【インタビュー】映画『HOMESICK』を支えているのは、トクマルシューゴの音楽

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処女作『世界グッドモーニング!!』がボン・ジュノ監督やジャ・ジャンクー監督から絶賛された廣原暁(ひろはら・さとる)監督。そのデビュー作は、監督の友人のバンドARTLESS NOTEの歌から刺激を受けて生まれた物語だったが、新作『HOMESICK』で重要な役割を果たしているのがトクマルシューゴの音楽だ。

◆廣原暁、トクマルシューゴ画像

百種類以上の楽器を扱って、アヴァンギャルドでポップなサウンドを作り出すトクマルシューゴの大ファンだったという廣原監督。トクマルシューゴを交えて、映画と音楽の刺激的なコラボレートの経緯を訊いた。

──脚本を書いている段階から、トクマルシューゴの音楽を使うことを考えていたそうですね。

廣原暁:そうです。僕はいろんな音楽を聴くタイプじゃないんですけど、気に入ったものは繰り返し聴くんですよ。トクマルさんのアルバムも何度も聴いていて。『HOMESICK』の脚本を書き始めた時は、トクマルさんの『ポート・エントロピー』をよく聴いていたんですが、「この音楽が使えるような映画にしたい!」と思って脚本を書いていました。

トクマルシューゴ:『ポート・エントロピー』は、子供の頃の原風景みたいなものをテーマにした作品なんです。だから、今回の映画のように子供のエピソードとリンクしてくるのはすごく嬉しかったですね。でも、この作品を思いついたきっかけって何だったんですか?

廣原暁:僕のこれまでの映画って、旅に出る物語が多かったんです。だから、今度は一箇所にとどまり続ける物語にしたいと思って考え始めて。それで映画の雰囲気というか、言葉で表せないところはトクマルさんの音楽みたいな感じにしたいと思ったんです。ほんとはトクマルさんにはサントラをお願いしたかったですけど、ちょうど新作(『In Focus?』)を作られている最中のお忙しい時期だったので、それは諦めて。でも、その制作中の新作からは、「Helictite(LeSeMoDe)」を使わせて頂くことできました。あと、どうしても使いたかったのが『ポート・エントロピー』に入っている「Lahaha」で。

トクマルシューゴ:「Lahaha」がかかるシーンは、監督が最初からイメージしていたということもあってすごく印象的でしたね。

廣原暁:映画の途中でヴォーカルが入っている曲を入れるのって、チャレンジなんですよ。突然誰かが歌い出したら、観客は「これ誰?」ってなって気になってしまう。でも、トクマルさんの曲は自然に聴けてしまうんですよね。それは歌声もひとつの音としてとらえているからだと思うんですけど。

──完成した映画を観て、どんな感想をもたれましたか?

トクマルシューゴ:難しいタイプの映画だと思うんですよね。ドラマティックな展開で見せていく話というより、言葉ではうまく言い表せない感情を描く作品だと思うので。だから、この物語をどんなふうに終わらせるのか、観ていてすごく気になったんですけど、ラストに向かっていく流れが美しかったですね。

廣原暁:今回の映画は、何かが始まって終わる、というよく映画の形ではあるんですけど、僕の中では世の中のイメージを少しでも覆して、スタイルも内容も自由な映画を作りたいという気持ちがあったんです。それはトクマルさんの音楽からも感じることなんですけど。

トクマルシューゴ:僕の音楽って「癒し系だよね」みたいに言われがちなんですけど(笑)、いや、癒されるのは自由なんですが、本人はそういう気持ちでは作っていなくて。多分、この映画もどこかひねくれたところがあって、言葉では言い表せない何かを表現したいという想いがあるんじゃないかと思いましたね。

──トクマルさんは映画を作りたいと思ったことは?

トクマルシューゴ:興味はあります。ただ、アルバムを作る時はレコーディングよりイメージを練るほうに時間をかけるほうなので、映画も何を撮るか考えるのに10年くらいかかるかもしれない(笑)。

廣原暁:10年間、少しずつ前進している(笑)。

トクマルシューゴ:やりたいことは尽きないので。

廣原暁:すごいなあ。この作品を撮って1年経つんですけど、早く次の作品が撮りたくなってきました。


第22回PFFスカラシップ作品『HOMESICK』
8月10日(土)より、オーディトリウム渋谷 他全国順次ロードショー中
廣原 暁監督特集同時開催
ポン・ジュノ、ジャ・ジャンクーが絶賛。世界が注目する27歳・廣原 暁監督の劇場デビュー作。限りなく自由で、どこにも行くあてがない夏休み。家族不在の家で展開する、新世代のホームドラマ。未来を担う映画作家の育成プロジェクト“PFFスカラシップ"が、2013年、満を持して放つのは、武蔵美卒制『世界グッドモーニング!!』(2009)でバンクーバー国際映画祭新人賞グランプリに輝き、ポン・ジュノやジャ・ジャンクーから「真に有望な映画監督」と激賞された廣原暁の最新作。じきに再開発で取り壊される実家に留まることしかできない主人公が、かつての自分のような、元気いっぱいのちびっこ3人組と真剣に遊ぶ中で、自らの進むべき道を見つめ直していく。長引く不況の中、高望みをせず穏やかな暮らしを望む「さとり世代」と呼ばれる現代の若者たち。自身もその世代に当たる廣原は、等身大の若者の成長を一寸のブレもなく精密に鮮やかに切り取り、新世代のホームドラマを完成させた。主人公たちの夏休みを遊び心たっぷりに彩る音楽を手がけたのは、イマジネーション豊かな作風で国際的に活躍するトクマルシューゴ。トクマルの長年のファンである廣原監督たっての願いで、豪華かつポップなコラボレーションが実現した。
トクマルシューゴ使用楽曲:
「Metrion」 (2stアルバム「L.S.T.」)
「Lahaha」(4stアルバム「Port Entropy」)
「5A.M.」(2stアルバム「L.S.T.」)
「Helictite (LeSeMoDe)」(5stアルバム「In Focus?」)
監督・脚本:廣原 暁
出演:郭 智博、金田悠希、舩﨑飛翼、本間 翔、奥田恵梨華
プロデューサー:天野真弓
撮影:下川龍一
録音・整音:渡辺一輝
美術:飯森則裕
音楽:トクマルシューゴ
編集:石井沙貴
助監督:飛田一樹
制作担当:和氣俊之
製作:PFFパートナーズ=ぴあ、TBS、ホリプロ
東宝 提携作品
配給・宣伝:マジックアワー
2012/日本/カラ―/デジタル/16:9/98分
(C)PFFパートナーズ/東宝
8月10日(土)より、オーディトリウム渋谷 他全国順次ロードショー
http://homesick-movie.com/
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