【インタビュー】アマランス「エレクトロニックでありながらオーガニック」

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<LOUD PARK 14>での熱演も記憶に新しいアマランス。それに先駆けて発売された第3作、『マッシヴ・アディクティヴ』は、まさにそのタイトルが示すように“かなり中毒性の高い”もので、ここ日本でもオリコンのアルバム・チャートで14位(しかも発売当日のデイリー・チャートでは7位)を記録している。

今回は、男女3人の歌い手がフロントに据えられたユニークな成り立ちをしたこのバンドから、女性シンガーのエリース、クリーン・ヴォイス歌唱担当のジェイク、そして音楽面での要であるギタリストのオロフの3人に話を聞いた。ちなみにこの取材が行なわれたのは、彼らが日本に到着した翌日にあたる10月17日のことである。


――さっそく忙しく動き回っているようですけど、時差ボケは大丈夫ですか?

オロフ:うん、たいしたことないよ。

ジェイク:というのも、久しぶりに長時間眠れたからね。ちょうどアメリカをツアーしていて、ニューヨークから20時間がかりの旅でやって来たんだ。

――僕も実は先週ニューヨークにいたんですよ。あなた方がウィズイン・テンプテーションと一緒にまわっていたのは知ってたんですけど、他の仕事の都合で観に行けなくて。

ジェイク:それは残念だったね。すごくクールなショウだったよ。

――それにしても精力的にツアーをしてますよね。今回のアルバムは、ブックレット上のクレジットによると2014年4月から6月にかけてレコーディングされたものだとか。ところがあなた方はその期間中もライブをやっていたし、レコーディング完了直後にはツアーを始めている。なんてツアーが好きなバンドなんだろう、と思って(笑)。

オロフ:いやあ…そんなわけでもないんだけど(笑)。

――ツアー中毒にかかってるわけではなく?

ジェイク:かなり中毒状態かもね(笑)。

オロフ:ははは! ただ、バンドとしては、レコーディング中もライブの収益が確実に入るようにしておくべきだ、というのはある。なにしろその後何ヵ月もツアーに出ることになるわけで、そうなれば費用もかさむからね。そういうビジネス面での理由もあるんだよ。

――とても現実的な考え方をしてるんですね。

ジェイク:確かに(笑)。

――でもきっと今回のアメリカ・ツアーは、アルバム発売前に新曲を試すいい機会でもあったはず。

オロフ:いや、それは特にしなかったんだ。

ジェイク:基本的に最初の2枚のアルバムの曲だけでやってきたよ。だけどツアーの反響は素晴らしかった。前作の『ザ・ネクサス』に伴うツアーは全般的に素晴らしかったんだけど、ことに去年、初めてアメリカに行ったときの経験が大きかった。何を期待していいのかわからないままに行ったけども、オーディエンスはみんな興奮していたし、ニューヨーク公演でも1,000人ほどの観客が集まってくれた。ヨーロッパでは初のヘッドライン・ツアーもできたし、それがまさに今作のレコーディングに入る直前のことだったんだ。だからそのツアーで得たエネルギーをアルバムに注ぎ込むことができた。ツアー中にも曲をいくつか書いたしね。だから、去年からのツアーがこのアルバムに影響をもたらしたことは間違いないよ。


――そして、そのニュー・アルバムについて。これは成熟とか確立といった言葉で語られるべき作品じゃないかと僕は思うんです。デビュー当時からユニークな成り立ちをしたバンドだとは思ってましたけど、それが単なるアイデアで終わらずに、このバンドならではのスタイルとして確立されたというか。

エリース:嬉しいわ。

オロフ:今、言ってくれたことについて同意するほかないよ(笑)。

ジェイク:まったくだ。

――だとすれば、そうした結果に至ることができた理由はどこにあったんでしょうか?

エリース:いつものように、オロフの設定するハードルが高かったからかな(笑)。同じようなもの、似たようなものを絶対に作ろうとしないというか。アーティストとして活動を続けていくことを望むんであれば、常に発展していかなければいけないし、自分たちに対する反響からもいろいろなことを学ぶことができるわけよね。それが、成長していくうえでの助けにもなる。そういったことを経ながら、今ではより自分たちについて確信が持てているんだと思う。

オロフ:ほとんど同意だね。このアルバムはすごく野心的なものでもあるんだ。たとえば、過去に挑戦したかったけど何らかの事情でやれなかったことを試したりもしている。具体的に言うと、俺は前からピアノを入れてみたかった。だけど最初の2枚のアルバムの曲たちはよりエレクトロニックなものだったから、それが合わなかった。でも俺は、ピアノを導入することでもっと広がりが出るはずだといつも思ってた。それが今回は実現できたんだ。

――エレクトロニックでありながらオーガニック。そんな感触が実際ありますよね。

オロフ:それはおそらく最良の形容のあり方だと思うし、それこそがこのアルバム制作においての指針でもあったんだ。サウンド面で言うと、今回はボーカルも含めてすべての音がよりオーガニックなものになっている。そこに、これまで以上に空気感があるんだ。同時に、エレクトロニックな要素はとことんエレクトロニックに突き詰めた。そうすることでこのバンドの両面性が強調されて、より有機的で、よりナチュラルなサウンドになったんだ。

エリース:アルバムを先に聴いてからライブで新曲を聴いてもらえれば、そこに差がないことに気付いてもらえると思うの。これまで以上に差がないって。アルバム制作の段階から、きっとそういうものになるってわかってたし。

――オーガニックという意味では、日本盤ボーナス・トラックの2曲(共にアコースティック)はそれを象徴するものでもあるし、このバンドがサウンド・スタイルのユニークさだけで成立しているわけじゃないことがよくわかります。まず曲がいい、ということが証明されている。

ジェイク:ありがとう。

オロフ:そういう評価は嬉しいな。やっぱり曲ありきのバンドだと思われていたいからね。曲こそがファンに届けられるものだし、買う側にとっての理由もそこにあるはずだ。たとえばボルボ(スウェーデンの自動車メーカー)の場合、彼らが売ろうとするのは“ボルボのような外見の車”ではなく、ボルボというブランドが保証する安全性と乗り心地といったものを備えたもの、ということになるはずだよね。俺たちもそれと同じことをしてるんだ。俺たちはアマランスというブランドを持っているようなものだし、常にユニークなサウンドと良い曲をもって支持されるようでありたい。みんなの脳にこびりつくような曲を作るバンドとしてね。


――このブランドの曲の特徴としてまず挙げられるのがコンパクトさ。4分を超える曲が皆無というのは驚きでもあるんですけど、これだけの豊富なアイデアを3分台の曲に詰め込むというのは、あなた方にとってはたやすいことなんですか?

エリース:どうかな。私たちってみんなクリエイティヴだから、いつも各々のアイディアをねじ込むために闘うことになるわけ(笑)。だからこういう曲になるの。それができないバンド、誰か1人の曲をやるようなバンドだったら、こうはなってないと思うわ。

オロフ:まったくだね。ひとつ付け加えておくと、確かに俺たちの曲の大半は3分から3分半程度のものだけど、べつに7分や8分もある叙事詩的な曲を届けたいと思っているわけじゃないってことだ。もちろん10分の大作を作ることだってできる。だけど、聴いていて集中力が持続するものじゃないと思うんだ。3分間の曲のほうが受け入れやすいはずだし、そっちのほうが音楽が持っているパワーというのを感じやすいはずだからね。

ジェイク:ことにメロディックなもの、キャッチーなものを作りたいと思うなら、大作主義みたいなものは同時には求められない。エルヴィス・プレスリーやビートルズの時代から、ポップ・ミュージックはたいがい3分間のものだった。さらにさかのぼればヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」の各曲だって、全部同じ数の楽章から成り立っているだろ? 耳に馴染みやすいものを作ることには、きっと何らかの法則があるんだと思う。キャッチーなものと大作を作ることを同時に追うことはできないのさ。

エリース:曲が長過ぎると聴いていて疲れてしまうじゃない? 曲の最後でもう一度同じコーラス・パートを繰り返すことよりも、そこで潔く終わってもう一度聴きたくなるような曲、病みつきになるような曲にすることのほうが私は大事だと思う。

ジェイク:うん、その通りだ。俺たちにとっては、たとえば22分とかそういう長さの曲を作ろうとするのは理解しがたい行為だし、コンパクトさというのは常に求めていたいね。

――それはこのバンドの魅力のひとつでもありますからね。ただ、同時に常々思っていたんですよ。いつかアマランスも、ものすごい組曲みたいなものを作ることになるんじゃないか、と。

オロフ:もしもそういうことがやりたいと思う局面が来るとしたら、それはアマランスが自分たちなりのブランドを完全に確立し、新たな領域に踏み込みたくなったときだろうと思う。アマランスではないブランドを新たに作る、というか。それは、このブランドの名のもとにやるべきことではないと今は思っている。

エリース:たとえば私の場合、自分ひとりでフル・レンスの曲を歌ってみたいという願望もあるの。ただ、それはこのブランドではできない。だから私は、それとは別個に違ったブランドを持てばいいと思っていて。アーティストとしてやりたいことがあるなら、それはやるべきだし、そのための場を自分で作ればいい。

ジェイク:そう。やろうと思えばできることは他にもある。だけどそれをこの場ではやらない、というのが俺たちの選択なんだ。アマランスはアマランスであるべきだからね。

エリース:そこに集中するべきだと思っているの。だからこそユニークな存在だという認識を獲得できてるんだと思うし。


――実際、アマランスの音楽形態というのは斬新だと思うんですが、新しいスタイルの何かが生まれるというのは、古い何かを壊すこととイコールの場合もある。古めかしいものを壊して新しいものを作りたい、というのも動機に含まれているんでしょうか?

オロフ:ヘヴィ・メタルに限らず、俺たちはたくさんの慣例を壊してきたと思う。実際、メタルばかりじゃなく、EDMやポップ・ミュージックの要素も含んでるわけだからね。どんなジャンルにも、それなりに多くのしきたりみたいなものがある。メタルに限ったことじゃないよ。EDMにもヒップホップにもそうしたものはあるからね。そこで少しでも違ったやり方をしようとすると、たくさんの人たちから否定的な反応をぶつけられるようになる。実際、メタル・シーンにおいてアマランスの音楽は、これまで多くの人たちを狼狽させてきたと思う。だけど音楽を発展させていくためには、やっぱり垣根を壊していかないといけないと思うんだ。

ジェイク:まったくだ。もっと言うなら、特別なことをしようとせず、ルールを壊そうともしないままでいれば、世の中の視線は素通りしていくだけだ。音楽をやる以上、反応というのも必要じゃないか。反応があるということは、すなわち興味をおぼえられてるってことだからね。その反応がポジティヴなものだろうがネガティヴなものだろうが構わないよ。反応があるってこと自体が大事だし、それがウィルスのように拡散していくことになるわけだから。

エリース:もしもここで私が「メタルがやりたいわけじゃない。ポップ・シンガーになりたいの」と言ったりしたら、それってすごくありがちなパターンよね。もちろん私は自分の音楽を追求したいし、ポップ・シンガーでもミュージカル・アーティストでもありたい。だけど私はこう考えたの。「ヘヴィ・メタルと私のやりたいことを結合できるのって、私以外に誰がいるの?」って。音楽のジャンルが人々を分けてしまうのはおかしな話だし、私はいろんな人が好き。なにしろ私自身の家族には、デス・メタル・グロウラーとジャズ・シンガー、ハード・ロック好きの父親と、音楽ならなんでも聴く母親がいるのよ(笑)。音楽は人間同士を繋ぐのに有効なものだし、特定のジャンルの音楽をやる人間が特定のタイプの人たちであるべき必要はないと思う。もっとオープン・マインドであるべきだと思うの。

――アマランスは便宜上、ヘヴィ・メタル・バンドとカテゴライズされることが多いわけですけど、この音楽はもっと広く広がり得るものだと信じているわけですよね?

オロフ:そうだね。実際、すでにそうなっているとも思うし。

ジェイク:スウェーデンで俺たちを支持してくれてる人たちの約半分はヘヴィ・メタル・ファンだと思う。ヘヴィ・メタル然とした形態というのも基盤に持っているからね。だけどもう半分は違うタイプのリスナーたちだと思う。実際、世の中はカテゴライズというものを必要とすることがある。俺たちだって「この人たちと自分たちは違う!」と境界線を引きたくなることはあるからね。

オロフ:ふふふ。まったく。


――たとえばあなた方のフェイヴァリット・バンドとしてクイーンの名前が上がることがありますけど、彼らも常にそういう存在でしたよね。基盤としていたのは伝統的なハード・ロック。だけど彼らの音楽は、それだけでは全然なかった。

オロフ:うん。彼らは70年代、間違いなく垣根をぶち壊していたと思う。

エリース:彼らの音楽に特定のレッテルを貼ることは無理だもの。すでにあるもの、みんなと同じものを作らずにいることで、その時点では世の中から認めてもらえない場合もあるかもしれないけども、本当に新しいものをクリエイトした人たちは結果的には賞賛を集めることになるんだと思う。だから私たちも、本心からやりたいと思うことをやらなくちゃいけない。

ジェイク:うん、その通りだと思う。

エリース:フレディ・マーキュリーの歌を初めて聴いたとき、こんな歌い方をする人には出会ったことがないと思ったの。クイーンの音楽自体についてもそれは同じこと。私がクイーンに惹かれる理由はそこにあるから。

――ただ、もちろんすぐさま認められるに越したことはないはずだし、当然ながらロックスター願望というのもあるはずですよね?

エリース:私はそんなことないな。他のメンバーたちはわからないけど(笑)。

オロフ:ロックスター願望なんてさほどないよ。俺たちもビールぐらいは呑むけど、それだけのことだ。ホテルの部屋を壊したりはしないし、ドラッグをやったりもしない。この業界も25年前と同じではないんだ(笑)。

ジェイク:あの時代はスプレーで髪の毛を膨らませることも、ホテルの部屋をめちゃくちゃにすることもロックスターの仕事のうちだったわけだよ(笑)。俺はもっと腰を落ち着かせて音楽に取り組みたいし、究極的にクリエイティブであることが最大の認知に繋がっていくはずだと信じているよ。昔ながらのロックスターとして成立している例なんて、今となってはほんのわずかだし、いわゆるロックスター幻想みたいなものには惑わされてはいないね。

オロフ:第一、25年前みたいなそうした振る舞いをする人間たちを、現代のキッズがリスペクトするとは考え難いしね。TVをホテルの窓から投げ捨てたりとかさ(笑)。いまやTVも平べったいものになってるから、投げる対象にもなりにくいだろうけど(笑)。

――確かに(笑)。25年前のロックスターたちは、いけないものに依存していたかもしれない。だけどあなた方は、音楽にどっぷり浸かっている。

ジェイク:そう、俺たち音楽依存症なんだ(笑)。

――きわめてクリーンな中毒症状ですね(笑)。そしてつい先ほど、嬉しいニュースが届きました。『マッシヴ・アディクティヴ』が日本のデイリー・アルバム・チャートで7位に飛び込んできたそうですね。洋楽ではスリップノットに次いで第2位です。

ジェイク:とても失望したね。スリップノットの次だったことに(笑)。もちろん冗談だよ!(笑)

オロフ:素晴らしいニュースだよ。正直、ちょっと奇妙に思えるくらいなんだよ。自分たちの地元から見て地球の反対側にある国で、アマランスのアルバムがそんなにも売れてるなんてね。

エリース:でも、本当に誇りに思うわ。音楽でたくさんの人たちと通じ合えてることを。

オロフ:うん。だからこそ次は、自分たちのヘッドライン・ツアーでかならずこの国に戻ってくる。それは今のうちから約束しておくよ。

取材・文:増田勇一
撮影:烏丸哲也





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