【インタビュー】ウォッシュト・アウト、「温かくて気持ちがいい雰囲気を持たせたかった」

ポスト

ウォッシュト・アウトのセカンド・アルバム『パラコズム』が8月7日に日本先行発売となる。

◆ウォッシュト・アウト画像

J.R.R.トールキンの『中つ国(ミドル・アース)』やC.S.ルイスの『ナルニア国物語』、ヘンリー・ダーガーの『非現実の王国で』などで描かれる架空の世界と同種の事象を探求する『パラコズム』で、アーネスト・グリーン(=ウォッシュト・アウト)は、ベン・アレン(アニマル・コレクティヴ、ディアハンター、MIA、ナールズ・バークレー他)をプロデュースに再度起用し、コンピュータやシンセに加え、メロトロンやチェンバリンといったヴィンテージ機材を中心とした50以上もの楽器を導入し、新たな創造性を獲得している。

美しい自然の中で外にいるようなイメージを持って作られた当アルバムは、結果、ミニマルでモノクロそしてノクターナルな内容だった前作『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』(全米26位)とは逆に、オプティミスティックで真昼のアルバムのようなサウンドに仕上がった。

──前作を受けて今作はどのような作品にしようと考えていましたか?

ウォッシュト・アウト:僕にとって一番大きかったのは、『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』で2年間ツアーを続けたことだった。あのアルバムはシンセ中心で、それがライブのやりかたをかなり決めてしまったんだよね。ほとんどシンセで演奏することになったんだ。だからツアーから戻った時に僕が一番やりたくなかったのは、またシンセを弾いて曲を作ることだった。だから、今回はそういうやりかたを変えようと思ったんだ。これまでになくコンピュータに頼らず楽器を演奏したし、その意味では音楽的にかなり変わったと思う。僕は同じようなアルバムを繰り返し作りたくないし、つねに新しいテクニック、新しいやりかたで実験したいと思っているからね。で、もっと多彩な楽器を使おうとして、そこからいろんなサウンドを試しだして、それが新作のサウンドになっていったんだ。

──ダークで内省的な前作とは違い、今作は開放的で明るい内容になっていますよね?

ウォッシュト・アウト:その通り。今回のアルバムでは、戸外の牧歌的なフィーリングがすごく重要だったからね。丁度、街中からジョージア州アセンズのなんにもない田舎に引っ越したんだけど、それがアルバムの大きなインスピレーションになったんだよ。制作中、花々や自然とか、ずっと鮮やかな色が頭にあったんだ。そういうものをどうすれば音として表現できるかを考えていたんだ。楽観的な感じで、メジャー・キーを使って、そういう温かくて気持ちがいい雰囲気をアルバム全体に持たせたかったんだ。

──アルバムのタイトル“パラコズム”とは?

ウォッシュト・アウト:僕にとってこのタイトルは白日夢や空想を表す言葉なんだ。突然自分がまったく違う理想的な場所にいるのに気付く感じかな。こうしたエスケーピズム(逃避主義)を考えるときに、現実から逃げるっていうネガティヴな行為とする人もいるけど、これはそうじゃない。僕は過去の経験の理想化されたヴァージョンを思い描いていたり、理想的な場所を想像していたからね。夢や空想に喜びを見出すことなんだよ。エスケーピズム(逃避主義)はウォッシュト・アウトの大きな一部なんだ。ある種のノスタルジアや想像力は日常から一歩離れるのにすごく重要だと思う。僕にとって音楽が素晴らしいのは、聴く人を違う場所へ連れていってくれるところなんだよ。だからエスケーピズム(逃避主義)に関しては、僕は完全に肯定派だね。

──アルバムの制作はどうでしたか?

ウォッシュト・アウト:ツアーから戻ってきた2012年11月頃から曲を書き始めた。そこから3ヶ月くらいの間に新曲を全部作っていったんだ。ほとんどの素材をその期間に書いて、そこからまた3ヶ月の間に歌詞を書いたりして、アルバムを完成させていったんだ。プロデュースは前作と同じベン・アレン。ベンが優れてるのは、若いアーティストに昔ながらの技術、よりオールドスクールなテクニックを試させるところなんだ。彼はオールドスクールな録音技術に熟達していて、マイクの位置やサウンド・エンジニアリングに通じている。あと彼自身ミュージシャンとして才能があるから、僕がすごく曖昧で抽象的なことを思い付いても、それをちゃんと解釈してくれる。その意味でも彼と組むのはすごくうまくいくんだよ。レコーディングではたくさんの楽器を使った。僕には元々キーボードを弾くバックグラウンドがあったんだけど、ハープやヴィブラフォンの演奏を学んだことはない。そういうハープやヴィブラフォンの音を全部録音して、サンプリングして、僕がキーボードを弾いて演奏した。とはいえ、ベテランのコントラバス奏者とか、実際にミュージシャンに演奏してもらえた部分もかなりあるんだけどね。

──収録曲についてコメントをお願いします。

ウォッシュト・アウト:今回のアルバムでは、どういうものにしたいか、どこから始めたいか、と曲を作る上でかなりクリアなアイデアがあったんだ。ある程度全体像が頭の中にあったんだよね。で、それに一番近いのがファースト・シングル「イット・フィールズ・オール・ライト」だった。その意味でもすごく好きな曲。歌詞は、自分のこれまでの経験で、そのとき一緒にいた人たち、そのときいた場所がすごくぴったりくる感じ、全部意味をなすような美しい瞬間についてなんだよ。セカンド・シングル「ドント・ギヴ・アップ」は恋愛の曲。誰かと恋愛関係にあると、うまくいかないこともある。でもしばらく時間が経って再会すると、悪い思い出は忘れて、楽しかったことを思い出して、恋しくなったりするよね? で、すぐに元の二人に戻ってしまったり。この曲はそういうことについてなんだ。

──今、チルウェイヴをどう考えますか?

ウォッシュト・アウト:チルウェイヴが大きく取り上げられたのはちょっと変な気持ちだったな。当然、音楽ジャンルを作ろうとか、ムーヴメントを起こそうとして始めたわけじゃないからね。僕自身かなりいろんな音楽を聴くし、幅広いジャンルからアイデアを得ていると思う。ただ意識的に、何かのジャンルに当てはまるような曲を書こうとすることはないんだよね。ただ“チルウェイヴの代表”みたいになったこと自体は幸運だったと思っている。同じようなことをしてる大勢と比べて、結果的に僕を際立たせることになったから。それは感謝してるんだ。そう、今回のアルバムはチルウェイヴがリプリゼントするものに対する反動なのかってよく訊かれるんだけど、僕自身は全然それはなかったと思う。僕としてはずっとやってきたこと、ウォッシュト・アウトの他のレコード全部にある同じアイデアを取り上げて、それを形にするのに違う楽器、違うアプローチを取っただけなんだよね。やっぱり、ウォッシュト・アウトのアルバムになってると思う。

──最近のお気に入りのアルバムは?

ウォッシュト・アウト:僕はDJもやってるから、今よく聴かれてる音楽を知るのもDJの仕事の一つなんだよね。ただ、トレンドは追わないようにしているんだ。たとえば今回のアルバムに関して言えば、「最近のレコード、インディのレコードで12弦ギターを使ってるのがないな」と思ったからこそ、使ってみたり。逆を行くのがむしろアイデアに繋がるんだよ。ただ、今人気のレコードで言うと、テイム・インパラのアルバムはよかったな。傑作だと思った。ある意味チルウェイヴのアイデア、いわゆるチルウェイヴのアーティストのアイデアを取り上げてるんだけど…シンセサイザーの使い方とか、超サイケデリックなトーンとか。だからレトロな傾向もありつつ、モダンで、面白いアルバムになっていると思う。うん、最近で気に入ったのと言えばあれかな。

──日本のリスナーへ向けてのメッセージをお願いします。

ウォッシュト・アウト:日本のオーディエンスってほんと好きなんだ。日本でプレイするとほんと楽しいし、観客からも楽しさが伝わってくる。フェスにも出たけど、みんなが音楽、あらゆる音楽を愛してるのが表情からわかるんだよね。もちろんアメリカやイギリスのフェスでもそれは感じるんだけど、日本ほどじゃないんだよ。特にインディ・ロックの世界がそうなのかもしれないけど、どっか皮肉な、はすに構えるようなところがある。そう、フジロックはこれまでやってきた全部のライブでも一番好きなライブのひとつなんだ。観客の反応もよかったし、ミュージシャンってそこからフィードバックするんだよね。エナジーを受け取って、パフォーマンスもよくなっていく。うん、ほんと楽しかったな。とにかく、新作アルバムを楽しんでほしいし、また日本でライブをやりたいと思っている。また日本の庭園にも行きたいしね。僕、日本の文化を体験するのはツアーの中でもほんとに楽しみにしているんだ。

写真:Shae DeTar

ウォッシュト・アウト『パラコズム』
8月7日 日本先行発売(UK/EU:8月12日、US:8月13日)
YRCU-98008 2,300円(税込)
※日本盤ボーナス・トラック収録
※解説/歌詞/対訳付
1.Entrance / エントランス
2.It All Feels Right / イット・オール・フィールズ・ライト
3.Don't Give Up / ドント・ギヴ・アップ
4.Weightless / ウェイトレス
5.All I Know / オール・アイ・ノウ
6.Great Escape / グレイト・エスケイプ
7.Paracosm / パラコズム
8.Falling Back / フォーリング・バック
9.All Over Now / オール・オーヴァー・ナウ
10.Pull You Down / プル・ユー・ダウン*
*ボーナス・トラック
この記事をポスト

この記事の関連情報