【インタビュー】Salley、傷を持っているのにそれを乗り越えたり受け入れたりしながら輝いている『エメラルド』

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1stアルバムが自己紹介だとすれば、セカンド・アルバムは何を見せればいいだろう? 変わらない姿か、まだ見せてない新しい顔か。Salleyが選んだのは、“変わったけど、変わらない”自分たちをそのまま見せることだった。15か月ぶりの2ndアルバム『エメラルド』は、サウンド・プロデュースに田中隼人を迎えた「流星ラヴァー」で幕を開け、ダンサブルなポップ・チューンからせつなすぎるバラードまで、変わらぬSalleyの個性の上に新たな衣装をまとったみずみずしい全12曲。上口浩平のメロディメイカーとしての大きな才能と、うららの歌の表現力の長足の進歩が生んだ、2015年夏シーズン屈指のポップ・アルバムだ。

◆Salley~画像~

■1作目の自分は照れがあったんだなって思う
■“こういうことを言うと、女っぽくて恥ずかしいな”とか
■“めんどくさい女だと思われそうだな”とか(笑)


──15か月ぶりの2ndアルバムですね。1stの『フューシャ』をふまえて、どんな内容にしようと思っていたのか。そのへんの話から聞かせてください。


上口:うららと話していたのは……前作がかなりエネルギッシュで、サウンド的にキラキラさせたり、音圧をかせいだりしていたのは、みんなに知ってもらいたいという気持ちがあったからなんですけど。次の作品はもうちょっと、長く聴いてもらえるように、ハイ(高音域)をどれぐらい出すか?とか、かなり考えました。僕の好みに合わせちゃうと、暗いトーンになっちゃうので、前作と、僕の好みとのちょうど間ぐらいで、程よくキラキラしていて、でも押しつけがましくない音とか。そのへんを考えました。

──それって純粋にオーディオ的な問題ですか。それとも演奏そのものについても?

上口:演奏ではないです。ミックスを地味めに作っておいて、マスタリングで足りないところを足すとか。だから前作よりも、たとえばシンバルの音とか、楽器の音が自然な状態で鳴ってる音作りになっていると思います。

──ああ~。それは確かに。

上口:最近の音楽だと、音圧を整えるコンプレッサーをしっかりかけて、ドラムの音を派手にしたりするんですけど。たとえば9曲目の「Key」はそれをしないで、生っぽい音にしてもらったりとか。

うらら:前のアルバムは、その時の自分なりに最高のものができたと思っていたんですけど。次はもう一つ大人になったというか、ひと皮むけたというか、そういうアルバムにしたいねということを最初に話していて。絶対に1枚目でしか出せないフレッシュ感は、『フューシャ』に全部詰め込めたから、同じことをやるんじゃなく、次はもっと耳に優しい……というか、テンションが高い時も低い時も、ずっと聴けるアルバムにしたいなという思いがありました。


──サウンド的に言うと、「キスしてbaby」とか、「#581」とか。シンプルで引き締まったビートが、クールなブラック・ミュージックっぽくてカッコよかったです。

上口:ドラムをミュートした音が好きなんですよ。ビクタースタジオという大きなスタジオの、広い部屋でドラムを録ったりもしているんですけど、自分の好きな音は、狭い部屋で録ったほうが音が締まって聴こえるから、“自分はこっちが好きなんだな”ということを1stアルバムを作る時に学んだので。“次はあの狭い部屋で録ろう”という想像はできてたので、「#581」は、うまくそっちの音に持っていけたので、すごく満足してます。

──ダンスミュージック感、ありますよね。心地よくループする感じが。

上口:ポップスはリズムがすごく大切なので、アレンジを決める時もまずリズムから始めるんですけど。前作よりもさらにリズムにこだわりながら作れたと思います。

──うららさん、歌詞について、前作とのアプローチの違いと言うと?

うらら:前作はひとことで言うと“子供だった”。空想の世界だったり、”自分のこと”がすごく多かったんですけど、今回はもうちょっとリアリティがあって、なおかつ自分だけのことじゃなく……ということを考えていました。今までは、たとえば友達の相談を聞いる時に、”それを話すということは、もう答えが出てるじゃん”って、冷たく突き放したりとか(笑)。彼氏の愚痴を聞いていても、”じゃあ別れたらいいじゃん。なんで別れないの?”みたいな、そういうことを言っちゃうタイプだったんですよ。もしくは、言っても無駄だと思って黙ってるか。でも最近はそれをやめて、“なぜそう思うのか”“どこに原因があるのか”とか、けっこう掘り下げるようになって。「Key」はそういうふうに、友達の話を聞いて作った曲なんですね。

──ああ~。なるほど。

うらら:この曲は、女の人が聴くとみんな“すごい好き”と言ってくれるんですよ。そういう人に出会うたびに、“この人はダメ男に引っかかった経験があるな”と思っちゃうんですけど(笑)。

──心理テストみたいな曲(笑)。“あなたの玩具にもなれない”とか、きわどい言葉もばんばん出てくるし。

うらら:そう。ドキッとするような言葉をわざと入れて、それでいて、女の人が聴くとすごくリアリティがあったりとか。逆に「#581」は励まされて、仕事に行く前に聴いたら、元気よく家を出られるみたいな。「Life」も同じような気持ちで、リアリティを感じてもらえるように書いてるんですけど。

──“タバコの香りがパパと同じで懐かしい”。これ名フレーズですよ。

うらら:そのフレーズは2年ぐらい前から携帯のメモに入れていて。喫茶店とかでタバコを吸ってる人がいると、私の父がタバコを吸っていたので、ちっちゃい頃の朝を思い出して、“これいいかも”と思ってメモしておいたんですよ。そういうのも含めて、情景が浮かんだり、“そういうことってあるよね”と思ったり。「Key」の“あなたの玩具にもなれない”も、「キスしてbaby」の“あなたはどうするの?”とか、わざと強い言葉を使っています。前作の時はまだそういう言葉を入れるのが、恥ずかしかったんですよ。でも今回は言い切ってしまおうと思って。

──それって、固い言い方をすると、表現者として階段を一歩上がりたかったということですか。

うらら:そうですね。でも、そこまで難しくは考えていなくて、1作目の自分は照れがあったんだなって、今になって思うので。“こういうことを言うと、女っぽくて恥ずかしいな”とか、“めんどくさい女だと思われそうだな”とか(笑)。そういう言葉をチョイスすると、今まで友達には見せてない部分だったりするから、ただのサバサバした勝気な女の子だと思われていたのに、“意外と中身はドロドロしてるな”とか思われたら恥ずかしいとか(笑)。あと、あんまり言葉を強くして、音より言葉に気をとられすぎるのも嫌だなとか。

──それはあるでしょうね。

うらら:でも今ならうまいことやれるんじゃないかな?と思ったので。「籠の中」はデビュー前に作った古い曲で、歌詞も書き直してないので、自分の中ではちょっと恥ずかしいなと思っていたんですよ。でもディレクターはすっと“いい歌詞だ”と言ってくれてたし、こういう歌詞のほうが人にはぐっと刺さるんだなと思って。言葉の強さにも曲の良さが負けていないし、それをほかの曲でも全面的にやってしまおうと。そういう意味でも、一つ大人になったと思います。

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