【ライブレポート】小室哲哉、「The Rose」を坂本美雨と披露

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小室哲哉と坂本美雨によるライブが9月24日にビルボードライブ東京にて開催され、これまでお蔵入りとなっていた、小室哲哉が日本語詞を付けた「The Rose」など全9曲が披露された。

◆小室哲哉×坂本美雨 ビルボードライブ東京 画像

「小室さんのことは小さい頃から大好きで、TM NETWORKもそうだし、10歳の海外、ネットがない時代から、高い紀伊國屋で『PATi PATi』や『WHAT's IN?』を買って、頑張ってファンをやってました。」とこの日も語っていたように、幼い頃から小室哲哉ファンだという坂本美雨。この4月には、彼女がパーソナリティを務めるTFM番組の公開イベントのゲストに小室を迎えてライブを披露したが、今回は小室がボーカリストとして坂本を迎える形でのライブとなった。

小室哲哉が操るピアノ、そしてサポートのギターという編成で行なわれたこの日の公演。観客は、ムーディーなジャズが流れる店内で、まずは六本木の夜景を眺めながら食事を楽しむ(今さら説明するまでもないが、ビルボードライブ東京はライブレストランである)。そしてステージ後ろの大きな窓を幕が覆い、いよいよ開演。

客席の合間を歩き、小室哲哉がステージに姿を見せる。軽く手を挙げて、観客の歓声に応え、そして六本木の片隅にTKのピアノの音色が流れだす。優しいタッチで始まり、曲の盛り上がりに合わせて感情を叩きつけるように奏でられた、globe「DEPARTURES」。

そして、坂本美雨がゆっくりとステージ中央へ。ソロプレイを披露していたTKは、その流れのまま次の曲に。坂本が歌い出したのは、globe「Can't Stop Fallin' in Love」。その歌声は、TKのピアノと絡み合いながら、会場に水を注ぐように丁寧に空間を満たしていく。

坂本美雨:こんばんは、坂本美雨です。

小室哲哉:「こんばんは、小室哲哉です。あ、えっと、(サポート)ギターは松尾(和博)くんです。「DEPARTURES」や「Can't Stop Fallin' in Love」のオリジナルのギターを弾いている人です。

坂本:(松尾の髪の毛を見ながら)こんな天使の輪の人が弾いていたんですよ、みなさん。

小室:のび太くんのようなね。

坂本:お集まり下さりありがとうございます。今日は2ndセットも控えておりまして、あまりお話に花が咲くといけないと、スタッフからきつくきつく言われておりまして、1曲1曲語りたいエピソードがあるんですけど、それはあとで、Webで……?(笑)25年、30年分ありますから。選曲は大変でしたが、時間の少ない中、私たちがどれだけ絞り込んだかを、ファンの方は感じていただけると思います。

この日のライブは、小室哲哉がこれまでに紡いだ名曲の数々を坂本美雨のボーカルで披露する、というコンセプト。続いて披露されたのは、渡辺美里の「悲しいね」。坂本は客席のひとりひとりに語りかけるように、歌を届けていく。一方、小室哲哉は、体を揺らしながら音を奏でていく。

さらに、小室哲哉作品の中でも隠れた名曲であり、過去、globeのKCOと披露した際に「個人的に好きな曲」と、小室哲哉も話していた「My kick heart」(オリジナルは宮沢りえ)。ちなみに坂本美雨にとって、宮沢りえが人生で初めて購入したCD(カセット)だったそうで、当時の宮沢りえの歌声を彷彿とさせるように、伸びやかに歌い上げていた。そして華原朋美作品からは、過去にも何度か両者で披露したことがある「LOVE BRACE」を賛美歌のような美しい響きで熱唱する。

ここで、TKハーモナイザーとして、2013年『ハモネプ』に出演した際に、日の目を見ることがなかった1曲(もし決勝に残れば歌われるはずだった曲)として、小室哲哉が大好きで、番組のために日本語詞まで書き下ろしていたという「The Rose」が披露される。ジャニス・ジョプリンの人生を描いた映画の主題歌であり、主演のベット・ミドラーがオリジナルを歌い、その後も多くのアーティストがカバーしたこの曲。小室のコーラスに後押しされるように歌い上げる坂本美雨。そして、じっと聞き入る観客。「この詞をどうにか世に出したい。こういう機会のたびに歌っていきたい。」と、坂本が語っていたように、小室哲哉の日本語詞によるこの曲は、今後、多くの人の耳に届けられる作品になっていくに違いない。そんな強さが感じられる1曲だった。

さらに、坂本美雨が小さい頃から大好きな曲で、彼女のベスト盤にも収録された「永遠と名づけてデイドリーム」。今回の公演で唯一、バックトラックを使用。坂本美雨バージョンのアレンジで、もちろん小室哲哉のコーラス付きという、ファン歓喜のサウンドが観客へと届けられる。ブルーの照明とあいまって、時間の隙間を行き来するような光景と歌声。そのパフォーマンスをファンは固唾を呑んで見守り、そしてこの日一番ともいえる大きな拍手が沸き起こったのだった。

そして、ふたりの口からは“共通点”ともいえる坂本龍一の名前も。

坂本:音楽的チルドレンというのかな。私は、デビューのプロデュースは教授のもとでしたけど、1枚だけ、最初にフルアルバムをプロデュースしてもらって。あの教授が私のために書いてくれた曲があって。でも、私はなかなか歌ったことがなくて。

小室:(坂本龍一は)大先輩で。まぁ、一番上は冨田勲先生がいるんですけど。日本の人が鍵盤メインっていうバンドって、あまりなかったのでね。そこの娘さんが、どうも僕の音楽が気に入ってくれているらしいよ、って噂で。最初は恐縮してたよね。

坂本:教授も「なに聞いてんのお前?」って感じでしたけどね。

小室:でも娘が好きならしょうがないなーって感じだったと思います(笑)。それからはやりやすくなりましたけどね(笑)。でもね、(この曲は)今回初めて聴かせていただいて。音楽的に素晴らしいなーと思ってね。ピアノのコードを弾かなくても、メロディーだけでも音楽が成り立つようにできてる。音楽理論としてね。……さすが芸大(坂本龍一は東京芸術大学大学院修士課程修了)。

坂本:「いい曲書くじゃん」って言っときます(笑)。

そんな坂本龍一が手がけた、坂本美雨のオリジナル曲「in aquascape」を本編最後に披露。「ありがとうございました。」と、一礼して、坂本美雨とギターの松尾がステージを降りた。

残った小室哲哉は、再び鍵盤へと向かう。スポットライトで浮かび上がる中、赴くままに感情を音に変えていく小室。それはまるで鍵盤で歌うかのよう。

そして、再び、耳にしたことがある音の重なりが、小室の指先から紡がれていく。導かれるように坂本美雨がステージに。そしてステージ後方の幕がゆっくりと開いていき、眼前には再び六本木の夜景が現れる。流れていくタクシーのテールランプの河、いくつものビルに燈された部屋の明かりひとつひとつに重なる<Seven days war Get place to live>というフレーズ。

「SEVEN DAYS WAR」

思えばこの公演、中盤で坂本美雨が「(私が)お客さんとして来ていたら、小室さんのコーラスを聴きたいだろうなと思って、『ここ歌ってください。』って、無理言って歌ってもらってます。」と話していたように、“ファンが聴きたい小室哲哉”の曲を“ファンが聴きたい小室哲哉のコーラス”とともに披露されることが多かった。しかしながら、やはり特筆すべきは、小室作品へのリスペクトが存分に感じることができた、坂本美雨の透き通るような歌声。

コアなファンであればあるほど、作品に対するふたりの想いが伝わってきたこの共演には、会場から、惜しみない拍手がいつまでも送られていた。

なおTM NETWORKは、春のツアー<the beginning of the end>の5月20日の東京国際フォーラムでの公演の模様を完全収録したライブDVD&Blu-ray『TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end』が、9月24日にリリースされている。

text by ytsuji a.k.a.編集部(つ)

◆BARKSライブレポート
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