【イベントレポート】AC/DC、寒空をかき飛ばす骨太な試聴会inニューヨーク

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ニューヨーク、11月18日午後7時前。会場であるWebster Hallの前には長い列ができていて、吐く息の白さも気にせず大のおとな達がうれしそうに楽しそうに語らっているのが、微笑ましい。

◆AC/DC試聴会画像

<AC/DC ROCK OR BUST ALBUM PLAYBACK PARTY>と題されたこのイベントは、文字通り、12月2日にリリースされる(日本は3日)AC/DCの新作『ROCK OR BUST』の視聴パーティなのだが、登録すれば誰でも無料で入場できることになっていた。にしても、だ。いくら無料とはいえ、ダウンロードやストリーミングの時代に、寒風吹き荒む中長蛇の列に並んででも、仲間とここへやって来て1杯やりながらいち早く爆音で新作が聴けることを喜びとするファン魂にはおおいに共感できてしまうわけで、これだけでグッときちゃうなぁ。

マンハッタンの東側11丁目に位置するWebster Hallは多くのコンサートが開催されている人気ヴェニューで、メイン・ステージ部分のキャパはスタンディングで約1500人。私は2階の関係者専用バルコニーにいたが、そこもかなりの人で賑わっており(ドリンク・バーには近づけなかった)、1階を見下ろしても床は見えないほどの入り。ステージの両脇には大砲(笑)、中央にスクリーンが設置され、会場の方々にはスクリーンと同じ映像を流す小さめのモニターがある。そのスクリーンにバンドやファンの姿を捉えた短いコラージュ・フィルムを何度もリピートで流しつつ、ステージ下のDJブースでは男女ふたりのDJがAC/DCの曲はもちろんザ・フーやキンクスからガンズ・アンド・ローゼズやアリス・イン・チェインズなどを大音量でかけている。「Thunderstruck」の、あのイントロが聞こえてきた時には、ひときわ大きな歓声があがった。この無邪気さが、いいのだ。

DJショウの途中には抽選会があり、女性DJが箱の中から紙を取り出して名前を読み上げる。当たればポスターなどがもらえるのだが、1等賞品がリアル・タトゥー、というのにはびっくり。マジですか?さすがニューヨーク!?!?当たったおじさん、大喜びしていたなぁ。ふと見れば、1階フロアの片隅には、アンガスの等身大看板と記念撮影できるコーナーもあったりして、なんというか、手作り感満載なのだ。




午後8時を過ぎた頃、アルバムの全曲視聴がスタート!スクリーンには曲のタイトルが映し出されていく。AC/DCのお家芸とも言うべきシンプルにして完璧なロックンロール・ソングのオンパレード。全11曲、すべてが2~3分台で全編を40分足らずで駆け抜ける。この徹底した潔さの中にもしっかりと残るブルージーな味わいは、まさにAC/DCだ。

思えばここ最近の彼らには明るい話題がなかった。オリジナル・メンバーであり、アンガスの兄であるマルコム・ヤングの脱退(原因は認知症。まだ60代そこそこだというのに!)に続き、つい先頃はドラマーのフィル・ラッドが殺人あっせん容疑で逮捕されるという(証拠不十分で不起訴)とんでもない事件まで起きている。マルコムはすでに、この新作ではプレイしていない。フィルはプレイしているが、事件前よりバンド活動には色々支障をきたす言動をしていたようなので、恐らくバンドへの復帰はないだろう。けれど、バンドは前進あるのみ、の道を選択した。だからこそ『ROCK OR BUST(ロックするか、ダメになるか)』なのだ。彼らの強い決意表明のもと世に届けられることになる新作からは、その意気込みが溢れ出している。ちなみに、マルコムの代わりにプレイしているのは甥っ子のスティーヴ・ヤングで、今後行なわれるツアーへの同行も決まっている。

全曲視聴が終わり、MCの男性が登場。そして! 呼び込まれたのは、ブライアン・ジョンソン、アンガス・ヤング、前作『ブラック・アイス』に続き新作でもプロデュースを務めたブレンダン・オブライエンの3人だ。ブライアンとアンガスが登場することは、関係者には知らされていたが、ファンには告知されていなかった、まさにサプラーイズ! 大歓声に包まれた3人、照れくさそうなアンガスは小柄な身体をさらに小さくしているようにも見えておかしい。ブライアンの「楽しんでくれた?」の問いかけに、ウォォォォーッ!(笑)と、おじさんたち、熱い。時間にしたら5分にも満たない登場ではあったけれど、ファンにとっては、心配事が続いた中で元気に姿を見せてくれたブライアンとアンガスに接することができて一安心だったろう。ブライアンとアンガスにとっては、色々ありながらもこうして自分たちを支えてくれるファンが目の前にいて声をあげ手を振ってくれるその光景に、さらなるモチベーションとパワーを得ることができたのではないか、と思う。

3人が退場した後、最後にはサイン入りギター・プレゼントの抽選会。当たったのは、新作が流れている間中踊りまくっていた男性で(上から見ていてもよく分かるくらいに踊っていた)、飛び上がって喜んでいた。会場からは、そんな彼に大きな拍手が贈られた。

寒い寒いニューヨークの夜を熱くしてくれたAC/DCに感謝!最後まで大砲から紙幣が飛び出すことはなかったけれど…。

文:赤尾美香




『ROCK OR BUST』収録曲
1.Rock or Bust
2.Play Ball
3.Rock the Blues Away
4.Miss Adventure
5.Dogs of War
6.Got Some Rock & Roll Thunder
7.Hard Times
8.Baptism by Fire
9.Rock the House
10.Sweet Candy
11.Emission Control



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