【2015年グラミー特集】主要4賞以外の83部門に見るグラミー賞の奥深さ【その他注目ノミネート】

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グラミー賞といえば、まず注目されるのは「年間最優秀レコード」「年間最優秀楽曲」「年間最優秀アルバム」「最優秀新人賞」の4部門。この主要4部門を頂点として、その下にノミネートを送り込むいくつかのカテゴリーがあると考えていい。

中でも「ポップ」「ロック」「R&B/アーバン」「ラップ」「カントリー」の中から選ばれることが圧倒的に多く、今回も例外は無し。ただし2014年に2部門を制したダフト・パンク(ダンス/エレクトロニック)や、4年前のエスペランサ・スポルディング(ジャズ)、過去10年以内ではロバート・プラント&アリソン・クラウス(アメリカーナ、カントリー)やハービー・ハンコック(ジャズ)が年間最優秀アルバムを射止めた例もある。主要部門以外もあなどれない、という目線で、第57回グラミー賞の全83部門をゆっくり見ていくと、気になるものがいくつも目にとまった。


▲ファレル・ウィリアムス

●音楽性でカテゴライズする興味深い選考基準

あらためて意外だったのは、いわゆるダンスミュージックに与えられる賞が「最優秀ダンス・レコーディング」「最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム」の、わずか二つしかないこと。

ZhuやMatt Zoなどイキのいい若手に加え、エイフェックス・ツインやデッドマウス、ロイクソップなど日本でもファンの多い名前が並ぶ、注目のエリア。ダフト・パンクの成功例もあることだし、もう少し賞を増やしてもいいのでは?と思うのだが。

「ポップ」と名のつくカテゴリーは、主要4部門とかなりかぶっていて、サム・スミス、シーア、ファレル・ウィリアムス、テイラー・スウィフトなどおなじみの名前が並ぶので、特筆すべきことはない。

気になったのは、コールドプレイが「最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ)」と「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム」にノミネートされていることで、そうか、コールドプレイはあちらではロックではないのだな。しかしベックは「ロック」と名のつく3つの賞にノミネートされているし、このへんの線引きは誰が決めるんだろう?

R&Bに関しては、ビヨンセ、アッシャー、ファレル、トニ・ブラクストンなど、なるほどという名前が並んだ。面白いと思ったのは、ロバート・グラスパー・エクスペリメントが「最優秀R&Bアルバム」にノミネートされていて、ジャズじゃないんだ?と思ったこと。

しかしよく考えたらラッパーやR&Bシンガーをフィーチャーした作品なので、さもありなんと納得。このあたり、アーティストのイメージではなく、あくまで音楽性でカテゴライズしているという選考基準がうかがえて興味深い。もちろんアメリカの基準ではあるが。

ラップはエミネム、コモン、カニエ・ウエストなど大物と、ケンドリック・ラマーと盟友のスクールボーイ・Q、ウィズ・カリファなど期待の若手が顔を揃えた。主要部門で注目されるイギー・アゼリアも「最優秀ラップ・アルバム」にノミネートされた。今年はかなりハードコアなメンツが揃っているので、誰が獲ってもイキのいいコメントが聞けそうで楽しみだ。


▲コールドプレイ

●日本人ノミネートからコメディ、朗読まで

その他のカテゴリーは、目に付いたものを駆け足で。グレッグ・オールマンとタジ・マハールという渋すぎる重鎮ブルースマンのコラボアルバムが「最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス」にノミネートされているので、その手の音が好きな方は要チェック。「最優秀ブルース・アルバム」には、日本公演の直後に亡くなったジョニー・ウィンターの遺作がノミネートされている。R.I.P。

思わずニヤリとする名前もあった。「最優秀コメディ・アルバム」にノミネートされたアル・ヤンコビックだ。マイケル・ジャクソンの往年の名作ビデオを思い出す時にもれなくついてくる「イート・イット」のお馬鹿映像の記憶は、ある年代以上の方には今も鮮明なはず。最新の写真を見るとすっかり人のいいおじさんになっていて、でもいたずら好きの子供のような目つきは相変わらず。今回の目玉は、ファレル・ウィリアムス「ハッピー」のパロディ曲だ。こうしたジャンルを許容するのも、グラミー賞のふところの深さだろう。

変り種では、「最優秀朗読」つまり朗読アルバムに、ジミー・カーター元アメリカ大統領がノミネートされていること。ちなみに元大統領は第49回グラミー賞ですでにこの賞を受賞していて、その10年前にはビル・クリントン元大統領も受賞している。ほかにも政治家、映画監督、コメディアンなど多彩すぎるメンバーが揃ったこの賞、日本では絶対にリリースされない類の作品だが、ある意味で非常にアメリカらしいカテゴリーなのかもしれない。

最後に、日本人のノミネートを挙げておくと、今年は二組。「最優秀ニューエイジ・アルバム」には常連の喜多郎が、そして「最優秀レゲエ・アルバム」にスライ&ロビーと共にSPICY CHOCOLATEの名前がある。受賞すればもちろん日本人初のレゲエ・アーティストになるが、このアルバムの仕掛け人であるジャマイカ在住のプロデューサー阿曽沼和彦氏にとっても、8度目のノミネートで初受賞となる。レゲエ・ファンの多い日本のリスナーのためにも、初の栄冠を期待して、この項を終わりたい。

Text:宮本英夫

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