【インタビュー・前編】安倍なつみ、「『レ・ミゼ』が、あまりにすごすぎて」

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■ 歌に対する意識を変えたもの。ミュージカル

── 今までのお話の中で、すでにいろいろ聞きたいことがあったんですけど。

安倍:聞いてください!。

── まず、たぶんこの世界を知るきっかけのひとつとしてもそうだし、安倍なつみのソロとしてもすごく影響があったものとしてはミュージカル、ですよね。

安倍:そうですね。変わりました。音楽に対する意識、歌に対する意識がどんどん変わっていきました。

── なっちが今回の作品を出す、っていうのを最初に聞いて思ったのは、ミュージカルでこういう音楽の世界を知り、ここに繋がったのかなと思うんですけど。

安倍:そうです、ほんとにそうですね。

── ただ、おっしゃられたように歌唱法って全然違うじゃないですか。

安倍:違います。

── それを、独学なんですよね。そのミュージカルをやってる中で。……素朴な疑問なんですが、できるものなんですか? だって普通、音大で声楽とか学んだりするわけじゃないですか。

安倍:できるかどうかと言われるとわからないのですが(笑)。でも、私としてはソロになってからずっと、本当にありがたいことに、舞台やミュージカルのお仕事でことあるごとに声をかけていただいて、今に至ります。正確に言うとソロ以前、モーニング娘。の時にもミュージカルの経験はあったんですけど。やっぱり舞台の上ですとね、皆さんが知ってる“モーニング娘。のなっち”ではない、もう安倍なつみでもなくて、まったく違う何者かになって演じて生きられるんですよ。自分とは違う人生を、まるで、さもその人生を生きてきたかのような人としてステージに立てるので。もう、それは自分にとってすごいおもしろいことでした。だからファンの人が、「こんななっち見たくなかった!」という声もあったと思います、過去。そういう役もいろいろあったので。

── うんうん(笑)。

安倍:でもそう思われたらむしろ成功といえる部分もあって(笑)。どう見て感じてもらっても、私はこと舞台では、この役でやり切ってるし、なりきっているので、という思いでやっていました。やっぱり演出家だったりとか、歌唱指導の方に指摘してもらうことに応えたいというか、どこまでいけるか、自分、みたいな。常にそこと向き合う、まさに自分との戦い。ミュージカルの期間はいつもそうなんですよ(笑)。人によっては「この役はこれで完成、OK」と思うことができる役者さんもいらっしゃいます。でも私は、全然まだ「できました、完成!」と思えるところにいつも行き着かなくて。舞台が始まると、わりと演出家の方とコミュニケーションをとる機会が減るんですね。そうなると、あとはそれまで練習でやってきたことの繰り返しみたいな状態になるんです。だけど、私はもう「よし」と思える瞬間が全然ないので、いつも早めに劇場に入って発声練習をしたり、歌唱指導の先生が早くいらっしゃれる時は「先生、指導お願いします」ってお願いしたりして。いつも本番前に時間を見つけてレッスンをして本番に挑んだりしてましたね。その中で、やっぱり自分で模索して見つけた歌唱法というのに気づいて。こういう歌、こういう歌い方が好きだなと思うところが自分なりにあって。たとえばミュージカルを初めて聞いたときって、なんだろうな、「うわぁ~」っていう感じありませんでしたか?(笑)うまくいえないけど、変というか(笑)、「うわぁ~いきなり始まったよ」というか、なんか“いきなり歌の世界に没入しちゃったよ”みたいな(笑)。

── (笑)

安倍:きっとミュージカルにそういうイメージを持っている人は多いと思うんですよ。私も前はどこかそういう見方があったりしたんですけど、でも今は本当に見え方が変わりました。実際に自分でやってみると、「こんな世界があったんだ!」と思って。もっといろんな役をやりたいな、もっといろいろ勉強したいし、舞台を観たいな、と心から思ったんです。素晴らしい曲が数え切れないほどあるんですよ、ミュージカルの曲って。そこでいろいろ学んできましたね。

── なるほど。じゃあ歌唱法もそうですけど、身体のトレーニングとかも?

安倍:はい。いろんな先生についてトレーニングしてきたんですけど、私が好きな先生が言うには、やっぱり筋トレっていうものは、やっちゃいけないと。

── あ、やっぱりそうなんだ。

安倍:そう。さらに、歌うときには常に海の中で泳いでるイメージで。マンタのような感じで、と。

── マンタ……。

安倍:そう、マンタのように、楽にしてと。歌って繊細なものだから、聴いている人にもダイレクトに伝わるものだから、楽にリラックスしてることが大事。さらに体の軸になる体幹をきちんと鍛えること。やっぱり喉だけで頑張って歌うと、そこに負担が集中してしまうし、高音を出そうとすると、上に全部力がいってしまいがち。そうあってはいけないと。やっぱりいろんなところに力を分散させて歌うべきだって言われて。だけど、なかなかそうはいかない時もあるじゃないですか。ヒール履いて、役によってはドレスで、動きもあって……とか、舞台の状況によって、なかなか上手くいかないこともあるんですよ。

── いや、そうでしょう。

安倍:でも、そうやっていろんな先生に指導してもらって、勉強してきたことは本当に自分にとって宝です。(笑)。

── だってそれがここに繋がるんですもんね。

安倍:はい、そうなんですよ。ほんとうに。

── 私も、もちろん安倍さんがミュージカルやられているっていうのは知ってたんですけど、正直なところ、「え、こんな作品出せるんだ」っていうのが正直な感想だったんですよ。

安倍:(笑)

── で、聴いてみて、「うわ、すっげえ」って。

安倍:ありがとうございます(笑)。

── っていうのがあったので、きっとここまでくるまで大変だったんだろうなぁ、と。あともうひとつ、話の中に選曲の話が出たじゃないですか。安倍さんも何曲かは自分で?

安倍:もちろん、そうです。

── 具体的に、自分で歌いたかった曲ってどれですか?

安倍:まず、ミュージカル・ナンバーはぜひ入れたいということで、これまで自分で歌ってきたナンバーと、それと新たにみんなでアイデア出しながら決めたものも含めて。「ローズ」や「プレイヤー」はぜひ歌ってみたかった曲です。「夢はひそかに」や「グリーンスリーヴス」はスタッフさんから提案を受けて、ああ、いい曲だなと思って。

── へえ。

安倍:そうそうそう。あと「カーネーション」は椎名林檎さんのこの曲がもともと大好きで、今回のテーマや方向性にぴったり合うなと思って。けっこう林檎さんもストリングスをいっぱい入れて音作りをしているので、いいかなと思って。この歌の世界観がなにより好きで。

── いや、「カーネーション」聴いて、椎名林檎さんのオリジナルは、あのイメージだったんで、「あ、なっちが歌うとこうなるんだぁ」って。オリジナル、要は原曲を知ったうえで聴くと、安倍なつみはこれをこう表現したんだっていうのがよりわかるんですよね。私も収録曲のうち何曲かは知ってたんですけど、ちゃんと原曲に当たってなくて。で、アルバムを聴かせていただきながら、途中から、もう1回原曲を聴いたうえで聴いてみようっていう。そしたら2度楽しめた、みたいな(笑)。

安倍:(笑)そうですよね。

── たぶんどれもスタンダードな曲だと思うんですけど、すでに原曲を知ってる人は、直接、なっちバージョンを聴いて楽しめばいいし、知らない人は、あらためて原曲調べたり聴き比べたりすると、たぶん、音楽的知識そのものが広がるんじゃないかなっていう。

安倍:そう思います。聴いた後に、いろいろと調べてみてどんな作品なんだろう? とか、ミュージカル・ナンバーではそのミュージカルのストーリーを調べたり。勉強になりますよね。なにより、知れば知るほど曲の魅力が増すと思います。

── いや、すごい勉強になりました。

安倍:そうですか(笑)。

── 「グリーンスリーヴス」とかって曲名は知らなかったけど。

安倍:聴いたことある!

── そう(笑)。

安倍:でも私ももともと詳しいわけではなくて、「Stand Alone」も今回聴いてみて“あ、素敵な曲だな”とか思ったり。そうなんですよ、知らなかったけど今回出会って大好きになった曲もあるんです。
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