【ライブレポート】宇都宮隆、復活。TM NETWORKのさいたまスーパーアリーナ公演

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TM NETWORKのさいたまスーパーアリーナ公演、<TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation- >が7月20日に初日を迎え、4月上旬にすい臓にできた腫瘤の摘出手術を受けた宇都宮隆がFANKS(TM NETWORKのファン)の前に元気な姿を見せた。

◆<TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation- > 画像

本公演は、当初5月25日に開催が予定されていたものの、宇都宮隆の体調不良によって延期となった公演の振替公演。なお、公演は2Daysで行なわれ、5月26日開催予定だった公演の振替は翌7月21日となる。

さて、まずは<TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation- >で描かれた物語を振り返ろう。前回の記事で紹介したストーリーは以下のとおり。

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<TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation- >ストーリー

地球の様々な文化や人間の様々な営みを調査するために、宇宙の異星からやってきた潜伏者(TM NETWORK)。29年にわたり、タイムマシンを駆使し、地球の様々な場所を調査し、母艦であるメインブレインに報告してきたが、彼らに与えられた任期は、まもなく終わろうとしていた。そして新たな潜伏者3人が地球に送り込まれた。

新たな潜伏者のトレーニング期間は3年。彼らは地球の様々な時代・場所・人々と実地訓練を行っていた。任期満了を迎えようとしているTM NETWORKは、自らの調査も続行している中、新たな潜伏者3人の活動を見守るため、タイムマシンに乗り込み再び地球へ……。

訪れたのは、1950年ごろのアメリカ。

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そんなストーリーに沿った形で、自然の残る田舎町を彷彿とさせるセットを前に、虫の音が聞こえる開演前。会場に足を踏み入れ、想像していなかったステージが眼前に広がった瞬間、「素敵!」と声をあげるFANKSの姿もちらほらと見受けられる。

予定時間を少し過ぎて、開演。これから始まる物語のイントロダクションがスクリーンに映し出されるとともに、重厚なシンセサウンドが空間を埋めていく。ステージ上には、これが新たな潜伏者であろう国籍不明な3人。彼らは見つかり、そしてポリスに連行されることになる。

1曲目「Children of the New Century」がインストで演奏される。前回の武道館公演の時には円盤型をしていたタイムマシンは、今回はトレイン型。ステージ中央の光の中、ハッチが開いてサングラスをかけた小室哲哉が姿を見せる。大歓声に迎え入れられたTKは、真っ白な衣装からマントを脱ぎながら階段を駆け上がり、シンセブースへ。

そして2曲目の「IGNITION,SEQUENCE,START」のインストへ。光の中から登場したのは、ギターを抱えた木根尚登。ステージ下手側に木根、上手側にTK。まるで1年ぶりのパズルを1ピースずつ埋めていくかのような光景が広がる。

同時に、TM NETWORKはタイムマシンでほかの時代の人たちもまたこの時代へと移送したのだろう。ブロンズヘアの女の子も姿を表し、そしてどこかに消えていく。

無数の光の束が織りなす息を呑むようなライティング。そして音の洪水。まるで映画を観ているかのような感覚の中で、誰もが中央に立つべき彼を待っていた。彼の帰還を待ち望んでいた。

「IGNITION,SEQUENCE,START」に続いてTKのシンセソロ。いや、TKの旋律は、いつの間にかあの曲のフレーズをトレースしていた。

<ああ もう一度君に / 巡り会えるなら / メビウスの宇宙を / 越えて Beyond the time>

そんな歌詞を想起させる。今回、潜伏者・TM NETWORKは、1950年ごろのアメリカへとやってきた、というストーリーだった。だが同時に、会場にいた誰もが、メビウスの宇宙を越えて、あの人がステージへと降り立つ瞬間が訪れたことを察知した。

光の中から姿を表したのは、そう、宇都宮隆。

TK、木根と同じく真っ白な衣装でステージ上に立つ姿。そして、トレードマークともいえる長い髪を揺らして、ウツは歌い始める。

<You belong to me サヨナラ言えなくて>

そのワンフレーズだけで、1万2000人の大歓声がさいたまスーパーアリーナを揺らす。大病を患ったこともあり、確かに痩せてはいた。しかし何も変わらない歌声。何も変わらないTM NETWORKが、今、ステージ上に、我々の目の前にいるということ。

終演後のTwitterには、「BEYOND THE TIMEで涙腺崩壊した」「今日一番泣けた」といった感想が投稿されていた。実際、周りを見渡すと、涙を拭う仕草を見せる女性や、そのままでじっと見つめ続ける男性。その瞬間、ファンも関係者も誰もがステージに釘付けとなっていた。

ついにすべてのピースがそろったステージで、ウツは「トルコ行進曲」のフレーズに合わせて、指揮者のように指先でリズムをとる。同曲を引用したTM NETWORK作品といえば、もちろん「Human System」。この日、さいたまスーパーアリーナに足を運んだ人たちは、偶然、同じ時代に生まれ、TM NETWORKをハブにしながら同じ時間と空間を共有し、同じ気持ちで共鳴しあう。それが“一億分の一の偶然”かどうかは定かではないが、ウツの歌う姿を観ながら“かけがえのないこと”だと、あらためて思わずにはいられない。

宇都宮隆から投げキッスも飛び出した「Here, There & Everywhere」。サングラスの奥までは覗けないものの、スクリーンに映し出された木根尚登もどこかしら嬉しそうに見える。一方で小室哲哉は、黙々と鍵盤と音に向き合い続ける。フロントマンであるウツが病み上がりということもあって、今回、TKはこれまでのTM NETWORKのライブ以上にいろんなものを背負ってステージに立っていたのだろう(もっとも、TKもC型肝炎の病み上がりだったわけだが)。TM NETWORK再始動後初のワンマンとなった2012年4月の日本武道館公演の時の気合いとはまた違った、職人の気迫のようなものを放ち続けるプレイを展開した。

「We hope Green days.」

ウツの一言からの柔らかい淡い緑の光に包まれて、今回、会場限定CDとしてリリースされた「Green days 2013」。そして外国人アクターが英語で歌った「CAROL」。潜伏者たち、TM NETWORKがタイムマシンで連れてきた違う時代の人たちが、少しずつではあるが、田舎町の住民たちの中に溶け込んでいくような様子がステージ上で描かれていく。

そしてステージに現れたアメリカンスタイルのバー(舞台が1950年のごろのアメリカなので、アメリカンスタイルなのは当然といえば当然なのだが)のセットをバックに、木根尚登のブルースハープが葛城哲哉のギター、小室哲哉のキーボードとも絡み合うバンドセッション。葛城の登場に沸く会場。ウツはバーの片隅でスツールに座り、ドリンクを飲みながら、その様子を楽しそうに眺めている。かと思うと、いつの間にかマイクを手にして、まるでふらりとバーのステージに上がるかのように「一途な恋」「DIVE INTO YOUR BODY」「COME ON EVERYBODY」といった人気曲をメドレー形式で次々に披露。客席側は(We say, Yeah)で一斉にジャンプすることも、Lalalalala……で左右に手を振ることも忘れない。

「Be Together」では冒頭に「ただいまでーす!」と、ウツが一言。これまで物語の中のキャラクターを演じているような3人だっただけに、突然の一言にオーディエンスは歓喜(言い換えるなら“エモーションはフォルテッシモ”)し、「ウツ、おかえりー!」の声も飛ぶ。

今回の公演では、EDMを意識した音作りがなされていた。ただ、そんなサウンドの中でも、聴けば一発でタイトルが浮かぶような、インパクトあるサウンド、フレーズを持った曲がTM NETWORK作品に多いというのが再認識できた。たとえば攻撃的なEDMサウンドに混じる、特徴的な衝撃音からの「GET WILD」もそう。それは、いくら服を着替えても、中の人間は変わることがないように。

そして物語は、変わることがない人間のマイナス面を感じずにはいられない展開を見せる。赤の回転灯(いわゆるパトランプ)をイメージしたライティングと危機感を煽るサウンドで、田舎町に争いが発生していることを知る。銃声と大爆発。住民の生活の中に溶け込んだかのように思われたが、やはり受け入れられることはなかったのか。ただ、それでも諦めないという潜伏者たちの気持ちを表しているかのような「RESISTANCE」が響く。

物語はこのあと、どうなってしまうのか。TM NETWORKは、どんな調査報告をメインブレインへ送るのか。今後の展開が気になるところで始まる「Love Train」によって、今回のタイムマシンがトレイン型だったことを思い出す。気づけばステージ中央には暖かい光が。「Love Train」のパフォーマンスを終えたTM NETWORKの3人は、開かれたハッチに迎え入れられる。木根もTKも、はにかみながら客席に手を振る。そして最後にウツが大きく片手を挙げ、光の向こう側へと消える。

トレイン型のタイムマシンは一度、汽笛を鳴らし、そして走り出していく。最後、眩しいほどに輝くステージ。そして暗転し、“To be continued...”の文字とともに、エンドロール。暗闇の中で最後に浮かび上がった「This is TM NETWORK」で、FANKSたちからの大喝采と歓声がさいたまスーパーアリーナを埋め尽くし、初日公演の幕は閉じた。

なお、<TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation- >の模様は、9月21日夜11時からWOWOWにてオンエアされる。

■ 7月20日公演のセットリスト
 Opening
M1. Children of the New Century
M2. IGNITION, SEQUENCE, START
 TK Solo
M3. BEYOND THE TIME
M4. human system
M5. Here, There&Everywhere
M6. Green days
M7. CAROL
M8. Just One Victory
 BGM(You can Dance)
 BGM(BAND SESSION)
M9. メドレー(一途な恋 ~ DIVE INTO YOUR BODY ~ TK Solo ~ COME ON EVERYBODY ~ Let's Dance ~ TK Solo ~Be Together)
M10. GET WILD
M11. Dawn Valley
M12. RESISTANCE
M13. Love Train
 BGM(Fool On The Planet)


text by ytsuji a.k.a.編集部(つ)

◆BARKSライブレポート
◆TM NETWORK オフィシャルサイト
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