【レビュー】サカナクション、徹底的に精密なクオリティを突き詰めた『SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction-LIVE at MAKUHARI MESSE 2013.5.19-』

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11月13日にリリースされるサカナクションのライヴ映像作品『SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction-LIVE at MAKUHARI MESSE 2013.5.19-』は、Blu-rayには2chステレオ音源、5.1chサラウンド音源、バイノーラル音源の3種類が、DVDには2chステレオ音源とバイノーラル音源の2種類が収められた、音のクオリティに徹底的にこだわった画期的な作品だ。リリースに当たり、この作品の制作に深く関わったドルビー・ジャパン社のリスニング・ルームでの試写会という贅沢な機会を与えてもらったので、レポートさせてもらおう。

当日のライヴ会場で使われていたのは6.1chサラウンド・システムだったが、現代の多くのリスナーのリスニング環境を考えて今回は5.1chを採用。まず重要な点は、これはただ会場内で聴いているような臨場感を再現するための手法ではない、ということだ。あくまでも“サカナクションのメンバーが本当に出したかった音”をあらためて作り上げることが目的で、聴き心地は細部に至るまでスタジオ録音並みの精密なクオリティを誇るもの。いわばライヴを超えたライヴ作品という、徹底した突き詰め方が実にサカナクションらしいコンセプトだ。

冒頭のイメージ映像では、日常の街の中から非日常の海の中へと、次々と場面が移り変わるシーンで早くもサラウンド音響が抜群の効果を発揮する。そしてメンバー全員が楽器を持たずにコンピューターを操る姿が衝撃的な1曲目「INORI」から、ハウスやエレクトロなどクラブ・ミュージックの強靭なリズムとロックバンドの演奏を融合させ、派手なレーザービームや目も眩む多彩な照明を駆使した、アーティスティックかつエンタテインメント精神溢れるサカナクションの世界がスタート。

5曲目「ルーキー」までひたすらダンサブルな演奏が続き、一転して「multiple exposure」から3曲は静謐なエレクトロ作品といった趣のダークでスローな曲を続けたあと、演奏は再びテンポアップ。「なんてったって春」「ホーリーダンス」のような、ある意味ロックバンドが手を出しにくい淡々とクールなキック四つ打ちの曲をポップに聴かせるのは、サカナクションの大きな個性の一つだろう。こうしたエレクトロニックなサウンドとサラウンドの相性は、言うまでもなくとても良い。

ここからは、当日のライヴのハイライト。「僕と花」「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」「ネイティブダンサー」の3曲を“SAKANAQUARIUM 2013 VERSION”としてリアレンジしたもので、特に「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」のオペラチックなコーラスが5つのスピーカーから飛び出してくる瞬間の衝撃は鳥肌ものだ。揃いのサングラスをかけてコンピューターの前に並んで立つ5人の上で、星が降るように照明が瞬き、「ネイティブダンサー」では大量の銀紙が宙を舞う。視覚的にも聴覚的にも、この映像作品の最大の見どころの一つがこのパートにある。

ライヴの後半は、おなじみのシングル曲の連発でスピードを上げて一気に最終コーナーを回って駆け抜ける。“みんなまだまだ踊れるか!”と叫ぶ山口一郎の煽りに2万人の大歓声が応え、生身のバンドサウンド中心の「アドベンチャー」から、再びオペラチックなコーラスに体を包み込まれるような「Aoi」、そして艶やかな“舞妓ダンサー”が華を添えた「夜の踊り子」まで、ノンストップで盛り上がる会場内の熱気を数多くのカメラがとらえ、完璧な音響がそれを支える。2万人が波のように揺れるシーンを後方から映したアングルや、最前列で飛び跳ねるティーンエイジャーたちのはじける笑顔など、どこを取っても印象的なシーンばかりだ。

アンコールには山口の長めのMCと、「ストラクチャー」「ナイトフィッシングイズグッド」「朝の歌」の3曲を収録。「ストラクチャー」では、光によって色が変わる“フォトクロミク分子”入りの繊維で作った衣装(コンサートで使われるのは初)を着て山口が歌い踊る幻想的なシーンも映像でばっちりわかる。MCで山口が“チーム・サカナクション”=全スタッフの充実を誇り、“これからも期待され続けるバンドでいたい”と語った通り、音楽制作はもちろん、ライヴや映像作品でも常に進化していきたいというサカナクションのコンセプトが明確になったという意味でも、この映像作品はバンドにとって極めて重要な足跡だ。

DVDに収録されているバイノーラル音源は、元になる5.1chサラウンド音源をスタジオで鳴らしたものをバイノーラル・マイクで録音するという手間をかけたもので、自宅にサラウンド・システムを持たないリスナーがヘッドホンで聴くために最適な音響効果が楽しめる。さらに初回限定盤には、「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』-SAKANAQUARIUM 2013 VERSION-」のLAPTHODによる映像リミックス、5月22日の大阪城ホール公演の一部を定点カメラにより“4K高解像度フォーマット”で収録したもの、さらにライヴの企画立案から、スタッフや山口一郎へのインタビューを含む映像作品の制作過程を詳しく辿った豪華ブックレットも付属する。

ここまで音楽性、テクノロジー、エンタテインメント性のすべてにおいて貪欲なバンドが今ほかにいるだろうか? 彼らのライヴ未体験の方にも薦めたい、未知の刺激溢れる革新的映像作品がここにある。

文●宮本英夫

『SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction -LIVE at MAKUHARI MESSE 2013.5.19-』
11月13日(水)発売
【Blu-ray初回限定盤】Blu-ray+Booklet / VIXL-119 \5,800(tax in)
【Blu-ray通常盤】Blu-rayDisc / VIXL-120 \4,800(tax in)
【DVD初回限定盤】DVD+Booklet / VIBL-688 \4,800(tax in)
【DVD通常盤】DVD-VIDEO / VIBL-689 \3,800(tax in)

◆サカナクション オフィシャルサイト
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