【インタビュー】HaKU、辻村が語る聴き手との“シンバイオシス”。「僕らはずいぶん時間をかけて、遠回りをして、ここに辿り着いた」

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ギターダンスロック。そうひと言で片付けてしまうのは、乱暴に過ぎる気がする。ソリッドかつ芳醇なサウンドと、独自のヴォーカリゼーションが織りなす色彩豊かなこの音世界を、既存のカテゴリーに振り分けてしまうのは実にもったいない。しかも今作『シンバイオシス』は、タイトルのごとく聴き手たる人間との“共生”をテーマに掲げて取り組んだ意欲作であり、結果としてバンドにいつにない拓けた印象をもたらした。“勝負のセカンドアルバム”とはよく言ったものだ。HaKUは確かにその勝負に勝ったし、だからこそ音楽ファンなら、この作品を聴かない手はないだろう。悪いこと言わないから、是非。

自分たちの音をシンプルに届けたいという想いがありました。
それは今回、何より言葉が変化したからなんです


──個人的興味でもあるんですけど、辻村さんって、最初からファルセットで歌っていたんですか?

辻村有記:そうなんです。なぜか地声で歌えたためしがないんです(笑)。だからすごくイヤだったですよ。カラオケに誘われたりしても、頑としてマイクを持ちませんでした。10代の頃って、人と違うことがコンプレックスになるじゃないですか。本当に自分のトーンの高い歌声が嫌いでしたね。

──それがなぜ歌うことに?

辻村:僕、音楽系の専門学校に通っていたんですよ。照明技術を学びに行ってたんですけど、専攻していたのが広く音楽を学ぶというコースだったので、PAだったりレコーディングだったりにも触れていたんです。その流れでMTRを買って、自分だけで遊んでたんです。昔から音楽だけは山ほど聴いていたので、見よう見まねで曲を作って、適当に歌も入れて。最初はもちろん自分の部屋の中で完結していたものだったんですけど、悲しいかな、人間ってそれを人に聴かせたくなっちゃうんですよね。で、試しに先生だったりに聴かせたら、意外なことに歌を褒めてもらえたんです。時を同じくして、学校でギターの(藤木)寛茂に出会って、校内のスタジオでギターセッションしたりもしてたんですね。で、足りない音を足していくうちに気付いたらバンド形態になったんです。それがHaKUなんですよ。その直後に、1曲だけオリジナルを作って大会に出たらグランプリを獲っちゃって、俺は歌っていてもいいのかなって。

──自己肯定感が生じた。

辻村:そうなんです。しかも同時にオーディエンス賞みたいなのを頂いて、歌声もめっちゃ褒められたし、曲も褒めてもらえたんですよね。自分には何もないと思ってたけど、1コあったんだなと思って、それを信じてみようと。でも、次の大会ではすぐ落ちたんです(笑)。そこではじめて悔しいと思ったんですよね。

──ああ、むしろそこがスタートですね。

辻村:そうですね。やっぱりそこからいろいろ追求し始めて、現在のHaKUのダンスロックができていったと思います。

──そのダンスロックが、今作『シンバイオシス』でひとつの結実を見ましたね。

辻村:そう言ってもらえるとすごい嬉しいですし、このアルバムを作るためにこれまでがあったと言っても過言じゃないと、現時点では思っているんですよね。

──色彩のコントラストがよりくっきりとして、HaKUという音楽がずいぶん伝わりやすいものになったと思います。

辻村:実際、自分たちの音をシンプルに届けたいという想いがありました。それは今回、何より言葉が変化したからなんです。今までは問題提起をして、その答えをお客さんと一緒に考えようっていうスタンスだったんですけど、自分なりに答えが出せたから、単純にそれを伝えたいって思うようになったんですよね。

──なるほど、これまで楽器のひとつとして存在していた歌声が、今作では物語を導いている。

辻村:ああ、そうです、そういうものを作りたかった。声を楽器のように捉えるというのは自分でもずっと考えてきたことなんですけど、その上で言葉を伝えるという武器を手にして、やっと今作みたいなものができたんです。例えば内向的で悲観的だった世界観も、すごく明るい言葉で表現できるようになってきた、その過程すらもこのアルバムに描けたと思っているんですよ。自分の変化をここまで刻んだアルバムというのは、もしかしたら二度と作れないかもしれないなとさえ思うんですよね。俺はこうやって変わってきたんだって自分で聴いてても感じられますから。

わかりきったことだったと思うんですけど、僕らはずいぶん時間をかけて、
遠回りをして、ここにたどり着いたんですよね


──もしかして以前は、“HaKUってこうだよね”と簡単に言われてしまうことに対しての恐怖感みたいなものがありました?

辻村:ありました、すごく。今作には、シンガロングできる楽曲も入ってるんですけど、以前はそれこそダサいと思っていたものなんですよ。

──ライブでオーディエンスと向き合う経験を積み重ねたことが、とても大きいんでしょうね。

辻村:それはもう、間違いないです。そこから『masquerade』って曲ができたんですけど、それでも最初はみんな歌ってくれるはずがないって俺は思ってたんです。でも、いざやってみると、一緒に歌ってくれるんですよね。その光景を目の当たりにしたときに、はじめて自分が求められてるんだなって実感したし、自分もまたみんなを求めてるんだということがわかったんです。そこを皮切りに曲を作って行ったら、バンドにもどんどんいろんな表情が出てくるようになって。

──まさに、共生できると実感できた。

辻村:そうなんです。「シンバイオシス」という、共に生きるという意味の言葉は2年前から僕の頭の中にあって、いつかこの言葉が使えるような作品ができたらいいなとは思っていたんですけどね。でも、その時点で、僕らは何とも共生できていない気がしていた(笑)。周りに言わせれば、音楽を誰に届けるのかといったらそりゃあ人に決まってるじゃないかって、わかりきったことだったと思うんですけど、僕らはずいぶん時間をかけて、遠回りをして、ここに辿り着いたんですよね。

──このアルバムが真のポピュラリティーを獲得できるかどうかは聴き手にかかっていることなので、ここでは何とも言えないですけど、でも確実に入り口が広くなりましたよね。HaKUという音楽は事実とても身近に感じられるようになった。

辻村:そうですね。入り口はめちゃくちゃ考えました。そこはひねくれるところじゃねーだろっていうのが最初にあって。だって聴いて欲しいんですもん(笑)。曲順とかもね、だからすごく考えましたよ。すんなり聴いてもらえるものにしたかったので。

──これ、外で聴くと気持ちいいの、知ってます?

辻村:ほんとに? 知らなかったです。外で聴いてみようかな(笑)。

──是非(笑)。本来は密室的な音楽であるはずなのに、音が広がっていく瞬間に出会えるんですよ、とくにアルバム後半。

辻村:わかりました(笑)。でも嬉しいですね。今作は本当に言葉が外に向かっていると思うので、オープンな環境に似合うと言われると嬉しいです。

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