【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第1回 椎名もた編Vol.7「J-POPと戦う」

ツイート
音楽プロデューサー、藤井丈司による連載対談。全8回でお送りする椎名もた君との対談Vol.7をお届けします。

◆【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第1回 椎名もた編Vol.6「ボーマス。そして家を出る」

Vol.7「J-POPと戦う」

藤井:えー、炊事、洗濯の話から戻りますが(笑)。

椎名:はい(笑)。

藤井:このCDのジャケやビデオとか、そういうヴィジュアルのことは、先に椎名君がメイサさんとかに対して何かアイデア出すんですか?

椎名:いや、完全に自分はメイサのファンなんで、信用をおいてるというか、丸投げすることが多いですね。自分がどうこう言うことによって生まれる何かじゃなくて、自分と誰かが衝突してできる化学反応を楽しみたいというか。

藤井:あぁ、キャッチボール。そして、丸投げと化学反応を楽しみたい、と(笑)。十代の言葉なんだろうか、これ(笑)。君、ほんとは28才なんじゃないの(笑)?

椎名:(笑)

藤井:この絵は全部メイサさん?(CDのインナーの絵を見ながら)

椎名:これが繋がってるんですよね、実は。

藤井:繋がってるんだ…。

椎名:こことこういう……(と、絵を並べ替える)。

藤井:(それを見て)あ、そうなんだ! へぇ~。

椎名:で、裏テーマがあって。

曽根原:ツギハギ。

藤井:ツギハギ….ですか(笑)。そういうテーマって、打ち合わせがあるの?

椎名:今回は簡単な打ち合わせがあった。

藤井:じゃあ打ち合わせは、今はしてるけど、最初の頃ははしないで、曲作ったから、これに絵をつけてよ、っていう事だったの?

椎名:お任せで。

曽根原:で、今回はツギハギだから、ぐっちゃぐちゃにしてくれって言ったら、これがきた。いきなりポンって。おもしろい!って。

椎名:やった!って。これ写真撮っていいですか?

藤井:あ、全然いいですよ。こういう風に並べた資料って作ったの?

曽根原:出してないですね。

藤井:じゃあ今撮りましょうよ。

藤井:だけど、メイサさんの絵じゃなくて、ジャケットは写真なんですよね?

曽根原:はい。 僕らがやってるGINGAっていうレーベルは、ボーカロイドの中で、初音ミクとかの意匠に頼らないようにしてるんです。純粋に音楽だけで、曲は、歌ってるのはボカロだけど、音楽だけでっていうコンセプトで始めたレーベルなんです。

藤井:なるほど。

曽根原:だから、ジャケットのいちばん最初に、ボーカロイドのキャラクターが出てくることはないんです。

藤井:で、このメイサさんの絵を使わなかったっていうのも、強すぎるから?

曽根原:それも、強すぎるし。1枚目の話をするのがいちばんいいんですけど、やっぱり今までの流れを汲むんだったら、表1にメイサちゃんの絵がくるのがいちばん。

藤井:今までは必ずメイサさん。

椎名:同人の時は全部そうで。

藤井:GINGAになって、メイサさんの絵じゃなくなったっていうこと?

曽根原:表1に関しては、そうです。

椎名:長く売れるものを作りたいっていう話になって。

藤井:あぁ、おもしろいね。

曽根原:ほんとに、ボカロPのジャケに関して、けっこう昔から僕は思ってたんです。音楽よりも前に出てくるものが多いパターンが多いんですよ。それがミクだったり、ボカロのキャラクターだったり、あとは人が描いた絵だったり。そこのパンチの強さって半端なくて、そこの裏にいるであろうアーティストが霞んじゃうなと思って。

藤井:なるほど。

曽根原:お前誰やねんっていうのを、最初の時に作る時にめっちゃ話して。今回も、やっぱりキャラを使わずに、世界観を写真だとかそういうもので……。

藤井:(ジャケの写真を見ながら)これは空気がね、入ってるから。あとは、音楽もボカロも含めて、マイクで録った音じゃないから、空気が入れられないんだよね。音楽に空気が入ってないから、やっぱりジャケには空気が入ってるのがいい。

椎名:だから写真とかも全部、やっぱり風化してるものだったりとか、時間軸や、生命だったりとか。水滴が落ちてるのは、この中が蔦なんですけど、ここに時間の流れもあるし。

藤井:確かに、(メイサさんの絵を見ながら)これがジャケットだとすると、やっぱりこういう子がイメージされて中にいるのかなっていう、仮面劇というか、アニメみたいになっちゃうじゃないですか。だからやっぱりジャケには絵がないほうが全然、物語としてちゃんと、空気感のある話なんですよっていうのが、伝わっていくよね。

曽根原:そうなんですよね。ボーカロイドのシーンだとかアニメだとかのシーンで戦うんじゃなくて、やっぱJ-POPと、最終的に戦わなきゃいけないなっていうのは、思ってます。

藤井:おおー。いい事言うね(笑)。

曽根原:はい(笑)。J-POPの人からしたら、たぶん嫌悪があるんですよ、そのアニメっぽいキャラとか。

藤井:なるほど、そうかも。

曽根原:そういうのを払拭したいと思ってるんです。ボカロPも、ちゃんとアーティストなんだよっていうことを、誰かがやっていかないと、たぶんニコ動の中に収められて、そのままそこでぐるぐる回っていくだけっていう。そこから早く、出せ出せって言って、誰かやらんといかんなと思ってるんです。

藤井:でも、僕はいつも、ポップスっていうか、歌のある音楽をよく聴くんだけど、それとほんとに同じように聴いて、いつもよりやっぱり深く感動したから、そういう面では……。

椎名:関係ないっていうことですかね……。

藤井:うん、だから関係ないんだっていうことも衝撃だった。

椎名:そうなんだ……。

藤井:やっぱりボカロで作っても、ボカロPと呼ばれている椎名くんっていう人の、パーソナリティに感動するわけなんですよね。この音楽と、歌詞と、この声なのか、初音ミクなのか、ルカなのか、そういうすべての混ざり方は、椎名くんのパーソナリティなんだよ。

椎名:はい。ありがとうございます(笑)。

藤井:俺いちばん上手いなと思ったのが、言葉の切り方。例えば“言って”って歌詞があるとするでしょ、ボカロのプログラミングだと、“い”と“て”だけじゃ、「い」「っ」「て」でしょ? 途中の破裂音が難しい気がするんだけど。

椎名:あぁ、あんまり……意識したことはないですね。

藤井:わりと人間の歌い手さんでも、「ここで切ってね」っていうのが難しくてさ。ここが「っ」と切れないと、言葉としてぐっと来ない。そういう切れ方みたいなのって大事だし、無理やり後で切ったりするんだけど、そういうのがすごく上手いなっていうか。

椎名:たぶん打ち込んで、吐き出したものを、切ったり貼ったり、してます。

藤井:ツギハギ。ツギハギP(笑)。

椎名:(笑)。

インタビュー&文◎藤井丈司

  ◆  ◆  ◆

次回。連載対談、椎名もた編Vol.8「「マンガ」と「音楽」」をお届けいたします。

【椎名もた Information】
2nd Album
『アルターワー・セツナポップ』
2013年10月9日発売
[初回生産限定盤]
UMA-9026~9027 ¥3,000円(税込)
※商品仕様 CD+DVD
三方背スリーブ+ブリキ缶ケース
カード型リリック集 12枚封入
[通常盤]
UMA-1026 ¥2,700(税込)
※商品仕様CD
ジュエルケース
Tracklisting
1.ピッコーン!!
2.MOSAIC
3.パレットには君がいっぱい
4.Q
5.ウソナキツクリワライ
6.forgot me not
7.シティライツ
8.Halo
9.ツギハギ
10.嘘ップ
11.かげふみさんは言う
12.LIVEWELL
13.vanilla flavor piece

◆椎名もた オフィシャルサイト
◆椎名もた オフィシャルTwitter
◆藤井丈司プロフィール
◆藤井丈司Facebook
この記事をツイート

この記事の関連情報