【インタビュー】Beatsヘッドホンが世界中で人気となった、本当のワケ

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2014年5月、アップル社の傘下となった世界最大のヘッドホンブランドBeats by Dr. Dreは、本格的な日本進出をはかり全国のアップルストアでの店頭展開はもちろん、全国のソフトバンクショップでも大々的にヘッドホンの取り扱いをスタートさせている。米国でのBeats人気は圧倒的だが、既に日本での人気も非常に熱いブランドだ。

しかしながら注目すべきは、ここに来て一般リスナーに向けたラインナップのリデザイン、アップデートを積極的に行っている点だ。人気モデルのStudioをまず新モデルに刷新し、その後Soloをリニューアル、各ラインナップを大きくバージョンアップさせている。明らかなのはサウンドクオリティが格段に上がっている点で、おしゃれな“だけ”のヘッドホンとは誰からも言わせない説得力を携えた存在になりつつある。

世界一のブランドにまで成長したBeatsヘッドホンの魅力はどこにあるのか?…それはビーツ・エレクトロニクス社長のルーク・ウッドのバックグラウンドに隠されていた。ルーク・ウッドはビジネスマンである前に、ヘッドホン好きである前に、ただただ音楽を愛し音楽に人生を捧げてきた人物であった。今でこそビーツ・エレクトロニクスの社長を担っているが、それ以前に彼はゲフィンの広報を務め、ニルヴァーナやソニック・ユースを手がけてきた人物でもある。

BARKSはBeatsにアプローチ、BARKS編集長の烏丸哲也がルーク・ウッドに話を聞く機会を得た。


▲ビーツ・エレクトロニクス ルーク・ウッド社長

──ルーク・ウッドさんは、もともとミュージシャンだったんですよね?

ルーク・ウッド:今も、だよ(笑)。私はギタリストです。

──私もです(笑)。

ルーク・ウッド:それは素晴らしい。一番好きなギターは何?

──僕ですか? んー…レスポールかなぁ…プロ時代はギブソン系を愛用していました。

ルーク・ウッド:私は今、フェンダーの役員でもあるんですよ。

──え?私、フェンダーはカスタムショップだけでも30本以上買いましたよ。

ルーク・ウッド:ワオ、それは凄い。ありがとう(笑)

──アンプは何が好きなんですか?

ルーク・ウッド:1965年製のフェンダー・プリンストンですね。私のメインギターは1957年製のフェンダーのジャズマスター。僕にとってそれだけで、もう天国(笑)。

──いいですね、私はマーシャル・フリーク。

ルーク・ウッド:そう!昨日ね、ヴィンテージのプレキシ・マーシャルを買ったんですよ

──え?プレキシってことは1969年製とか?

ルーク・ウッド:1970年代初期のですね。100Wです。

──レイダウントランスの♯1959ですね。それは凄い。

ルーク・ウッド:詳しいですね(笑)。

──いきなり話がずれてしまいました。話を戻しましょう(笑)。ルークさんが、いいヘッドホンを開発したいと思った元々のきっかけは何だったんですか?

ルーク・ウッド:私はミュージシャンを演っててとても良かったと思っていますし、楽曲作りや音楽制作も楽しかったけれど、徐々に、世の中から才能を発掘することのほうが自分に向いていると思ってきたんです。自分はプレイヤーとしてはあまり上手くないことにも途中で気付いたし(笑)。わたしは今でも音楽が好きですし、音楽を多方面から愛していますし、アーティストと一緒に仕事をするのが自分のアイデンティティです。20年間音楽業界でA&Rをやっていろんなアーティストを発掘したり一緒に仕事をしてきました。でも残念ながら、ここ10年間は音楽ビジネスは低下してきました。違法ダウンロードなんかも出てきてね。

──そうですね。

ルーク・ウッド:私の世代にとってサウンドというのはとても大事でしたよね。音楽を生み出すギタリストにとってレスポールとマーシャルが欠かせないのと同じように、音楽を再生するプレイヤーやスピーカーもとても重要なんです。作り手はプレキシ・マーシャルに優れたレスポールを使ってこだわりのサウンドをクリエイトし続けてきているけれど、ここ15年くらいで家庭にある音楽再生機器の品質はとても劣化してしまい、みんなが聞いている音の質が低下したままそれが一般化してしまったんです。

──全くそのとおりですね。

ルーク・ウッド:それは大問題。ですからBeatsは、そこを改善したいと思ったわけです。

──Beatsをスタートさせた時、オーディエンスの音楽環境はどうでしたか?

ルーク・ウッド:Beatsが立ち上がってまだ7年なんですが、その当時ヘッドホンを作るにあたって、思い描いていたのはデザイン性が高いこと、そしてサウンドにこだわりたかったことですが、一番は「それまで音にこだわりを持っていなかった、音質を気にしていない人達に、そういう製品を届けたい」ということなんです。プレミアムサウンドにこだわりを持っているオーディオファンに評価されることは最初から想定内だけれど、そうではないもっと広い人たちに、そのこだわりを広めたいというのが我々のミッションでした。

──そのためには、やはりデザインというものが重要になってくる?

ルーク・ウッド:その通りです。Beatsでビジネスとして手掛けたかったことは、我々が音楽ビジネスで成功させてきたことをBeatsにも採り入れたかったんです。

──どういう意味ですか?

ルーク・ウッド:アーティストは半年もの間サウンドにこだわり続けて音楽を作り上げていくわけですけど、それが世の中に出ると、オーディエンスはいろんな側面からその作品と出会いますよね。音のみならず、ジャケ写だったりステージでのパフォーマンスだったり、ミュージック・ビデオだったり…ね。音だけではないビジュアルの要素が大きく絡んできます。音だけではなく目から入る情報も、とても重要なんです。

──Beatsの製品を見ると、ネジひとつ露出していない非常に高いデザイン性と完成度を誇っていますよね。言うは易しですが、作りあげるには相当大変だったのではないですか?

ルーク・ウッド:ひとつ作るのにも非常に長い年月を費しますし、変化を繰り返してその結果やっとできあがってきた製品ばかりですね。見た目はとてもシンプルでクリーンで、そんなに大したことはないように見えるでしょう?苦労の跡なんかは見せたくないですよね(笑)。その上で品質の高さと、堅牢性にも重点を置いています。

──デザイン、サウンド、堅牢性、使い勝手…Beatsの良さは多岐にわたりますが、米国で大成功を収めた一番の要因は何だったと思いますか?

ルーク・ウッド:一番重要なのは「正直であること」です。そして「オーセンティックであること」。信頼ですね。

──正直であること?

ルーク・ウッド:Beatsの創業者はふたりいます。ジミー・アイオヴィンとドクター・ドレーです。ジミー・アイオヴィンはジョン・レノンのレコーディング・エンジニアで、ブルース・スプリングスティーン『明日なき暴走』のミックスを手掛け、パティ・スミス、トム・ペティ、U2、スティーヴィ・ニックス、ダイアー・ストレイツ、プリテンダーズを手がけた人物です。そしてドクター・ドレーは御存知の通りですが、N.W.A.からソロに至りラッパーとして活躍、アルバム『ザ・クロニック』はジャンルの壁も超えた作品ですね。2パック、エミネム、メアリー・J・ブライジ、50セントのプロデューサーとして、歴史に残る作品を生み出した人物です。つまり“人生を音に捧げた”ふたりです。

──そうですね。

ルーク・ウッド:レコードを作るということはリスナーに対して責任があることと思っているんです。オーディエンスはお金を出して聴いてくれるんですから。ただ、ここ15年の傾向として、リスナー側にあるアウトプットのソースが軽視されてしまった。MP3プレイヤーやPCでの再生、圧縮音源の存在が主流になってね。だから、我々が重要だと思っているのは、作り手と同等の環境でリスナーが音楽を聴けるようになることです。ですから、本質をそのまま届けるオーセンティックなもの、正直に本来のものをそのまま届けるという姿勢が大事なのです。

──日本のオーディオ市場をどう見ていますか?日本のオーディエンスは審美眼も厳しく、日本で成功すれば世界で通用するとも聞きますが。

ルーク・ウッド:おっしゃるとおりですね。日本は、オーディエンスとしては世界で一番質にこだわりを持って、質を理解しているマーケットだと思っています。ですので重要なポイントが2つあります。ひとつは、もちろんいい製品を作り提供すること。そして、もうひとつが、製品の素晴らしさをきちんと伝えること。ここが重要です。ヘッドホンはただ音楽を再生するだけのものではなく、アーティストが音楽制作のときにスタジオで聞いている音、そしてそこで感じられる感情というものをそのまま伝えることが、とても大事なことなのです。

──なるほど。

ルーク・ウッド:ギタリストがスタジオに入って、12インチ4発のキャビの前でコードをガーンと弾いた時に心に感じるもの…感動と興奮がありますよね? アンプを隣のブースに閉じ込めて、自分はコンソールルームでモニターを聞きながら弾くときの感情とは全く違うでしょ(笑)? そこには音楽との距離感が感じられますよね。われわれBeatsがやりたいことというのは、そのアンプの真ん前に立って感じられることを、そのまま皆さんに感じてもらいたいんです。

──ルークさんのようなミュージシャン気質の人がリーダーを務めているヘッドホンブランドって他にもあるんでしょうか。

ルーク・ウッド:うーん、他には知らないですね。我々には、何千時間もレコーディングスタジオに入ってきた経験があります。そこに、オーディオエンジニア、インダストリアルエンジニア/デザイナー達の才能が合体し、化学反応が起こる…そのケミストリーこそが、Beatsのオリジナルだと思っています。私もバックグラウンドもミュージシャンですけど、こだわりという意味では、ピック1枚からケーブルの違いにもこだわるでしょ?ヘッドとキャビをつなげるスピーカーケーブルにこだわってまるまる二日間試行錯誤を繰り返したこともありました(笑)。アルバムを作る時って、そういう細かいこだわりを死ぬほど重ねて作り上げていくものでしょう?スタジオに入ってひとつひとつ細かいことにこだわってきたことと全く同じことを、Beatsというビジネスでも行っているんです。

──なるほど。よくわかります。現在のBeatsラインアップの中で、おすすめはありますか?

ルーク・ウッド:商品構成ですが、何でもかんでも作るのではなく絞ったラインナップにするように意識しています。オンイヤーではSolo2ですね。移動や旅行が多い方でノイズキャンセル機能が欲しいのであればStudio Wirelessになります。MixrはもともとDJ用に設計されたものですけど、最近は一般の方もよく使われますね。本格的なスタジオでのサウンドをそのまま体験したいのであれば、Proをお薦めします。

──ルークさんは個人的に何を使っているんですか?

ルーク・ウッド:移動が多いので、旅行の時はワイヤレスでSTUDIOをよく使っています。ブルートゥースが気に入っているので。鞄の中にはいつもSolo2が入っています。小さくて軽くて音もいいので。

──今後、新製品としてはどんなものが期待できますか?

ルーク・ウッド:…具体的な話はできませんが(笑)、例えばiPhoneがいい例ですが、iPhoneのいいところはエンターテイメントを再生するメディアとして非常に優れているプロダクトということです。音楽も映画もゲームもテレビもウェブもiPhoneで楽しめます。そして、それと一緒についていかなければいけないのがサウンドの品質です。そんな優れたiPhoneを支えるものとしてBeatsがあります。

──どんなシーンでもサポートしてくれるヘッドホンが理想ですね。

ルーク・ウッド:サウンドの質というのはどのシーンでもとても大事です。手作りでひとつひとつ作っていくという点では、音楽も映画のサウンドトラックもゲームも同じです。そこで感じられる感情をしっかりと得られれば素晴らしいですね。

──日本のアーティストとのコラボレーションの予定はありますか?

ルーク・ウッド:もちろん、積極的に展開していきたいですね。藤原ヒロシさんとのコラボレーションも発表しました。ハローキティともコラボしましたし(笑)。ミュージシャンともいろんなコラボをしたいと思っています。この前もEXILEのHIROさんとVERBALさんと食事をした時に、いろんなアイディアを出し合ったりしていました。アイディアがあって初めてマーケットができるんですよ。マーケティングプランがあって、そのためにアイディアを生むんじゃないんです。常にアイディアが先です。

──日本のヘッドホンファンにメッセージを頂けますか?

ルーク・ウッド:Beatsのバックストーリーを知って欲しいと思っています。我々のバックグラウンドがミュージシャンであること、そこからの音楽との関係性を持ちながら、今に至っているということを理解して貰えると嬉しいですね。避けたいのは「ただ製品を出せばいい」「売れればいい」となってしまうこと。伝えたいのは、音楽作りに費やされる気持ちや、何十時間もかけてこだわりを持って制作される音楽と全く同じように、Beatsもこだわりをもって作るんだということ。それが伝われば、我々も成功と言えるんじゃないでしょうか。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也


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