【インタビュー】新たな局面へと突入したSTONE SOUR、「コンセプト・アルバムは、逆に音楽的な自由をもたらしてくれた」

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先頃お届けしたSLIPKNOTのクラウンとのインタビューに続き、今回は<OZZFEST JAPAN 2013>の2日目に出演したSTONE SOURのインタビューをお送りする。取材に応えてくれたのは、ギタリストのジョッシュ・ランド。これまた短い時間枠ではあったが、そのなかで彼は『HOUSE OF GOLD&BONES PART1』『HOUSE OF GOLD&BONES PART2』と連作で発表されたコンセプト・アルバムに関することのみならず、彼自身の音楽的背景についても語ってくれた。取材現場は公演当日のバックステージ。壁の向こうからは微かにMUCCの演奏が聴こえてくる。また、文中、上記の2作品の表題については『PART1』『PART2』と表記させていただくことを、あらかじめおことわりしておく。

◆STONE SOUR画像

──まずは日本初の<OZZFEST>出演にあたっての率直な感想から聞かせてください。

ジョッシュ:この場に居られるのをとても名誉なことだと感じているよ。同時にこうして日本に来られたこと自体がとても嬉しい。というのも2012年、ジム(・ルート/G)の健康状態のために来日をキャンセルしなければならなかったという事情もあるからね。今回の一連のアルバムに伴うライヴをようやくここでやれる。それが単純に嬉しいんだ。

──それはファンにとっても同じことだろうと思います。この2枚が新鮮な状態にあるうちにこうした機会が到来したわけですから。

ジョッシュ:そうだよね。『PART 2』が出てからまだ間もないし。今回の場合、そもそものアイデアとしてはダブル・アルバムを出すというのがあった。それをバラして時間をずらして発売しようということになり、パッケージも特殊なものにすることにした。デジタル主体の今の世の中にあって、若い音楽ファンたちは往年のそういったもののクールさを知らずに育ってきた。1970年代、KISSは常に普通じゃないものを提供してくれたし、同じ時代、いわゆるプログレッシヴ・ロックのバンドたちも素晴らしいアートワークや特殊仕様のパッケージで興奮させてくれた。それと同じようなことをしたかったから、当初の発売プランを変更したんだ。しかもそういうことをするのは、自分たちにとってもフレッシュだったしね。とてもエキサイティングな作業だったし、俺たちがこの2枚で実践したようなことをやるバンドがもっと増えてもいいんじゃないかと思っているんだ。こんなふうにして、6~9ヵ月ぐらいの周期で連作を出したりとかね。

──もちろんアートワークばかりが重要なわけじゃないですけど、このアルバムがLPの時代に出ていたなら、もっと大きな“家”ができていたわけですよね(ジャケットがペーパークラフトのようになっており、2作を組み合わせると“家”を組み立てられるようになっている)。

ジョッシュ:ははは!確かにヴァイナル盤を出そうなんて話もしていたよ。そうすると実際、“家”はもっと馬鹿でかくなる。バービー人形を使って遊べるぐらいのサイズにね(笑)。正直、俺たちは音源が簡単にダウンロードできるのもクールなことだとは思っている。特殊ジャケットなんて悪趣味だと言う人がいることもね。でも、それをやりたかったんだ。

──実際、そうしたアートワークに関することを除いても、この2作が完成したときには、従来のアルバムができたときとは違った種類の達成感があったはずだと思うんです。

ジョッシュ:そうだね。この2枚が完成したときは、間違いなく自分たちのキャリアにおける最高傑作ができたと確信していたよ。ものすごく正直に言うと、その前の『AUDIO SECRECY』が完成したときには、そこまでの満足を口にすることはできなかった。あのアルバムは俺自身が望んでいたほどヘヴィなものではなかったしね。だけど今回の2枚では、より音楽的な自由を謳歌することができた。もちろん自分たちがミュージシャンとしても人間としても成長を経てきたからこそ、新たな次元に進めたという部分もあると思う。だけどかつての俺たちは、極限まで疲れ切っていたんだ。制作期間とかの部分においては酷い条件だったと言わざるを得ないところもある。

──それはたとえば、コリィ(・テイラー/vo)やジムの、SLIPKNOTでの活動との兼ね合いを指しているわけですか?

ジョッシュ:そこは否定できないよね。たとえばSLIPKNOTが長いツアーに出るとなれば、俺たちの作業にはものすごく厳しい締切りが設定されることになる。通常の半分くらいの期間で終わらせなければならなくなったり。だけど実際、今回はみんな楽しんでいたし、集中できていたし、毎週6日間、毎日12~14時間の作業を重ねることでこのアルバムを作りあげてきた。結果的にはとても多面的な作品になったし、バンドにとって安全ではない作品になったと思う。そこが自分でも気に入っているんだ。

──安全ではない作品。どういう意味でしょうか?

ジョッシュ:特定の音楽カテゴリーに収めることのできない作品ということだよ。俺たちは、アメリカではもちろんロック・バンドとして扱われる。しかもコンセプト・アルバムなんていまどき珍しいのに、それを俺たちは2枚連続で発表した。時代に合ったものではないかもしれないよね。だけど俺たちは、自分たちの多様さを反映させた作品を出したかったし、びくびくしながら安全な道を選ぶよりもそれを追求したかった。バンドによっては、同じようなアルバムばかり何枚も作り続けたりするものだよね? それはそれで、彼らには価値のあることなのかもしれない。たとえばAC/DCやSLAYERのようなバンドには、そうあってこそ彼らだという部分もあるし、それが求められていることをバンド自身も理解している。だけど俺たちの場合は、自分たちを複製することじゃなく、変わり続けていくことに価値を求めている。もちろん自分たちならではの音やスタイルというのも持っているつもりだけど、その時代時代に受けてきた影響や刺激を自分たちの音楽に反映させることを拒絶したくないんだ。それこそTHE BEATLESもそうだったし、METALLICAだってそうあり続けてきた。1990年代のMETALLICAについてあまり良くないことを言う人たちもいるけども、彼らは恐れることなく新たな変化を受け入れてきたよね?

──ええ。おそらくあなた方にも、“いかにもSTONE SOUR然としたアルバム”というのを作るための方程式のようなものはあるはずだと思うんです。だけどそれを敢えて壊してみることにも価値があるということですよね?

ジョッシュ:面白い意見だな。俺自身は、特定のフォーミュラというのはかならずしも必要なものじゃないと思っているんだ。それを持たずにいることで、自分たちのさまざまな局面が露見することになるんであれば、そのほうが面白い。俺たちは常に、新しいものを見つけることについてオープンなんだ。まわりに壁をこしらえて自分たちを箱のなかに閉じ込めようとはしていない。音楽的な意味においてね。俺たちは常にそうやって多様さを打ち出してきた。最初のアルバムからそうだった。1 stアルバムに入っていた「Get Inside」と「Bother」はまったく世界の異なった曲だろ?「Take A Number」もそうだった。今回についても、それは同じことなんだ。しかもそういった傾向がより強くなって、より映像的に描かれている。ことに『PART2』のほうはそうだね。ストリングスを導入してみたり、シンセサイザーを使ったりして、かなり壮大なものになっている。実際、それによって『PART2』では、より先へと進むことができたと感じているんだ。ダークでヘヴィなだけじゃなくてね。堂々たる壮大さがあって、次の段階へと連れて行ってくれるような高揚感があって。クールな音楽の旅を味わえる作品になったと思うんだ。同じような曲ばかりが繰り返されるようなものじゃなくて。

──ええ。とても奥行きの深さを感じさせられました。実際、このアルバムのコンセプトは“家”ですけど、家というものには外側から見ただけではわからない奥行きがあったり、扉を開けてみても陰になって見えない部分があったりする。そういったものがすべて収められている作品なんじゃないか、と。

ジョッシュ:いい解釈だね。その通りだと思う。

──この2作はとても特殊な性質なものだと思うんです。ある意味、コリィの頭のなかにあるものを体現する、という部分が大きかったはずですし。しかし同じバンドのメンバー同士ではあれ、完全にお互いの考えていることを理解するのは難しいはず。そういった部分での苦労はありませんでしたか?

ジョッシュ:それは別になかった。というのも彼は俺たちに音楽面での自由を与えてくれたからね。そのおかげでいろいろなことにチャレンジできた。確かに彼自身は大変だったはずだよ。すべてのアイデアをひとつに束ねていく、物語に基づきながら歌詞を作っていくという作業をしなければならなかったわけで。ただ、それはバンドというよりも彼個人にとってのプロセスだった。俺たちにとっては、そこで『AUDIO SECRECY』での過ちを重ねずにヘヴィネスを追求することのほうが、より重要だったからね。そのヘヴィネスを取り戻したかったんだ。結果、そこに専念することができたし、そうやって作ったものを最終的にコリィがまとめたというようなところもある。

──コンセプト・アルバムで物語に基づいたものという成り立ちから考えると、あくまでストーリーに沿っていくことが大事で、音楽的な自由は二の次になってしまうことが多いんじゃないかと思うんです。そうならずに済んだというのは素晴らしいことですね。

ジョッシュ:まったくだ。ちょっと妙な言い方に聴こえるかもしれないけども、俺やジム、ロイ(・マイヨルガ/Dr)にとっては、むしろコンセプトがあることがセーフティ・ネットになってくれたところがあったんだ。そこさえ押さえていれば、それをどう表現するかについてはあれこれと試せる自由があった。つまり、単なる楽曲の集合体として向き合うことができたんだ。たとえば少し毛色の違う曲でも、同じストーリーに基づいたものだからこそ存在理由があって、そこに躊躇なく入れられるというのがあったわけさ。

──なるほど。これら2作に伴うライヴでの感触というのは変わってきつつあるんですか?

ジョッシュ:楽しめているよ。残念ながらフェスとかでは、基本的には短めのセットでの演奏が多いけども。するとどうしても新作のなかからたくさんやることには無理が出てくるからね。だけど、たとえば新作から7曲演奏するというだけでも通常のケースから考えると大胆なことだろ? しかもそういった曲たちが、ファンが求める旧作からの曲たちとよくマッチすることも実感できたし。それはクールなことだと思う。

──できることなら二部構成で双方のアルバムが完全再現されるようなライヴを観たいところではありますけどね。

ジョッシュ:実を言うと、それについてはずっと「やりたいね」って話し合い続けているんだ。ただ…とんでもない夜になるよな(笑)。考えれば考えるほどクールなことだと思えるんだけど、同時に、いかに大変なことであるかに気付かされる(笑)。実際、現時点ではそれが可能なのかどうか断言することはできないな。コリィが一夜のライヴで全部歌い切れるのかどうかすらも、俺にはわからない。なにしろアンコールをやらず、古い曲を一切やらなかったとしても、2枚のアルバムで全23曲(ボーナス・トラックを除く)あるわけだからね。充分過ぎるほど多い数じゃないか。それだけの曲を100%の力をもってやるのは、たやすいことではない。だけど、いつかできたら素晴らしいと思う。一夜で双方のアルバムを完全再現することになるのか、二夜のライヴでそれぞれのアルバムを再現するのかはわからないけども。それ自体はクールなことだと思う。

──今回も短いセットだけに新曲を多く聴くことはできないわけですが、いずれ日本でもこの2作からたっぷりと演奏される機会が訪れると考えていていいんですよね?

ジョッシュ:おそらく、という言い方にしておくよ。というのも、正直なところ現時点においては、確かなことは何も言えないんだ。なにしろこの2枚のアルバム制作も含めて、ずっと働き詰めだったし。だからこの夏以降、何が起こるのかは自分たちでもまだわかっていないんだ。もちろん、自分たち自身のライヴのために戻ってきたいのはやまやまだよ。それこそ秋あたりにね。ただ、こうしてフェス中心のステージをやっていると、まだまだ『PART2』からの曲をたくさんやれるようになるのには時間もかかるし、まだちょっと様子を見ないとならないところがあるからね。

──それは頷けます。同時に感じるのは、これだけ多様性に満ちた作品をふたつ完成させた後だからこそ、次回はまっさらな状態で制作に向かえるはずだということ。気の早い話ではありますけど、すでに次に作りたいものなども見えつつあるんですか?

ジョッシュ:正直に言えば、NOだよ。次に向けての曲作りに取り組み始めるのは、もう少し先のことになるだろう。1年後とかね。ツアーのサイクルに身を置くことで何が出てくるか…それは、今はまだ想像もできない。とにかくここ一連の時間の流れは、自分たちにとって大きなものだったからね。だから作品的には、それなりにギャップのあるものになるかもしれない。たとえば…ポルカ・ジャズ・ファンク・アルバムになるかもしれないし(笑)。ツアーが終わればすぐスタジオに戻るというバンドも多いのかもしれないけども、このバンドの場合は少しばかり時間を要することになる。だからこその面白さもあるんだよ。次に何が出てくるかが自分たちでもわからないというのがあるからね。

──ここで改めて、あなた自身のことも少し訊いておきたいと思います。あなたの音楽的バックグラウンドというと、どういったものなんでしょうか?

ジョッシュ:いろいろな人たちから影響を受けてきたよ。いろいろな音楽が好きだからね。たとえば初期衝動としてはKISS。5歳の頃から彼らのファンだよ。『DYNASTY』のツアーのときに初めて観に行ったんだ。今もKISSのファンだし、同時にオリジナル・ラインナップにも思い入れがある。今、トミー(・セイヤー)とエリック(・シンガー)がエース(・フレーリー)とピーター(・クリス)と同じメイクをしていることには、ちょっと複雑な思いもある。むしろオリジナルなメイクをするべきだと思うんだ。次に影響を受けたのは初期のMOTLEY CRUEかな。アルバムで言うと、『SHOUT AT THE DEVIL』から『THEATRE OF PAIN』の頃だね。そしてIRON MAIDEN、METALLICAにも夢中になった。実際、バンドを始める切っ掛けになったのはMETALLICAだったし、当初はベースを弾いていたんだ。当然のようにジェイソン・ニューステッドを目指していたよ。同時に、ベーシストとしてはビリー・シーンの驚異的タッピングにも衝撃を受けた。それはもうMR.BIGが動き始めていた頃の話だね。で、当時たまたま友人の兄貴が「このバンドのギタリストが前にやっていたバンドを聴いてみろよ」と勧めてくれたのが、ポール・ギルバートのいたRACER Xだった。だから楽器を手にした当初の直接的影響はジェイソン・ニューステッドから、ギタリストとしての影響はポール・ギルバートから受けてきたと言っていいんじゃないかな。彼のようなヴァイオリン型のギターとかも使ってきたしね。

──まさかここでポールの名前が出てくるとは思っていませんでした。

ジョッシュ:意外かい? でも間違いなく彼からの影響は最大級のものだよ。面白いのは俺がポールの大ファンだってことを彼自身も知っているということ。それで引きあわされて…実は彼が『SPACE SHIP ONE』というアルバムのジャケット写真で着ていたスペーススーツをもらったんだ。なんとサイン入りで送られてきたんだよ(笑)。それが届いたときはビックリしたね。「冗談だろ?」と思った。20年前には考えられなかったことだ。これまでに味わってきた驚きのなかでも最大のものだったと思う。

──もしかして、いつかそれを着てステージに立とうとか考えているんじゃ…?

ジョッシュ:まさか! 考えてみてくれよ。身長が違い過ぎるんだ(笑)。彼のサイズに作られたスペーススーツを着ても、俺の頭は出てこないよ(笑)。

──つまり、サイズ的にはジム向きなのかも。

ジョッシュ:うん、間違いない(笑)。

──たとえば、ベースを先に経験していたことが役立った部分というのはあります?

ジョッシュ:間違いなく役立っているよ。なにしろ俺は、いまだにベースで作曲しているんだ。ベース・ラインを作るところから始めているんだよ。「Sadist」という曲もそうだ。フレットレスでね。古い曲で言えば「Orchids」とか「Blotter」もそう。もちろんギターで作ることもあるけど、ベースを弾きながらアイデアを固めていくことが結構ある。

──ソングライターとしての武器になっているわけですね。作曲面での影響を自覚している対象というのは誰でしょうか?

ジョッシュ:そうだなあ…。やっぱりMETALLICAからの影響がいちばん大きいんじゃないかな。構成面とかでね。もちろん往年のポップ・フィールドの人たちからも、たくさんインスパイアされてきたよ。エルトン・ジョンとか、ビリー・ジョエルとか。というのも、うちの両親がそういった音楽をよく聴いていたから、俺自身もそれを聴きながら育ってきたようなところがあるし。そういった心地好い70年代の音楽というものからの影響もあると思う。ジム・クロウチとかね。たくさん素晴らしいシンガー・ソングライターがいたからね。

──そういった背景も、このバンドの音楽に多様性をもたらすことになったんでしょうね。

ジョッシュ:そういうことだろうと思う。いまだにいろんな音楽を聴いているよ。実際、今朝聴いていたのもノラ・ジョーンズだったし。大好きなんだ。彼女の声は素晴らしいよ。だけどその次にSLAYERを聴いてみたり、ジム・クロウチを聴いてみたり。そんなふうに雑食しているんだ(笑)。

──同じような音楽生活をしているので、とても共感をおぼえます。

ジョッシュ:ははは! いい音楽とそうじゃないものというのはあると思うけど、ジャンル分けをする必要はない。俺は常々そう思っているんだ。それがR&Bだろうとヒップホップだろうと、いいものはいい。少なくとも音楽をやる人間は、「俺たちはメタル・バンドだぞ。メタルじゃないものは認めるな!」みたいに心を閉ざしているべきじゃないと思う。

──そうですね。今日は短い時間ではありましたが、とにかくあなたが音楽的な自由を楽しんでいること、それを楽しめる場にいることを知ることができて嬉しく思っています。

ジョッシュ:ありがとう。そう言ってもらえるのは俺にとっても嬉しいことだ。

──最後に、日本のファンにメッセージを。今回のステージを観られなかった人たちも少なくないわけなので。

ジョッシュ:そうだよね。まず、過去10年にわたってこのバンドをサポートし続けてくれたファンすべてにお礼を言いたい。そして、なんとかこの秋には再会できることを望んでいるよ。もちろんさっきも言ったように、まだ何がどうなるかはわからない。だけど、何が起こるのかを楽しみにしていて欲しい。

写真:William Hames
取材/文:増田勇一
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