどころかとうにクラシックの域にあるのだ。毒気ではなく、すべての毒を消化しきったうえでの、現在なりの自然体というものがあるのだ。そこに気付かされたからこそ、結果的にはBLACK SABBATHのステージを楽しむことができた。ツイッター上ではそうしたフォローをせずにいたが、上記の書き込みは、軽はずみなことを口走った自分への戒めとしてそのまま削除せずに残してある。

そんな僕個人のことはともかく、重要なのはこの“祭典”が今回限りのものなのか、“次”があるのか、ということだろう。実際、オジー&シャロン・オズボーン夫妻はすでに第2回開催について口にし始めているようだし、こうしてBLACK SABBATHをヘッドライナーに据えた形で実践された以上、オジー自身がトリを飾る形式での開催も検討されていて当然なのではないかと思われる。

そして実際、歴史が示しているように、フェスというのは開催を重ねながら進化していくものでもある。包み隠さずに言えば、出演者の顔ぶれに関する不平不満から、さまざまな告知が遅すぎるといった意見、場内への荷物の持ち込み規制がわかりにくいといった声も僕自身たくさん耳にしてきたし、それに同意できる部分も多々あった。ここで主催者側の立場を踏まえながら「なにしろ初回なのだから大目に見るべきだろう」などと擁護するつもりは僕にはない。が、次にこの名前のフェスが行なわれるときには、すべてが改善されているはずだと信じているし、なにしろこの2日間を楽しんだ人たちの多くが「次はどうなるんだろう?」と考えているはずなのだ。


▲BLACK SABBATH
というわけで、それが本当に実現するのかについての確証はないながらも、僕は今から“次”の機会到来を楽しみにしている。もちろん改めて僕の脳天を打ち砕いてくれるはずの、BLACK SABBATHのアルバム到着と単独来日についても。

取材・文●増田勇一
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