【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第2回 ばるぼら編Vol.3「イヤフォンで聴け」

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藤井丈司連載第2回目は、『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』や『消されたマンガ』(共著)などの作者である、ばるぼらさんが登場。本日4月21日には赤田祐一氏との共著第2弾『20世紀エディトリアル・オデッセイ』発売したばるぼらさんとの全5回に渡る対談のVol.3をお届けします。

◆ 【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第2回 ばるぼら編Vol.2「同人とサブカルチャー」

Vol.3「イヤフォンで聴け」
(対談収録日:2013年11月16日)

  ◆  ◆  ◆

プロの人たちが聴くとはぁ?って感じかもしれないけど、
若い人たちの耳には、耳にペッタリとくっつく音のほうが気持ちいい


藤井:これは声を大にして言いたいんだけど、僕の周りでも、ボカロの良さっていうのがわからない人はすごく多い。それはね、ひとつには聴き方が違うなと思ってるんです。やっぱりイヤフォンで聴かなきゃダメですよ、ボカロは。

ばるぼら:あははは。

藤井:まずイヤフォンで聞け。それが、ありますね。

ばるぼら:それはすごいわかる。

藤井:あのさ、人間がマイクで歌うと、声の大小や声色の変化、歌詞によっての発音の変化、音程がふらつくとか、いろんなことが起きますよね。それをマイクっていうのは再現するから、歌は大きくなったり小さくなったり、スピーカーの音の中で前後に移動するんですよ。だけど、ボカロってのは、それがない。ただの音声サンプラーのロボットだから、スピーカーで聞くと、歌が動かないんですよ、どうやっても。感情が爆発したりしないし。それが、オジサンたちが「なんだ、あのボカロってのはよ!(笑)」って、吐き捨てるように言う理由です(笑)。

ばるぼら:(笑)。

藤井:だけどボカロは、イヤフォンで聴くと、ヘッドフォンでもいいですけど、すごい心の中に入ってくる。あのフラットな、感情がまったく入ってない歌い方で、ボカロならではの幻想文学的な歌詞を歌うと、耳から心の中に直接入ってくるんですよ。まるで、空気振動がないかのように、直接入ってくる。だから、手塚さんとか藤子さんとか、いわゆる純文学の漫画を読むような気持ちで、ほんとに心の中に入れようと思って聴かないと、「いいボカロの曲」っていうのは、ちゃんと体の中に入ってこないって感じがする。

ばるぼら:うんうん。だから最近のミックスの流行りなのかもしれないですけども、ギリギリまで音圧ぺったりして、くっついてくるような、あの空間処理みたいなものとけっこう相性がいい気がするんですね、初音ミクは。

藤井:そういう意味では、プロのマスタリング・エンジニアも必要ない。立体感を出す必要がないから。「スーパーフラット」なんですよね、あ、村上隆さんだ(笑)。

ばるぼら:立体感をずっとプロは求めてきたけど、それとは全然違う音楽の作り方が主流になったって事ですかね。だからプロの人たちが聴くとはぁ?って感じかもしれないけど、でも若い人たちの耳には、耳にペッタリとくっつく音のほうが気持ちいい。

藤井:イヤフォンで音楽を最初から聴くから、これでいい音楽っていうのがベースにあって、それが大きいよね。ほんとの携帯音楽っていうかね。その前の同人音楽からそうなんだろうけど、やっぱり歌い手さんとしての初音ミクっていうのが現れて、やっと独り立ちしたっていうか歌を歌えるようになった。ところが、それがただのロボットテクノじゃなくて、日本独特の文学表現と結びついたところが、他の音楽との大きな違いなのかな。

ばるぼら:なるほどね。

藤井:ケータイ小説と同じだと思うんです。あれを紙で印刷して読んでもおもしろくないけど、携帯電話って目との距離が近いから、読んでてドキドキしたりするでしょ。メールもパソコンで読むのと、携帯電話で読むのでは印象が違うし。だから目や耳との距離が近い文化というモノが生まれる必要があった。それが、音楽ではボカロ。しかもそれが日本製なわけじゃない? 日本人が開発したソフトによって、日本人だけがやってる音楽だから、ボカロって。日本独自のガラパゴスな文化で、それもすごくいいなと思ってます。

ばるぼら:初音ミクも、韓国語版とスペイン語版と、何かちょっと出してますよね。

藤井:英語も出してる。でもやんないですよね。

ばるぼら:なんかイマイチみたい。英語圏の人も日本語の曲聴くんですよ。

藤井:やっぱり洋楽っていうか、欧米のソウルとかポップスって踊れるとか、そういう体に訴えかけてくるものが大きいけど、日本人のボカロだけじゃないけど、日本人の歌って頭の中に訴えかけてくるっていうか。心に、言葉で訴えかけるっていう文化がすごく強いんだなと思うんですよ。そこであらためて、やっぱりボカロは、日本人が作ったものだなっていうか(笑)。

ばるぼら:(笑)でもなんだろう、イヤフォンで聴く一方で、カラオケでも歌うし、あとクラブでも踊るわけだし。今って全部が一体化して同じになるより、ここではこう、ここではこう、みたいなほうが多い。このハンドルで会ってる人たちには、自分はこういう性格のつもりで話してるけど、本名ではこういう性格のつもりで、みたいな。

藤井:あぁ、人格が違うってことか。ビリー・ミリガンみたいだな(笑)。

ばるぼら:人格がレイヤーになってる感じ。

めんどくさいコミュニケーションをしなくてよくなったっていうのも、
初音ミクが受けた理由の一つに絶対ある(笑)


藤井:おもしろい。

ばるぼら:音楽もそういう風に分かれてきて。

藤井:住み分けが。

ばるぼら:昔はマルチメディアと呼ばれたように、ひとつのものを五感全部使って全身で体験するみたいなのがあったけど、今は、意志が途切れやすいし、いろいろあるから、むしろ……。

藤井:意志が途切れやすい(笑)。

ばるぼら:集中力がないので(笑)。だからこっちはこっちで、こっちはこっちでっていう風に文化を分断して、それぞれで楽しむみたいな感じになってる気がしますね。

藤井:なるほどね。音楽の分断化か。勉強になるなー(笑)。

ばるぼら:あははは。あ、そういえば2000年代前半のことちょっと思い出した。インターネットラジオが流行ってました。

藤井:あぁ~。そう?

ばるぼら:2001年末ぐらいからかな。

藤井:あ、俺、テイ(TOWA TEI)君に何か教えてもらった。このラジオ、いいですよって。ロンドンのインターネットラジオなんだけど、すごいいい曲がかかってて。

ばるぼら:そうそう、そういう感じだったんですよ。でも日本はJASRAC曲が使えない、めんどくさいから喋りがけっこう中心になってくるんですけど、海外のを聴いてると、音楽がずっと流れてるのとかがおもしろくて。

藤井:そうだよね。

ばるぼら:で、日本には声優ラジオ文化っていうのがあって。

藤井:あぁ、それで声優さんが出てる。なるほど、そうなんだ。声優さんっていうのは、アニメ番組だけじゃなくて、声優ラジオ番組で。

ばるぼら:そう、ラジオっていうのはすごく大きくて。あの人たちのアドリブ力がすごいのでラジオの喋りがおもしろいんですよ。あと、もともと声優は演じる職業だけど、ラジオをやると今度は声優っていうイメージを演じるようになってくるというか、素の自分との割り振り、使い分け含めて面白い。で、そういう文化があって、だんだんウェブでも聴けるようになっていくんです。だから音楽を簡単に使えなかった日本のウェブって声優と相性がよかった。

藤井:ミクの声も声優さんだもんね。

ばるぼら:MEIKOとKAITOの声はシンガーソングライターの人でしたよね。ミクが話題になった背景にそういう声優文化があった影響もなくはないと思います。で、インターネットで活動してるアマチュア声優みたいな人たちっていうのがいるんです。その人たちはウェブで最初は声のサンプル音源を公開してたんですけど、ラジオもちょっとやるようになった。そのうち、その声優みたいな人たちの中に、歌も歌いますみたいな人たちがいた。初音ミクが出てくる前は、そういう人にお願いして歌ってもらってたんです、曲を。

藤井:なるほどね。アマチュア声優さんが歌ってたのか、ボカロ前夜は。

ばるぼら:アマチュア声優とかアマチュアヴォーカリストみたいな人たち。そういう人たちが有名になっていくと、お願いして頼み倒して、なんと歌っていただきました!本当にありがとうございます!みたいな感じで歌ってもらってたんだけど、そういうめんどくさいコミュニケーションをしなくてよくなったっていうのも、初音ミクが受けた理由の一つに絶対ある(笑)。

藤井:あはは(笑)。お願いします!って言わなくてもいい、と。

完全にユーザーの思う通りに任せればいい、
みたいな風にすると廃れてしまうと


ばるぼら:そういうのは2002~4年ぐらいからなのかな。で、ちょうどその頃、フラッシュアニメの流行も同じぐらいにあった。

藤井:お!これで絵師、動画になってくのか。

ばるぼら:ボカロにはまだまだ遠いですけど(笑)。フラッシュは最初はパロディっぽいのもあったんだけど、そのうちウェブでトランスとか打ち込み曲をフリーで公開してる人たち、Crankyさんとかの楽曲を使って、それに映像を合わせたフラッシュを作るのが流行るんです。

藤井:フラッシュアニメで。

ばるぼら:そう、PVって呼んでましたけど、単純に。モーショングラフィックスとか。作者でいうとスキマ産業さんとか。

藤井:動画師?

ばるぼら:動画師とは当時言ってなかったですけどね(笑)。そういう人たちがけっこう活動してて。だから物語、アニメらしいアニメを作る人たちと、そういうPV派みたいな人たちっていうのが分かれてて、フラッシュアニメでは。

藤井:絵師もいるの? 1枚絵の人とか。

ばるぼら:いますね。だからそういう人たちとコラボレーションしてやるっていうこともありました。

藤井:いよいよ、ボカロが始まるってことかな。

ばるぼら:残念ながら、ちょうど2005、6年ぐらいにフラッシュは廃れちゃうんです。みんな見なくなっちゃう。なんでかっていうと、YouTubeが登場して、じゃあYouTubeでいいや、みたいな(笑)。アマチュア作品よりもまずYouTubeで違法アップされたテレビアニメ見るわ、みたいなムードになっちゃうんですよ(笑)。

藤井:で、そこにニコ動が出てきて。

ばるぼら:そうそう、そこに対抗文化的に出てくるんですよ。

藤井:それで、それまでフラッシュアニメの人たちがニコ動に。


ばるぼら:一部は移るし、一部は辞めちゃう。やっぱりこの人たちも作者が若かったので、卒業して就職したりすると忙しくなって、一つの作品を集中して作るっていうことがなかなか難しくなって、新作が出なくなるんです、有名な人の。

藤井:まだまだ部活の延長なんだね。

ばるぼら:なかなかウェブの文化って続かないんですよ。ニコニコ動画の川上会長が言ってましたけど、完全にユーザー任せにした文化っていうのは廃れてしまうという。

藤井:はぁ~、なるほど。

ばるぼら:だからちょっとだけ手を出す、少しだけコントロールするみたいな感じでニコニコ動画はやってるという。

藤井:それは報酬っていうことだよね。何かに課金して。

ばるぼら:なんだろう、こういう方向性でいくとか、こういう文化が流行ってるとか、より使いやすくするとか、そういうディレクションも含めてのことだと思いますけどね。完全にユーザーの思う通りに任せればいい、みたいな風にすると廃れてしまうと。

藤井:絵師や動画はお金にならないんだよね。でも、まぁコミケが代表的だと思うけどさ、ボカロだって売れるとお金になるじゃない?

ばるぼら:なりますね。

藤井:ボーマスで。経済性が高いというのは、すごい大きなモチベーションになるよね、個人としてはさ。

ばるぼら:そうですね。やっぱりまだ当時はネットで課金するシステムがなかったので。フラッシュアニメを売るっていうわけにもいかないし。

藤井:なかなか難しいところだよね。と、ここまでいろんな話が出たけど……。同人とは、から始まって(笑)。1885年から(笑)。

ばるぼら:遠回りすぎる(笑)。

文◎藤井丈司

次回。連載対談、ばるぼら編Vol.4「ボカロ登場」をお届けいたします。

■ばるぼら(barbora)
ネットワーカー。
「ばるぼらアンテナ」等、多数のサイトを主催し、インターネットについての情報等を収集・分析する。
インターネット及び1980年代以来の日本のサブカルチャーに詳しく、その後も、情報量の高い著書を続けて刊行。
本日4月21日には『Quick Japan』立ち上げ人として知られる赤田祐一氏との共著第2弾『20世紀エディトリアル・オデッセイ』を発売した。


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