【インタビュー】CIPHER [D'ERLANGER]、「まとわりつくものを振りほどいて刺す」

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■L.A.に行って帰ってきてからやったら
■絶対何かあると思ってたから

──改めて聴きなおしてみることにします。それはともかく、あの2曲を“しれっとした感じ”でアルバムに入れるためには、それと共存し得るような曲を作ることが必要条件になってくる気もするんですよ。

CIPHER:ああ……。まあちょっと、タチ悪い2曲ですからね(笑)。いわば、タスキの付いてる曲じゃないですか(笑)。本来、自分たちにとっては味方のはずなのに、なかなかちょっとクセモノというかね。それはなかなかキツくもある。かといって、べつにそういう意識もなかったんですよ。なんかむしろ、「ズルいよな、俺たち」みたいな感じでしたかね。タスキ付きの2曲をこんなとこに入れちゃって、という(笑)。

──あらかじめ血統書付きの曲が2つもあるわけですもんね。同時に、この2曲に負けたら話にならないわけで、ハードルも自ずと高くなったはずだと思うんです。だけど実際にアルバムを聴くと、この2曲が浮いて聴こえることはないし、なんかベストアルバムのようにも感じられるところがあって。

CIPHER:おおーっ。それは賞賛と受け止めてよろしいんでしょうか?

──当然でございます。

CIPHER:恐縮でございます(笑)。きっと活字的にはね、“この2曲に寄り添うのか否かっていうところでの、新曲を出すうえでの苦悩”というのは面白いテーマなのかもしれないけど(笑)、それはまったくなかった。というか、まるで気にしてなかった。まるっきり度外視で、ただただ今の自分が感じることをやり通したというだけですね。あとは野となれ山となれ、ぐらいの感じというか。それくらいホントにノー・プランだった。

──だとしたら本当に振り切れてるなと思うんですよ。D’ERLANGERのアルバムには、全体像がポップで明るかったとしても、壮絶な曲とかドロドロした曲というのが何割かは必要というところがあったはず。だけど今回はそれを必要としていないというか。

CIPHER:もちろんそういう要素も、なくもないんですよ。確かにあからさまにそういう曲というのは、今回ないですけど。やっぱりそこは、迷いのなさの現れというか。いつものことですけどね、スケジュール的にも迷ってられないというか(笑)。L.A.に1月の終わりに行って、3曲レコーディングすることになって。で、その手前の段階でライヴでやってる曲が2曲あって、で、帰国後に5曲ほどは新しいのを……。たとえば年末だったり年明け早々だったりの時点で、「いつもギリギリで申し訳ないからプリプロに入ろう」って俺が言うべき立ち場ではあるわけですよ。そこで2曲でも3曲でも作っておけばいい。でもね、俺、これは絶対、L.A.から帰ってきてから追い込んだほうがいいはずだと思ったんです。かなりリスキーではあったけど。まあ、やれんかったら俺のせいやし。だから、「きっちりケツは拭くから、すまんけどギリでよろしく!」というのを俺は勝手に選んでやったんですよ。結果、それがうまくいったから「イェーッ!」って感じなんですけど(笑)。これでできひんかったら「サイナラ……」ですよね(笑)。でも俺、行って帰ってきてからやったら、絶対何かあると思ってたから。

──正直、そこまでL.A.行きが作用をもたらすと思っていたんですか?

CIPHER:んー。前にもたとえばバンコクでのことだったり、台湾のことだったり、そういうのがあったじゃないですか。何かしら俺、そういう経験に対して曲を残してるんですね。

──確か前作当時、たまたまタイのバンコクを旅する機会があって、そこのプールで閃いたのが「Dance naked,Under the moonlight.」だったんですよね?

CIPHER:うん。で、台湾でのインスピレーションが反映されたのが「Angelic Poetry」(2009年発表の『D’ERLANGER』に収録)。まあ俺なんか、全然海外経験がないほうだけども、あんだけTetsuが口にしてるわけですよ、L.A.って場所の素晴らしさについて常々。そこに行って、レコーディングもして……そこで俺がバチッといかんかったらもう、俺が駄目ってことじゃないですか。ここで点決めへんかったらアカンやろ、というとこやから。でもなんか、“追い込んだほうがきっと”というのもあったと思うんですよね。で、敢えてそれを選択したわけです。

──それが正しい選択だったことは作品自体が証明していると思います。実際、他の曲というのは帰国後すぐにスルッと出てきたんですか?

CIPHER:「Dance with me」「BABY」あたりは、ある程度の形が自分のなかであったんですね、あらかじめ。ただ、「狂おしい夜について」、「Skelton Queen」、「CRAZY4YOU」は完全にL.A.後ですね。その3曲は案外、ヒュッとできました。

──ことに「CRAZY4YOU」とかは、そもそもこのバンドが持っていたポップ感というのがすごく出ている曲。そういった部分が、てらいなく出たというか。

CIPHER:そうなんですよ。そこは経験値を重ねれば重ねるほど難しいところであって。あの曲については、ホントにもうあっという間にできたんですね。で、あっという間にできたものを一度俯瞰で見て、普通ならもっとアレンジしようかなって思うはずの時に、もうそういうのは要らんと思ったんです。もういいやこれで、と。そこもまた“抜け”感なんです。もうこれは、そんな猪口才なことは要らんなと(笑)。だからもう、あれですよ。ここ発信だったりココ発信じゃ駄目(と言いつつ、自身の手と頭を指す)。

──やっぱりハートから生まれたものじゃないと。

CIPHER:うん。やっぱパッションありきというか。それは何も変えないほうがいいと思うし、そこで潔く判断したというか。いろいろコチョコチョコとアレンジしていったり、ギミック的にやったりする楽しさだったり良さっていうのも当然あるんですけど、今回はあんまりそういう部分は必要ないかなって。だからもう、すごくシンプルに思いを馳せた感じですよ。

──なるほど。具体的な音像の部分でも、やっぱりL.A.で録った3曲の質感だったり響き方というのが、のちのプリプロとかレコーディングにも反映されているわけですよね?

CIPHER:そうですね。レコーディングに関しては特に。

──そして結果、温度差のないものになった。

CIPHER:そうなってるならいいですね。そこはやっぱ、ちょっとどうなるか一応不安ではありましたから。どうだろうかな、と思いましたけど。でもまあ大丈夫でしたね。

──そしてマスタリングを担当したのが、かの有名なテッド・ジェンセン。

CIPHER:ホンマに本人がやったんかいな、という(笑)。わからないですからね、こっちは現地に行ってないわけで(近年のマスタリングはデータのやりとりによって行なわれることも多い)。ジョナサンか誰かかもしれないし(笑)。冗談はさておき、テッド巨匠ですね! ありがとうございました!(笑)。

──ははは! しかし本当に音の“抜け”もまた良くて、余分な音がない。それがすごく気持ち良く感じられるんです。こういうアルバムって意外となかったよな、と思わされました。

CIPHER:そうですね。要は1人でギターなんて担当してると、レコーディング中に自分のなかで“CIPHER II”が出てくるじゃないですか。2号が出てきて、普段できないことをやろうとする。「このバッキングに対してこうカマすのがいいじゃない?」とか囁いてくるわけです。それがレコーディングのひとつの気持ち良さではあるんですね。でも、今までそういうのもいろいろやってきたけど、結局、それはライヴという次元では再現不能なことであるわけで。だからもう、すごく割り切ったんです。昔で言うと『BASILISK』では、もうそことは切り離して、ホントに“作品としての”というところに重きを置いてた。でも今回の場合、何かしようかなと思った時に、「いや、やめとこ」っていうジャッジが多かったですね。それはそれで、なかなか勇気が要ることであって。でもなんか、自分の好きな人の作品とかを聴くと、「すごい何も入ってへんな!」と思わされることも多かったり(笑)。ただ、そこにはやっぱりグルーヴの非凡さだったりメロディの秀逸さだったりというのがある。だからこそ素敵なんだよな、と思うわけですよ。それはもう骨格のところですよね。そこが素敵じゃないと、いくらちょっと口紅塗ってみたところで、朝起きてスッピン見たら「誰やねん!」ということになるじゃないですか(笑)。

──骨格がちゃんとしてないと、あとから足されたものを削ぎ落とした時にカッコ悪い、ということですよね。

CIPHER:そうそう。まさにそういうことで。

──そこまで潔くあれたのは、今だからこそなのかもしれませんね。ただ同時に、これからも常にそういった考えに縛られる必要はないはずだと思うんです。CIPHER5号くらいまで登場するものを作りたくなることだって、あっていいはずで。

CIPHER:ふふっ。そうですね。

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