【インタビュー】映画『Over The L'Arc-en-Ciel』監督が語る「普通のバンドじゃない」

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■「もしF1レーサーだったら、ネジ1本緩んでいたら、命取りになる」
■という発言も彼らがアーティストであり完璧なものを目指しているからこそ

──撮影に入るにあたって、何かプランを持っていったのですか?

Ray:最初はもっと企画性のある作品を考えていました。20年を遡っていって、昔の彼らがあって、今の彼らがあって、という流れを見せていく作品も想像したんですが、それをやってしまうと、1本の映画にはまとまらない気がしたんですよ。しかも以前の彼らと現在の彼らは違うわけで、当時、僕がリアルタイムで彼らを見て、何かを感じたわけではない。過去のことを取り入れようとすると、わからないことが多すぎる。僕に何が出来るのかと言ったら、目の前で起きていることをアウトサイダーの目線でとらえることだなと思ったんですよ。

──部外者として入っていって、ワールドツアーに向けて集中している彼らを撮影するのは、どこまで踏み込むかの判断も含めて、かなり大変だったのではないですか?

Ray:ツアー中だから、余計なストレスを与えてはいけないし、ここから先は踏み込んじゃいけない、という彼らの境界線をリスペクトしなければいけないんだけど、ストーリーを描いていくためには、何かしら踏み込んでいかないと成立しない。海外の報道メディアとL'Arc-en-Cielのセッションを見ながらも思ったんだけど、英語で言うと、ソフトボール投げって表現があります。ストレートピッチで強気で臨むんじゃなくて、ゆるく投げ、ゆるく投げ返してもらって、キャッチボールしていく。ただ、ストレートばかりじゃなくて、時には相手の予測しないカーブを投げると、予期しないものが返ってきたりする。かと言って、あせって無理をせずに待つことが自分の中での課題でした。

──それはすぐに結果を求めないということですか?

Ray:半年間近く一緒に付き合うわけですが、料理長と一緒で、いきなりメインコース全部を出すのではなくて、前菜から徐々に出していく。早く美味しいものがほしいと思っちゃうのが人間じゃないですか。それがあると楽になる。でも無理に踏み込んでいくと、そこでシャッターが下りるかもしれない。焦らずにストーリーが目の前で出来上がってくるのを待つことが必要だなと思いました。もうひとつ心がけたのは、説明しすぎないこと。あえてナレーションも入れなかった。 彼らはドキュメントでありながら、ミステリーのままでいいかなと思ったんですよ。不親切だと思う人もいるかもしれないし、なんの答えにもなっていないと思う人もいるかもしれないけれど、逆にいうと、説明していないながらも、彼らの20年という活動のバックグラウンドがあった上で、シーンを選んでいるので、観る人が観たら、理解して感じてもらえるんじゃないかな。カチカチのドキュメンタリーではなくて、感覚的に作っていくところはありました。

──撮影するにあたって、スタッフや機材に関しては?

Ray:最初は機材がこれくらい、スタッフがこれくらいってイメージしていたんですが、大掛かりな撮影になってしまうと、カメラが気になってしまうメンバーもいるだろうから、実際の現場に対応しながら撮っていこうと。場面によって僕ひとりだけで行って、撮るケースもありました。それはそれで大変なんですが、僕がカメラを回すことで、ちょっと距離が縮まったパーソナルな映像が撮れたりすることもあったんじゃないかな。

──14都市17公演の『WORLD TOUR 2012』、リハーサル期間も含めると、約半年間に渡る撮影だったと思うのですが、その中で印象に残ったことというと?

Ray:ツアー中に起きていることは、それぞれインパクトがあったんですが、最も大きかったのは一番最初と最後ですね。tetsuyaさんと初対面の時に、「覚悟してください」って言われたことがまずとても大きかった。その言葉でまず自分の意識が変わったし、最後のハワイでまた変わった。国立競技場で終わっていたら、ある意味、きれいだけど不完全な終わり方のような気がしました。

──でもハワイでの映像があることで、ツアーの意味、重さがまた違った感覚で捉えられた気がします。

Ray:そうなんですよ。だからあれが本当のエンディングだなと思っていますね。

──映画『Over The L'Arc-en-Ciel』には“世界が見たラルク、ラルクが見た世界”というコピーが付けられていますが、各国のファンの熱狂的な様子も印象的でした。Rayさんは実際に撮影していて、どう感じましたか?

Ray:アメリカのバンドが日本に来た時の印象とはちょっと違うのかなと思います。L'Arc-en-Cielファンって、彼らのことをとても大切なものとして見ているところがあって、多くを語れるんですよ。「自分の気持ちを安らかにしてくれる」、「感覚を研ぎ澄ませてくれる」、「エモーションを豊かにしてくれる」って。ビートルズやローリングストーンズのファンだったら、こんなことは言わない気がする。他のバンドのファンは舞い上がって、「最高!」っていうぐらいなんですが、L'Arc-en-Cielのファンはバンドに深い愛情を持っているのと同時に、客観的に分析も出来るんですよ。例えば、ロンドンの会場のファンに聞いた時も、「アニメのタイアップだけで売れてるバンドだったら、こんなに人が集まらないし、僕達もこんなにフォローしないよね。純粋に音楽のエッセンスが素晴らしいんですよ」ってコメントしてくれたりする。世界各地のファンがこんなに熱烈に語るバンドは他にはいないんじゃないかな。ファンのインタビューがたくさん入っているのはそういう理由もあって。メンバー自身があまり多くを語らない分、ファンの言葉でサポートしてもらっている部分もありますね。

──<L'Arc-en-Ciel WORLD TOUR 2012>はバンドにとっては挑戦でもあったのではないかと思います。マディソン スクエア ガーデン公演の映像などからはヒリヒリした闘う空気も伝わってきました。

Ray:僕はアメリカ生まれで日本に来ているからある意味、逆な感じなんだけど、彼らは日本を代表して旗を持ってアメリカに行くということでもあるだろうから、真剣にならざるを得ないというか。もちろんどの場所でもそうなんだけど、完璧なステージを目指して闘っているということは感じました。ツアーが続いていくと、疲労やストレスが溜まってくるだろうし、ミスが出たり、思い通りにいかないことも出てくる。tetsuyaさんが「もしF1レーサーだったら、ネジ1本緩んでいたら、命取りになる」という発言も彼らがアーティストであって完璧なものを目指しているからこそ。そういう闘う姿を出来るだけ見せていきたいということは思ってました。

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