【インタビュー】BACK-ONに学ぶ、ロックバンドのイヤモニ導入術

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2月某日、BACK-ONのメンバー全員がアルティメット・イヤーズにイヤモニを一斉オーダー、各々の耳にジャストフィットするカスタムIEM(インイヤーモニター)が完成したと聞いた。プロミュージシャンがイヤモニを発注/使用するのは今となっては何ら珍しいことではないが、バンド全員が一斉に注文するとなれば、興味深い点もある。

◆BACK-ON画像

彼らがイヤモニとしてカスタムIEMを製作するのはこれが初めてとのことだが、全員で同じ機種に統一することは事前に決めていたという。ロックバンドがメンバー全員でイヤモニを作る時、そのポイントはどこにあるのか、話を聞いてみた。


――カスタムIEMを作るのは今回が初めてなんですよね?

一同:そうですね、初めてです。

KENJI03(Vo、MC、G):僕は、今までレンタルでお借りしたものを使っていました。イヤーピースが付いたやつですね。

――アルティメット・イヤーズのイヤモニと言っても、UE5ProからUE18Pro、UERM…といろんなモデルがあるわけですが、機種はどのようにして決めたのでしょう。

GORI(B):サンプル(試聴機)を全部持ってきてもらってそれを試聴して、みんなの意見を交換しあって。「これはロー感が強いね」とか「こっちはスッキリ聞こえるね」みたいな話をしまして、結果的にみんな同じ種類のものを。

──全員UERM(UEリファレンスモニター:クールなモニター系サウンドが特徴)にしたそうですね。

KENJI03:結局は一番シンプルなフラットなサウンドのモデルを選ばせてもらいました。ローが効いてるやつとか、ハイミッドが出るやつとか「テンション上がる!」とか言っていたモデルもあったんですけど、僕的には一番歌いやすいのがフラットだったんで。

GORI:大前提として、みんな同じ環境で同じもので聴くのが絶対にいいっていうのがあったので、全員それにしました。個人的にはベースなんで、ちょっとロー感が強いほうがキックとかよく聴こえて気持ちいいなとは思ったんですけど。全員で揃えたほうが、レコーディングして聴いた時に同じテンションで音が聞けるので。

――個人個人では、いいと思うのが違ったりしませんでしたか?

GORI:俺の好みだったのは、3つ並べた時に真ん中にあったやつ(編集部注:UE11Prio)。これはライブで使ってもすごい気持ち良くノリノリになれるやつだなとかイメージしてましたね。

SHU(G):僕も、最初はローがあるやつのほうが良いなって言ってたんですよ。だけど“普段聴き”なわけじゃないんで(笑)。普段聴きなら楽しいんですけど、モニターなんでフラットなやつのほうがモニタリングしやすいんで。

TEEDA(MC):ラップ的にはやっぱりローが効いてたほうがテンションは上がるんですけど、でも外と中の出音が違うと、外の音がどれぐらいなのかが分からないので、フラットのほうが確認しやすいですね。

――音楽リスナーがカスタムIEMを選ぶ視点とは全く違う点が興味深い。文字通りモニターとしての使いやすさで音質を選ぶんですね。

TEEDA:イヤモニでもローが出てると気持ちいいいんですけど、それでテンションが上がってしまって外音の体感がつかめなくなると困る。なのでフラットな音をモニターで聴いて冷静なテンションで、外からのロー感とか回り込みを身体で感じで「いまこれぐらい出てるな」とかって確認したいかな。

SHU:冷静になれると思うんですよね。バンドでライブをやっているとローの響きとかってすごく大事だけど、倍音が出過ぎるとイヤモニをしてないとキーが取れなくなったり、会場によっても左右されちゃう。だからイヤモニで確認しながら、身体で感じている部分をしっかり補っていくことが大事。本当に確認作業に必要なものってことで、皆で意見を揃えたんですよ。

TEEDA:イヤモニの感覚が違うと「今ハイが出てるよね?」とか「ローが強いよね」っていう会話にズレが出てきちゃう。その帳尻を合わせるためには、フラットで皆同じもので聴いてて「ロー出てるよね」「いや、こっちは出てる気しないけど」って話をしないとね。

SHU:最初に全員同じものにしようって話したんだよね。

TEEDA:レコーディングでも、ミックスが上がった時に皆慣れているもので聴いて、「ここもうちょっと欲しい」とか意見を出すんだけど、みんな同じ環境で聴いたほうがいいからね。

SHU:今まではそういう環境も違かったんですよ。ミックスされた音源が送られてきても、スピーカーもイヤホンはみんなそれぞれ違う中で意見交換をするので、なるべく集まるようにしていたんです。でも同じイヤモニがあることによって、みんな共通の認識で会話が成立すると思います。

――UERMは、ハリウッドのキャピタルスタジオとのコラボレーションで設計されたイヤモニで、ステージモニターのみならずレコーディングでのモニターとして使うためにデザインされたサウンドですからね。

KENJI03:昔から自分のイヤモニでレコーディングしてみたかったんです。海外のアーティストには、ステージと同じイヤモニを使ってレコーディングしてる人たちがいるんで。今度のレコーディングが楽しみです。


――実際の使用感はいかがですか?

KENJI03:まずフィット感が違うのが最大のメリットですね。レンタルで使うのは耳の穴がなかなか合わなくて、汗で取れたりとかサイズが合わなかったり苦労があったので、それが嬉しかった。あんなに激しいステージングしても全く取れないっていう。

TEEDA:特に海外でのライブはステージも大きいし演奏時間も長いので、レンタルだとどうしても汗をかいたり頭を振ったりしていると外れていっちゃう。これまでは水の膜が出来ていきなり遮音されちゃったりとかもあるんで。外れないという安心感があると、パフォーマンスにもいい影響が出てくるんじゃないかと思いますね。

――カスタムIEMは優れた遮音性も大きな魅力なわけですが、聴覚保護という観点ではいかがですか?

TEEDA:音作りも自分でやるので、エンジニアさんよりもずっと長い間爆音を聴いてるんですけど、やっぱり僕には聴こえてない部分もあるらしくて、「この周波数聞こえる?」とか言われても全然聞こえなかったり。それで相談したら「もう無理だ」って(笑)。ケアっていうのはなかなか難しいっぽいですね。

――難聴は自覚症状がなかなか現れないですからね。現れるころにはもう手遅れだとか。

TEEDA:怖いですよね。でもイヤモニで軽減されていくのは嬉しいですよね。

KIENJI03:僕はスポンジの耳栓を使っていたので、大丈夫。両耳に耳栓をすると、自分の声の感じはすごく分かるので付けていたほうが歌いやすいんですけど、どうしてもバンドサウンドは聞こえづらかったりする。その点、イヤモニはパフォーマンスを上げる可能性が広がったんじゃないかと思いますね。

――イヤモニを使用することで、ステージ上での転がしからのモニター音も変わってくるでしょうね。

GORI:変わると思いますね。色んなライブハウスでやるので、場所によって色んな音を出さないといけないんですよ。じゃないと、会場のスピーカーの兼ね合いによって音が届かなかったりするんです。なるべく音を出すところもあれば抑え気味にする所もあったり。そこで一番問題視されるのは中音(ステージ上のモニターサウンド)で。上げれば上げるほどボーカルやドラムのマイクにも被る。それを考えると、イヤモニだと音も出せるしキーも取れるし万々歳だらけ。

KENJI03:僕の横がGORIなんですけど、ローが足りない時はベースの中音を上げないといけない。でもそうなるとその音をボーカルマイクで拾っちゃって、音が回ってしまうんですよね。そこの兼ね合いに悩むことも多くあるけど、イヤモニになると解決できる。
――イヤモニを使うことによるデメリットはなさそうですね。

KENJI03:僕の中でデメリットは、これが万が一故障した時ですよね。そこは怖いです。もう命綱みたいなもんですからね。話に聞くのが、故障する時って汗が入って…っていうのですね。やっぱり機械だし…。

TEEDA:恐怖心で言ったら、フェスとか大きいステージの時のセンターステージですね。バスドラのキック音が「ドーーン、ドーーン」ってPAからの音と跳ね返ってきた音が重なってぐちゃぐちゃになる。もしイヤモニがはずれちゃったりしたら混乱しますね。


――アマチュアバンドでも、イヤモニって使ったほうがいいでしょうか。

SHU:そうですね。多分いまの時代には合っていると思います。昔はイヤモニってもっと縁遠いものだったと思うんです。自分らの世代もこういうものはあまり接点が無くて。今はイヤホンとか、音に関するポータブルオーディオも身近になってきた。それに昔と比べらた安くていいものあるし。この時代だからこそ皆もどんどん変わっていくと思うんですよね。

――バンド始める前に、イヤモニだけはすでに沢山持っているっていう人もいそうですね(笑)。

GORI:全然ありますよ。

SHU:今は同期を使っているバンドもたくさんありますよね。そうするとドラムはクリックを聴かなきゃいけないし。

GORI:バンドインでカウントなしで入ったりもできる。カウントなしで歌から始められるとか。そうすると表現力や正確性も増すし、幅が広がると思います。

TEEDA:始めたばっかりの頃からイヤモニを付けてライブをやり続けて来てたら、今の自分がどれぐらいの精度になっているのかな…と想像しますよね。

GORI:欲を言ったら両方とも体験して欲しいですけどね。生音でクリックがない状態で感覚も養いつつ。

――そうですね。野性的な感も大事でしょうから。

TEEDA:今の若い子たちがこれ使ってたら「贅沢しやがって!」って思いますもんね(笑)。「下積みが足りないぞ!」って(笑)。

KENJI03:楽器の演奏とかは確実に上手くなりますよ。だってライブする時の自分の音って、一音一音確実に全てが聴こえているわけじゃないから。イヤモニを使えば、レコーディングと同じようにすごくシビアに一音が聴こえるってことだから、自分がいまミスしたとかもよく分かる。そういう意味では最初からそれを使ってバンド練習をしたら上手くなるのかな。

――カスタムIEMの魅力に取り憑かれて、普段使いに欲しくなったりはしませんか?

GORI:最近イヤホンに対してレビューが増えてきましたよね。種類も多くなった。

――UERMでレコーディングのモニターをするということは、我々オーディエンス側もUERMを持っていれば、メンバーが聞いているサウンドそのものを享受できるということになりますね。

一同:ああ!そうですね。

――これまでのオーディエンスにあり得なかったことで、これは画期的ではないかと。

SHU:確かにそうですね。

GORI:だってみんなの家に10M(編集部注:YAMAHAのスピーカーNS-10M。リファレンススピーカーとしてスタジオに設置されている小型モニタースピーカー)があるかっていったら、ないですもんね。初回限定でイヤモニ付けるとかどうですか(笑)?

TEEDA:超高いの、25万円!(笑)

GORI:昔、コーネリアスがイヤホン付きを出したじゃないですか、特殊音を入れてるからって(編集部注:3rdアルバム『FANTASMA』)。

――BACK-ONニューシングル、初回限定盤Aは1000円、初回限定盤Bは25万円的な(笑)。

TEEDA:次のレコーディングがもうすぐあるんですけど、楽しみですよね。UERMを使って録音して、出来上がったのをUERMで確認して…レコーディングツールのひとつになる。

GORI:そう考えるとすごい時代ですね。音のこだわりとかは雑誌の取材とかでしゃべらせてもらいますけど、なかなかそれを伝えるって難しいじゃないですか。アーティストの意図したものをダイレクトに感じることができるってすごい。こういうのを通していろんな人に伝わればいいですよね。

TEEDA:まぁ、いずれにしろ強い味方を持ったというか、強い武器が付いたという気がします。すごく楽しみ。ライブでまだイヤモニ使ってないですけど、海外でのツアーだったり大きいステージがあるので、試すのが楽しみです。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也


<BACK-ON TOUR 2015>
4月5日(日)岩手・the five morioka
4月6日(月)宮城・仙台MACANA
4月18日(土)-19日(日)Mexico『J-fest Expo』@Mexico City
4月25日(土)-26日(日)Mexico『J-fest Expo』@Guadalajara
5月3日(日)神奈川・横浜club Lizard
5月10日(日)千葉・柏DOMe
5月22日(金)-25日(月)America
6月4日(木)愛知・名古屋ell.SIZE
6月5日(金)京都MUSE
6月7日(日)大阪・梅田Zeela
6月27日(土)東京・吉祥寺SHUFFLE

◆BACK-ONオフィシャルサイト
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