【インタビュー】織田哲郎、ソロ・デビュー30周年記念インタビューPART3:音楽を作ることだけが自分の幸せだから、オレの音楽が世の中から望まれる限りはやっていく

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■スペインのあの事件があった時に自分でもよくわかった
■こういうことも起きる。そりゃそうだよって

──織田さんの30年史の中でも大きなターニングポイントですね。相川七瀬の大ヒットは。それで順調に行くかと思いきや…99年ぐらいにまたも煮詰まりの時期がやって来るという…。

織田:そこの煮詰まりは単純です。結局それまでは、自分の中で“プロとして生活できてればいいや”という考え方がまったくない状態で、“常に自分がワクワクして90点以上のものを作れるかどうか”ということを大事に生きてきたんだと思うんですよ。結果的にね。その時にそんなことを考えてたわけじゃないけど、結果的にそうだったと思うのは…相川を抱えちゃってから、ほかのものもプロデューサーとして抱えて、しかも何だかんだでビーイングを完全に離れて、プロダクション部門はほかのやつを事務所の社長に連れてきてやってもらったりもしたんだけど、やっぱりオレが社長としてお金の話をしなければいけなかったりするわけ。そういうことがどんどん増えていき、しかも相川のものは次々と作らなきゃいけないし、いろんな責任を抱えてる中で、“もう無理なんだけど”と思いながらやってる期間が、そこから数年続いちゃったわけですよ。

──それは…キツイですね。

織田:もうワクワクもへったくれもねぇよ、みたいなね。ほら、サナギってさ、ほっときゃいずれ虫が出てくるじゃない。でも“出ろ!”って言ってサナギの皮を破ったら、ドロドロしたものが出てくるだけじゃない? そのドロドロしか出せない状態で、“このままだと終わるよ”と思いながらやってた時代だったんですよ。酒飲んでないといられないし、酒びたりの中でよくあんなに仕事してたなと思うんだけど、体が元気だったんだろうな。でたらめな日々ですよ。毎日泥酔。でも仕事はしてたんですよ。ゲロ吐きながら仕事して、朝方になって酔いがさめたらまた飲みに行って…という日々をずーっと繰り返して、明らかに体が壊れてるなと思いながらやり続けてた。

──それはいつか絶対に止まりますよね。止めさせられるというか。

織田:うん、だからね、スペインの強盗には感謝してるんだよ。

──いや、それはそうだとは言えないですけど…。(*2000年夏、旅行先のスペインで強盗に襲われて首を絞められ、声帯がつぶれてしまうという事件)

織田:いやほんとに、あいつのおかげでその状態が止まったんだから。それぐらいのことがなかったら、止めようがなかったと思う。オレ、意外に真面目なんでね。責任というものが生じちゃってると、逃げ場がなかったのよ。でもあとで考えると、すべては音楽家としての自分というものが根底にあってこそ始まってるにも関わらず、音楽家としての自分をおろそかにして生きていた数年間だったから。だからスペインのあの事件があった時に、自分でもよくわかったもん。“こういうことも起きる。そりゃそうだよ”ってほんとに思った。そこで初めて“オレは仕事を全部整理するから”と言って、すべてを一旦白紙!にしたの。

──人生何度目かの白紙ですけど。理由の深さがこれまでとはだいぶ違いますね。

織田:そこから自分はいったい何をやりたいのか、やりたくないのかをどんどん整理していって。そこで“もう歌を歌えないかもしれない”と思った時に、初めて心の底から歌いたいという思いが湧いてきた。初めてですね、実感としてそういう思いを感じたのは。それでほら、神様も、歌えないわけではない程度の声を残してくれたので。昔に比べれば音域は狭くなっちゃったけど、それも考え方でさ、オレはもともと高い声で張り上げて歌うのは嫌いだったの。聴く側としては好きじゃなかったんだけど、自分がそういう声が出るもんだから、やると“ワー!”って言われるからやってたところがあって。でももともと、何を一番よく聴くか?といったらニール・ヤングやポール・サイモンだったりするから。あんまりワーワー言う人はうるさいから好きじゃないんだよ(笑)。

──そうなんですか(笑)。

織田:ここ何十年で一番好きなのはクリス・レアだったりするわけで。神様に言わせると“おまえはもともとこういうのが好きなんだから、それができる程度の声を残してやったんだよ”みたいな感じ? そういう意味じゃ、よくしたもんだなぁという感じなんだよ。

──そこから2007年に久々のオリジナルアルバム『One Night』を作り、80年代のベスト『GROWING UP』を出して、最新作に至るわけです。今はその2000年以降の、歌える喜びを持って歌っている状態が続いているということですか。

織田:そう。もう二度と自分がスポイルされるような状況には持っていかねぇぞというのは、強い姿勢として自分の中にあるから。自分が楽しいことをきちんと楽しめる中でしかやらないぞ、と。そうは言ってもね、忙しいのは好きなんだよ。音楽を作るのが義務になったらすぐ終わっちゃうと思うんだけど、それをやってるのが楽しい間は、人よりも相当頑張れちゃう。たぶん体力自体があるんだろうな。楽しいことに関してはいくらでも頑張れるんだけど、楽しくないことにはもともと頑張れなくて、そこで変に頑張っちゃうと心身にダメージが来ちゃう。

──ここ何年かはサウンドトラックであったり、アニメに関わる曲であったり、これまでとちょっと違ったフィールドの活動が目立ってますよね。それは自然な成り行きで?

織田:基本、全部成り行きです。縁って、こじらせるとどんどん悪い縁になっていくけど、整理しておけばどんどんいい縁につながる、そういうものだと思うんですよ。“ヘタな縁のこじらせ方はしない”ということを意識しているから、いい縁がどんどん出てきてくれてるなという気がする。

──また自分を白紙に戻したくなるような衝動は…。

織田:たぶんないんじゃないかな。もうそんなことやってる暇ないしね(笑)。それは一つには、自分の中で結論が出たところがあるから。もともと好奇心が強かったんだけど、自分が何者であるかなんてわかんないじゃないですか? 若い時って。でも好奇心が強いから、どこに自分の価値観があるか、どこに自分の幸せがあるか、いろんなことを試してみた。で、いろんなことをさんざんやってみたことが、ここ数年で自分の中で結論が出た。オレはやっぱり音楽を作ってる時の“これ最高!”と思える時の幸せを超える点数はほかではない、ということがわかったんですよ。

──はい。


▲織田哲郎『W FACE』KICS-1977~8 ¥3,150(tax in)発売中
織田:つい10年ぐらい前まで、他のフィールドでも“もっとこんなことをやってみたらどうなんだろう?”というのがあったけど、もう何もそういうのはないです。結論として出ちゃったから、あとは音楽を作ることが楽しいと感じられる自分でいさえすれば、そのペースを守りさえすれば、というだけです。

──シンプルになりましたね。

織田:ものすごいシンプル。やっとそうなりましたよ。

──そういう人生の実感は、若い人にはたぶんまだわからないと思うんですよ。織田さんの音楽にはその感覚がしっかり沁み込んでいるので、若い世代を含めたいろんな人に聴いてほしいと思います。

織田:あと思うのはね、オレの中にはすごく職人的な気質というものがあって、特に幸せだと感じる瞬間は、自分の熟練を感じる時なんですよ。何かをやる時に“こういうふうに熟練したから今これができるようになった”と感じれば、やってきて良かったと思うじゃないですか。そう感じれる瞬間は、本当に幸せだなと思いますよ。それは曲作り、アレンジ、楽器の演奏者とかいろんなことに関して、自分の熟練を感じる瞬間はほんとに幸せだなぁ。

──ニューアルバム『W FACE』を、織田さんを初めてしる人にぜひ聴いてほしいですね。そしてこの長いインタヴューの締めくくりに、一つ聞きたいことがあるんですよ。今年の夏、高校時代を過ごした想い出の地でもある高知県の“よさこい祭り”に出てましたよね。

織田:出ましたよぉ!

──映像で見たんですけど、あんなにうれしそうな織田さんの顔を見たことがなかったので、どんな気持ちだったのかをぜひ知りたいなと(笑)。

織田:本当に楽しかった! あれは自分の人生の中で…オレはね、気が済んだ時にはすごいあっさりしてるんだけど、気が済まないことに関しては猛烈にしつこいんですよ。自分の中でケリがついてないなと思うことがあると、それを何十年でも持ってるの。あきらめずに。それで、一個ずつケリをつけていってる。残っちゃってることが嫌なの。だから“よさこい祭りの地方車(じかたしゃ)の上でギター弾いたら楽しいだろうな”ってずーっと思ってたから、一回やりたかったの。もう残ってることって、それぐらいしかないんだよね。

──最後の大物だったんですね。

織田:だから本当に楽しかった! 大学のチームと一緒にやったんだけど、またいい子たちなのよ、彼らが。向こうにしてみりゃ、変なオッサンが混じるのはどうなのよ?と思ったかもしれないけど、すごくあったかく迎えてくれて。気は使ってくれながらも仲間として一緒にやって、すごくハッピーな感じだったな。大学生の夏の祭りなんて、彼らにとって大事な思い出のひとコマじゃない? そんなところに混ぜてもらっちゃって、本当にありがたいよね。

──これで気が済んだ、と。

織田:うん。ずっと思いが残っていたものって、もうないからね。ここから先は、音楽を作ることだけが自分の幸せだということをわきまえたから、オレの音楽が世の中から望まれる限りはやっていくというスタンスなので。自分から“あれをやりたい”とか、何もないの。自分としては、そこにより熟練を感じていければハッピーだし、それが人の喜びにつながってくれればますますハッピー。それだけですよ。

取材・文●宮本英夫


『W FACE』
KICS-1977~8 ¥3,150(tax in)
発売中
【DISC1 アルバム】
1.天啓 ver.3
2.FIRE OF LIFE
3.馬鹿なんです
4.背中には今もブルースが張りついたまま
5.Winter Song
6.Just Another Day
7.After Midnight
8.R&R is my friend(W FACE ver.)
【DISC2 アルバム】
1.月ノ涙
2.伝言
3.あなたのうた(W FACE Ver.)
4.砂の城
5.aino uta
6.チャイナタウン・ララバイ
7.You've Got A Friend
8.いつまでも変わらぬ愛を(21st century ver.)

◆織田哲郎 オフィシャルサイト
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