【連載】山岸賢介(ウラニーノ)[vol.5]「ツアーメン~バイトのシフトに入れない~」

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夏も本番!この時期のツアーで一番壊れて欲しくないものは、ギターでもエフェクターでもアンプでもなく機材車のクーラー!夏だ、花火だ、猛暑だ、ゲリラ豪雨だと世間は夏真っ盛りですが、今回もこのコラムに関しては夏感は一切なく、バンドマンのリアルな事情を綴りたいと思います。今回のテーマはずばりこちら。

「ベスト オブ 楽屋挨拶」

楽屋挨拶とはその名のとおり、終演後に主にゲストや関係者が楽屋を訪ね、アーティストに挨拶をするというもの。大きな会場でのワンマンなんかだと、事務所やマネージャーさんが仕切って、別室やロビーで乾杯なんてこともありますが、ライブハウスの対バンイベントなどでは、出番後にちょいと楽屋に顔出して挨拶、というのが主流でしょう。

これ、意外と苦手っていうバンドマン、少なくないのではないでしょうか。少なくともぼくは苦手です。12年バンドやってますが、「今すぐ使える楽屋挨拶の基本」とか「もうこわくない楽屋挨拶」なんて本が出たら間違いなく買いますね。「え?ただ挨拶するだけじゃないの?」。そう思ったあなた。今回はこの楽屋挨拶の難しさと奥深さについて語りましょう。

まず、なぜ難しいのか。その最大のポイントは「ライブの感想を言わなくてはならない」の一点に尽きるでしょう。もちろんいいライブだったら素直にそれを伝えればいいのでしょうが、「よかったです!」「かっこよかったです!」じゃあまりに味気ないし薄っぺらい。もうちょっと気の利いたことをわざとらしくなく言いたい。先輩のライブならなおさらのこと。ここでボキャブラリーのキャパシティーを問われるわけです。

次に難しいのがテンションの持っていき方。どのテンションで楽屋口に顔を出すか。つい数分前までステージに立っていた人は、当然見ていただけのこちらとは興奮状態が違います。落ち着き過ぎたテンションで「お疲れさまです…」なんてのっぺりと顔を出したら、ライブ後の興奮に一気に水をさしかねない。逆に変にそっちに合わせようとして「どうもー!!」と芸人の登場シーンばりに楽屋に登場したら、演者のテンションが思いのほか低い場合、完全に空気を読み間違えた人となります。難しいところ!

さて、ここからはぼくが出会った楽屋挨拶の猛者たちをご紹介しましょう。逆の立場、つまりぼくがライブを終えて楽屋に戻った時に楽屋を訪れてきたバンドマンたちで、「こいつ、できる!」と思った見事な楽屋挨拶をご紹介しましょう。

その1、河内健悟(ircle)の場合
ircle
上京前、10代の頃から地元大分を代表するバンドとして名だたるツアーバンドと対バンしてきた彼らは、先輩バンドに対する接し方が非常にうまい。そんなircleのボーカル健悟が、ウラニーノのライブに来てくれた時の楽屋挨拶。楽屋口に顔を出すなり彼がぼくに言ったのがこれ。

「ゲロよかったです。いや、マジでうんこよかったです」。

「おい!褒められてるのか貶されてるのかわかんねぇよ!」…はっ!ばりばり関東人のぼくが思わずツッコミを入れてしまった。そしてなんだかよくわかんないけど和やかな空気になってるし!シンプルな言葉を捻じ曲げた表現にすることでちょっとしたボケに昇華させ、「先輩にライブの感想を言う」という気まずさを見事にうやむやにした好例。
続いてはこちら。

その2、きみコちゃん(nano.RIPE)の場合
nano.RIPE
最近仲良くしてもらってるnano.RIPE。ボーカルのきみコちゃんがウラニーノのワンマンライブに来てくれたときのこと。楽屋口に顔を出した彼女が満面の笑顔で言ったのがこれ。

「ますますかっこよくなりましたね!それ以上かっこよくならないでくださいよー!」

…ずるい。あの声でそんなこと言われたら、誰だって思わずニヤける。しかし、卑屈でひねくれているぼくは思ってしまうわけです。こいつ、慣れてるな!「よかったら打ち上げご一緒にどうですか?」とこちらが聞く隙も与えず、驚くべき速さでサクっと帰っていくところも、絶対慣れてるだろー!

その3 傷彦さん(ザ・キャプテンズ)の場合
最後のグループサウンズ、ザ・キャプテンズのリーダー傷様。私生活はベールに包まれまくっている傷様が、プレイベートでライブに来てくれることは超レアですが、先日のピストン大橋脱退ライブに来てくれました。一輪の真っ赤なバラを片手に楽屋に現れ、「ちょ、それ客席まで聞こえますよw」というフルトーンボイスで、

「ピストンの人生、薔薇色に染まれー!」

…人の楽屋だろうが、もうそこは傷様劇場(笑)さすがでした。

※(写真)楽屋に来てくれた傷彦さん。まさかの前回の写真の使い回し!!(爆)

その4 しげるさん(THE NEUTRAL)の場合
THE NEUTRAL
しげるパイセンはちょっと違います。楽屋に顔を出してくれなかった!あれ、まずいライブしちゃったかな…と不安になっていたところに電話が来て、

「山岸くん、悔しかったから挨拶しないで帰ったよ。それくらいいいライブだった」

…惚れてまうやろー!!その時のライブがどうだったかはさておき、「悔しい」という気持ちはバンド始めたばかりの頃のぼくらを突き動かしていた重要な原動力でした。そんなことを思い出させてくれた、しげるさんらしい男前のエピソード。

その5、謎のバンドマンの場合
ピストン大橋
最後に衝撃度ではこれを超える楽屋挨拶は後にも先にもなかったろうという、伝説の楽屋挨拶をひとつ。出番が終わって楽屋に戻って一息つくかつかないかのタイミング、突然一人の男が現れ、名乗ることも「お疲れさまです」も何もなく、無言のままつかつかとピストン大橋に歩み寄り、そのまま何も言わずにピストンのメガネを顔からむしり取るように外すと、そのままボトリと床に落としました。そしてそのまま踵を返しさらりと出て行ったのです。時間にしてわずか10秒。まさに一瞬の凶行でした。ただただ、唖然とするだけで何のリアクションも取れませんでした。もはや「楽屋挨拶」ではありません。刺客です。

ちなみにその男、ピストン大橋とのみ1、2回の面識のあった某バンドマンらしいのですが、詳細・消息は不明。しかし、もう直前のライブのことなんかどうでもよくなってしまうほどのインパクトを残し去っていきました。良し悪しはさておき、衝撃的な「楽屋挨拶」でございました。

たかが楽屋挨拶、されど楽屋挨拶。これを読んでくれたバンドマンの皆さん、次にぼくがあなたの楽屋に現れるときは、ぼくなりの「HOW TO 楽屋挨拶」を身につけ楽屋に乗り込みたいと思います。でも、うまく言えるかわからないので先に言っておきますね。ライブ、すげーよかったっす!!

◆【連載】山岸賢介(ウラニーノ)「ツアーメン~バイトのシフトに入れない~」まとめページ
◆ウラニーノ・オフィシャルサイト
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