【対談】松本孝弘×BARKS編集長、アルバム『New Horizon』への道程「今の自分なんて全く想像もしてなかった」

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■おこがましく聞こえるかもしれないけど
■「聴きたい音楽は自分で創る」主義なんです

烏丸:そこから25年のB'zの活動を経て、やっと『New Horizon』が誕生するわけですが、このアルバムに結びつく大きなポイントは何になりますか?

松本:やっぱり全部だと思いますよ。今まで何百本のショーをやってきて、どれぐらいのレコーディングに参加したのかよくわからないけど、その積み重ねで今があるっていうのはもう間違いないことだから。

烏丸:価値観が変わった機会ってありますか?

松本:それは歳と共に変わると思いますよ、やっぱり。昔に比べればだいぶ余裕ができましたよね。自分自身も含めてちょっと俯瞰で見れるというか。それと、○○みたいになりたいとか、△△みたいなプレイをしたいとか、そういうのは今はもうない。

烏丸:ある種達観した感じ?

松本:達観っていうのかどうかよくわからないけど、例えば僕が誰か…それこそマイケル・シェンカーみたいに、スティーヴィー・レイ・ヴォーンみたいに弾けるわけがないし。彼らみたいなフレーズを真似ることはできるかもしれないけど、そんなことしたって、このキャリアで、もうそれは意味がないじゃないですか? やっぱり自分自身が納得がいくというか、“自分が憧れる松本孝弘というミュージシャン”がやっぱり目標ですよね。僕、いつも言っているんだけど“上手い”じゃなくて“いいね”って言われるプレイヤーになりたいんですよね。「上手いね、松本さん」ではなくて。

烏丸:でも若い時は「上手いよね」って言われたかったでしょ。

松本:うん、それはもう最高の褒め言葉だと思っていましたよね……。

烏丸:その変化って何なんでしょう。

松本:わからないけど……僕は「上手いね」っていうのが、今はあまり褒め言葉だと思ってはいない。

烏丸:「上手い」の価値観が変わった気もするんです。当時はテクニカルなギタリストにばかり目が行ったけど、今聴くとイーグルスとか、めちゃめちゃ上手いですよね。

松本:上手い!し、いいですよね。

烏丸:あの上手さって何なんですかね。若い頃には全然気が付かなかったんだけど。

松本:そうですね。確かにハードロック一辺倒で聴いてきた僕らは、あの上手さが分からなかったよね。例えばブラック・サバスなんて、ここのところ昔のアルバムを聴いていたんだけど、すごい実験的で面白いんだよね。日本にも1970年代にいいバンドってたくさんいたじゃないですか。カルメン・マキ&OZとかクリエイションとか。ブラック・サバスってあの人たちに多大な影響を与えていたんだなっていうのが今になってすごく分かる。それにレッド・ツェッペリンやブラック・サバスやディープ・パープルやピンク・フロイドとか、いろんないいバンドが同じ時期にいたじゃないですか。彼らは、互いにものすごく影響し合っていたんじゃないかなっていう感じがすごくするんですよね。

烏丸:お互いに。

松本:そう。「いいね、カッコいいね、あの感じ」みたいな。で、「僕たちもそれやってみる?」みたいな感じで刺激し合っていた感じが、この歳になって聴いていると分かる気がするんですよね。

烏丸:熟成されたというか、本当の美味しいワインの味がわかるようになったみたいなことなのかな。その上にあってこその『New Horizon』なのでしょうか。

松本:どうですかね……僕としては自然に、その都度自分で創りたいとかカッコいいなって思うものを創っているだけですから。別にコンセプトがあったわけでもないし、今の僕が、2年あまりかけて創り続けていくとこうなりましたっていうことで。

烏丸:なるほど。

松本:僕は、自分が創ったものだから主観的なところがあるけれども、客観的に見られてそういう風に感じられるのであれば、きっとそういうこともあるのかもしれないですよね。

烏丸:テーマもレギュレーションも持たず、制作に入ったんですか?

松本:レギュレーションは、いつも全くない。もう何でもあり。良ければいい。でも、今はあまりさわがしい音楽は創りたくなかった。

烏丸:リスナーとしても心地いい音楽?

松本:そうそう。僕ね、ちょっとこう言うとおこがましく聞こえるかもしれないけど、聴きたい音楽は自分で創る主義なんですよね(笑)。例えば、車の中でもどこでも「こういうのを聴きたいな」と思ったら、それを自分で創ろうと思うんですよ。

烏丸:作りたいと思う気持ちに反し、満足するものが作れないジレンマみたいなものってないんですか?

松本:産みの苦しみはありますけどね。もちろんウェス・モンゴメリーのようなジャズのアルバムを僕は創れないですよ。でもやっぱり自分なりに気持ちいい音楽を自分で創りたいなっていうのはありますよね。

烏丸:自分の気持ちに素直に従いながらも、オーディエンスのことは意識しますか?

松本:そうですね。聴いてくれる人も「これ、なんかいいですよね」みたいな、「いいよね」ってなってくれて初めて創り手としての満足度も満たされるところはもちろんありますので。だから自分だけが聴きたくて、他の人は別にいいよねっていう創り方をしているつもりは全然ないです。

烏丸:単なるマスターベーションではないと。

松本:それはプロではないですよね。

烏丸:どんなオーディエンス像が想定されているんでしょう。

松本:男の子でも女の子でも、大人でも子供でも、お年寄りの方でも誰でもいいんですよ。インストゥルメンタルは、ほんとに人それぞれ好きなシチュエーションで聴いていただいて、皆さんの日常生活のサウンドトラックみたいな感じでいいと思うんですよね。

烏丸:それわかります。聴いてるといつの間にかその世界にすっぽり溶けこんで、音楽が生活を邪魔しないんです。だからね、もっと曲が欲しくもなります。

松本:そうですか、すみません。これぐらいの数が限界でした(笑)。

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