【インタビュー】トレント・レズナーが語る現在・過去・未来、ナイン・インチ・ネイルズ『ヘジテイション・マークス』誕生秘話

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「実はここ一年、アッティカス・ロスとアラン・モウルダーとノンストップでナイン・インチ・ネイルズのフル・アルバムにとりかかっていて、遂にそれが完成した。はっきり言ってファッキン・グレイトな内容だ。別のことで蓄えたエネルギーでナイン・インチ・ネイルズをこれまでと違う場所へ持っていくことに決めたんだ。そう、行くぞ!」──-トレント・レズナー

◆「Nine Inch Nails 2013, Pt. 1 (VEVO Tour Exposed)」映像

2009年の活動休止宣言から4年、トレント・レズナーがアルバム『ヘジテイション・マークス』を引っさげナイン・インチ・ネイルズとして帰ってくる。ナイン・インチ・ネイルズを再始動させたトレント・レズナーに聞く、現在・過去・未来。スペシャルインタビューをお届けしよう。


――こうして4年ぶりにナイン・インチ・ネイルズ(以下、NIN)の活動を再開させたわけですが、この休止期間はあなたにとって、どんな意味を持っていたのでしょう?

トレント・レズナー:2009年にNINをいったん停止したのは、それまでの約4年間、ぎっしり休みなしに活動してきた結果だった。ツアーをやって、新しいレコードを作って、さらに同時進行でツアーに出て……その繰り返しが最後の方では、自分でも納得してしまったというか、やるだけやったな、という気持ちがしてきてね。続けようと思えばできるし、好きなことではあるけれども、いわば寝ていてもできるような感覚になって、十分なやり甲斐を感じられないと思い始めたんだ。それに、NINの他にやりたいこと、ずっと「いつか形にする」と言ってきたのにライヴやアルバム制作で時間がなくて実現できずにいたことが山積みになってるから、1度ここで自分に無理やりストップをかけてみることにしたんだよ。で、一体どうなるだろうと思っていたら、まずデヴィッド・フィンチャーから映画(※『ソーシャル・ネットワーク』/『ドラゴン・タトゥーの女』)のサントラ仕事を依頼され、さらにもうひとつのバンドであるハウ・トゥ・デストロイ・エンジェルズとしてもアルバムを作ってツアーすることもできたし、かねてからやりたいと望んできた懸案の箱をいくつも開けてチェックすることができたんだ。NINは基本的に個人作業だから、こちらでは他の人たちと一緒に、他の人たちのための仕事をするというのも楽しかった。やがて、こういう過程のどこかで、またNINの曲を書こうと思うようになり、自分がステージの真ん中に立って歌うことを想像すると、なんだか興奮してきたんだよ。そしてNINを再開し、アルバム制作に入るにあたって、俺は以前よりも「ここにいられることが楽しい」と感じるようになっていたんだ。ここにいるのが自分の義務だ、というのではなくてね。わくわくしたし、楽しいし…新鮮味もあった。

――そうしてニュー・アルバム『ヘジテイション・マークス』が完成したわけですが、この新しいサウンドはどのようにして作り上げられていったのですか?

トレント・レズナー:今回のレコードは、1年と少しの間フルタイムで労力を費やして完成させた。特に何の目論見もなく試しに書いてみた曲が、けっこう刺激的な音になってね。要するに、自分が面白いと思うことをやっているうちに、どんどん勝手に出来上がっていったという感じだ。どうしてなのか具体的にはわからないけど、そういうやり方にするのが自然だと思えたんだよ。新しいレコードが何故こんな仕上がりになったのかは、まだ自分でも説明できなくて、作りながら「これが正しい」と俺には感じられた、としか今のところは言えない。ただ俺はNINを常に、こっちの端からあっちの端まで自分が極端に走れるようなオープンな状態にしておきたいと思ってきたことだけは確かだ。もちろん、周囲がNINに期待するサウンドと、ある程度まで折り合う範囲においてだけどね。

――アルバムには、キング・クリムゾンのエイドリアン・ブリューやフリートウッド・マックのリンジー・バッキンガムといったゲストが参加していますね。

トレント・レズナー:新作における本来の意味でのコラボレーターはアティカス・ロスとアラン・モウルダー(※ともに共同プロデューサーで、アティカスは、トレントと共同で『ソーシャル・ネットワーク』や『ドラゴン・タトゥーの女』のサントラを制作し、ハウ・トゥ・デストロイ・エンジェルズのメンバーでもある)で、彼らは親しい友人でもある。お互いのことをよく知っているし、長く一緒に仕事もしてきた仲だから、俺と同じくらいにNINとして議論もするし、やっていることもいわゆる共同作業と呼べるものだ。そして今回、俺が自分で作った曲を彼らに提示した後、俺たちだけではできないことをやってくれそうなミュージシャンを何人か招き入れたら面白いかもしれない、という話になってね。エイドリアン・ブリューとは、これまでに何度も一緒に仕事をしてきたし、また彼に何日か来てもらって、アルバムのあちこちで色々と、独自の天才的なギター・プレイを披露してもらった。どちらかというと抽象的かつ断片的な参加だ。それから、リンジー・バッキンガムという人は、フリートウッド・マックの優れたシンガーでありソングライターとして名を馳せているせいだろうけど、凄いギター・プレイヤーでもあるのに過小評価され気味だと個人的には感じていて、そこで彼に参加を頼み、イメージとは違うような素晴らしい演奏をしてもらったよ。ピノ・パラディーノ(※ザ・フーやポール・サイモンなど数多くのミュージシャンのバックを務め、凄腕のベーシストとして知られるセッション・ミュージシャン)に関しても同様で、やはり完成直前に加えたスパイスというか、味付けだね。どちらも、参加してもらって非常に面白い経験をすることができた。

――新作にとりかかるにあたって、1994年にリリースされたNINの代表作『ザ・ダウンワード・スパイラル』の歌詞を意識したそうですね。ジャケットのアートワークも、再びラッセル・ミルズを起用していますが、その意図は?

トレント・レズナー:ああ、別に「みんながNINのことを覚えているかどうかわからないから、念のために(過去の名作から引用しておこう)』みたいな、不安の産物ではないよ。とにかく俺は『ザ・ダウンワード・スパイラル』を作った当時の自分に対するところの今の自分、というものについて考えていたんだ。あの頃の俺のこと、あのアルバムの曲や内容について…というよりむしろ、あのアルバムを書いている時の俺という人間について、あの時代について、だね。あらゆることが目新しくて、次第に状況は常軌を逸していったわけだけど…まあ、意味は曖昧なものばかりだから、果たして新作全体を聴いてもリスナーはそれに気付かないかもしれない。あと、それとは別に、このアートワークが持つ退廃的で有機的で不快な感じがアルバムのサウンドと面白い対象を成すのではないか、とも思ったんだ。サウンド面では『ザ・ダウンワード・スパイラル』とまったく違う音になっているから、あえてそれを組み合わせてみることで全般に、さらなる深みを与えるかもしれないと考えた。そしてラッセル・ミルズと話してみると、彼も同じ考えを持っていることがわかったんだ。俺たちには、どこか似たところがあるんだろう。確かに、イメージや端々のトーンを通じて、NINが過去やってきたことが新作の中に自ずと映し出されるということがあったとして、それもニュー・アルバムへの導入としては必ずしも悪いものではないだろう。レコード自体が過去にやってきたことの焼き直しだと俺は思っていないんでね。それと、今回このアートワークを再び採用するアイデアが気に入った理由はもうひとつ、なんとなく不穏な、逆撫でするような感触、どうにも落ち着かない雰囲気を持っているからだ。新しいアルバムは、そんな感触を囲い込むように作りたいという気持ちがちょっとあったんだよ。

――なるほど。

トレント・レズナー:今の俺は、かつての自分だったら怯んでしまって試せなかったことを試せるようになっているのが心地良いんだ。新作には「ファインド・マイ・ウェイ」という曲が入っているんだけど、数年前には、ああいう内容をあそこまで直接的に言うのは怖くてできなかっただろう。何故なら、あれでは直接的すぎるというか、わかりやす過ぎるというか…なんて言うんだろう、エッジが足りないとでもいうのかな。そういう言葉も、今では口にするのに相応しいと感じられるようになった。NINでやることによって、そこには確実にNINらしさが生まれる、とね。「ケイム・バック・ホーンテッド」のアレンジをしている時も、デビュー・アルバム『プリティ・ヘイト・マシーン』(1989年)で使っていた古いサウンドを引っ張り出したんだ。気に入っている音だったし、本能的にそっちへ向かっている気がしていたからさ。少し前だったら「いやダメだ、そっちへは行けない。いちばん最初のアルバムに逆戻りするイメージが拭えない」とブレーキをかけてしまったはずだけど、もう別に構わないと思えるようになったんだよ。

――あらためて新作の歌詞の内容について確認しますが、過去への言及や、後悔、拭いきれない思いなどが描かれている部分が多い、と言ってもよいでしょうか?

トレント・レズナー:ああ。自分とは何者で、自分にとって何が大切で、様々なことを経験してどんな人間になったか…それを探る、ということに尽きるかな。それを極めるというか、明瞭な視点から見ることで探ろうとしているんだ。今の自分にとって、道理とは何であるかをね。今の俺は、かつてとは違って、もう燃え上がるような怒りは感じないし、叫びながら窓から飛び降りようとも思わないけれど、かつてはそんな気持ちでずっといたわけで(苦笑)。今では、頭の中のどこで接続を間違ってしまっていたのかを見つけ出し、折り合いをつけて、状況への対処もある程度わきまえている、でも、だからといってすべてが丸く収まってはいないんだ。そんな自分に「これである種の平穏が実現されようとしているのか、それとも一時的に自分をごまかして、そんな気分になっているだけなのか」と問いかけているというのが、いわば根底にあるテーマだね。

――わかりました。さて、<フジロック・フェスティバル>への出演を皮切りに、新作リリースに先駆けたツアーもスタートしますが、これはどのようなものにしたいと考えていますか?

トレント・レズナー:またツアーをやろうという話が持ち上がった時も、アルバムと同じく「まあ、やってみようか」という感じで、とりあえず新しくバンドを組んで、新しいレコードの曲がライヴではどんな音になるかを試してみて…今のところ自分では非常に楽しみだよ。

――ちなみに当初はライヴ・メンバーとして、エイドリアン・ブリューやエリック・エイヴァリィの参加が報じられましたが、最終的には実現しませんでしたよね?

トレント・レズナー:ライヴ・バンドを組もうということになった時、その辺の人たちを入れてやったらどうなるだろう?と思いついて、実際にコンタクトもして、先方も興味を示してくれたんだけどね…当初から、ある意味リスクを伴うだろうということは覚悟していたが、どうもうまく折り合わなくて…。たとえるならスゴく美味しい料理なのに、かけたスパイスが…そのスパイスも良い物なんだけれど、料理とは合わなかったという感覚とでもいうか…。実は、新たにバンドを組むにあたって当初のコンセプトは、何年か前にニール・ヤングに呼ばれてブリッジ・スクール・ベネフィットでプレイした時のフォーマットを念頭に置いたものだったんだ。あの時は、アコースティックであることと同時に、特別な状況でやることを要求されてね。ニールいわく「アコースティック・ギターを抱えて舞台に上り、適当にジャムるだけとかじゃダメだよ。そんなの誰も喜ばないだろ」って。彼が希望していたのは、出演アーティストたちが普段と違うコラボレーションで演奏することであって、当日のショウは、そういう意味でとてもユニークなものになった。俺は変わった編成の弦楽四重奏団と組んで、自分の手掛けたマテリアルを演奏したんだけど、その、ロック・バンドのライヴというよりも、ステージ・ダイヴをするんじゃなく、座って鑑賞するアーティスティックなパフォーマンスという感覚が非常に面白くて刺激的だったんだ。説明が長くなったけど、そういう斬新なものをイメージして色々と模索していく過程において、誰をバンドに入れるのが正しいかは、そんなに単純に決められることではなかった。初期段階で自分なりに考えていたことが結果的に実現しなかったのには、俺だってガッカリしたよ。でも、ライヴの準備を進めていくうちに、音もしっくりこないし、フィーリングもおかしい、この人選は正しくないと判断したんだ。それを経て今回のステージのために造り上げたチームは、ミュージシャンたちも非常に優秀で、新しいアルバムの曲から古い曲まで、かつてのどのラインナップよりもうまく表現できていると確信している。

――すでに新しいモードに突入しているあなたが、過去に書いた楽曲を演奏するにあたっては、どんな基準で選曲をしたのでしょうか。

トレント・レズナー:古いマテリアルの膨大なリストを俺からバンドに投げつつ、自分でも一通り聴き直して、これを今やったら自分はどんな気持ちになるだろう? 果たして演奏したいと思うだろうか?と検討していった。古い楽曲の一部には、まあ言ってしまえば飽きているものもある。もはや自分のこととは思えなかったり、やっても演技をしているような感覚になってしまったり。あるいは、一時期イヤになっていた古い曲なんだけど、理由はどうあれ新鮮な感覚で「またやってみたい」と楽しみに思えるものがあったりもしたよ。そんなリストについてバンドと話し合い、いくつか実際にプレイしてみて類似点を見出していったんだ。是非やりたいと思う古い曲が2曲ぐらい出てきたり、以前ほど有効だとは思えない曲が出てきたり。さらには、やる気になれるかどうかといぶかっていた曲でも、おそらくは新しいメンバーの情熱がバンドに吹き込まれたせいか、アレンジの工夫によるものか、その他もろもろ意外な展開もあったりしながら、かなり満足のいくリストが出来たと思う。

――なるほど。

トレント・レズナー:もちろん、どういう環境でどんなパフォーマンスを見せるのか、ということは常に念頭に置いている。アリーナか何かにNIN単独のライヴを観るのが目的で来ているオーディエンスが相手ならば、俺としては「おまえらは、すでに俺のものだ」というような感覚が持てる。「そっちから俺の空間に入ってきたんだから、俺のいささか自惚れ気味の旅に同行してもらうぜ。それが観たくて来たんだろう?」とね。一方でフェスティヴァルとなると、必ずしも会場内にいる全員が自分を観に来ているわけではないし、たまたま居合わせたとか、他にも色んなバンドが出ていて、向こう側にもステージがあって時にはそっちの照明が当たったり…と、まあ、気が散るわけだ。だから俺も少しとっつきやすいセットリストを組む傾向がある。そのぶん今回は、見てもらえれば分かる通り、非常に風変わりなステージを展開することで埋め合わせているつもりだけど。

――わかりました。では最後に、秋から本国で行なわれる単独ツアーで、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーとエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイをサポートに選んだ理由を教えてください。

トレント・レズナー:単純に、どちらも非常に興味深いバンドだと思ったからだ。それに、これまで彼らのようなタイプのバンドとはやっていなかったしね。いっしょにツアーをするバンドを選ぶにあたっては、いつも俺が個人的に好きなアーティスト、俺のオーディエンスにも注目してもらいたいと思う人たち、そして自分のショウ全体に誇りを持ってやっている人間としては、その冒頭を任せるに相応しいアクトであってほしいという条件から選んでいる。この2組はそれを満たしている。ツアーの度に誰を一緒に連れ出したいかという話になるけど、今回は周囲からロクでもないバンドの名前が幾つか候補に上がったりして、「俺はそんなやつら観たくないぞ。なんでそんなのをファンに見せなきゃならないんだ?」と頭に来たりもした。だから、そこは断固として我を通して、心から良いと思えるものをファンに提示することにしたんだ。ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーもエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイも、俺が自分でも観たいと思うバンドなんだよ。

インタビュアー:鈴木喜之

ナイン・インチ・ネイルズ『ヘジテイション・マークス』
2013年9月4日発売
UICP-1158 / \2,548(税込)
※日本盤オリジナル・ジャケット仕様/日本盤ボーナス・トラック1曲収録
1.ジ・イーター・オブ・ドリームス
2.コピー・オブ・ア
3.ケイム・バック・ホーンテッド
4.ファインド・マイ・ウェイ
5.オール・タイム・ロウ
6.ディサポインテッド
7.エヴリシング
8.サテライト
9.ヴァリアス・メソッズ・オブ・エスケープ
10.ランニング
11.アイ・ウッド・フォー・ユー
12.イン・トゥー
13.ホワイル・アイム・スティル・ヒア
14.ブラック・ノイズ
15.エヴリシング (オートラックス・リミックス) (日本盤ボーナス・トラック)

◆ナイン・インチ・ネイルズ・オフィシャルサイト
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