【インタビュー】滴草由実、デビュー10周年に『A woman's heart』完成「アルバム1枚分を破棄して、“これだ!”というものに辿り着けた」

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■1人の女性として感じてきたことや伝えたいことを一曲一曲に込めた
■葛藤やしがらみの中で生きている同世代の女性に頑張ってもらいたい

──『A woman's heart』の制作自体はいつ頃から取り掛かったんですか?

滴草:もう、3年半くらい前から(笑)。新たなスタイルを模索しながらも、曲作りの手を止めたくはなかったので。でも実は最初、このアルバムとは別のテーマで一枚アルバムを作っていたんです。その時は自分以外の作家さんに曲を作ってもらって、そこに詞をはめるカタチで。

──そのアルバムはカタチになったんでしょうか?

滴草:いや。アルバム1枚分ができたんですけど、納得できるものにならなかったんですね。作詞の面でも歌の面でも、何十回と書き直したり歌い直したりして、相当こだわって作ってはいたんですけど、『A woman's heart』のような“これだ!”っていうものに辿り着けなくて。

──自信を持って世の中にリリースできるものにならなかったという?

滴草:そうですね。やっぱり自信を持って届けたいものじゃなければ絶対リリースできないし、納得するものじゃないと違うなと。そのときは一曲ごと、小説みたいにテーマを決めて作っていたんです。けど、逆にテーマにとらわれてしまって、はみ出せなかったんですよね(笑)。言い方は悪いかもしれないですけど、ぶっ飛んだものを作ろうと思っていたのに、作品としては良いものになったんですけど、新しくない気がして。そう思っていたときに、別の人からトラックが上がってきたので、テーマや固定概念を取り払って自由に、“自分が聴く側だったらどんな曲を聴きたいか?”を考えて作った曲に、“おっ!?”と感じて(笑)。それがアルバム『A woman's heart』のきっかけになった「feel」という曲です。偶然できた曲というか。でもそこから、それまでの作り方を全部変えて、サウンド面でも今までは全くやってこなかった手法を採り入れようと開けていった感じですね。

──「feel」を突破口に『A woman's heart』に至ったという?

滴草:「feel」ができてから、声の出し方のコツを新しく覚えて、アルバムの中のガツンとした曲でもちゃんと表現できるようになったんです。そのときの自分にとって、それは凄く嬉しいことで。もちろん詞の部分を細かく考えたり、聴いてくれる人のことを想像したりしながら、基本的に凄く楽しんで作れました。

──今回は、ほぼ全曲の作詞作曲を滴草さんご自身が手がけてますが、そこにはこだわった部分ですか?

滴草:すべて自分でやりたいということは特になかったんですけど、トラックを作ってくれた人の音に、自分の曲や詞を乗せていくということが、凄くハマったというか。

──トラックが先にあって、そこにメロディや詞を滴草さんが乗せたということですね。

滴草:そうです、トラックが先ですね。トラックを聴いた最初のインスピレーションで、そのときのリアルな自分の感情に合わせて曲を作っていきました。そういう作り方も初めてだったんです。

──サウンドは打ち込みと生楽器が混在している印象ですが、トラック作りに滴草さんが参加されることも?

滴草:基本的にはお任せしていたんですけど、自分にイメージがあるときはスタジオで話し合って作ることもありました。

──たとえば「Why?」はシャッフルリズムのブルースロック調ですが、こういったテイストも滴草さんのルーツにあったものですか?

滴草:中学生の頃からブラック・ミュージックは好きでしたけど、「Why?」みたいなテイストの曲は初めてでした。アルバムだし、遊び心のある曲を入れたいというのがあって。トラックを作ってもらう前に“こういう曲をやりたい”という参考曲を持っていったりして、これまでにあまりないテイストの楽曲も入ってますね。

──では、『A woman's heart』というタイトルにはどんな想いが込められてますか?

滴草:デビューして10年になるんですけど、人間としてだけではなく、1人の女性として感じてきたことや伝えたいことを一曲一曲に込めたという。自分と同じような葛藤やしがらみがある中で生きている同世代の女性に頑張ってもらいたいと思って、こういうタイトルのアルバムにしました。

──アルバムには男性が女性心理を知るためのよい参考になりそうな曲が並んでますね(笑)。

滴草:あはははは! そうですね。

──たえば1曲目の「I don’t Love You」からして否定形のタイトルですし、前半はどちらかというとネガティブな言葉が多い印象ですが、歌詞はどんなことを考えて書きました?

滴草:女性は恋愛になると強がってしまうクセがあると思うんです。わけもなく涙がツ~って出てきたりしても、堪えてしまうような。でも、泣きたければ我慢しなくていいし、吐き出すことで前に進めると思う。「I don’t Love You」はガツンと言うんじゃなくて聴いてくれる人に寄り添うような揺れる気持ちを、浮遊した音へリンクさせるように作りました。ボーカルも浮遊感を出すためにいろいろな工夫をしているんですよ。

──その辺りにも新しいスタイルが出ている感じですね。

滴草:そうですね、ここまでコーラス・ワークで音を作ったことは今までなかったですし、「I don’t Love You」ができたときにこのアルバムの全体像ができたというか。“この世界観が自分の新しいスタイルかもしれない”と思えたし、その頃には、作るときに余計なことを考えず、聴き手の立場で、どうやったら心地よいかなという視点になってたので。

──いち音楽ファンとして?

滴草:そうですね。今までにないものを自分に探してたので、この曲ができたことでアイデアも広がっていきました。

──「change~interlude」は、そのタイトル通りのインタールードですが、場面転換のための曲と考えていいでしょうか?

滴草:違う世界に行きますよ、ということを示すための曲です。前半は攻めたかったし、新しい自分を聴いてほしかったので個性的な曲を入れているんですね。で、4曲目の「Y.O.L.O」の後にバラードとかミディアム・テンポの柔らかい曲を持ってきているんですが、「change~interlude」で場面を転換させた後に、そういう流れに持っていこうと。

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