【2015年グラミー特集】キュートな作品から重いテーマまで、動画に込められた楽曲のメッセージ【年間最優秀楽曲分析】

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5曲のうち3曲が4億回超えで、1曲が2億回、あとひとつが7千万回。そう書けばすぐにわかる方も多いだろうが、この数字は第57回グラミー賞年間最優秀楽曲の候補に挙がった5曲のミュージックビデオの、YouTubeでの再生回数(1月初旬現在)だ。ノミネートされれば注目度が跳ね上がるのは当然とはいえ、4億回超えというのは凄い数字で、世界中の視聴者にいかに強烈なインパクトを与えたかを物語る。ひとつだけケタの少ない楽曲も、逆にインパクトが強すぎるのがその理由とも言えるわけで…その話はあとで詳しくするとして。今回は楽曲と映像の両面から、年間最優秀楽曲ノミネートの5曲を紹介していこう。

●動画の再生回数でみる年間最優秀楽曲ノミネート、まずは4億超えから


まずメーガン・トレイナーの「オール・ザット・ベース」は、ミュージックビデオがなければここまで大ヒットにはならかったのでは?と思うほど、楽曲と映像のイメージがジャストフィット。ぽっちゃり女子とぽっちゃり男子を従えて、パステルカラーのポップな服に身を包んだ“ぽちゃカワ歌姫”のメーガンが歌い踊るシーンを見て、笑顔にならない人はたぶんいないはず。“体のサイズなんか気にしない、あなたはそのままでパーフェクト”という歌詞のメッセージを、一発で視覚的にわからせる優れた映像作品だ。女性シンガーのミュージックビデオといえば、やたらとセクシーさを強調するものが多い中で、この曲にごく普通の女の子たちの支持が集まったのも納得の内容だ。


同じ女性シンガーでも、シーアの「シャンデリア」は、“本人が顔を出さない”という特異な手法で大成功をつかんだ稀有なケースだ。映像に登場するのは、アメリカのリアリティ番組出演で名を挙げた11歳の美少女ダンサー、マディ・ジーグラーただひとり。ダークでアンニュイなムードの楽曲に合わせ、クラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスを組み合わせたようなマディの圧倒的なパフォーマンスは、楽曲の放つ深い孤独と悲しみを痛々しいほど鮮やかに表現する。そもそもシーアが顔を見せないのは、数年前に患ったバセドー病と、アルコールやドラッグの後遺症という説もあり、それを踏まえてこの曲に接すると、より深く透明な悲しみがじわじわと伝わってくるはずだ。


して、テイラー・スウィフト「シェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!」。おそらく“振り払う”という意味のタイトルから連想したのだと思うが、テーマは“ダンス”。清楚なクラシック・バレエ、HIPHOPダンス、チアダンス、新体操など、くるくる変わる着せ替えテイラーのキュートさ、バレエの格好で激しく腰を振るなどお茶目なシーンも盛りだくさんの、ある意味典型的なアイドルビデオ。80年代のMTV全盛時代を思わせるカラフルな演出が、目と耳の両方に楽しい。しかし歌詞をよく読むと、“ヘイターはいつだって嫌い続ける。みんな振り払ってやるわ”という勇ましいフレーズがあったりして、テイラーなりのメッセージソングなのだと気づかされるところも、何とも奥が深い。そしてここまでの3曲が、YouTube再生4億回超えだ。


●サム・スミスとホージア、世界観がある意味真逆な楽曲のメッセージ


サム・スミス「ステイ・ウィズ・ミー~そばにいてほしい」については、ミュージックビデオを見てもらえば、ほかに付け加えることはあまりない。教会の鐘の音が遠くに聴こえ、典型的な朝のロンドンの街路を歩きだすサム。静かに流れる歌声。やがて教会に着き、聖歌隊と共に歌うサム。コーラスは徐々に厚味を増し、始まった時と同じように静かに終わる。特にドラマチックな盛り上がりがあるわけでもない曲が、これほどの大ヒットになったのは、美しいサムの歌声に潜む教会的な聖なる感覚と、“これは愛じゃないとわかってるけど、そばにいてほしい”と懇願する、刹那的な愛を求める心が多くの人の共感を呼んだためだろう。サムがゲイであることをカミングアウトしていることも、このシンプルなラブソングに深い陰影を与えているという理由もありそうだ。


その、サム・スミスの世界観とはある意味真逆に位置するのが、残るひとつのノミネート、ホージアの「テイク・ミー・トゥ・チャーチ」。ゲイのカップルが迫害されるシーンを、陰鬱なモノクロ映像を使って描いた残酷なストーリーは、見て楽しいものでは決してない。それゆえYouTubeでも再生回数が伸びていないと思われるが、アイルランド生まれのシンガーソングライターホージアが、人間の自由な愛し方を疎外する教会のあり方をモチーフに、あえてショッキングな手法で投げかけたメッセージは、アカデミー賞最優秀楽曲候補にノミネートされるほどの支持を得たという事実は重い。これもまた、楽曲と映像が見事にシンクロした好例と言うべきだろう。

こうして書いてくると、それぞれの楽曲の持つメッセージの方向性がまったく異なり、それでいてどれも力強く重いものであることが納得できる。受賞予想は?と問われれば、主要部門で四冠を目指すサム・スミスが一歩リードしていると思うが、楽曲の持つ世界観の深みで言えば、シーアが取ってもおかしくない。どちらにせよ、最も優れた歌詞と曲を作ったアーティストに贈られる年間最優秀楽曲は、楽曲に込めた思いがどれだけ聴き手の心を動かしたかが、勝負の決め手になりそうだ。

Text:宮本英夫
Photo:Getty Images / FilmMagic, Inc

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