【インタビュー】Atomic Floydは、これからどこへ向かうのか

ツイート

Atomic Floyd(アトミック・フロイド)の最新イヤホンPowerJax+Remoteが「2013年度グッドデザイン賞」を受賞した。高いデザイン性はもとより、非常にクリアで精細ながらダイナミックでメリハリのあるそのサウンドは、初めて聴くものを一瞬で圧倒する強いインパクトを持っている。しかしながら本当の凄さは、この品質の高さがたったの定価14,800円で販売されていることだ。受賞に導いたのは、このクオリティをこの価格で提供するプロダクトの優秀さにほかならない。

◆Atomic Floyd画像

▲「2013年度グッドデザイン賞」を受賞したAtomic FloyのPowerJax+Remote。パッケージの質感も高く購入者の所有感をくすぐる。定価14,800円(税込)。
▲ファウンダーのジェームス・ストロング。
全てのパーツを自前で開発し、市場に流通している既存コンポーネントを一切使用しないで作り上げた結果、Atomic Floydは、現代的で知的なニュアンスを持ちながらもメリハリと雄大さをも持ち合わせた、極めて高い品質のサウンドを生み出す完成度をみせることとなった。数多くのバリエーション・モデルを有しているが、全てのモデルに共通して、常にクリアで明晰なトーンを放つ。

Atomic Floydは、2007年に設立されたイギリスのイヤホン・ブランドで、10年以上にわたりフィリップスでヘッドホンの開発とデザインに携わったジェームス・ストロングが、自身の描くハイエンドなイヤホンを作るために独立、誕生させたブランドだ。ファウンダーのジェームス・ストロングは、何を考え、何を求めたのか。一聴してAtomic Floydと分かるこの精彩なトーンは、どのようにして生まれたのか。Atomic Floydはこれからどこへ向かうのか。

来日中のジェームス・ストロングにコンタクト、インタビューを敢行した。

──フィリップスでは叶わなかったハイエンドイヤホンを作りたいというのが、そもそものスタートなんですよね?

ジェームス・ストロング:まずはじめに、他社のイヤホンとは全く違う、完全に差別化できるものを作りたいと思っていました。機能だけの商品はたくさんありますし、安いブランドにはスタイルを提供するものもありましたが、その両方をどちらも兼ね備えるブランドは見当たりませんでしたから。おしゃれ・ファッション性と高い機能を共に兼ね備えたものを提供することが、スタートです。Atomic Floydというブランド名の“Atomic”はパフォーマンスを、“Floyd”はスタイルを意味しているんですよ。

──具体的には、どのように開発を進めていったのですか?

▲PowerJax+Remoteのパッケージを開けたところ。キャリングケースにイヤーピースが同梱しているが、トータルデザインが整っており、ボックス自体の質感も非常に高い。
▲Atomic Floydのロゴは頭文字の「A」をデザインしたものだが、その形は音波を示すサインカーブで描かれている。
ジェームス・ストロング:スタイルとパフォーマンスを提供するためには、何をどうすれば実現できるかを考え、最終的に金属を使用することを決めました。金属は音を作り出すために非常に重要な素材なんです。そこには大きく2つの理由があります。

──それは?

ジェームス・ストロング:ひとつは、薄く削れるのでより空間を生み出す事ができるという点です。プラスティックだと素材自体が厚くなってしまい、充分な空間が得られません。アコースティックの空間が大きくできるのは金属の最大の強みです。イヤホンのような小さい筐体でも、その中で多くの空気をたくさん動かすことが、パワフルな音楽を作り出すための非常に重要なポイントになりますから。

──アコースティック・チェンバーの十分な確保ですね。

ジェームス・ストロング:そしてもうひとつの理由は非常に硬いことです。共振を抑えながら、クリアな音を提供できる。硬さは耐久性にも直結します。プレミアムな製品を作るのであれば、耐久性がないといけないと私は思います。長持ちしないとダメでしょう?ステンレススティールにこだわるのは、そういう理由です。

──金属と言えどいろんな種類がありますが、スティールがベストですか?

▲ハウジングはこだわりのステンレススティール。重厚で硬質、素晴らしい堅牢性と優れた音響特性を両立させている。
▲リモコン部分もハウジングと同様のステンレススティール製。表側には3ボタン、裏にはマイクが仕込まれている。
▲左が最新モデルのPowerJax+Remote、右がフラッグシップのSuperDarts+Remote。PowerJaxはダイナミック・ドライバーが1発、SuperDartsはBAドライバー×1、ダイナミックドライバー×1のハイブリッドタイプ。
▲各パッケージ。フラッグシップなだけあって、SuperDarts+Remoteのほうがパッケージが大きい。
ジェームス・ストロング:当初思っていたことを実現させるには、スティールがベストですね。ドイツグレードのステンレススティールで、非常にバランスのとれた精密で明快な音が出ます。メタルインジェクション(金属粉末射出成型法)で制作していますが、1300度の温度で10時間焼くので、とても長いプロセルがかかりますけど。スティールは今後も作り続けますが、もっと違う金属素材も考えたいと思い、現在検討中です。チタンも非常に面白い素材ですけど、製作が難しい素材ですね。

──確かに、Atomic Floydの魅力には頑丈さもあります。

ジェームス・ストロング:ケーブルにファブリックを使っているのも耐久性が高いからです。ポケットから出しても絡まないという使いやすさもありますし、リモコン部分もメタルで作ると非常に頑丈に作ることができます。最初はHiDefDrumとAirJaxとMiniDartsにハンズフリー用に丸いメダリオン・マイクをつけましたが、その後に、SuperDartsと発売とともに、HiDefDrum、AirJax、MiniDartsにも3ボタンリモコンを付けました。

──多くのブランドがリモコン搭載に懐疑的だった中、Atomic Floydは全モデル・リモコン搭載の決断は早かったですよね。

ジェームス・ストロング:そうですね。例えばBOSEやフィリップス、AKGなど大きなブランドが新製品を開発する場合、まず最初にいくらで売るのかを決めます。それから部品の経費などを考え、いくらまで製品にコストをかけられるかを計算するわけですが、往々にして十分な予算が残されているわけでもなく、スタート時から妥協してプロダクトがスタートすることになりがちです。だからAtomic Floydは、いろんなユーザーの使い方をリサーチし、我々自身もどう使うかを検討し、製品のコンセプトを生み出し、そこからどうやって作るかを検討し、最後にそれをいくらで売るべきかを考えます。考え方が全く逆なので、よりよい製品を作れると思っています。価格から商品を設計するトップダウンではなく、ボトムアップの方法は力強いプロダクトを生み出すのです。

──結果、Atomic Floydには常に「クリアで精彩である」という一貫したトーンが存在していると思いますが、その点はいかがですか?

ジェームス・ストロング:クリアなのは金属製であることが大きな要因ですが、やはりチューニングですね。低音は充分に必要ですが、でもあまり強くしてしまうとバランスが崩れます。ベースは生々しく、中音はクリアに、高音も同じようにクリアですね。

──特に2011年8月に登場したSuperDartsのサウンドは衝撃的でした。全く新しいレベルで、それまでに聞いたことのない音だったんですが、どういうものを作りたいと思って設計されたんですか?

ジェームス・ストロング:それはMiniDartsの精密な音のまま自然な低音を提供することです。バランスド・アーマチュア(BA)ドライバーの低音はタイトすぎてベースが硬いんですね。言い方を変えれば、デジタル感がある。その点ダイナミックは空気を動かすのでサウンドがナチュラルです。BAは振動するだけですから空気を動かす感じとは違いますよね。だから低域用にダイナミック・ドライバーをハイブリッドに設置しました。

──現在Atomic Floydには、ダイナミック・ドライバーのモデル、BAドライバーのモデル、どちらも搭載したハイブリッドのモデルと、3つのカテゴリーが有りますが、今後それぞれはどのように展開していくのでしょう。

ジェームス・ストロング:そこは興味深いところですね。確かに3つの具体的なセグメントがある点が面白い。ドライバーがどう進化するのかによって変わるので何とも言えない。そうですね、今後はBAドライバーをより多く使うことになる…かもしれないですね。

──私は、どちらでも同じ音を出せるブランドなのではないかとも思っています。MiniDartsにはダイナミックのようなトーンがあるし、PowerJaxにはBAのようなニュアンスもあるから。

ジェームス・ストロング:それはチューニングの作業です。全てのコンポーネントが自分たちのために開発したものですから、すべての要素に対してカスタム・チューンニングできるというわけです。ただ、ダイナミックもBAもそれぞれに特徴と技術上の限界があるので、そこを理解して微調整していますよ。

──これだけの実績とノウハウがあるのだから、オーバーヘッドのヘッドホンも作って欲しいのですが。

ジェームス・ストロング:ヘッドホンですか?みんなその話を訊くんですよ(笑)。我々が納得したものができれば発売します。

──そうですか!それは期待していますよ。絶対すごい音のヘッドホンを作ってくれると信じています。

ジェームス・ストロング:自分もそう思っています(笑)。期待してください。

──Atomic Floydはメタルの質感に赤いコードが大きな特徴ですが、このスタイルはこのまま継続されますか?

ジェームス・ストロング:良い質問ですね。赤いケーブルは継続するつもり…ですけど、他のカラーも検討する価値はありますよね。

──着脱できるリケーブルモデルの需要も大きいと思うのですが、その点はいかがですか?

ジェームス・ストロング:ケーブルの着脱はとても興味深いです。5万円以上するような高額なイヤホンのユーザーは、ケーブルもカスタマイズしたいという気持ちがあることや、リケーブル可能なモデルの需要があることはよく理解しています。

──高価格帯の新モデルが出てくる可能性もありますか?

ジェームス・ストロング:検討したいと思っています。

──Atomic Floydがハイエンドイヤホンを手がけたら、目の覚めるようなサウンドを出してくれそうな期待があります。待っている人、日本には多いと思いますよ。

ジェームス・ストロング:スマートフォンもどんどん音が良くなってきていますよね。イヤホン/ヘッドホン側もより良く、もっとクオリティを上げる必要があるのではないでしょうか。

──2013年秋は新製品の発表はありませんでしたが、2014年に向け新製品の予定はありますか?

ジェームス・ストロング:今の時点ではお話できません…が、これまでの話を含めてもう想像できるんじゃないですか(笑)?

──妄想します(笑)。楽しみにしています。

ジェームス・ストロング:ありがとうございます。楽しみにしていてください。

Atomic Floydは、現在、年明けのアメリカ進出に向けて、着々と準備を進めている状況にある。全世界の50%のマーケットとも言われるアメリカにおいて、Atomic Floydは一気に全ラインナップを市場に投下する予定だ。低域が強いサウンドを好む人が多いということから、北米ではSuperDartsが人気を博するだろうと、ジェームスは分析する。私個人的にも最も好きなモデルはSuperDartsなのだけれど、「2013年度グッドデザイン賞」を受賞した最新モデルのPowerJaxが、日本国内においてショップ店頭で1万円を切ることを考えると、このコストパフォーマンスは完全に振り切れている。是非店頭で、Atomic Floydの「精彩でクリア」なサウンドを確認してみて欲しい。「お、凄い!」と思ったら、もうあなたはAtomic Floydから離れることはできなくことだろう。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

◆Atomic Floydオフィシャルサイト
◆【BARKS編集部レビュー】<秋のヘッドホン祭2012>できらりと光っていたナイスな一品、アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)
◆【BARKS編集部レビュー】Atomic FloydのSuperDarts+Remoteは、単にドンシャリにあらず(2011-09-11)
◆【BARKS編集部レビュー】常識の壁をぶち壊すアトミック フロイド・サウンド(2011-05-26)
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル
この記事をツイート

この記事の関連情報