【異色対談】ジェイク・シマブクロ meets ポール・ギルバート「俺たち、ふたりとも壁の壊し屋」

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高校時代、ポール・ギルバートのプレイに驚愕したジェイク。それから約20年を経ての初対面。年齢の差こそあれど、共に高度なテクニックを擁するプレイヤーであり(それを自慢できることだとは思っていないところも同じ)、ビートルズ愛好家であり、柚胡椒が大好きな日本通でもある。

◆ジェイク・シマブクロ&ポール・ギルバート画像

話を始めるよりも先に挨拶代わりのジャム・セッションからスタートした対談では、ロック・ギタリストの性(サガ)、ウクレレ奏者の悩みと挑戦、音楽を作り演奏することの楽しさや、観客への感謝など…愛器を片手に、存分に語り合った。


■2オクターブの音域しかないんだけど
■他の楽器とほぼ同じ音が一通り出せるから(ジェイク)

ポール・ギルバート:素敵な楽器だよね。

ジェイク・シマブクロ:ありがとう(チューニング♪)

ポール:チューニングはどうやって?

ジェイク:実は…ギターの上4弦なんだけど…(弾いてみせる)。

ポール:なるほど。Aは俺の一番好きなキーだ(笑)。

ジェイク:あははは。

ポール:じゃ、ギターの音、出そうか(♪♪♪セッション♪♪♪)

──ジェイクがポールを知ったのは、レーサーXの頃だったそうですね。

ジェイク:僕はハワイ育ちなんだけどね。生まれも育ちもそこで、ハワイの伝統音楽をよく演奏してた。こんな感じのを(ハワイアン風♪♪♪)。それが大好きで、だから僕のルーツはハワイの伝統音楽なわけ。

ポール:ウクレレのプレイヤーって子供の頃から始めるの? というのも、子供の頃って指が短いだろ? でも、これはネックも小さいし、だから5歳の子供でも身体のサイズに合うってことでウクレレを始めたりするのかな。

ジェイク:実際、現地ではこれが文化の大きな一部でもあるから、公立小学校では4~5年生で全員がウクレレの弾き方を習うんだ。

ポール:へええ…。

ジェイク:僕もそれで好きになって、で、10代の頃にはギター・ミュージックやロックン・ロールが好きになって。その頃なんだ、きみのバンドにもたまたま出会った。ああいうジャンルというか、ああいうサウンドにね。確か、きみのアルバムで僕が最初に手に入れたのは、犬が飛んでいるやつ(註:ポール・ギルバート&ジミィ・キッド名義で 1998年に発表された『フライング・ドッグ』。実質的にはポールのセカンド・ソロ作)。

ポール:あぁ!

ジェイク:あのアルバムを友達にもらったんだ。それを聴いて「うわぁ、これ、スゴイな!」と。曲も最高だし、ラインも最高だし、演奏も最高だし、すごく上手くプロデュースされているし。その後だよね、レーサーXに夢中になったのは。どのアルバムだったか忘れたけど、きみが登場して10分ぐらい弾きまくってるやつ。あれ、すごいよね。ほとんどライブ録りだよね?

ポール:っていうか、あっと言う間のレコーディングだったんだ。予算がなかったからさあ。

ジェイク:あははは。でも、とにかく素晴らしいエネルギーで驚異的な演奏で。

ポール:ありがとう。ウクレレ・プレイヤーとしてのきみの評判だと、スタイルの幅が信じられないくらい広いってことで、伝統的なウクレレのスタイルにはとどまらずに冒険して、クイーンのカバーをやったり…。

ジェイク:うん、うん。

ポール:ウクレレで「このリック、どうやったら弾けるのかな」って感じでやるわけ?

ジェイク:そうだね、確かにそう。ある時、気がついたんだ、ウクレレのプレイヤーだけ聴いている必要はなくて、誰でも…ミュージシャンなら誰の音楽でも聴いていいんだってことに。ギタリストでもピアニストでもヴァイオリニストでも。この楽器、2オクターブの音域しかないんだけど…。

ポール:俺の声域より広いよ(笑)。

ジェイク:あははは。でもね、これでも他の楽器とほぼ同じ音が一通り出せるから。少なくとも、(どんな曲でも)聴いてわかる程度には仕上げられる、ということはわかってたんだ。

ポール:全然ウクレレのスタイルじゃないやつで、最初に成功したのって何?

ジェイク:うーん、最初かぁ。最初は何だったかな…。たぶん、「While My Guitar Gently Weeps」のソロ・アレンジじゃないかな。

ポール:へええ。

ジェイク:ウクレレでは普通使わないテクニックを思い切りアレンジに導入したのは、あれが最初だったと思う。

ポール:楽器の可能性を広げた、ってやつだね。

ジェイク:うん、Youtubeにあがっている映像もあるけど、あれをきっかけに僕は、ウクレレ独奏のアレンジをどんどんやるようになったんだ。ポップスとか、有名な曲とか。

■お客さんのために演奏している時は
■慎重になんかなりたくないだろ(ポール)

ポール:俺の場合は…妹がバレエを習ってて。だから家でクラシックを聴いてたんだよね。そしたらある日、これが聞えてきて(「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」♪♪♪)、それで俺、「これギターでいけるじゃん」と思って。

ジェイク:あははは。

ポール:その前からウチは両親もクラシックをかけていたから俺も聴いていたんだけど、いいと思ったことがなかった。理由は、ロックなドラムが入ってないから。ロックなドラムが入ってないと俺にはダメだったわけ。それが、あれで壁が崩れたというか。「いいメロディだな」と。その後に出て来るストリングスのトゥットゥットゥルルル♪っていうラインもすごくカッコイイし。

ジェイク:うん。

ポール:それでわかってきたんだ、自分がギター・プレイヤーだからって、その…部屋の中にずっといなくたっていいんだ、と。外に出てって他のものを見てきたっていいんだ、とね。それでビートルズを自分なりに弾いてみたり(♪♪♪ 「All You Need Is Love」イントロ)…、ホーンのアレンジがどうなっているのかな、とかさ。

ジェイク:はい、はい。

ポール:あとは…、自分で持っていたロックのアルバムをひっくり返してみると、カンサスの「帰らざる航海(Point of No Return)」なんかは、ギターも入っているけど目立つのはオルガンとヴァイオリンなんだよね。こんな感じ(♪♪♪)。超速いアルペジオで(♪♪♪)。普通、ギターはそういうことをしないんだけど、どうやったら弾けるかを自分で考えていく、そうやって壁を壊していくのがすごく楽しかった。だから俺たち、ふたりとも壁の壊し屋ってことだな。

ジェイク:(笑)でも、きみは3部か4部のギター・コンチェルトをアルバムで演っているよね。

ポール:『フライング・ドッグ』に入ってたやつだよね。あれ、けっこうカッコ良くて(♪♪♪)。

ジェイク:そう、それ、それ。

ポール:元はハープシコードなんだけど、俺はそもそもあの曲が大好きで、美しい作品なんだけどハープシコードの弾きっぷりがハンパじゃなくてさ。とにかく自分で弾いてみたいと思って、楽譜をゲットしたんだ。ロックのやつなら、ロック・バンドはギター、ベース、ドラム、ボーカル、あと、たまにキーボードぐらいだから、何となく耳で聴き分けられるんだよね。それがシンフォニー・オーケストラ丸ごととなると…。あまりにも盛りだくさんで、一部は聴き取れるものの微妙なところは色々と無理で、だからスコアを手に入れる必要があった。これがまた、インターネット以前の時代には大変で。ようやくスコアを見つけたものの、俺、楽譜を読むのは大の苦手だから、キーボード奏者を雇ってきてもらって、4小節ずつ読み取ってもらったんだ。そのパートを覚えて録音して、そしたらそこは記憶から削除して(笑)、また次のパートを覚えて…と、その要領でストリングスのパートから何から、コンチェルト1曲分の全パートを読み進めた。

ジェイク:なるほどぉ。

ポール:でも、ライブをやるという段階になると…。ギタリストが20人必要で、リハーサルには2年かかって…みたいなことになるから(笑)。事実上不可能だよね。異なるパートが20あるんだから。

ジェイク:しかも、レコーディングした通りに演奏しなければならない、となると、よほどクールなやり方を考えないと。

ポール:それに、さっきの壁を壊す話じゃないけど、やってみてうまくいく時もあれば、そうじゃない時は「こっちはあんまり追求しないでおこうかな」と気付かされるんだよね(苦笑)。ああいうのは特に、ライブでやるとなるとかなり慎重にならざるを得ないし、じっくり腰を落ち着けて弾くっていうのは…楽しくないじゃん!

ジェイク:あははは。

ポール:きみがウクレレ持って跳び上がってる写真を見て思ったけど…、お客さんのために演奏している時は、慎重になんかなりたくないだろ。

ジェイク:うん。

ポール:心地よく、リラックスして(♪♪♪)、腕がこんなに上がっちゃったりするワケじゃん。そんなのギターの弾き方として正しくないって思われるかもしれないけど、ジミ・ヘンドリックスもそうだし、ガンガン弾くギタリストの腕はグイ~ンと上がっている。彼らはそんなこと気にしちゃいない。スタイルが違うんだ。というのが俺の場合、逃れられないロックなルーツってやつなんだろうな。楽器を叩きつけるように音を出したらガンガンにビブラートをかける。違うものから学びはするけれども、学んだことを持って必ずこの家に帰って来る、みたいな。そして子供の頃から親しんだエネルギーをもって演奏する、というわけだ。

ジェイク:言ってること、よくわかるよ。パフォーマンスに関しては…というか、クラシックの曲でも、実はロックの曲と同じくらい激しいのがあって、チェロにダブル・ベースが絡んできて、そこにバイオリンがギュインギュイン。

ポール:ははは。

ジェイク:それって、ギターとベースでブインブインブインッ♪っていうのと同じで。

ポール:ストラヴィンスキーとかね。

ジェイク:唯一欠けているのが視覚的な要素。オーケストラを見ても全員座ってきちんと弾いているだけで。

ポール:たまにクレイジーなのもいるけどね。

ジェイク:(笑)うん、でも想像するとさ、オーケストラの全員がステージで立ち上がって、全部暗譜して譜面も見ないで、オーディエンスと繋がりながら本気で演奏したら…ひたすら自分の楽器を演奏していたら、めちゃめちゃパワフルだろうね。それ以上にパワフルなものなんてないと思うよ。

ポール:それ、すごい発想だな。パートを暗譜するまでのリハーサルが大変だけど。

ジェイク:確かに(笑)。

ポール:リードのパートを覚えるのはずっと簡単なんだ。主旋律だからね。難しいのは、バッキングのパートを覚えること。

ジェイク:カウンター・メロディとか、そういうのだね。

ポール:単体じゃ意味を成さないから。他と一緒になってこそ素晴らしい。こういうの(バッキング・パート風♪♪♪)を覚えなきゃならないとなると…。こんなの、覚えるの無理だよな。

ジェイク:だからヴィオラのパートなんかはよく茶化されるんだろうね。ヴィオラの連中がそういうのを弾いてるから。

ポール:頭から3分ぐらいのところで。

ジェイク:そう、そう(笑)。で、それで終わって、またしばらくは座ってるだけ(笑)。


■ギターのテクニックはコントロールできるかどうか
■何を弾かないか、ということだ(ポール)

ポール:ところで、きみはウクレレを教えること、あるの?

ジェイク:前は、ね。今もハワイに住んではいるんだけど、ツアーが多くなる前はハワイにウクレレの学校を持っていたんだ。

ポール:ワォ!

ジェイク:そこで子供たちに教えたり。いや、子供だけじゃなくて大人にも教えていた。楽しかったよ。僕に言わせれば、ウクレレというのは最高の楽器だからね、その…、自分がミュージシャンだとは思えない人たちにとって。

ポール:あははは。腰が引けちゃう人たち、だろ。わかるよ。ピアノなんか前にしたら、「おっとぉ…」となってしまうけど…。

ジェイク:そう、ギターとかピアノとかヴァイオリンとか、ああいうのは場合によっては人を怖気づかせてしまう。「自分はそこまで音楽的な人間じゃないし」とね。でも、それがウクレレだと「あ、これならできそう、見せて!」となる(笑)。「やらせてみて」とね。そして何となく楽しめてしまうんだ。僕としては、その喜びを目の当たりにするのが嬉しくて。

ポール:最初はどんな曲から入るの? 人による?

ジェイク:そうだね。ストラミングの練習だけしているような人には、ビートルズの曲を教えたりするよ。「Love Me Do」とか。指一本で押さえられるコードを教えて(♪♪♪)、そうすると「え? それだけ? その2つのコードでいいの?」となる。

ポール:うん。

ジェイク:ここを1ヵ所押さえるのと、その1つ上と。それを行ったり来たりするだけ。C7とFのコード。それがわかるとみんな、「すごい!曲になっている!」って。

ポール:音楽が生まれて来るもんな!

ジェイク:うん、最高に気持ちいいよね。僕がみんなに言うのは、音楽を聴くのももちろん素晴らしいし癒しになるけど、楽器が弾けて音楽を作れるとなると、それはもう、ね、100倍ぐらいパワフルだよって。

──ふたりとも高度なテクニックで知られていますが…。

ポール:申し訳ないね。

ジェイク:あはは。僕も、それって自慢になるのかどうかわからないな(笑)。

──テクニックに対する考え方は、若い頃と少し年齢を重ねた今とで変わりましたか。

ポール:もちろん。僕はけっこう教えることをしているんだけど…。生徒たちがどこに力を入れているかに注目してみると、よくあるのが…得てして最も重要なことがテクニックとして分類されていないということで。テクニックというとスケールをすごい勢いで上がったり下がったり、と考えているようだけど、俺はまず最初に「じゃあ、一番大切なスケールを教えよう」と言って立ち上がるんだ。

ジェイク:うんうん。

ポール:「弾くんだったら、このスケールが最高だぞ。何しろパワフルで、座ったままじゃ弾けない。俺は怪我をしたことがあるくらいだ」と。ほとんどの人は、スケールというと、こうやって弾くよね(普通にスケール♪♪♪)。ギター・プレイヤーはこんな感じでスケールから入るんだ。

ジェイク:うん。

ポール:でも、プレイする、というのはこういうこと(エネルギッシュに♪!♪!♪!…♪)。これがスケールってもんだ(笑)。

ジェイク:イエ~ッ(笑)。

ポール:これ、やろうとするとかなりのコントロールが必要になる。エレクトリック・ギターは実に繊細な楽器で、弾いていなくても弦が音を立てるし、大きな音を出せばフィードバックするし。それをコントロールするだけでも、かなりの技術を要するんだよ。ひとつだけ音を出す時は、他の5本の弦は押さえておかなければならない。つまりこれがピアノだったら、音をひとつ出すために残りの87本の弦を押さえておかなければならない…という状況を想像してみなよ。ギターを弾くって、そういうことなんだ。ひとつの音でも…、ギターって本当に素晴らしい楽器で、どっちに進むこともできてしまう。初心者はひとつの音を弾いて他の弦をコントロールできずに一緒に鳴らしてしまうけど、本当に上手い人は大きなアクションでいい感じのビブラートも効かせて、スライドで入っていったりとか(♪)…それはまた、(弱♪)と慎重に弾くのとはまた全然違う話なんだよね。ギターのテクニックの多くは、コントロールができるかどうかにかかっていると思う。何を弾かないか、ということだ。

ジェイク:それはいい指摘だね。

■テクニックに優れていると自認している連中でも
■リズム的な情報が一切伝わってこない人もいる

ポール:昔、MR.BIGでスタジオに入っていた時、プロデューサーにGコードを弾かされたことがあるんだ、4時間ぐらい。

ジェイク:(苦笑)

ポール:「その音じゃない」「違う」って。あの日、俺はGコードというものを学んだ。

ジェイク:あははは。

ポール:(笑)みんな簡単だと思ってるだろ。「Gコードね、はい、はい(♪)」ってさ。でも、気がついたらGコードの鳴らし方は4通りあるんだ。親指が一番下、A弦がノイズを出さないようにミュートする、あるいはこうやって弾く(♪)、じゃなかったらこう(♪)と、いくらでも弾き方でGを鳴らせるんだ。

ジェイク:うん。

ポール:むしろ、そういうことが重要なんだよね、こういう(速♪♪♪スケール)のじゃなくて。俺、こういうの使ったことないし。こんなの、ただの製品検査だ。

ジェイク:うん、僕もまったく同じだよ。大事なのはコントロール。弦をコントロールすることと、僕はこんなこともよくやるんだけど(ファンキーに♪♪♪)。

ポール:それ、俺がチッカーズって呼んでるやつだ(♪♪♪)。

ジェイク:(♪♪♪)

ポール:(♪♪♪)

ジェイク:(プチ・セッションを終えて)あははは。

ポール:いいよね、これ。リズムもパワフルだし。それもあるんだよね。テクニックに優れていると自認している連中でも、リズム的な情報が一切伝わってこない人もいて。

ジェイク:うん。そう、そう。

ポール:今の俺たちのを聴いたら、誰だってリズムが取れると思う。その情報を楽器を通して伝えることができているからだ。これが、ただポワポワやっているだけじゃ…、例えば俺だって、こう(速♪♪♪)弾いたらそこにリズムはなくて、ただ流れていくだけ。

ジェイク:うん。

ポール:それが、こう(♪!♪!♪!)やると、何かパワフルなものが伝わる。その辺が見過ごされることは多いね。俺のせいじゃないよ。子供の頃にロックばっかり聴き過ぎたせいだ。責めるならヴァン・ヘイレンのソロを責めてくれ。

ジェイク:それだって別に悪くないさ(笑)。

ポール:やっとリズムの世界に戻ってきたって感じ(笑)。

■アップとダウンのストロークを交互にやる方が
■僕には理にかなっている(ジェイク)

ジェイク:あははは。僕の場合、ウクレレを弾く上でいつも難しいのは…、ラインの練習の時に、ほら、僕はピックを使わないから。

ポール:うん。

ジェイク:指で弾くんだけど、クラシックのプレイヤーだと、こう弾くんだよね(♪♪♪)。

ポール:あぁ、なるほど。

ジェイク:ね? だから、例えばパコ(・デ・ルシア)なんかを弾くとすると…、パコは好き?

ポール:あぁ、フラメンコの。

ジェイク:彼のプレイはスゴイよね。あのラインを弾けるように、僕はこういう奏法を編み出したんだ。親指と中指だけで(♪♪♪)。

ポール:お~、ワォ!

ジェイク:(♪♪♪)

ポール:それ、他にやってる人いるの? それとも、きみのもの?

ジェイク:いや、よくわからないけど、僕にはこの方がずっと理にかなってたんだ。ダウンとアップのストロークを使うのが好きなのは、ピックの模倣でね。クラシックのギター・プレイヤーはアップばかりだから常にこういうピッキングになる(♪♪♪)。それだとスピードが出るのはいいんだけど、ピックの利点としてダウン・ピッキングの時とアップでピッキングする時とでそれぞれ独特なトーンが出るというのがあって。

ポール:あぁ。

ジェイク:アップとダウンのストロークを交互にやる方が僕には理にかなっているし、もうひとついいのが、アップじゃなくてダウンでこんなふうに(♪♪♪)ストロークするとナノ1秒ぐらいの…、2つの音の違いをそこまで正確に聴き分けられるかっていうのはあるけど…。ダウン・ストロークして次にアップ・ストロークをすると、それで弦がミュートされるんだよね、ナノ1秒ぐらいだけど。

ポール:あぁ、つまり、(♪~♪~♪)じゃなくて(♪・♪・♪)ってことね。

ジェイク:そういうこと。だから、こんなふうに弾ける(♪♪♪)。この正確さが出るのが、僕は好きなんだ。どうしてかというと、子供の頃によくバンジョーの演奏を聴いていたから。

ポール:オォ、ワォ!

ジェイク:バンジョーの正確さって、そんな感じ。すごくトゥトゥトゥトゥトゥッ!って感じなんだ。

ポール:アコースティックの楽器って、そこがいいよね。きみはアコースティックでショウをやっているからね。俺には、ある意味それは闘いで…というのも、俺は歪んだ音に馴染んでるから。

ジェイク:あぁ、そうだよね。

ポール:音をひとつピッキングすると、ヴォリューム的にはプリングするのとほぼ同じで。

ジェイク:なるほどぉ。

ポール:だから、ハンマーリング&プリング(タッピング)のテクニックを使うのは、2つの手のバランスを取るためだったりもする。全部いちいちピッキングしなくても済むように。例えば、(速♪♪♪)と弾く時は、いちいち全部はピッキングしてない。これをアコースティックの楽器でやろうとすると、いつもやってることの半分が消えてしまう。

ジェイク:そういうことかあ。

ポール:タッピングは音量がずっと低いから、いきなりすべてをピッキングしなければならなくなって、俺の語彙がいつもの10分の1ぐらいになっちゃうんだ(笑)。

ジェイク:あははは。

ポール:そうなるともう、(♪♪♪)必死だよ、何から何まで(笑)。

ジェイク:きみからそういう話を聞くのは興味深いなあ。だって、僕からすると、子供の頃にきみのプレイを聴いて…ね、まさか、きみに克服しなければならない弱点があるなんて思いもしなかったから。っていうか、わかるだろ? 僕はもう、「すごいな、この人、パガニーニの曲だってすぐ弾けちゃうんじゃないの?」って思っていたわけで。

ポール:あははは。

ジェイク:ティラララティラララ~って、そりゃあもう、ピッキングのテクニックが見事に淀みなくて。

ポール:いや、ハマるところでしか使ってないから。ハズレたら最悪だし。あのテクがものすごく映える場合もあるんだよね。例えば、サウンド・チェックの指慣らしで、こう(速♪♪♪)。

ジェイク:すごいね。

ポール:ピッキングしているように聞こえるけど、それは最初のいくつかの音だけピッキングしているからで、そこはかなり力を入れてピッキングしておいて、あとは休みが入る。タッピングを入れるから(速♪♪♪)。これを全部ピッキングでやろうとしても全然ダメだと思う。無理だよ。きれいに響かせようと思ったら、やっぱりこうなる(速♪♪♪)。それに、こうすることでより力強く弾けるんだ。他の指が休んでるから。

ジェイク:なるほどねえ。

ポール:合間にそうやって、ちょっとした休みを挟んでるわけ。ずっとやってたら、あっと言う間に燃料切れだよ。

ジェイク:あははは。

ポール:だからアコースティックのプレイヤーを尊敬するよ。どんな楽器でも、アコースティックの人は大尊敬だ。だって、絶え間なく全てを当てていかなきゃならないんだから。休んでられないもんな。俺は休みを入れられるけどさ。

ジェイク:あははは。

ポール:ディストーションも休みをくれるし(笑)。


■世界中で一番怖いのが静寂(ポール)

ジェイク:隣の芝生はいつだってより青く見えるってやつじゃない?(笑)特にウクレレの場合はサステインが無いんだよね。サステインがまったく効かない。

ポール:ピンッと鳴ったら、それでおしまい(笑)。

ジェイク:(♪…)で、あとは消えてしまうんだ。だから僕も、本当に時間がかかったよ、演奏する上で、その…、何といっても大きいのはメンタル的なもの、だろ?

ポール:あぁ。

ジェイク:感情的なもの、だから、弾いていて、こう(♪サステインを効かせようとする♪)

ポール:がんばれ!(笑)

ジェイク:必死になってこう(♪サステイン♪)やってみても…。

ポール:そこで代わりにトレモロ・ピッキングってのは?

ジェイク:あぁ…こう?(♪トレモロ♪)う~ん、でも、やっぱり僕には同じ効果をもたらしてくれないなあ。(♪トレモロ♪)って、マンドリンっぽいテクニックだよね。

ポール:うん。

ジェイク:だから僕としては、音が消えたのは分かってるんだけど、それでもこう…(♪…)まだ鳴ってるつもりでキープしてみる、とかね。フィーリングだけを頼りに。でも、それに気づいたのはすごく大きかった。自分に聞こえていて自分が感じてさえいれば、音はそこで鳴っていなくても…。

ポール:まだ自分は弾いているのだ、と。

ジェイク:まだ事は起きている。その経験はまだ持続している。

ポール:うん。

ジェイク:まだ鋭意努力中だけどね。気にしないでいられるように、その…静寂を恐れずに。

ポール:わかる! そこが俺は全然ダメなんだ。世界中で一番怖いのが静寂(笑)。

ジェイク:あはは。だからソロでやるのはホントに怖いよ。自分が弾くのを止めたら、というか、何も起こっていない時は空気が死んでしまうというか、それでもう音楽は存在していないということだと思っていたから。でも、違うんだよね。経験は持続している。

ポール:でも、いいよね、人が考える静寂という認識をこっちで操作することができるんだから。

ジェイク:そう!

ポール:そこに音はもう無くても、身体に刻み込まれたリズムとかハーモニクスの要素が尾を引いて残っている。そこまでの自分の演奏が設定したものが、ね。たまに俺もギター・クリニックでやるんだけど、足でリズムを取りながら(♪)とひとつだけ音を鳴らし、それから(♪♪♪→静静静)と、この音の無い部分でもまだグルーヴは感じている。ということは、もはやそれは静寂ではないんだよね。

ジェイク:うん。

ポール:音楽的な間(マ)というか。

ジェイク:そう、そう。

ポール:でも、言う通り、(静寂は)怖いよなあ。

ジェイク:あははは。

■伝統的な琴の音楽が
■僕のプレイへのアプローチを変えたんだ(ジェイク)

──次のテーマは日本です。2人とも日本には所縁が深いということで、日本について話してもらえますか。

ジェイク:ハワイって独特で、向こうでも日本のカルチャーにはすごく馴染みがあるんだけど。

ポール:だろうね。

ジェイク:音楽に関して僕が覚えてるのは…、琴ってあるだろ?

ポール:あぁ、はい、はい。

ジェイク:伝統的な琴の音楽が、僕のプレイへのアプローチを変えたんだ。

ポール:ワォ! どうやって?

ジェイク:スペース(間・マ)が生かされているのが多い、ということとか。僕は「さくらさくら」をアレンジしたんだけど、あの曲の素晴らしい琴のアレンジを聴いて、それに導かれてこんな感じの音を(♪琴のような音♪)を…。

ポール:わぁ~。

ジェイク:(♪♪♪)…と、こんな感じのスタイル。違う感じのアタック、違う感じのトーン、それに触発されて僕もちょっと違った感じのものを思いついた。というのも、それまではピッキングのテクニックやストラミングのテクニックで手一杯だったからね。それが、あれで気がついたんだよ。トーンを作るテクニックにも、また違うやり方があるんだな、と。

ポール:あぁ。しかし今の、きれいだね。すごいよ。

ジェイク:ありがとう。弦のアタックの仕方と、コードのストロークの仕方、それだけなんだけどね。さっき、きみはGコードの話をしてたけど。

ポール:あぁ。

ジェイク:シンプルなコードだと思うだろうけど、それひとつを表現する方法はいくらでもあるという。

ポール:そう、そう。

ポール:「さくらさくら」の話が出たけど、俺は1990年代に日本に来るまであのメロディを聴いたことがなかった。で、ベーシックなメロディだからって誰かが教えてくれて(♪さくら♪)、武道館なんかの大きなショウの時、自分のソロの頭で使うようになったんだけど、それをワウ・ペダルをかまして弾いて…。

ジェイク:まさか!

ポール:それでひとしきりソロを弾いて、最後にあれをもう一度入れたいと思ったんだけど1オクターブ上になっちゃってて、それでメチャメチャになっちゃってさ(♪さくら没ヴァージョン♪)。「やばっ!」みたいな(笑)。

ジェイク:あははは。

ポール:申し訳なくて、1週間ぐらい「信じらんない、あんなことしちゃって」って(笑)。で、あれから色々考えたんだけど、あれって思い切りマイナー・キーで…。

ジェイク:うん。

ポール:(♪さくら♪)、これのハーモニクスをいじって、ベースノートを足したらどうなるだろう、と。(♪さくらベースノート入りヴァージョン♪)

ジェイク:う~ん。

ポール:(♪さくらベースノート入りヴァージョン続く♪)、で、最後はメジャーで終わる。

ジェイク:はい、はい。

ポール:もしかして、この方が間違えるより酷かったりして(笑)

ジェイク:あははは。

■ユズコショウは好き?(ポール)
■大好き! 世界で一番好きなもののひとつだよ(ジェイク)

──日本ツアーでいつも楽しみにしていることは何ですか。

ポール:おぉ。まずは食べ物だな。俺はとにかく日本食が大好きで、食べることにかけてはここが世界最高の場所だ。ふぐ鍋だろ、あとは…生きたままのイカって食べたことある?

ジェイク:あ、聞いたことはある。

ポール:ここ(ホテル)の下にあったんだ。すっごいおいしかった。あとはもう何でも。ファストフードですら。ラーメンやギョーザだって! まぁ、あれは中国から来たんだろうけど日本流になってるし。とにかく日本で食べるのが俺は大好きだ。でも、きみみたいにハワイである程度日本の文化に触れながら育ってきていると、別に目新しくはないのかもしれないけど。

ジェイク:いや、実際に来ると全然違うよ。

ポール:そう?

ジェイク:僕も日本に来て一番楽しみにしていることのひとつはそれ。食べ物が最高。きみが一番好きなのは何?

ポール:オーマイグッネス。どうだろう。それって、ビートルズの一番好きな曲を選ぶのと同じなんじゃない?

ジェイク:あははは。

ポール:(笑)全部いいんだもん。あと、季節や場所の影響も大きいし。

ジェイク:それは言える。

ポール:行く先々で、大阪だったらお好み焼き、とか、福岡にも名産があるし、北海道ならカニを食わなきゃ、みたいな。

ジェイク:うん(笑)。

ポール:今は春だから桜もちいっとかないと!とかさ。そういう、旬の素材とか季節に左右されるところにも、繊細な良さがあるよね。

ジェイク:まったくだ。僕は寿司の大ファン。刺身や寿司が大好きで、きみも鍋を挙げてたけど、あれも僕のお気に入りのひとつだし。つい最近、最高のチキン鍋を食べたよ。あれは、どこだっけ。確か福岡だったと思うな。

ポール:ユズコショウは好き?

ジェイク:あぁ、大好き! 世界で一番好きなもののひとつだよ。

ポール:俺も! アメリカではあれを知らなかったんだ。寿司にもついてこないし。日本に住んでて、ヤキトリについてきたから「何、その緑のは?」って食べてみたら、これが最高!

ジェイク:あははは。いいよねえ。いつか一緒に食事に行くべきだね、僕ら。どうやら好みが似てるみたいだから。

ポール:趣味がいいってことで(笑)。

──家族の話を少々。ポールは父親になったばかりで…。

ポール:なりました!

ジェイク:おめでとう!

ポール:ありがとう!

ジェイク:素晴らしいね。で、いくつなの? いつ生まれ?

ポール:彼はだいたい…生後5週間、かな。

ジェイク:わ~お! 生まれたばかりだね。

ポール:まだビートルズの曲を2つぐらいしか聴かせてない。

ジェイク:あははは。

ポール:そっちは?

ジェイク:2歳になったところだよ。

ポール:赤ん坊って、とにかく泣くじゃん。どうしてほしいのか、何が起こっているのか、自分では言えないからこっちが想像するしかない。この前、ずっと泣いてるから抱っこしたりあれこれやってみて、でもダメで。だからベッドに寝かせて腕をつかんだまま、ドラムを叩くみたいにして、チープトリックのドゥガダガドゥガダガ♪タカタカタカタカタカ?♪って、息子の手を一緒に動かしてやったら喜んじゃってさ。

ジェイク:ホントに?

ポール:「いいねえ、これ」みたいな顔してんの。あれが俺なりの解決策になった。腕をつかんで、タムのフィルを入れたりして、ロックなグルーヴをキメる。きみは何か、そういうあやし方のコツってある? 音楽は聴かせる?

ジェイク:うん、音楽が好きなのは間違いないね。こういう小さいウクレレも持ってて、それを弾いて跳んだり跳ねたりしてるよ。

ポール:へええっ!

■きみはたくさんの喜びや幸せを与えてる
■それが全てだよ(ジェイク)

──最後に。ポールは11月にMR.BIGのツアーで日本に戻ってきますよね。

ジェイク:そうだね。今度のツアーについては、どう思ってる?。

ポール:なんか、シュールだよね。俺だけじゃなくて、みんながそう感じている。というのも、通常、俺は極めて普通の人間のつもりでいて、有名だとも特別だとも感じていない。どうやって音楽をプレイしようか、そればかり考えているミュージシャンという実感だ。それが、ステージに上がって、そこが巨大な会場で、みんなが嬉しそうに迎えてくれて、パワフルな音楽を驚異的なミュージシャンたちと一緒に奏でていると、全然違う場所へ俺は持ち上げられてしまうんだ。それは素晴らしいことであり、ほぼ不可能なんだよね、その…心の準備は。以前だったら先の予定が見えていたから「よし、来月の俺はまったくの別人だ」と備えることもできたけど。いや、その別人のことも俺は大好きで、そいつでいることもまた楽しいんだよ。だから…ね、できるだけ自分の準備を整えるのみだ。たぶん、それは俺だけに起きる現象じゃなくて、観に来る人達もみんなそうなんだと思うよ。会場全体がレベルアップするような感じ。その感情にみんなで身を任せるんだ。俺たちだけじゃ無理。バンドが一体となり、客席も一体となり、音楽を通じて、友情を通じてエネルギーを生み出す。それが何といってもいい感じなんだ。実はちょっと思い出してるんだよね、こうやってプロモーションで来日して、ちょっとしたアコースティックのショウをやったりしていると、その高揚感が蘇ってきて「あぁ、これはもう平時じゃないな」って(笑)。

ジェイク:あははは。

ポール:これがあるから夢中になったんだ、子供の頃にレコードを聴いたりコンサートに行ったりした時と同じエネルギーであり感覚であり…、だから俺は本当に恵まれてるよ、ミュージシャン側でそれを経験できているんだから。さっきも言ったように、ショウに来てくれる誰もが同じ感覚を味わっているはずだけど、俺の心を捕えたのは、そもそもそれだったからね。だから、そのイイものを分かち合いたい。

ジェイク:そうだよ、きみはたくさんの喜びや幸せを与えてる。それが全てだよ。

ポール:で、それをまたみんなから返してもらってるし。独りでやってても…、例えばビートルズの曲は弾いてるだけで楽しいけど、武道館で1万人が 「To Be With You 」を歌ってくれるのと同じではないからね。

ジェイク:うん。

ポール:あれは圧倒される…圧倒される感覚だ。それに、たまにはドラムも叩かないと(笑)。

ジェイク:あははは。

ポール:もう一回ジャムろうか。

ジェイク:いいね(笑)。


タイトル写真:Alex Ferrari
文責/写真:TOASTMAN,INC.

<MR.BIG 来日公演日程>
11月5日(水)ニトリ文化ホール 18:30 open/19:00 start
11月7日(金)盛岡市民文化ホール 18:00 open/18:30 start
11月8日(土)夢メッセみやぎ 西館ホール 17:15 open/18:00 start
11月10日(月)日本武道館 18:00 open/19:00 start
11月12日(水)グランキューブ大阪 18:15 open/19:00 start
11月13日(木)松下IMPホール 18:00 open/19:00 start
11月15日(土)BLUE LIVE 広島 16:30 open/17:30 start
11月17日(月)センチュリーホール 18:30 open/19:00 start
11月19日(水)福岡サンパレス ホテル&ホール 18:15 open/19:00 start
[問]ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://www.udo.jp/Artists/MrBig/

◆MR.BIGオフィシャルサイト
◆MR.BIGオフィシャルサイト(海外)
◆ジェイク・シマブクロ・オフィシャルサイト
◆ジェイク・シマブクロ・オフィシャルサイト(海外)
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