【インタビュー】SUGIZO、「ベートーヴェンもドビュッシーもみんなロクデナシのロッカーだね」

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■ロックギターの和声はつまらないと思ってた。
■模索して、後にINORANとLUNA SEAのギターサウンドを作っていくんです。



──ちなみにモーツァルトの「レクイエム」(ニ短調 K.626より Ⅰ.入祭唱 レクイエム)もLUNA SEAの東京ドームで行なわれた<黒服限定GIG>で使われた曲ですよね。

SUGIZO:そうですね。モーツァルトは天才過ぎて僕はあまり得意ではないんですけど、「レクイエム」ニ短調は数少ない大好きな曲。これもモーツァルト晩年の作品で、完成を前に亡くなってしまう。

──モーツァルトが苦悩した時期の作品ですよね。

SUGIZO:そうなんです。天才だったから鼻歌レベルで作っているのではないかと思うほど多作の人で35年という短い生涯の中、膨大な数の作品を残している。でも、モーツァルトは経済感覚が破綻してたようで、お金が入ったらすぐ使っちゃうから、ずっと貧困だったみたいだし、子供の頃から父親がマネージャーとして仕切ってくれていたから、たぶん精神的に自立していなかったんじゃないかな。父親が亡くなったら何もできなくなってしまった苦労がすごく感じられる作品ですね。明るくて小さい頃からかわいがられていた少年が晩年は苦悩していた。その痛みが胸に突き刺さる。

──では<黒服限定GIG>のときもSUGIZOさんから提案したんですか?

SUGIZO:そうですね。最初はミサ曲を探していたんだけど、グッとくるものがなくて、ふとモーツァルトの「レクイエム」のこの楽章を思い出したんです。大勢の黒装束の人たちが集まっているイメージがあったというか、モーツァルトの魂が死神に連れ去られていくような曲なんですよ。それが狂気をはらんだ<黒服限定GIG>にピッタリかなと思って……。LUNA SEAの楽曲自体にはクラシカルな要素、シンフォニックな要素は感じにくいと思うんですが。

──そんなことはないと思いますよ。プログレッシブな展開の曲だったり、バンドアンサンブルにも反映されている。

SUGIZO:なるほど。例えばX JAPANにはシンフォニックメタルの要素があるけれど、LUNA SEAはもっとニューウェーヴ的かなと思っていて。でも、確かにフレーズは違うけれど、オーケストラをルーツにしている部分はありますね。自分の中ではフレージングや世界観をクラシックに近づけようと思ったことはあまりないんですけど、にじみ出ちゃってるんでしょうね。

──今回の作品に収録されているピアノ曲を聴いてもギターに反映されているなと思いました。例えばラヴェルの組曲「夜のガスパール」(より第1曲「オンディーヌ」)の細やかな演奏はソロ活動でのプレイに通じるものがあるなと。

SUGIZO:それは嬉しいですね。ラヴェルの影響は自分でも感じています。ラヴェルやドビュッシー、ストラヴィンスキーの和声の組み方、重ね方には知らず知らずのうちに影響を受けていると自覚しています。20世紀に入ってからの近代の作曲家たちの和声の在り方が後にジャズに影響を及ぼして、ジャズとブラジル音楽を融合させて(アントニオ・カルロス)ジョビンが生んだのがボサノヴァなんですよね。自分はそのあたりの音の響きに強く影響を受けていて、大人になってから「なるほど。ルーツはラヴェルやドビュッシーだったんだ」ってわかった。僕が少年時代に最も影響を受けた坂本龍一さんも実はドビュッシーやラヴェルから影響を受けているのを知ったりとか。あと、今回は収録されていないんですが、コードのトーンを初めて壊したワーグナーに自分は強く影響されていますね。

──好きなクラシックの曲をセレクトしてみて、あらためて自分の音楽に昇華されていたんだなと感じましたか?

SUGIZO:そうですね。それは第1弾の『SPIRITUAL CLASSIC SUGIZO SELECTION』を作ったときに痛感しましたね。子供時代を振り返ると自分が最初に衝撃を受けた作曲家はバルトークなんですよ。今回も組曲「ハンガリーの風景」を収録していますけれど、第1弾の1曲目「ルーマニア民族舞曲」を10才のときに聴いて「こんな曲、聴いたことない!」って全身に稲妻が走ったんですね。その時からバルトーク中毒。

──2012年にはバルトークのオペラ「青ひげ」をリダクションした舞台『7 DOORS~青ひげ公の城~』の音楽を担当し、出演もしましたが、それって運命的というか、すごいことですね。

SUGIZO:いや、いや。ただ、振り返るとロックバンドを初めて組んだ頃はなんでこんなにロックギターの和声ってつまらないんだろうと思ってましたね。今ならアプローチは無限にあるとわかるけど、あの頃はパワーコードをギャンギャン鳴らしていて、ギターという楽器のポテンシャルのほんの一部しか使っていなかった。どうすればいいんだろうと模索していって、後にINORANと一緒にLUNA SEAのギターサウンドを作っていくんですけどね。

──乱暴な言い方かもしれませんけど、SUGIZOさんの音楽の非常にロマンティックで繊細な側面と相反する攻撃性、激しさに通じるものが『SPIRIUAL CLASSIC SUGIZO SELECTIONⅡ』からは感じられるんですよね。

SUGIZO:ああ、そうかもしれないですね。ロックミュージシャンというカテゴリーの中で言うとロマンティックな面と狂気の両面を持ち合わせている人ってあまりいないかもしれないですね。

──そうなんですよね。SUGIZOさんの場合はそういう極端な部分があるというか。

SUGIZO:でも、クラシックの世界ではそれが普通なんですよね。と思うとなんだか納得しますね。

──では、最後にBARKS読者にメッセージを。

SUGIZO:今回の作品は僕が選びに選び抜いた、問答無用に美しいと思う音楽だけが収録されている素晴らしいアルバムなので、是非みなさん夜のお伴に(笑)。ロマンスのお伴にもピッタリだと思うので、月の出ている時間帯に聴いていただけたら。ただ、その中にはストラヴィンスキーのような狂気の沙汰の曲もあるし、ベートーヴェンもドビュッシーも曲は美しいけれど、その底には愛憎がうごめいているので、みなさんご注意ください(笑)。

──ロマンティックなだけではないということですね。

SUGIZO:ロマンティックは命がけですから。

  ◆  ◆  ◆

アルバム『SPIRITUAL CLASSIC SUGIZO SELECTION Ⅱ』

2015年7月8日(水)発売
COCQ-85266 ¥2,200(+tax)

1.ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:
ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 「月光」 第1楽章
2.モーリス・ラヴェル:
バレエ組曲《ダフニスとクロエ》より第3部「日の出」
3.グスターヴ・ホルスト :組曲《惑星》より「金星」-平和の神
4.クロード・ドビュッシー:夢
5.モーリス・ラヴェル:
組曲《夜のガスパール》より第1曲「オンディーヌ」
6.ベラ・バルトーク:組曲《ハンガリーの風景》Sz.97 BB 103より
第1曲「トランシルヴァニアの夕べ」
7~11.イーゴリ・ストラヴィンスキー:
バレエ《春の祭典》(1947改訂版)第1部「大地礼賛」より
「春のロンド」「敵の都の人々の戯れ」「賢者の行進」「大地への口づけ」「大地の踊り」
12.エリック・サティ:ジムノペディ第2番
13.ヨハネス・ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90 第3楽章
14.ヨハン・セバスティアン・バッハ:
無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調 BWV1001 第1楽章
15.ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:
《レクイエム》ニ短調 K.626より Ⅰ.入祭唱 レクイエム
16.ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー:
交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」 第4楽章
17.フランツ・リスト:「愛の夢」より第3番


◆LINE MUSIC「SUGIZO 26songs」プレイリスト
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