【インタビュー】リクオ、“風通しの良い柔らかい音”を求めレコーディング環境にもこだわったアルバム『HOBO HOUSE』

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1990年にデビューして以来、軽やかなピアノと温かいボーカルで音楽ファンを魅了しているピアノマン・リクオ。様々なミュージシャンとのコラボレーションでも存在感を発揮する彼が、5年半ぶりのオリジナル・ソロアルバムをリリースする。“HOBO”という言葉をキーワードに、“風通しの良い柔らかい音”を求めレコーディング環境にもこだわった今回のアルバムについて話を聴いた。

■70年代初期から中期くらいのアメリカのシンガーソングライター達の
■柔らかく奥行くのある音の質感を一つのお手本に考えました


――『HOBO HOUSE』はオリジナル・ソロアルバムとしては『What's Love?』以来、5年半ぶりの作品となるわけですね。これだけ長い間が開いたのはなぜですか?

リクオ:リリース自体は「MAGICAL CHAIN CLUB BAND」(2012年にウルフルケイスケらと結成したバンド)やカバー・アルバム(2010年『RIKUO&PIANO』)、コラボ・アルバム(2012年『HOBO CONNECTION VOL.1』)を出してはいたんですけどね。このアルバムも本当はもっと早い時期にリリースするつもりで、レコーディング・セッション自体は2011年の7月から始めてたんですけど、3.11を経ていざ本番のレコーディングをするとなった時に、それまで思い描いていた内容とか、レコーディングを予定していた楽曲では作品にできないなと感じて。その後もソロ以外のアルバム制作をはさみながら、レコーディング作業自体は続けていて、曲が出来たら慎ちゃん(笹倉慎介)のスタジオに入らせてもらって録音してたんですけど。

――相当長い期間をかけてのリリースなんですね。

リクオ:レコーディングしても使わなかった楽曲やテイクもあって、時間はかかりましたね。ただ、時間に追われることなく腰を据えて制作することが、当初からの希望ではありました。今回は通常の地下にあるような密閉したスタジオじゃなくて、ゆったりとした風通しの良い空気の中でレコーディングしたいと考えていて。70年代初期から中期くらいのアメリカのシンガーソングライター達のアルバムの柔らかく奥行くのある音の質感を一つのお手本に考えました。

――そのレコーディングの環境として選ばれたのが埼玉県入間市の米軍ハウス街にある笹倉慎介さんのスタジオ「グズリレコーディングハウス」なんですね。

リ オ:当時の米軍ハウスをそのまま残していたり、当時と似た木造のハウスを建てたりして景観を残しながらの再開発をしているジョンソンタウンとい呼ばれる街の一角に彼の運営するスタジオがあるんです。僕はジョンソンタウンでSO-SOというカフェをやっていた夫婦と以前から知り合いだったことで、その街と以前から縁があったんです。そこに7年前くらいに慎ちゃんが引っ越してきて、自宅の古い木造のアメリカンハウスをコツコツ自分でリフォームしてスタジオ化したんですよ。最初は個人のためのスタジオだったのが、環境が良いこともあって、噂を聞いてハナレグミとかジョン・B・チョッパーとか色んな人がレコーディングで使い始めたんです。今回のレコーディングは風通しの良い環境でやりたいということと、新しい才能と一緒にやりたいということを考えて。まあ若い生血を吸い取りたいという(笑)。それで共同プロデューサーとして慎ちゃんには多方面で関わってもらってます。

――「夜明け前」という曲では共作もしてるんですね。

リクオ:2011年7月の最初のレコーディングセッションのオフの日にレコーディングの余韻の残しながら2人で書いた曲です。この曲が自分にとっては、3.11以降初めて出来た曲なんです。

――スタジオには宿泊施設もあるんですか?

リクオ:ありますよ。毎回レコーディング後、夜中近くに、ミュージック・カフェ「SO-SO」に行って飲んで食って、スタジオに戻って寝て、昼前からレコーディングっていうパターンです(笑)。

――煮詰まったりしたら気分転換に周囲を散策したり?

リクオ:スタジオの周りは緑が多い区域で、スタジオの真ん前が公園なんですよ。その奥が森で(アルバム・ジャケットインナーに画像有り)、日中は自然光の中でレコーディングできるんですよ。スタジオの窓も大きいんで。そういう良い空気感の中で時間をかけて制作したんです。

――それがはっきりと音に表れていますね。

リクオ:そうですね。自然に音に反映させることができたと思います。

――前作ではストリングスを多用した派手なアレンジでしたが、今回はだいぶ変わりましたね。

リクオ:今回はストリングスを入れる場合でもあえてチェロとヴァイオリンと2本だけにして、ダビングもしませんでした。

――アレンジの違いに、リクオさんの心境の変化表れているように思えたんですが。

リクオ:極端な変化はないですけど、世の中が刻々と変わって行くことに影響は受けますね。だんだん日本社会に閉塞感が強くなって、寛容性がなくなってきているような気がして。だからこそ風通しの良い柔らかい作品にしたいという意識がありました。

――ああ、なるほど。それは3.11のことだけじゃなくて。5年半の間に、例えば清志郎さんをはじめとするミュージシャンの方々がお亡くなりになったことも影響はありますか?

リクオ:それはありますね。ネガティブな意味ではなくて、死というものが身近になってきているというのは、自分の表現に影響を与えていると思います。

――そんなリクオさんのライフワークになっているイベントが「HOBO CONNECTION」ですよね。

リクオ:これはバンバンバザールの福島(康之)君と一緒に企画してるイベントなんですけど、毎年3月から4月にかけて日本各地で色んなミュージシャンとコラボ・セッションするんです。

――そして今回のアルバム・タイトルが『HOBO HOUSE』ということで。

リクオ:そうですね。“HOBO”という言葉が僕の1つのキーワードになってますね。

――収録曲についてお聞かせください。「光」は以前からある曲なんですか?

リクオ:この曲は10年位前に出来た曲なんですよ。歌い続けるうちに自分の中で意味合いが変わってきた曲です。

――冒頭から「そろそろ終わりにしようじゃないか」と、最近の世の中を踏まえて書かれた曲かと思っていたんですけど、そうではないんですね。

リクオ:はい。10年前に書いた曲なのに、3.11以降の自分の気持ちを代弁してくれているような歌詞なんですよね。

――「光」のPVを見ると椎野恭一(ドラム)さん、寺岡信芳(ベース)さん他、気心の知れた方々とレコーディングされたことがわかりますね。

リクオ:実は今回のレコーディングは、初めて音合わせメンバーも結構いるんですよ(笑)。椎野さんもそうだし、もう一人のドラマー、北山ゆう子ちゃんやベースの伊賀航君も今回初めてで。ペダル・スティールの安宅浩司君はライヴでは何度も共演してるんですけど、レコーディングは初めて。参加してくれたメンバーに共通する姿勢として、みんな我を押し付けないんですよね。良いサウンドを共鳴させる為に自分がどういう演奏をすれば良い かという発想で臨める “For The Music”っていう姿勢で演奏してくれるメンバーばかりでした。

――そこにレコーディングスタジオの環境も合いまって、こういうサウンドになっているんですね。

リクオ:そうですね。木造の柔らかい響きを味わえて、居住性も抜群のスタジオだったので。

――それはHOBOというキーワードにもリンクしているんですね。

リクオ:色んなミュージシャンたちがフットワーク軽くスタジオにやってきて、良い演奏をして、またフットワーク軽く去ってくんですよね。その姿が旅人みたい、HOBOっぽいとい うか。グズリレコーディングハウスには風通し良く旅人が自由に出入りできるというイメージがあって、そこからつけたアルバム・タイトルなんです。

――HOBOという言葉自体をリクオさんが意識し出したのはいつ頃なんですか?

リクオ:バンドをやり始めた20歳位の頃ですね。20世紀初頭のアメリカで、仕事を求めて無賃乗車で渡り歩く労働者の事をHOBOと呼ぶというのを知って。自分が好きなミュージシャンがその言葉を使っていたりもしましたし。佐野(元春)さんが自分のバンドの名前に使っていたり、チャボ(仲井戸“CHABO”麗市)さんにも「ホーボーへ」っていう曲があったり、僕の中では昔から馴染のある言葉でしたね。

――それが長い音楽人生の中でより強いテーマになってきたということでしょうか?

リクオ:年間120本前後のツアーを続ける自分自身の旅暮らしがHOBOに近づいてきているというか。あとは寅さんにも近づいてる気がして(笑)。

――『男はつらいよ』の寅さんですか(笑)!?

リクオ:寅さんはテキ屋で、日本全国を旅してるじゃないですか?僕も手売りの物販を持って日本全国を旅しているんで(笑)。実演販売です(笑い)。僕が好きなミュージシャンの多くがツアー暮らしをしてたので、そういう暮らしへの憧れもありましたしね。それと若い頃に多くの先輩ミュージシャンの方々によくしてもらって、色んな街に連れて行って頂いた影響も大きいです。有山じゅんじさんを始め、石田長生さん、友部正人さん、憂歌団のみなさんや、西岡恭蔵さん。清志郎さんにも良くして頂きましたし。

――そうした先輩たちとの活動が今のリクオさんのスタイルを作っているんですね。

リクオ:清志郎さんは特に。RCサクセションは邦楽で最も良く聴いたバンドだし、実際に仕事をご一緒させて頂いてからも影響は受けましたね。

――ちなみに、鍵盤奏者としてRCサクセションのG2こと柴田さんからの影響ってあるんですか?

リクオ:あると思いますよ。G2さんは清志郎さんやチャボさんの、黒人音楽やルーツ・ミュージックに対する憧れをもっとポップにアレンジしていたというか。たぶ ん、清志郎さんが自分の好みだけでバンドをやっていたら、もっとアメリカン・ルーツミュージックよりのディープなサウンドになっていたんじゃないですかね。それをG2さんが媒介となることでRCサクセションの音楽をポップに洗練させる方向に持っていったと思います。RCサクセションからは、憧れの音楽と自分のパーソナリティの兼ね合いの仕方とか、そういう面での影響も受けてると思います。憧れはしても真似にはならないという。それは憧れてる人達のハートの部分もコピーしていたからだと思うんですけどね。

――なるほど。そういうスピリットはリクオさんの曲からも感じます。

リクオ:そうですか、ありがとうございます。

◆インタビュー続きへ
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