【インタビュー】柴田淳、初めて経験した空っぽの自分と向き合いもがきながら作り上げたアルバム『バビルサの牙』

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柴田淳が10枚目のアルバム『バビルサの牙』を完成させた。まず不思議な響きを持つタイトルが目を引く。バビルサの別名はシカイノシシ。特徴的な牙を持ち、ぐるっと回って自分に突き刺さるように伸びるため「死を見つめる動物」と言われているようだ。なんとドラマティックな動物なのか。なぜ柴田淳は、この動物の名前をアルバムタイトルにしようと思ったのだろう。そんな話も含めて、アルバムの話を聞いた。

◆柴田淳~拡大画像~

■牙が折れたほうのバビルサと自分を重ね合わせちゃった
■この作品はこのタイトルからはじまったっていう感じです


▲『バビルサの牙』初回限定盤
▲『バビルサの牙』通常盤

――“「バビルサの牙」ってなんだ?”って調べたんですけど、パソコンで検索するとバビルサの牙はぐるっと回って自分に突き刺さるように伸びるから、「死を見つめる動物」って言われているとか。

柴田淳(以下、柴田):検索するとそれが最初に引っかかるから、私が死を見つめて作った作品なんじゃないかって色んな人に言われます。でもそうじゃないんです、実は。きっと私が、もし死を見つめることができたら、もっとたくさん曲が書けると思う。死ぬまでにやりたい10のこととか、そんな感じで。死を見つめるって、心が働いてる状態のことだと思うんです。

――では、どんな意味合いで?

柴田:バビルサって牙が自分に向かって生えてきて、突き刺さったら死んじゃうっていう生き物で、博物館には牙が刺さった状態の頭蓋骨まであるわけです。だから、実際に突き刺さって死んじゃった子もいるんですよね。でも、調べたら、牙が長ければ長いほどモテるらしい。子孫繁栄できる。だけど、伸びると刺さっちゃうという。その一方で、その牙が折れたらモテないから子孫は繁栄できないけど、長生きできるんです。凄く両極端。私はそこにドラマティックなものを感じたんです。そんな時に、転んで歯を折ってしまって。バビルサは牙を折るとずっと独身状態が続くわけですけど、私も歯を折って、しかも、いい年で独身。牙が折れたほうのバビルサと自分を重ね合わせちゃったんですよね。この作品は、このタイトルからはじまったっていう感じです。

――内容的にはどんなものにしようと思って制作をはじめたの?

柴田淳(以下、柴田):ちょっと遡って話しますが、『Cover 70’s』からノンストップでここまで活動をしてきて、今だから言うんですけど、その中で色々トラブルを抱えたり、失恋をしたりしたんです。その後、「あなたと見た夢 君のいない朝」っていう、赤裸々な一枚を作って。もしかしたら私にとってはこれ以上の恋の涙をもう書けないかもってくらい、濃い一枚になったんですけど、それほどまでの濃い想いは初めてで、その浸り方もわからないし、どうしたらいいのかわからなくなって、倒れる寸前のところで心にロックをかけてしまったんです。

――その状態でこの2年、ツアーや制作をしていたんですね。

柴田:そうなんですよ。その無理が祟ったのか、2014年のはじめにライヴ・アルバム『Billboard Live 2013』の作業が一通り終わって、あとは発売を待つのみっていう時に風邪みたいな症状で倒れたんです。そこからデトックスがはじまって、ありとあらゆる疾患が出て。2年前に心をロックしたときのようにまた無視してしまうと、きっともっと悪化するだろうなって思ったんです。これはもう体のなすがままに任せようと。そうしたら、本当に心が空っぽになってしまって。そんな自分っていうのを初めて経験したんです。今まで、例えば恋で言うなら付き合う付き合わないは関係なく、片思いでも思い人が常にいた人生で、そこに幸せを見出してきてしまった自分っていうのがまずわかりました。それまで、好きな人がいない自分を知らなかったので、いない状態でどう暮らしていけばいいのか、どこに幸せや喜びを見出していいかをまったく知らないで来たっていうのもよく理解できた。今は時間が経って、好きな人がいなくても、まず一人で幸せになる方法を見つけることが何よりも大事なんだっていうことがわかって、すごくハッピーなんですけど。

――そういう状態で創作しなきゃいけないっていうのは相当大変ですよね。

柴田:大変でした。結果的に、1曲目「王妃の微笑み」も割り切って、物語のような歌詞を書いたり。作家として書いていたり。そういう曲が入っているので、すごく極端だと思います。この作品って、脱皮途中に作ったような、一番もがいて、立とうとしているのに立てなくて、ようやくヨタヨタだけど立てるようになって出来たような一枚なので、全体を通して、「柴田淳、不安定だな」とか「落ち着かないな」とか、聴いた人が感じるものが今作のメッセージかなぁと思っています。

――なるほど。聴いていて、柴田さんの空っぽ感って、この作品から伝わってきましたよ。そこから自分を癒して行くようなそんな風に感じました。

柴田:……そうかもしれない。だからタイアップの決まった「車窓」なんかも、まさにそのときの自分を表しているのかなって思うところがあるんです。何かを振り払って頑張ろうとしている姿や、そういうときの笑顔ほど泣けるものってないなって。人のことを書いたつもりだったんだけど、自分のことを書いてたんでしょうね。……っていうくらい、心がバラバラになっていたのかもしれないです。だから他は、作家目線で書いてみようとか、いろんなところに飛び散ったというか。

――いや、「王妃の微笑み」だけは物語的なので違う雰囲気だなぁと思ったけど、あとは飛び散っているというよりも、まとまってると思いましたよ。

柴田:あとの曲は全部、延長線上にいる?

――いますよ。

柴田:私、逆に、「王妃の微笑み」は、柴田淳の世界観なのかなぁと。この曲は、ファンタージーだけど気持ち悪い、おどろおどろしい、怖いっていう異様な世界観じゃないですか。アレンジャーさんには「ダークファンタジー的なものなんです」って伝えてアレンジしてもらったんですけど、それをすごく理解してくれたんですね。これは、柴田淳の世界観の延長線上なんだけど、聴いたことないっていう感じなので、みんなも拒絶反応なく、「おぉっ!」って思ってくれるのかなって思った。

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